声明・提言等(2025年8月4日)全難連「「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」の見直しを求める声明」

「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」の見直しを求める声明[PDF・263KB]

日付:2025年8月4日

発出:全国難民弁護団連絡会議

<声明文全文> 

「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」の見直しを求める声明

1 出入国在留管理庁は、2025年5月23日、「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を発表した(以下、「ゼロプラン」という)。発表された報道資料によると、「ルールを守らない外国人により国民の安全・安心が脅かされている社会情勢に鑑み、不法滞在者ゼロを目指し、外国人と安心して暮らせる共生社会を実現する」として、「入国管理」、「在留管理・難民審査」、「出国・送還」の3つの段階に分けた対応策をまとめ、ゼロプランによって期待される当面の効果(目標)を3点にわたって記載している。

 そして、この報道資料を解説した同庁のホームページの「『国民の安全・安心のためのゼロプラン』について」では、「昨今、ルールを守らない外国人に係る報道がなされるなど、国民の間で不安が高まっている状況を受け、そのような外国人の速やかな送還が強く求められていたところ、法務大臣から、法務大臣政務官に対し、誤用・濫用的な難民申請を繰り返している者を含め、ルールを守らない外国人を速やかに我が国から退去させるための対応策をまとめるよう指示がありました」と経緯の説明がなされている。

2 このゼロプランの中身を見ると、「入国管理」のところでは、(1)電子渡航認証制度(JESTA)の早期導入を図り、好ましくない外国人の来日を未然に防止する、(2)退去強制が確定した外国人が多い国に対して、外務省と協力して、不法滞在者の発生を防止するための取り組みなどに関する働き掛けを強化する、「在留管理・難民審査」のところでは、(3)B案件を類型化し、在留制限を実施するとともに早期かつ迅速な処理体制を整備する、(4)難民等認定手続について、審査手続の迅速化を図るため、AIを含むデジタル技術の活用を検討する、「出国・送還」のところでは、(5)令和5年改正入管法により送還停止効の例外として送還が可能となった者や重大犯罪者などを中心に計画的かつ確実に護送官付き国費送還を実施する、(6)改正入管法の新制度を利用した自発的な帰国を促進する、(7)被仮放免者の動静監視に注力し、不法就労の抑止を図る、の7つの措置が記載されている。

 そして、ゼロプランによって期待される当面の効果(目標)のところでは、難民認定申請の平均処理期間を2030年までに6か月を目指す、護送官付き送還を3年後に倍増を目指す、2030年末までに不法滞在者半減を目指す、ことが記載されている。

3 しかし、ゼロプランは、①「ルールを守らない外国人により国民の安全・安心が脅かされている社会情勢」など存在しないのではないか、②日本の難民認定率が諸外国に比較して著しく低く、入管庁が担当している難民認定実務には大きな欠陥があることが公知の事実となっているのに、このゼロプランはそれを改善するどころかさらに悪化させることになるのではないか、③送還を厳格に実施し、不法滞在者の半減、ひいてはゼロを目指す取り組みにより、真に保護されるべき難民を迫害のおそれのある本国に送還してしまい、難民条約のノン・ルフールマン原則に反する事態を多く惹起するのではないか、④在留制限の実施は、現在ただでさえ不安定な難民申請者の地位をさらに危うくし、人間的な生存を脅かすことになるのではないか、⓹政府や入管庁が繰り返し述べてきた「難民の迅速な保護」に反する結果となるのではないか、など多くの深刻な問題をはらんでいる。

 以下、順次述べる。

4 「ルールを守らない外国人により国民の安全・安心が脅かされている社会情勢」は存在しないこと

 上記で述べたとおり、入管庁がゼロプランを発する経緯として述べているのは、ルールを守らない外国人に係る報道がなされていることだけである。具体的な事実や統計は示されておらず、入管庁がその報道の真偽を検討した形跡も全く見られない。むしろ、一部報道機関は特定の国・民族の出身者に対し差別的な報道を行い、市民の不安を煽ろうとしている。法務省は人権を守るための政府機関であり、このような差別的な報道を根拠に誤った政策を立案することはあってはならない。

 2023年の入管法改定では、難民認定実務の問題を改めることなく送還停止効の例外等の規定が定められてしまった。しかし、当該規定による運用を行う前に、同法改定の際の参議院法務委員会の附帯決議にもあるように、難民認定申請を行った者に対する質問手続の透明性・公平性を高めること等、真に保護を必要とする者を確実に保護できるような体制を整備すべきである。

