【2010年難民10大ニュース】

1. 伊藤和夫代表が逝去 

〔説明文〕 

 長年にわたり人権活動に活躍されてきた伊藤和夫先生が2010年7月14日に逝去。5月の『伊藤和夫先生弁護士50周年記念論文集‐日本における難民事件の発展と現在』(現代人文社、2010年)の出版記念パーティーから2ヶ月足らずの悲報だった。
 全国難民弁護団連絡会議の代表のほか、在日ビルマ人難民申請者弁護団、クルド難民弁護団、アフガニスタン難民弁護団などの代表も務めた。享年81歳。

    • 渡邉彰悟、大橋毅、関聡介、児玉晃一編 『伊藤和夫弁護士在職50周年祝賀論文集‐日本における難民訴訟の発展と現在』 現代人文社 2010年
    • 記事:伊藤和夫氏死去 元袴田事件弁護団長 共同通信(2010年7月15日)


2. 第三国定住のパイロット・プロジェクトを開始 

〔説明文〕 

 2008年12月の閣議了解を受け、3年計画約90人の第三国定住パイロット・プロジェクトでの受け入れを開始。9月と10月にタイのメーラ難民キャンプからビルマ・カレン族家族27人が来日した。
 公費による定住支援は6ヶ月間で、日本語教育のほか、日本居住に必要な生活基礎知識の研修を実施。
 語学研修の期間等でインドシナ難民受け入れの反省点が十分に活かされていないとの指摘があるほか、同じ人道配慮での庇護にも関わらず日本で難民認定申請をして人道配慮在特を受けた者が定住支援を受けていないといった支援格差の問題もある。


3. 鶴見大学が庇護希望者への歯科治療プロジェクトを始動 

〔説明文〕 

 2月、鶴見大学歯学部とUNHCR駐日事務所が、庇護希望者への無料歯科治療の提供プロジェクトを立ち上げ。難民支援のNGOが協力して運営している。プロジェクトは毎週1回の治療日に加え、緊急ケースにも対応している。

 鶴見大学は、歯科治療を受けにくる庇護希望者の交通費確保のための難民ランチの実施など、積極的に支援活動を展開している。

「鶴見大学との歯科治療プロジェクト始動」 UNHCR(2010年2月23日)


4. 「難民研究フォーラム」設立 

〔説明文〕 

 日本における難民専門の研究機関として7月に設立。これまであまり注目されてこなかった日本の難民研究の活性化とともに、判例研究等での法曹界との化学反応が期待される。


5. 難民保護費の問題 

〔説明文〕 

 難民申請者の唯一の生活支援金である難民保護費が、昨今の厳しい財政状況の中、2010年度予算で1億円以上増額された。しかし、受給希望者の増加や高額医寮費の出費で予算枯渇のおそれがつきまとっている。また、法的根拠のない保護費の予算を確保する上で、迅速性よりも濫用者の排除を優先することから、申請から支給までの期間の長期化(2ヶ月以上。平均4ヶ月とみているNGOもある。)という問題も生じている。待機者への生活支援はない。
 国民健康保険への加入などを含む包括的な難民申請者の支援体制の構築が必要。


6. 庇護希望者の収容 

〔説明文〕 

 入管施設に収容中の庇護希望者を含む者らが西日本で3月に、東日本で5月にそれぞれ処遇改善や長期収容者の仮放免などを求めて給食拒否を実施した。事件は国会での質疑や、国会議員による収容施設の訪問に発展。西日本では、ハンスト後に体調不良者の仮放免が相次いだとの報道があった。

 一方、5月に韓国で収容代替措置(Alternative to Detention)に関する国際会議が開催され、日本の法務省のほか、全難連やJARなどのNGOが参加した。7月に入国者収容所等施設委員会が設置され、被収容者の状況等を監視する新たな制度がスタートした。また、法務省と日弁連の定期的な協議の場が設けられ、収容や仮放免などについて意見を交わしている。


7. 福岡で連続勝訴 

〔説明文〕 

 福岡難民弁護団が扱う難民事件で、3月にカチン族男性とロヒンギャ族男性が、4月にロヒンギャ族男性が地裁であいついで勝訴。カチン男性は、地裁で勝訴が確定し、難民認定を受けた。ロヒンギャ男性はいずれも控訴され、現在福岡高裁に係属中。

事件番号: 平成19(行ウ)8
裁判所: 福岡地方裁判所
判決日: 2010年3月8日
《判決全文へジャンプ》


8. ロヒンギャ集団訴訟で判決 

〔説明文〕 

 2007年から提訴していたロヒンギャ難民の事件(東京20人、大阪6人、福岡3人)で、あいついで判決が出された。東京では2人が勝訴し、18人が敗訴するという結果となった。敗訴の18人は控訴した。勝訴の2人は勝訴確定後2011年1月に難民認定を受けた。

事件番号: 平成17(行ウ)472、ほか
裁判所: 東京地方裁判所
判決日: 2010年10月29日
《判決全文へジャンプ》


9. エチオピア難民不認定取消訴訟で一審勝訴 

〔説明文〕 

 エチオピア出身の女性について、本国での政治活動等を理由にした迫害のおそれを認めた判決。地裁で勝訴が確定し、難民認定。

事件番号: 平成21(行ウ)182
裁判所: 東京地方裁判所・民38部
判決日: 2010年10月1日


10. 無国籍難民の退令を違法とする判決 

〔説明文〕 

 タイ生で生まれ育ったベトナム難民の2世について、ベトナムを国籍国と認定した上、ベトナムを送還先とした退去強制令書の発付処分を違法とした判決。裁判所は、当事者はベトナムに送還されることの認識なく口頭審理を放棄したため、かかる口頭審理放棄は無効であるとし、また、当事者の国籍国がベトナムであるとは証拠上明らかではなく、送還先をベトナムとしたことについても適法性に疑問があると判示した。国が控訴したが、高裁でも一審の判断が維持された。


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