入管庁発表「令和6年における難民認定数等について」及び「令和5年改正入管法の運用状況について」を受けての声明[PDF・359KB]
日付:2025年3月16日
団体:全国難民弁護団連絡会議
<声明文全文>
入管庁発表「令和6年における難民認定数等について」及び「令和5年改正入管法の運用状況について」を受けての声明 2025年3月14日、出入国在留管理庁ウェブサイトにおいて、「令和6年における難民認定数等について」[1]「令和5年改正入管法の運用状況について」[2]が発表されました。これらの発表に対して次のとおり声明を発表します。 第1 「令和6年における難民認定数等について」に関して 1 難民認定数・保護率に関する分析 (1) アフガニスタン以外の難民認定数は88人に留まること 2024年における難民認定数は190人(一次審査176人、審査請求14人)でした。この190人の難民認定数のうち、アフガニスタン出身者の認定数が102人と半分以上を占めています。アフガニスタンについては、2022年、2023年と、日本大使館やJICAの関係者について100人を超える集団的認定がされており、2024年もその流れを受けたものと思われます。 これに対し、アフガニスタン以外の出身国の難民認定数は88人に留まり、昨年の66人と比較してもさほど変わるものではありません。 特に、ミャンマー出身者の36人という認定数は、2021年2月以後の軍事クーデター下での深刻な人権侵害に加え、2024年2月10日の徴兵制実施による迫害悪化に鑑みても、極めて少ない認定数と言わざるを得ません。ミャンマー出身者に対しては、補完的保護13人、本国情勢等を踏まえた人道配慮262人を認めたと発表していますが、この中には難民認定をすべきだった人が相当数含まれると思われます。 (2) 「保護率」の数字に問題があること 入管庁においては、「我が国の難民等の保護状況」と題する報道資料[3]で、「我が国は約31.2%の方々を保護している」という数字を示していますが、同数字は難民として安定的な保護を行った数字ではありません。分母には約98%の認定率だった補完的保護対象者認定申請の処理数もふくまれている一方、分子である「人道配慮による在留許可者」には、ミャンマー出身者に対する6か月または1年の「緊急避難措置」も含まれています[4]。「難民」の認定率は、一次審査と審査請求を合わせても1.5%、一次審査だけをみても2.1%にすぎません[5]。 「難民認定」と「補完的保護」、緊急避難措置を含む「人道配慮」の運用状況や保護の内容は大きく異なっているのですから、運用状況を正確に確認できるよう、別の制度として計算を行うべきです。 (3) 審査請求手続の機能不全 審査請求手続において難民認定を受けた者は14人でした。審査請求の処理数が4,114人であり、これを母数とすると0.34%という極めて少ない者しか不服が認められていません。 理由なしとされた3,152人と取り下げ等の948人のうち、口頭意見陳述等期日を実施したのは457人(全体の11.1%)と低率であり、参与員に難民であることを直接訴える機会が事実上保障されていない実態が見てとれます。 特に、2024年1月25日の名古屋高裁ロヒンギャ難民勝訴判決[6]では、参与員による質問に関して、「難民認定申請者の置かれた状況に対する無理解を露呈しているものといえるし、質問全体をみても、予断や偏見がうかがわれる」と厳しく指摘され、参与員がその役割を果たせなかった事実を明らかにしています。また、2024年10月24日の東京地裁アフリカ人勝訴判決[7]の事件においても、判示中には記載はありませんが、参与員の質問の中には、難民保護の検討ではなく、原告を人格的に攻撃するような質問が続いていました。 そのような審査の質が、昨年のわずか14人という数に結果として表れたと見ざるを得ません。今後、難民審査参与員の審査にあたっての責任の所在を明確にするための取組みや、その専門性を如何に向上させていくのか、さらには不服申立機関の出入国在留管理庁からの独立等も含めて議論が必要です。 (4) 長期にわたり処理されていない未決案件が多数あること 今回の発表によると、一次審査の平均処理期間は約22.3月、審査請求の平均処理期間は約12.6月です。けれども、処理数に含まれない未決案件が多数あります。当連絡会議が把握しているだけでも、エチオピア、中国、ブルンジなど、出身国情報からすれば難民として認定されるべき者が多く含まれると思われる国の出身者を中心に、申請から5年以上経過しても処分がされていない(インタビューすらされていないケースを含みます)ケースは多く存在し、審査請求まで含めると10年以上経過してなお処分がされていないケースも見られます。難民である可能性の高いA案件に振り分けられていながら、迅速な処理がなされず、結論が出ていない案件も少なくありません。迅速処理されるべきA案件としながら、数年にわたり認定をせずにいることは、難民を保護すべき義務を果たしていないのと同視せざるをえません。 (5) 2024年に裁判によって難民と認められた案件があること 2024年には、当連絡会議が把握している限り、地裁・高裁において7件の難民勝訴判決がありました[8]。そのうち2件は、3回の難民不認定処分を受けていながら、難民と認められたケースでした[9]。このように、一次審査、審査請求において難民として認定されていない案件の中にも、いまだ難民として認定されるべき人がいるはずであり、難民認定実務の運用を改善していく必要があります。 2 補完的保護対象者、人道配慮についての問題 補完的保護対象者と認定された人は合計1,661人で、出身国はウクライナ1,618人(97%)、シリア17人、ミャンマー13人、スーダン11人、アフガニスタン・ウズベキスタン各1人でした。つまり、ウクライナ出身者が97%以上を占めており、ウクライナ以外で激しい武力紛争の続く国々の状況の深刻さに対する理解が欠如していると評せざるを得ません。 一方、本国情勢等を踏まえて在留を認めた人道配慮数は合計294人で、出身国はミャンマー262人、カメルーン13人、コンゴ民主共和国・リベリア・無国籍3人、その他10人でした。 