国会質疑等(2016年6月10日)前川清成議員(民進・参)質問主意書への政府回答[難民申請者の強制送還]

難民申請者の強制送還に関する質問主意書(外部リンク:参議院ウェブ

提出者:前川清成議員(民進党)
番号:第190回国会 質問157号
提出日:2016年6月1日
答弁書受領日:2016年6月10日

[190参-157] 160601質-前川清成(民進)_160610答-安倍晋三首相 [難民申請者の送還](合体版)[PDF・184KB]

190回国会・質問第157号 参議院議員前川清成議員「難民申請者の強制送還に関する質問主意書」(201661日)

答弁書第157号 参議院議員前川清成君提出難民申請者の強制送還に関する質問に対する答弁書(2016610日)

 

難民申請者の強制送還に関する質問主意書

 

日本の難民認定制度をめぐっては、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が平成27年7月24日、「世界的に難民の数が増えている中で、日本政府の難民認定は改善が進んでいない。真正の難民申請者が『偽装滞在者』と看做されることがないよう慎重な取り扱いが必要だ」とするパブリックコメントを法務省に提出するなど、消極的な姿勢に各界から批判が寄せられている。そこで、日本の難民保護行政を検証する観点から平成26年12月18日に行われたチャーター便による強制送還(以下、本件強制送還という。)について質問する。

 

一 本件強制送還が行われたのは事実か。事実であれば、何名か。

一について

平成26年12月18日に行われたチャーター機による送還(以下「本件送還」という。)により送還された者は、32人である。

 

二 右一の本件強制送還された者についてお尋ねする。

1 本件強制送還された者のうち送還前に日本で難民申請をした経歴のある者は何名いたか。

二の1について

お尋ねの「経歴」の意味するところが必ずしも明らかではないが、本件送還により送還された者のうち、本件送還前の在留中に本邦において難民認定申請を行ったことのある者は、29人である。

 

2 本件強制送還された者のうち平成26年12月16日又は17日に難民不認定処分に対する異議申立却下の告知を受けた難民申請者はそれぞれ何名いるか。

二の2について

お尋ねの「却下」の意味するところが必ずしも明らかではないが、本件送還により送還された者のうち、異議申立て(行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成26年法律第69号)による改正前の出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)第61条の2の9第1項の規定による異議申立てをいう。以下同じ。)が不適法であるとして却下した旨の告知を受けた者は、0人であり、異議申立てに理由がないとして棄却した旨の告知を受けた者は、平成26年12月16日が0人、同月17日が26人である。

 

3 本件強制送還された者のうち同年12月18日時点で難民不認定処分の取消訴訟を提起できる6ヶ月の期限内であった者は何名いるか。

二の3について

本件送還により送還された者のうち、平成26年12月18日時点でお尋ねのように「難民不認定処分の取消訴訟を提起できる6ヶ月の期限内」にあった者は、27人である。

 

4 本件強制送還された者のうち、初めての難民申請において、弁護士がその者の難民申請に係る代理人となり、その弁護士が異議申立手続の審尋にも立ち会い、異議申立が棄却された場合でも不認定取消訴訟を提起することが合理的に推認される場合に、異議棄却の告知の翌日ないし翌々日に、難民申請する者に、弁護士への連絡の機会を付与せず送還した事例はあるか。

二の4について

お尋ねの「弁護士」が「難民申請に係る代理人」となること、「異議申立が棄却された場合でも不認定取消訴訟を提起することが合理的に推認される場合」及び「異議棄却の告知の翌日ないし翌々日に、難民申請する者」の意味するところが必ずしも明らかではないが、本件送還により送還された者のうち、異議申立てに理由がないとして棄却した旨の告知を本件送還の前日に受けた者であって、本件送還の保安上の必要から外部との交通が遮断されたまま送還され、その結果として、当該異議申立てに代理人として関与していた弁護士に対して連絡する機会がなかった者はいる。

 

