「「送還忌避・長期収容の解決に向けた提言」に対する会長声明」[PDF](外部リンク:兵庫県弁護士会)
日付:2020年10月23日
団体:兵庫県弁護士会
法案の全容判明にあたり、反対のためあらためて掲載します。
— 全国難民弁護団連絡会議(全難連) (@zennanren) February 11, 2021
難民が間違いなく難民として保護されるべく制度設計することこそ解決 https://t.co/RtEa5oSyga
「送還忌避・長期収容の解決に向けた提言」に対する会長声明 2020年(令和2年)10月23日
兵庫県弁護士会
会 長 友 廣 隆 宣
1.2020 年(令和 2 年)6 月 19 日,法務大臣の私的諮問機関である第 7 次出入国管理
政策懇談会の下に設置された「収容・送還に関する専門部会」(以下「本部会」とい
う。)は,「送還忌避・長期収容の解決に向けた提言」(以下「本提言」という。)を
公表した。
そもそも,本部会が設置されたのは,2019 年 6 月に大村入国管理センターで起きた
長期被収容者のハンガーストライキによる餓死事件が契機であった。当会としても,長
期収容問題の解決を検討することには全く異論はない。
そして,本提言の中で示されている,①一層適切な在留特別許可の活用,②在留特別
許可の考慮要素や基準の一層の明確化,③退去強制令書の発付後に相当の新事情が生じ
た場合の従前の処分の変更,④出国後に早期の上陸・在留を可能とする仕組みの制度化
などの送還促進措置については一定程度評価できる。
ただ,以下の 3 点については,当会としては強く反対する。
2.退去強制拒否罪(仮称)の創設について
本提言では,退去強制に必要な手続を取らない外国人に対して,かかる手続を取るこ
とや退去することを義務付ける命令を発し,命令に応じない場合には刑事罰を加えるべ
きと提言されている。
しかしながら,退去強制令書の発付を受けた者の中には,帰国すると身に危険が及ん
だり,日本に家族がいたりする等,長期間収容されたとしても帰国できない事情を抱え
る者がいる。また,家族で退去強制の対象となっているものの,子どもが日本で生まれ
育ち,日本で教育を受けていて,母国語は全くできず,帰国すると教育を受けることす
らできないことが危惧される者も相当数存在する。
本提言の中にも記載されているように,出入国在留管理関係訴訟で国の敗訴が確定し
た判決が,平成 28 年以降の 3 年間でも合計 26 件と少なからず存在する事実も軽視す
ることはできない。
本提言では,命令の対象を,被退去強制者一般ではなく,罰則による間接強制を伴う
退去義務を課すことが真に必要となる者に限定されるようにすべきとも示されている。
ただ,個別の事情を全て把握して判断すること,様々な事情を全て構成要件として明示
することなど困難であり,本来保護すべき者が不当に刑罰の対象となってしまう危険性
は拭いきれない。
更には,かかる刑事罰が創設されれば,様々な事情のある人々を人道上の観点から支
援する NGO などの様々な人々が共犯とされる可能性が払拭できず,正当な各支援活動
が萎縮する可能性も強く懸念される。刑罰を科すことは最終的な手段であり,刑法の謙抑性の観点からも,第 1 項で述べた
ような,より制限的でない送還促進措置を先に実施してその効果を検証したうえでなけ
れば,安易に罰則の要否を検討すべきではない。
3.送還停止効の例外の導入について
本提言では,出入国管理及び難民認定法が規定する,難民認定申請中の者の送還を停
止する効力について,再度の難民認定申請者について一定の例外を設けることを検討す
べきと提言されている。
この点,日本は,諸外国に比べ難民認定率が極端に低いことが指摘されており,実際
には難民に該当するにもかかわらず,認定されずにやむを得ず複数回申請し,ようやく
認定される例が相当数存在する。かかる現状において,上述のような例外を設けること
は,誰一人として迫害を受けるおそれのある地域に送還してはならないという「ノン・
ルフールマンの原則」に反する結果を招来する危険が高い。
本部会の一部の委員も,本提言中,難民認定率が国際水準と乖離し難民認定に疑義が
呈されている中で,かかる例外を設けることは時期尚早との指摘をしている。
また,本提言でも,送還停止効の例外の導入と同時に「平成 26 年 12 月第 6 次出入
国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会における「難民認定制度の見直しの
方向性に関する検討結果(報告)」(以下「平成 26 年度報告」という)の提言を踏ま
えた施策を併せて実施すること」と提言している。本部会も,平成 26 年度報告による
提言が十分に実施されていなかったことを認めているのである。
難民が間違いなく難民として認定されるように制度設計すべく,平成 26 年度報告に
よる提言等に基づき難民認定申請の手続きの適正化を実施することが,まず求められる
解決策というべきである。
4.仮放免逃亡罪(仮称)の創設について
本提言では,仮放免中の逃亡に対する罰則の創設を検討することが提言されている。
しかしながら,逃亡した被仮放免者に対しては,保証金の没収などの措置が既に取ら
れており,一方で,現状の収容制度における無期限収容の前では,刑罰による身体拘束
等によっても逃亡に対する抑止効果は期待できない。また,退去強制拒否罪と同様に刑
法の謙抑性の観点から問題といわざるを得ないのであり,仮放免逃亡罪の創設の検討も
否定されるべきである。
5.以上のとおり,退去強制拒否罪の創設,送還停止効の例外の導入及び仮放免逃亡罪の
創設のいずれについても,当会としては反対である。長期収容問題の解決にあたって
は,刑事罰等によって締め付けるのではなく,文頭に示した本提言でも記載された送還
促進措置の他,収容期間の上限の設置や収容に対する司法審査の導入等,人権侵害を防
止できる制度設計を行うべきである。
以上