空港における庇護希望者に対し適切な保護の機会と適正な手続を提供するよう求める提言[PDF・342KB]
日付:2025年8月8日
発出:全国難民弁護団連絡会議
<提言全文> 空港における庇護希望者に対し適切な保護の機会と適正な手続を提供するよう求める提言
2025年8月8日
全国難民弁護団連絡会議
1 問題の所在 -空港において保護の機会が適切に提供されていない可能性-
本国から迫害を逃れて来日した者の中には、一刻も早く身の安全を保障してもらうために、空港に到着後、直ちに庇護を求める者がいるが、これは庇護希望者としてごく自然な行動である。ところが、上陸審査において庇護を求めた際、上陸許可を得られずに帰国するよう促されたり、退去命令に応じなかった結果として退去強制令書が出され、そのまま収容された状態で難民申請手続を受けたりするケースがある。空港における庇護希望者の受け入れは、難民条約締約国として義務を果たすべき重要な場面であるにもかかわらず、庇護希望者を帰国させたり収容したりするのは、難民の受け入れ数を減らそうとする水際作戦とも受け取れるものであり、決してあってはならないことである。
空港における難民認定申請数は、2018年から2023年まで50人以下に留まっており、新型コロナウイルスの影響により訪日外国人数が減少した2020年~2022年を除いてもあまりに少ない。特に中部国際空港、福岡空港では諸外国の航空会社が就航しているにもかかわらず、2018年~2023年まで1件も難民認定申請がないのは不自然と言わざるを得ない。
また、空港において難民認定申請した人が数か月、あるいは1年以上も収容されたまま、難民一次手続、審査請求手続を受けているケースも多く報告されている。迫害を逃れて来た者にとって、庇護を求めた先で収容されることは、重ねて迫害を受けるに等しい事態であり、収容を回避するために出国を選択した者までいる。このように、国が直接送還せずに、庇護希望者が帰国を選択せざるを得ない状況を構築して出国を促すことは「構造的ルフールマン」と呼ばれ、ノン・ルフールマン原則に反し許されない 。
さらにいえば、今年5月23日に入管庁が発表した「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」 は、不法滞在者ゼロを目指すとしているが、空港で庇護希望者に在留資格を付与しないことにより入管自ら非正規滞在者を生み出しているのが実態である。
このように、空港は庇護希望者の誰もが通る安全な未来への「入口」であるはずが、意に沿わない出国や収容の始まる「水際」となってしまっている可能性がある。当連絡会議は、空港における庇護希望者に対し、難民条約締約国として適切な対応をするよう、以下のとおり提言を行う。
2 提言1 庇護希望者に対して上陸を許可し、収容することなく難民・補完的保護対象者認定手続が受けられるようにすること
上記のとおり、空港における庇護希望者の中には、空港から一歩も出ることなく退去強制手続によって収容が開始され、数か月や1年以上も収容された状態で難民認定手続を受けている例がある。しかし、空港において速やかに庇護希望を表明することは、帰国による恐怖が切迫していることの証左でもあり、難民である可能性が高いことを念頭に、極力収容をしないような方針をとるべきである。
迫害を逃れて来た者にとって、庇護を求めた先で収容されることは、重ねて迫害を受けるに等しい事態であり、そもそもあってはならない。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、庇護を求める権利を尊重しなければならないとして、拘禁は例外的でなければならず、かつ最後の手段であるべきとしている 。また、庇護申請者に対して必要性を超えて長期間収容することは「恣意的な収容」に当たり、自由権規約9条1項に反する 。さらに、申請者が収容されたままの状態では、難民であることを証明する資料の収集や、本国情勢の調査を自ら行うことができず、主張や資料の提出が不十分であるとして、難民であるにもかかわらず認定されない事態すら起こりうる。迫害経験を証する資料の収集や、証人への協力依頼等、本人しかアクセスできない証拠もあり、これらの収集・提出の機会を収容によって奪うようなことがあってはならない。難民として認定されるべき者が収容に耐えられず、収容から脱するために出国を選択させてしまったとすれば、それは「構造的ルフールマン」に当たり、難民条約33条1項に違反する。
空港における庇護希望者が収容状態に置かれないようにするためには、まずは適法に上陸させた上で、難民・補完的保護対象者認定手続が受けられるようにすべきである。現行法の下においても、以下のような庇護希望者が上陸する方法があるため、これらを活用すべきである。