三 本件強制送還以前に行われたチャーター便による強制送還の際に、本邦において難民申請を行った経験のある者を、本人の同意なく強制送還したことはあるか。

三について

お尋ねの「本人の同意なく強制送還したこと」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難であるが、本件送還以前に行われたチャーター機による送還において、当該送還前の在留中に本邦において難民認定申請を行ったことのある者を送還した例はある。

 

四 難民の地位に関する条約第33条及び拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は、刑罰に関する条約第3条は、難民の生命又は自由が脅威にさらされるおそれのある領域、あるいは拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある他の国への送還を禁止している。また、出入国管理及び難民認定法第53条にも、両条約を反映した規定がある。

他方、出入国管理及び難民認定法第61条の2は、「法務大臣は、(申請者)の提出した資料に基づき、その者が難民である旨の認定を行うことができる」と規定し、立証責任が申請者に課されている。

しかし実際には、難民申請をする者は、経済的困窮、人的、社会的資源の欠如、知識の不足などにより、立証責任を果たすことは容易でないと思われる。

難民調査手続において出された難民不認定処分が司法の場で覆される事例があること及び我が国が前述の条約の締約国たることに鑑みれば、たとえ行政手続において難民でないと決定した者であっても、その者に対しては、司法判断が出るまで国内に留めおく等、慎重な取扱いが要請されると思われるがいかがか。

四について

難民不認定処分の取消訴訟が提起された場合においては、当該訴訟が終結するまでの間、当該訴訟を提起した者の送還を見合わせることとして裁判を受ける権利への配慮を行っているところである。

 

五 加えて、自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)第40条(b)に基づく第5回報告に関する自由権規約委員会の最終見解(2008年10月30日)は、難民認定を拒否された者の取扱について、「拒否された申請者が、庇護申請への否定的な決定につき不服申立てを行う前であって行政手続の結論が出た後直ちに送還されないようにすべきである(外務省仮訳)」と述べている。これは、庇護希望者が一次難民認定申請及び一次不認定処分に対する審査請求を含めた行政手続において難民と認められなかったとしても、その庇護希望者を直ちに送還せず、不服申立てを行う、すなわち司法審査を受けられる機会を保証することを求めるものと解される。本件強制送還は、この自由権規約委員会の見解に反するものと思われるが、いかがか。

五について

御指摘の最終見解においては、「完全に独立した不服申立機関を設立すべきであり、」との記述の後に、「拒否された申請者が、庇護申請への否定的な決定につき不服申立てを行う前であって・・・すべきである」との記述があることを踏まえると、この「不服申立て」は「司法審査」のみを指しているものではないとも考え得ることから、お尋ねにある「不服申立てを行う、すなわち司法審査を受けられる機会を保証すること」の意味するところが必ずしも明らかではなく、また、お尋ねの同最終見解に「反する」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お答えすることは困難であるが、本件送還は、関係法令に基づき適切に行ったものである。

 

六 平成26年度歳出概算要求書によれば、入国管理局は「送還忌避者の専属輸送による送還経費」が計上されている。ここで述べられている「送還忌避者の専属輸送による送還」は、チャーター便による本件強制送還が該当すると思われる。そこで次の二点についてお尋ねする。

1 前記平成26年度歳出概算要求書には、「送還忌避者の専属輸送」の予算として、同行する各60名の職員の費用を含め、3030万6000円を計上している。では、実際にはいくらの費用がかかったのか。

六の1について

本件送還に要した費用は、3857万7100円である。

 

2 前記平成26年度概算要求書によれば、入国管理局は「送還忌避者の専属輸送」先として、フィリピンと中国にそれぞれ百人ずつ計200人を送還することを計画していると記されていた。しかし、現実には、本件強制送還の送還先は、スリランカとベトナムであった。このように送還先を変更されたのはなぜか。明らかにされたい。

六の2について

チャーター機による送還については、平成26年度の概算要求の段階においては、フィリピン及び中国への送還を想定していたが、その後の様々な事情を総合的に考慮して、スリランカ及びベトナムへの送還を実施したものである。

右質問する。

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