これらの出身国には、難民認定された人の出身国と重なる国もあり、その区別がなぜ生じたのか明らかではありません。難民として安定した保護を受けるべき人が含まれていた可能性があります。 第2 「令和5年改正入管法の運用状況について」に関して 同発表のうち「2 送還停止効の例外(人)」は、2023年の入管法改定によって導入された送還停止効の例外規定の適用によって強制送還がされた人数を明らかにしたものです。これは、以前は難民申請手続中の者(審査請求中の者を含む)については強制送還が停止され、難民申請手続を受ける機会が保障されていたのが、2023年の入管法改定によって、①3回目以降の難民認定申請者と、②無期若しくは3年以上の実刑判決を受けた者等については、強制送還ができるとされたものです(入管法61条の2の9第4項)。同発表によると、3回目以降の難民等認定申請であるとして強制送還を実施したのが17人、無期若しくは3年以上の実刑判決を受けた者等であるとして強制送還を実施したのが2人だということです。 ①の3回目以降の難民認定申請については、上記のとおり、2024年には3回の難民不認定処分を受けていながら裁判では難民だったと認められたケースが2件ありました。現在の狭きに失する難民認定実務の下では、3回目以降の申請であっても難民である可能性は否定できず、強制送還してしまっては迫害の危険に直面させてしまいかねません。また、「難民の認定又は補完的保護対象者の認定を行うべき相当の理由がある資料を提出したため、送還計画を中止」したケースは僅か1人であり、送還された17人が送還前に資料を提出する機会を保障されたのか、定かではありません[10]。 ②の無期若しくは3年以上の実刑判決を受けた者等の送還については、難民条約は、平和に対する犯罪や戦争犯罪を行った者等については条約の適用外としていますが(難民条約1C(6))、「無期若しくは3年以上の実刑判決」が一般的にこれに当たるとは言えず、難民としての保護を求める権利を奪うことは許されません。UNHCR駐日事務所も、同号の削除を推奨していました[11]。 このように、送還停止効の例外を定めることについては、2023年の法改定時から批判が大きく、当連絡会議においてもその危険性を指摘し、改定しないよう訴えていました。今回の発表によって、難民認定申請者の意に反する送還が行われたことが明らかとなり、当連絡会議は、改めて同規定の削除を求め、それまでの間これを適用しないよう求めます。 なお、改定法施行時である2024年6月10日より前に難民等認定申請を行った人については、送還停止効の例外措置が適用されることはありません。つまり、今年以降、送還停止効が外されて手続中に送還される人々が増えていくことが強く懸念されます。 第3 まとめ 以上のとおり、2024年の難民認定数等の発表は、補完的保護対象者や緊急避難措置も含めた数字であり、難民としての保護が十分になされたことを示したものではなく、一方で、地裁・高裁においては7件も難民勝訴判決が出されたことや、発表に表れていない長期未処理案件も数多く存在することからすれば、難民条約の求める難民保護はいまだ実現していないと評価せざるを得ません。 特に、改定入管法で問題視されていた送還停止効の例外規定が適用され、19人もの申請者が意に反して強制送還されたことによって、ノン・ルフールマンの原則に反する事態が生じた可能性を強く懸念します。 難民として認定されるべき人が難民条約に従って速やかに認定され、保護を受けられるよう、適正な制度の実現と運用を引き続き求めます。 [1] https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/07_00054.html [2] https://www.moj.go.jp/isa/content/001434961.pdf [3] https://www.moj.go.jp/isa/content/001434643.pdf [4] https://www.moj.go.jp/isa/content/001349360.pdf [5] 難民認定申請の一次審査の処理数は8,377人、審査請求の処理数は4,114人であり(重複はありうる)、一次審査における難民認定数は176人、審査請求における難民認定数は14人である。(176+14)÷(8,377+4,114)≒0.015、174÷8,377≒0.021となる。 [6] http://www.jlnr.jp/refugeenews/#2024-07 [7] http://www.jlnr.jp/refugeenews/#2024-01 [8] http://www.jlnr.jp/refugeenews/ [9] http://www.jlnr.jp/refugeenews/#2024-01 [10] UNHCR駐日事務所は、入管法改正案に対する2021年4月9日付け見解において、「UNHCR としては、自動的な送還停止効の解除はルフールマンのおそれを高めるので一般的に望ましくないという基本的立場に変わりがない」とした上で、「このカテゴリーに属する者について自動的な送還停止効を解除するのであれば、これらの者は、その申請に前述の資料が伴っていないと判断した決定に対して効果的な救済措置を求めることができるべきである」としている。https://www.unhcr.org/jp/media/20210409-unhcr-comments-icrra-bill-japanese-pdf [11] UNHCR駐日事務所は、前掲見解において、「初めて難民申請を行う申請者については、難民認定に関する第一次審査と不認定処分に対する不服審査が行われている間、一定の犯罪歴がある、またはテロリズムや暴力主義的破壊活動等に関与したまたはするおそれや可能性があるというだけの理由によっては、決して解除されてはならない」「犯罪歴等に言及する第61条の2の9第4項第2号を送還停止効の例外規定から削除することを推奨する」としている。