① 庇護を目的とする「短期滞在」の在留資格を付与すること(法9条、12条)
2022年2月にロシアがウクライナを侵略して以降、ウクライナからの避難者に対しては、避難を目的とする「短期滞在」の在留資格で上陸を許可してきた 。この方法により、2023年は345人、2024年は154人が上陸している 。また、当連絡会議が把握している限り、イエメン国籍の庇護希望者に対しても短期滞在で上陸許可がされた例がある。短期滞在の在留期間中に難民認定申請を行うことにより、特定活動に在留資格を変更することも可能であり、在留資格を維持したまま難民認定手続を受けることができる。もっとも、日本に生活基盤がない者に対しては、ウクライナからの避難者にしたように、日本で取り得る手続の説明や、生活手段に対する情報提供等が必要である。
② 難民認定申請を受け付け、「特定活動」の在留資格を付与すること(法12条)
空港で庇護希望を申し出た者に対して、難民認定申請を案内してこれを受け付けると同時に、難民認定申請又は補完的保護対象者認定申請中の者に対する特定活動 の在留資格を認めて上陸を許可することも考えられる。なお、上陸審査で在留資格該当性を認めるためには、告示特定活動である必要があるが、難民認定申請又は補完的保護対象者認定申請中の者に対する特定活動は既に定着した運用であり、告示特定活動にすることも考えられる。あるいは、法務大臣による上陸特別許可(法12条)の方法であれば、告示外特定活動であっても可能である。
この方法であれば、既に上陸した者が地方入管局において難民認定申請をした場合と同じ扱いをすることになり、公平性がある。
③ 難民認定申請を受け付け、仮滞在を許可すること(法61条の2の4)
上記②と同様に、空港で庇護希望を申し出た者に対して、難民認定申請を案内してこれを受け付けると同時に、仮滞在を許可することも可能である。仮滞在制度は2004年の法改正によって2005年から導入され、難民認定申請者の法的立場を安定させるために活用が期待された。ところが、制度開始して数年は、湾港での申請者に対して数十パーセントの許可がされていたが、近年はほぼ1桁の人数しか許可されておらず、2024年は湾港申請者44人中、許可された者はゼロであった 。仮滞在は難民認定申請をすると自動的に審査され、条件を満たす場合は許可をしなければならないが、「逃亡するおそれがあると疑うに足りる相当の理由があるとき」(法61条の2の4第1項9号)の除外要件によって許可されていない可能性が高い 。空港において難民認定申請をする者は、日本に生活基盤のない者がほとんどであり、それを安易に逃亡のおそれありと結論づけては、仮滞在制度が画餅に帰してしまう。したがって、日本に知人がいない、あるいは住居がないというだけで同要件に当たるとしないよう、庇護希望者が難民申請手続中の生活を営めるような公的な制度設計も併せて行うべきである。ウクライナからの避難者に対しては地方自治体が住居を提供するなどの取り組みがあったが、上陸初期の住居の提供は一般的な制度として導入を検討すべきである。また、仮滞在中の行動制限(入管法施行規則56条の2第3項2号)については、難民条約26条 に反する疑いが強いため、「特別の事由」があるとして、指定しない運用とすべきである 。2023年法改正によって、仮滞在者に対して就労を許可する制度が新設されたが(法61条の2の7)、生計を維持するために必要であることから、原則として許可すべきであり、申請手続も単純化して申請者及び雇用主の負担を軽減すべきである 。
④ 一時庇護上陸許可をすること(法18条の2)
2024年6月10日から実施されている上陸審判要領には、「特別審理官は、申請者が難民条約上の難民又は[…]補完的保護対象者として庇護を求める場合は、一時庇護のための上陸の許可の制度が、難民又は補完的保護対象者の蓋然性がある者に対して簡易な手続により上陸を認めることができるようにするものである旨懇切かつ丁寧に説明した上で、同許可を申請するよう案内する」とあり、庇護希望者に対しては難民認定申請ではなく一時庇護上陸許可申請を勧めているようである。一時庇護上陸の許可数は、2012年から2022年にかけて毎年1桁しかおらず、極めて狭き門となっていたが、2023年には申請者48人中11人が許可された 。もっとも、昨年許可を受けた国籍を見ると、個別ケースではなく国籍による振り分けがされているように見受けられ、庇護希望者の上陸方法として十分とはいえない。一時庇護上陸許可を活用する場合は、迫害のおそれのある領域から入ったという要件判断を弾力的に行う必要があるであろう。