5 B案件の類型化について

 難民認定の原則のひとつに個別認定の原則がある。難民該当性判断の中核的要件である迫害を受けるおそれの有無は、申請者の個別的事情および国籍国等における一般的事情の一切を総合評価して判断すべきものである。ある特定の属性を有することを理由として迫害を加えられる状況にあると認められるような場合には、個々の申請者に関する具体的な事情を踏まえた検討を要しないこともある。しかし、一般的には迫害リスクがないと評価される類型に当たる場合であっても、個別事情を含めて総合評価をすれば難民に該当することはある。入管庁においては、迅速処理のための類型化に注力するのではなく、いずれの国についても出身国情報を正確に収集・作成し、内容を公表して手続の公平性・透明性を高めるべきである。

 B案件の類型化について、当会が入管庁に対して行政文書開示請求を行ったところ、2025年5月1日付け「難民等認定申請においてB案件に振り分けるのが適当な案件の指定について」と題する通知の文書について、入管庁において指定した「早期にB案件へ振り分けるのが適当な案件」を記載したページが全て黒塗りされた状態で開示され、どの国の出身者の、どのような類型の申請がB案件相当と指定されたのかが全く不明であった。どのような類型がB案件相当と指定されたのかは、申請者にとって手続上具体的な不利益をもたらす重大な関心事であり、これを秘匿して振り分けを行うことは適正手続の見地から妥当でない。入管庁においては、直ちにB案件に振り分けるのが適当と指定した類型を開示し、本年5月23日から既に実施を開始しているという制度の内容を明らかにすべきである。

 また、申請者全員に対して早期に面接を実施し、個別事情を慎重に聞き取るべきである。難民申請者が申請当初から十分な難民申請理由を書けるとは限らないため、面接による聴取は必須である。

 近年審査請求において口頭意見陳述の申立てが行われたのに難民審査参与員が「申述書に記載された事実その他の申立人の主張に係る事実が真実であっても、何らの難民となる事由を包含していない」として、口頭意見陳述を実施しないで審査請求を棄却する例が多数存在する。大阪高裁令和7年2月27日判決、大阪地裁令和5年1月12日判決は、審査請求段階で「何らの難民となる事由を包含していない」とされた事件において、勝訴判決が確定した。こうした事例は、出身国情報の収集・作成および個別事情の評価が正しく行われていないことを示唆している。

 手続の公平性・透明性を高め、真に保護を必要とする者を確実に保護できるような体制を整備することこそが必要である。

6 新たな入国規制の強化と、送還の厳格化

 ゼロプランでは、2023年改正入管法により送還停止効の例外として送還が可能となった者や重大犯罪者などを中心に計画的かつ確実に護送官付き国費送還の実施をするとしている。しかし、2023年改正入管法により送還停止効の例外として送還が可能となった者の中には、後発難民(来日後に迫害事情が生じて難民となった者)や、難民条約以外の条約上のノン・ルフールマン(拷問等禁止条約や自由権規約によって送還が禁止される者など)が含まれていることに留意する必要がある。

 前回不認定処分後の事情や、難民条約以外の条約上のノン・ルフールマンにあたる旨の主張をしている者に対し、送還停止効の例外にあたるとの理由によって送還を実施すれば、我が国が国際条約に違反する事態を招来する可能性がある。

7 保護の必要性が高い者の迅速な保護 

 ゼロプランは、審理期間短縮のために「2026年中に新規受理した申請の6か月以内(平均)の処理を目指す」とし、新規に受理した案件から早期処理する意向を明らかにしている。しかしながら、政府や入管庁は、「難民問題については、国際社会の一員として、適正かつ迅速な保護の推進を図っていく」とこれまでも繰り返し述べているにもかかわらず、入管庁が保護の必要性が高いと判断したA案件に分類された申請者を含め、保護の必要性が高いと考えられる申請者の多くは、その審査が極めて長期間にわたり、不安定な状態に置かれ続けている。その中で新規受理した件の早期処理が優先されれば、迅速に保護されるべき者の保護がますます後回しにされかねない。

8 結語

 以上の理由により、難民条約の締約国としての義務に違反する事態を招くおそれがあることから、入管庁においてはゼロプランを見直すよう求めるとともに、難民の迅速かつ適正な保護の実現に向けた、排除ではなく権利保護の見地から方策を策定するよう求める。

以上

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。