「国連自由権規約委員会ERDネット共同レポート」(外部リンク:移住連)
日付:2020年11月
団体:人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)
NGO 共同レポート 3.勧告案: 4.背景: 13
自由権規約委員会提出
事前リストオブイッシュに応えて
CCPR/C/JP/QPR/7
<日本語版>
人種差別撤廃 NGO ネットワーク(ERD ネット)
November 2020
人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)は日本における人種差別をなくすために活動してい
るNGOのネットワークです。ERDネットは、2007年の結成以降、自由権規約委員会や人種差別撤
廃委員会をはじめとした国連条約機関による日本の人権状況に関する審査に、市民組織として継続
的に関わってきました。
連絡先:反差別国際運動 (IMADR)
imadrjc@imadr.org
NGO共同レポート 参加団体
反差別国際運動 (IMADR)
外国人人権法連絡会
移住者と連帯するネットワーク
在日本朝鮮人人権協会
在日韓国人問題研究所(RAIK)
コリアNGOセンター
マイノリティ宣教センター
部落解放同盟
琉球弧の先住民族会 (AIPR)
沖縄国際人権法研究会
人身売買禁止ネットワーク
全国難民弁護団連絡会議
かながわ・みんとうれん
横浜市国籍条項撤廃連絡会
兵庫在日外国人人権協会
年金制度の国籍条項を完全撤廃させる全国連絡会
(順不同)
1
NGO 共同レポート
目次
LOIPR
パラ番号 問題 ページ
2 3
4 4
5 5
6 7
6 14
10 16
19 18
20 21
21 23
27 27
28 30
29
第一選択議定書 個人通報制度
国内人権機関の設置
包括的差別禁止法の制定
ヘイトスピーチ解消法とヘイトスピーチ
部落差別
移民女性 DV 被害への保護と在留資格
人身取引被害者
技能実習制度に対する効果的な改善措置
難民、難民認定申請者の収容
沖縄 集会の自由、報道の自由
在日コリアンの地方参政権
マイノリティの権利 琉球民族 32
30 マイノリティの権利 高校就学支援金制度からの朝鮮学校生徒の除外 34
30 コロナ禍におけるマイノリティの差別 39
30 幼保無償化制度からの朝鮮幼稚園の除外 41
30 在日コリアンのマイノリティとしての地位と権利 43
30 コロナ禍での在日コリアンの再入国権 46
30 在日コリアンの民族教育権の否認 48
30 在日コリアンの地方公務員の任用制限 50
30 外国籍教員の任用差別 52
30 高齢者・障害者の在日コリアンの年金制度からの排除 53
規約26 条 人種プロファイリング 56
規約12 条 コロナ禍における出入国に関する移民への不平等な処遇 57
規約26 条 コロナ禍における移民に対する不平等な処遇 58
2
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文:パラ 2、規約第 2 条 規約が実施される憲法上及び
法的枠組み
2.問題:個人通報制度に関する第一選択議定書の受容についての政府の消極的対応
1)締約国は、可及的速やかに第一選択議定書を批准すべきことを勧告します。
2)批准が困難な場合、現在までの政府部内における検討において、批准の障害になっているも
のは具体的に何であるかを、示してください。また、その障害を除去するためには何が必要
だとお考えですか、示してください。
1)1919 年 2 月、日本政府は、ベルサイユ講和会議における「国際連盟」規約制定時、「人種差別
撤廃条項」を同規約に加えるよう提案したが、実現しなかった。その背景には、海外における日
本人移民が受ける差別解消を願ったのである。
2)第二次世界大戦後、国連は 1948 年に「世界人権宣言」を採択し、それを踏まえて、多くの人
権条約を制定し、定期報告とその審査、そして個人通報制度を導入した。日本政府は、1975 年の
「ベトナム難民」の発生、そして「サミット」の発足を機に、今では主要な 8 条約を批准してい
る(未批准は移住者権利条約のみ)。
3)日本政府は、各条約委の「総括所見」で、例えば、高校無償化からの朝鮮学校除外の問題につ
いて、たびたび是正勧告を受けても、まったく無視している。i しかも、日本は個人通報制度を
一つも受諾していないため、前述の朝鮮学校の差別について、最高裁で敗訴の事例が出ていても、
個人通報制度を活用して救済を求める道は閉ざされている。
4)日本国が、自由権規約を批准したのは 1979 年であり、すでに 40 年が経過しており、2020 年 3
月現在、116 ヶ国が「第一選択議定書」を批准している。政府は「個人通報制度関係省庁研究会」
を開いて検討していると自由権規約委員会に回答したので、2020 年 7 月 10 日、前回審査の 2014
年 8 月以降の、同研究会の議事録等の開示を請求し、当初 8 月 11 日までとされたが、一部につい