⑤ 監理措置、仮放免について
監理措置や仮放免は、対象者を非正規滞在状態に置くため原則とすべきではなく、上記①~④を優先して適用すべきである。また制度的にも、これらは滞在手段として制約が多い。監理措置は法律上監理人が必須であるため、日本に知人のいない庇護希望者は監理人を見つけることができず、収容期間が長引いてしまう可能性がある。仮放免は保証人が必須ではないものの、就労ができないため、難民手続中の生計を維持するのが困難になってしまう。また、監理措置も仮放免も、住居のある都道府県内という行動制限が付けられるという重大な権利侵害がある(入管法施行規則36条の2、48条)。
したがって、監理措置や仮放免については、上記①~④ができない場合のみ最後の手段として執るべきであり、いずれを執るかは対象者の意向を最大限尊重して行うべきである。また庇護申請者に対する行動制限は、難民条約26条に反する疑いが強いため、入管法施行規則36条の2第1項2号、48条1項2号の「特別の事由」があるとして、指定しない運用とすべきである。監理措置対象者に対しては、仮滞在におけるのと同様に、原則として就労を許可すべきであり、申請手続も単純化して申請者及び雇用主の負担を軽減すべきである 。
3 提言2 上陸時に庇護希望が確認された場合は、一時庇護上陸許可申請のみならず難民認定申請手続を必ず説明・案内すること
⑴ 上記のとおり、2024年6月10日から実施されている上陸審判要領によると、庇護希望者に対しては、一時庇護上陸許可申請をするよう案内をしているようである。しかしながら、入管法に精通しない庇護希望者においては、一時庇護上陸許可と難民認定の違いがわからず、勧められるとおりに一時庇護上陸許可申請のみを行い、不許可となった場合は、もう庇護を受けられないものと思い、意に沿わない帰国をしてしまう可能性がある。また、一時庇護上陸許可申請は原則として7日間で決定を出すという迅速性はあるものの、一方で申請者は空港支局内に留め置かれ、出身国情報や客観的証拠を収集・提出する時間も手段もないため、迫害を受けるおそれを十分に主張立証できない蓋然性が高い。
上記のとおり、一時庇護上陸許可以外にも、短期滞在による上陸許可や、難民認定申請に伴う特定活動による上陸あるいは仮滞在許可の制度が利用できるのであるから、あくまで一時的な庇護措置である一時庇護上陸許可申請に限ることなく、難民認定申請についても庇護希望者に伝え、申請書式を交付するべきである。難民認定申請には送還停止効があるため、少なくとも手続中に意に沿わない帰国を求められることはなくなる。
⑵ また、一時庇護上陸許可申請の案内をしているのは特別審理官のみのようであるが、口頭審理の前の入国審査官の上陸審査においても、庇護希望の可能性が見受けられた場合は、一時庇護上陸許可申請と難民認定申請の案内をすべきである。この点、ウクライナからの庇護希望者に対しては、上陸申請をした場合、セカンダリ室等において難民・補完的保護対象者認定申請を受け付ける運用をしているが 、他の地域からの庇護希望者に対しても、入国審査官において難民・補完的保護対象者認定制度の案内を行い、申請を受け付けるべきである。
⑶ また、入国審査官、特別審理官のいずれにおいても、本人が明示的に「難民」又は「補完的保護対象者」として庇護を求めた場合のみならず、庇護希望を有する可能性が見受けられた場合は、一時庇護上陸許可申請及び難民認定等申請を必ず案内し、これらの申請書を本人に交付すべきである。庇護希望者は、日本の難民認定制度や補完的保護対象者認定制度を知らないことがありうるほか、仮に知っていたとしても上陸審査という緊張した場面において恐怖のため庇護希望を言い出せないこともありうる。したがって、「難民申請をしたい」「庇護申請をしたい」などと申請意思を明示的にした場合に限らず、「本国で迫害を受けた」「帰国したら身の危険がある」「助けてほしい」などの趣旨のことを述べた場合も、庇護希望を有する可能性があることから、丁寧に難民・補完的保護対象者認定制度の説明と一時庇護上陸許可制度の説明を行い、これらの申請の機会を提供するべきである。
⑷ さらに、口頭審理において上陸条件に適合していないとの認定を通知した後であっても、帰国便への搭乗をするまでの間のいずれかのタイミングで庇護希望を有する可能性が見受けられた場合は、上記同様、難民・補完的保護対象者認定制度の説明と一時庇護上陸許可制度の説明を行い、これらの申請の機会を提供するべきである。