ては 9 月 8 日まで延期され、残余は 2021 年 3 月 31 日まで延期され。従って、その検討状況を踏
まえて、ここに指摘をすることは叶わなかった。
5.作成: 田中宏
i 2010 年 CERD(CERD/C/JPN/CO/3-6, para 22(e)、2014 年 CERD (CERD/C/JPN/CO/7-9, para 19) 、2018 年 CERD
(CERD/C/JPN/CO/10-11, para 22)、2019 年 CRC(CRC/C/JPN/CO/4-5 para 39)
3
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文: パラ4、規約実施の法的枠組み、2条
2.問題: 国内人権機関設置に関する政府の消極的対応
3.勧告案:
(1)締約国はパリ原則に従った独立した国内人権機関を設立すること。
その際、国、地方自治体及び省庁等の公的組織並びに憲法遵守義務を負う政治家等の公人による人
権侵害に対応できるだけの権限を持つ組織とするべきである。
(2)締約国は、2017 年普遍的定期的審査において、国内人権機関に向けた取り組みを加速化させると
いう勧告のフォローアップを受け入れたことに留意し、国内人権機関の設置が遅れている状況を
調査し、その理由を明らかにするとともに問題解決に向けて明確な措置をとること。それらプロセ
スについて公にすること。
4.背景:
自由権規約委員会は、1998 年の総括所見パラ9(CCPR/C/79/Add.102、para.9)、2008 年の総括所見パラ
9(CCPR/C/JPN/5、para.9)、そして 2014 年の総括所見(CCPR/C/JPN/6、para.7)において、独立した国内
人権機関の設置を求める勧告を行ってきた。それにもかかわらず、国内人権機関の設置に向けた動きはな
かった。さらに、人種差別撤廃委員会も 2018 年の総括所見パラ 10(CERD/C/JPN/CO/10-11、para.10)で
同様の勧告を行い、同勧告をフォローアップ項目にも指定した(CERD/C/JPN/CO/10-11、para.46)。人種
差別撤廃委員会は 2020 年の第 101 会期において、日本政府が提出したフォローアップ報告を検討し、
「2018 年の勧告を実施するために適切な措置はとられておらず、政府の対応は満足できるものではない」
と評価した。
2012 年 11 月、新たな人権救済機関を設置するために、「人権委員会設置法案」が第 181 回国会に提出
されたが、衆議院解散により廃案となったままであり、それ以降新たな人権救済機関を設置するための法
案は提出されていない。事前リストオブイシュ―(文書番号入れる)パラ 4 に対する回答では,「人権救
済制度の在り方については,これまでなされてきった議論の状況も踏まえ,検討しているところである。」
と報告しているが、その検討作業の進捗状況及び内容については公表されておらず、NGO が質問しても明
らかにせず、不透明なままである。。
2016 年には「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」と
「部落差別の解消の推進に関する法律」が施行された。両法とも罰則規定はなく、解消の手段として教
育や啓発に重きをおいている。国内人権機関があれば、これら法律に基づいた国による教育や啓発の任
務を請け負えるはずである。
さらには、COVID-19 パンデミックにより、被差別マイノリティのみならず一般市民において、移動・
労働・集会や表現の自由などにかかる諸権利の行使に制約がかかった。国内人権機関は国が緊急事態にあ
るときに、それが人権に及ぼす影響をモニターし、政府に報告やアドバイスを行い、独自の介入ができ
る。パンデミックが人権全般に及ぼした影響の評価さえできないし、国際社会との情報共有もできない。
5.作成: 反差別国際運動
4
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文:パラ5、非差別、条文 2 条・26 条
2014 年総括所見パラ 11 (CCPR/C/JPN/CO/6)
2.問題:包括的な反差別法及びその前提となる包括的な人種的差別撤廃政策の不在
(1)外国人に対する差別の現状
日本政府は、人種差別撤廃委員会に対しても、日本は「人種差別を規制しており、ご指摘の包括的差別
禁止法が必要との認識に至っていない」と述べている(人種差別撤廃委員会への 2017 年政府報告書パラ
101、CERD/C/JPN/10-11)。
しかし、2016 年に、国として初めて行った外国人に対する調査結果(外国人住民調査)によれば、過
去 5 年間で、入居差別を経験した人は 4 割、就職差別を経験した人は 4 人に 1 人、直接侮蔑された経験
がある人が 3 割などの結果が示されている(Analytical Report of the Foreign Residents Survey)。
よって、政府自らの調査が、生活、安全を脅かされる深刻な差別が蔓延していること、差別に関する法規
制が機能していないことを、如実に証明している。
また、民間における差別以外にも、公的な差別的取扱いも存在する。国家公務員には原則として外国籍
者はなれず、地方公務員でも国籍条項を設けている地方自治体が多く、公務員になれても管理職にはな
れない。教育においては、外国人学校・民族学校は正規の学校とはなれず、とりわけ朝鮮学校に対しては
国はあらゆる公的な支援から排除しょうとしている。その他、年金制度、医療制度、生活保護制度におけ
る差別などもあり、公的、社会的に深刻な差別が存在している(各分野における具体的な差別の内容につ
いては別稿)。
(2)包括的な反差別法、特に反人種差別法の欠如
自由権規約委員会が勧告した、私的空間におけるものも含む差別に対処し、直接的、間接的及び複合的
な差別を禁止する包括的な差別禁止法は未だ制定されていない(パラ 11)。
特に国籍、民族差別の分野は遅れており、日本は 1995 年に人種差別撤廃条約に加入していながら、未
だに差別禁止法がなく、包括的な差別撤廃政策、基本方針、基本計画すら策定しておらず、政府内に担当
部署もない状態である。。
この点、政府がリストオブイシューズに対する回答として、差別に関するいくつかの法をあげている
が、憲法は国を縛る抽象的規範であり、私人間の差別には直接適用されない。労働基準法第 3 条は「国
籍、信条又は社会的身分」を理由とする労働条件についての差別的取扱いの禁止を規定しているが、差別
事由も対象分野も非常に限定されており、ほとんど使われておらず、適用判例もわずかしかない。教育基
本法は、国の政策の基本方針を定めたものであり、差別禁止条項は置かれていない。
なお、国レベルでは、2016 年に反人種的差別法として、外国人もしくはその子孫に対するヘイトスピ
ーチに限定してではあるが、ヘイトスピーチ解消法が制定された。ただし、ヘイトスピーチを禁止する条
項はなく、国及び地方政府が解消にむけて取り組むことを宣言した理念法にとどまっており、差別禁止
法とはいえない不十分なものである。
それで、2016 年の女性差別撤廃委員会(パラ12・13、CEDAW/C/JPN/CO/7-8)、2018 年の人種差別撤
廃委員会(パラ7・8、CERD/C/JPN/CO/10-11)からも、2019 年の子どもの権利委員(パラ 17・18(a)、
CRC/C/JPN/CO/4-5)からも包括的な差別禁止法を制定するよう勧告された。2017 年の国連普遍的定期審
5
査においても、9 ヶ国から包括的な差別禁止法を制定するよう求められた(A/HRC/37/15)。
3.勧告案:
締約国は、直接差別、間接差別及び複合差別を含む、具体的な人種差別の定義規定を置いて、禁止条項、
制裁条項、差別の被害者が裁判以外の簡易で迅速かつ安価に救済を得られる行政から独立した第三者機
関による実効性ある救済手続きを含む、包括的な差別禁止法を直ちに制定すべきである。
4.背景:
日本は 1945 年の敗戦前の植民地支配及び占領に対する謝罪と補償をきちんと行って来なかった。それ
どころか、戦前は日本国民であった旧植民地出身者である朝鮮半島出身者に対し、選択権もなく一方的
に日本国籍をはく奪して外国籍者とし、外国人登録証の常時携帯義務を課すなど日常的監視対象とし、
医療、年金、公営住宅、公務就任権、教育などからすべて排除する差別的政策を行ってきた。当事者など
の闘いにより一歩ずつ権利が獲得されてきたが、未だに公的な差別は残っている。
2002 年には日朝首脳会談があり、朝鮮民主主義人民共和国首脳が日本人拉致事件を公式に認め、謝罪
したことが契機となり、国もマスコミも大々的に朝鮮バッシングを行い、朝鮮人は信用できない、何をい
ってもいいとの雰囲気が形成され、現在も続いている。
2012 年 12 月に成立した安倍第二次内閣は、組閣の 2 日後に朝鮮学校の生徒を高校無償化制度から排除
することを宣言するなど、新たな公的な制度的差別も行った。
このような政府の姿勢、公的差別を背景として、民間のレイシスト団体の活動が活発化している。
5.作成:外国人人権法連絡会
6
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文: パラ6、ヘイトスピーチ、条文 2・20・26 条
2014 年総括所見パラ 12 (CCPR/C/JPN/CO/6)
2.問題:ヘイトスピーチ解消法ではヘイトスピーチもヘイトクライムも止められていない
A.ヘイトスピーチの現状(パラ6第 1 文)
(1)ヘイトデモ・ヘイト街宣
日本では 2000 年代にネットが普及し、匿名でのネット上のヘイトスピーチが広がった。2007 年 1
月にはネットを通じて会員を集めた「在日特権を許さない市民の会」(以下、在特会)というレイシ
スト団体が結成された。彼らはヘイトデモ、街宣、集会を繰り返し、それらをネット上の動画サイト
に掲載することにより支持を拡大してきた。国がはじめて 2015 年秋に行った調査によれば、2012 年
4 月から 2015 年9月までの3年半の間のヘイトデモ及び街頭宣伝(街宣)の総数は 1152 回(うち、