この点に関して、庇護希望を有しているにもかかわらず、法務大臣に対する異議申出放棄書への署名を勧められ、同書面が日本語であることも相まって、内容をよく理解していないのに署名をしてしまった例を複数把握している。庇護希望者に対しては、異議段階において上陸特別許可が認められる余地もあり、異議申出を放棄させることは適正さを著しく欠く取扱いである。庇護希望の可能性が見受けられた場合は、難民認定制度等の説明と一時庇護上陸許可制度の説明に加えて、異議の申出もできることを案内すべきである。
また、退去命令を出した後に庇護希望の可能性が見受けられた場合についても、帰国便への搭乗を強要することなく、一時庇護上陸許可申請及び難民認定申請を案内するべきである。この場合は後述のとおり、法24条5号の2に該当すると直ちに判断することなく、退去強制手続を開始せずに難民認定申請等手続に移るべきである。
4 提言3 弁護士や支援者、支援NGOとの連絡手段の確保
庇護希望者は空港等に到着後、通常の上陸申請及びそれに続く口頭審理や異議申し出、あるいは難民認定申請や一時庇護上陸許可申請をするという場面に直面するが、いずれの場合であっても資格ある法律家による助言を得たり、代理人として依頼したりする機会が保障されなければならない 。また、法律家と個人的な繋がりのない者は、難民支援を行うNGOに相談するという選択肢も必要である。さらに、上陸後の住居を確保するために知人や個人の支援者に連絡をとる必要もあるであろう。加えて、これらの者と意思疎通を行うためには通訳人による通訳も必要である。
上陸前の庇護希望者は空港等の出国待機施設にとどめ置かれることになるが、電話や面会による外部との連絡が十分に保障されているとは言い難い。例えば成田空港支局においては、弁護士以外の支援者等については「面会又は電話連絡の理由、とどまっている施設の保安上の支障の有無等を判断し、問題がないと認めるときはこれを承認することができる」とされているが 、実際の運用では認められていない 。各出国待機施設の出国待機施設管理運用要領においては、弁護士以外の者との面会や電話についても承認できると定められていることからすれば 、庇護希望者の権利保障の観点から、庇護申請に関わるNGOや支援者との面会や電話についても原則として承認すべきである。
庇護希望者が権利を行使し、適正な手続を受けるためには、弁護士や支援者との電話や面会によってサポートを受けることは不可欠であり、庇護に関する相談を目的とする電話や面会については、制限することなく認めるべきである。
5 提言4 透明性の確保と保護の向上のため、統計資料を公表すべきこと
空港等において庇護を求める者たちは、その多くが外部にアクセスすることがほぼ不可能な状態で手続を受けざるを得ない者たちである。彼らに適正な手続が保障されているのか、権利が侵害されていないかは、透明性を高めて外部からチェックするより他にない。また、庇護申請者の動向や制度の適用状況を定期的に確認し、必要な取組が実施されているのか、取組に効果があるのかを検討することによって、保護の精度を高めていかなければならない。
そのためには、入管庁において毎年、難民・補完的保護に関する詳細な統計資料を公表し、庇護希望者の権利のために活動するNGOや専門家、市民が確認・検討できるようにすべきである。具体的には、少なくとも①湾港での庇護希望者数及び、上陸/出国者数、②難民・補完的保護認定申請者数及び処理人数、③補完的保護対象者認定申請者数及び処理人数、③一時庇護上陸申請者数及び処理人数、④庇護希望者にかかる上陸特別許可人数、⑤仮滞在許可、不許可人数及び不許可理由の内訳人数、⑥仮放免申請者数(職権を含む)及び処理人数、⑦監理措置申請者数(職権を含む)及び処理人数の統計を作成・公表すべきである。
6 結語
当連絡会議が本提言を行うこととした経緯は、冒頭でも記載したとおり、空港に到着した庇護希望者が送還に直面して助けを求めているという情報や、空港での難民認定申請者がその後何か月にもわたって収容されたままでいるという情報がこれまで数多く寄せられてきたことにある。
本提言は、空港における庇護希望者の誰もが適正な手続を受け、保護を受ける機会を逸することのないようにとの思いから行うものであるが、これで十分と考えているわけではない。難民の保護を含む人権の保障は常に漸進させていくべきであり、さらなる向上、改善のためには、前提となる統計資料の定期的な提供と、政策立法者、各省庁と支援NGO・市民間の対話は不可欠である。
本提言を元に、空港における庇護希望者に対する運用を見直し、難民条約及び各種人権規程に則った難民の保護がなされるよう求める。
以上
<参考資料>
- 令和3年11月2日付け東京出入国在留管理局成田空港支局「出国待機施設管理運用要領」[PDF・431KB]