デモの回数は年に 100 件前後)、平均して1日 1 回にものぼった1。
2016 年6月に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた施策の取組の推進に関す
る法律」(ヘイトスピーチ解消法)http://www.moj.go.jp/content/001199550.pdf が施行され、ヘイト
デモの回数は 2019 年には 21 件とかなり減少したが、ヘイト街宣は 211 件あり、あまり減少してい
ない。言動の内容は、ヘイトスピーチ解消法が定義で定めるもの(①脅迫、②著しい侮蔑、③排除)
に明白にあたる露骨な表現の割合は減少したが、継続している。
たとえば、「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」(2019 年
4月施行)第 12 条に基づき東京都が認定した、都内での 2019 年のヘイトスピーチの例をいくつか
挙げる2。
① 2019 年5月 20 日、東京都練馬区内での拡声器を使用した街頭宣伝における「朝鮮人を東京湾に
叩き込め」「朝鮮人を日本から叩き出せ、叩き殺せ」という言動
② 2019 年6月 16 日、東京都台東区内でのデモ行進における「朝鮮人を叩き出せ」という言動
③ 2019 年9月 15 日、東京都墨田区内でのデモ行進における「百害あって一利なし。反日在日朝
鮮人はいますぐ韓国に帰りなさい」「犯罪朝鮮人は日本から出ていけ」「日本に嫌がらせの限
りを続ける朝鮮人を日本から叩き出せ」という言動
④ 2019 年 10 月 27 日、東京都千代田区内、文京区内及び台東区内を移動して行われたデモ行進に
おける「朝鮮人を叩き出せ」「ゴキブリ朝鮮人は韓国帰れ」という言動
⑤ 2019 年 11 月3日、東京都港区内の街宣活動における「ゴミ、ゴキブリ、人もどきの朝鮮人ど
もが居座っている。許されることじゃない」「在日朝鮮人をガス室でも作って本当に皆殺しに
してやりたい」という言動
1
Japan’s first-ever hate speech probe finds rallies are fewer but still a problem (the Japan Times, MAR 30, 2016),
https://www.japantimes.co.jp/news/2016/03/30/national/japans-first-ever-hate-speech-probe-finds-rallies-are-fewer-butstill-a-problem/
2
2 anti-Korean rallies 1st to run afoul of Tokyo hate speech rule (The Asahi Shimbun, October 18, 2019)
http://www.asahi.com/ajw/articles/13059690
7
(2) 差別主義団体の政治団体化
「在特会」創設者は、「外国人に対する生活保護の廃止」などを掲げ、2016 年7月の東京都知事
選挙に立候補した。落選したが、約 11 万 3000 票を獲得し(得票率 1.7%)、同年 10 月には「日本
第一党」を結成した。2020 年 7 月の都知事選挙では同党から再び立候補し、17 万 8000 票と、前回
のほぼ 1.5 倍の得票を得た。
在特会のみならず、他の差別主義者の集団も、選挙運動に名を借りてヘイトスピーチを行った。
東京都葛飾区など、いくつかの地方公共団体で差別主義団体出身の者が議員となっている。
(3)公人によるヘイトスピーチ
公人によるヘイトスピーチも止まらない。例えば麻生太郎副総理兼財務大臣は、2017 年8月、
「(政治は)結果が大事だ。何百万人殺したヒトラーは、やっぱりいくら動機が正しくても駄目
だ」3、同年9月、朝鮮半島から難民が日本に来る可能性があるとし、「武装難民かもしれない。警
察で対応するか。自衛隊、防衛出動か。射殺ですか。真剣に考えなければならない」4、2020 年1
月、「2千年の長きにわたって一つの場所で、一つの言葉で、一つの民族、一つの天皇という王朝
が続いている国はここしかない。よい国だ」、同年3月、新型コロナウイルスを「武漢ウイルス」
と発言した。しかし、これらの発言に対し、安倍晋三内閣総理大臣からも法務大臣からも注意すら
なく、何ら責任を問われることなく、現在も副総理兼財務大臣の職にある。
(4) 報道・出版物におけるヘイトスピーチ
テレビ、新聞、出版物において、韓国人、朝鮮人、在日コリアン、中国人に対する差別を煽るも
のが日常化している。多くの本屋では「嫌韓本」、「嫌中本」が店頭に並べられ、電車の中の週刊
誌の吊り下げ広告には差別を煽る見出しが並んでいる。たとえば、2017 年に大手出版社からだされ
たケント・ギルバートの『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』と題する本は、中国人と韓国
人は嘘つき、自己中心的などと差別を煽る内容だが、40 万冊以上売れている。また、2019 年9月
の「週刊ポスト」(大手出版社発行、発行部数 40 万部弱)では「韓国なんて要らない」との特集
を組み、「怒りを抑えられない韓国人という病理」との題名の記事などを載せ、批判された5。
(5) ネットでのヘイトスピーチ
ネット上にはその多くが匿名者によるヘイトスピーチがあふれている。日本ではツイッター利用
者が 2017 年で 4500 万人にものぼり、匿名でのマイノリティ集団及び個人への日常的な大量のヘイ
トスピーチの悪影響は極めて大きい6。
2015 年7月には、ツイッター上などで、在日コリアンの在留資格がなくなり強制送還されるとの
差別的なデマが出回り、大量の匿名者たちが、入国管理局に在日コリアンをメールなどで通報し、入
管局のサーバーがダウンする事件が起きた。
3
Japanese minister Taro Aso praises Hitler, saying he had ‘right motives’ (the Guardian, 30 August, 2017)
https://www.theguardian.com/world/2017/aug/30/japan-minister-tara-aso-praises-hitler-right-motives
4 Aso asks whether SDF should shoot North Korean refugees fleeing hypothetical Korean contingency (the Japan
Times, 24 September 2017), https://www.japantimes.co.jp/news/2017/09/24/national/politics-diplomacy/aso-askswhether-sdf-shoot-north-korean-refugees-fleeing-hypothetical-korean-contingency/
5 Editorial: Japanese weekly magazine’s anti-S. Korea feature totally out of order (The Mainichi,
September 4, 2019) https://mainichi.jp/english/articles/20190904/p2a/00m/0na/010000c
6 Twitter Japan is Not a Safe Space for Minority Users (Adbox, 15 December 2017 )
https://advox.globalvoices.org/2017/12/15/twitter-japan-is-not-a-safe-space-for-minority-users/
8
何か災害、事故、事件が起きると、その直後に必ず、朝鮮人や中国人が犯人だとか、災害に乗じて
犯罪を行っているとの差別的なデマがツイッター等で出回る。
2011 年の東日本大震災の際に、中国人窃盗団の横行などの差別的なデマが SNS などに出回ったが、
情報に接した人の9割弱がそれを信じたとの民間の研究者の調査結果が発表されている7。
2016 年秋に実施された法務省の外国人住民調査結果によると、普段ネットを使う在日外国人のう
ち4割がネット上のヘイトスピーチを見たことがあり、そのような書き込みを見るのがいやでサイ
トの利用を控えた人が外国人全体で 19.8%、朝鮮籍では 47.8%、韓国籍で 38.8%もいる
( https://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CERD/Shared%20Documents/JPN/INT_CERD_AIS_JPN_30363
_E.pdf 49 頁「2.5.2 Use of the Internet (Survey Question 3-2)」参照)。
(6)街中の掲示
今年、新型コロナウイルスが広がって以降、飲食店、理髪店、土産物店など各地で、「中国人お断
り」とのポスターが張られたことが報道されている8。
B, ヘイトスピーチ解消法の課題(パラ6第2文)
A で述べたように、ヘイトスピーチ解消法には禁止規定も制裁規定もない理念法であることから、
解消法2条のヘイトスピーチに明確にあたるものも含めて、止めることができない限界があきらか
になっている。
そもそも同法は、ヘイトスピーチの対象が外国出身者及びその子孫に対するもののみであり、か
つ、正規の在留資格をもつものに限定されている。
また、同法には、国が、いつまでにどのようになくすかという方針や計画策定、定期的な実態調
査、政府内に担当部署を設置、公務員への定期的研修、施策を検討する専門家機関の新設、予算枠の
設置などの政策を策定して実効するための枠組もない。
2018 年8月の人種差別撤廃委員会の審査において、国の代表者は、まだ解消法施行後2年しか経
っていないので今後の取組をみてほしいと述べた。しかし、すでに4年以上経過しており、効果が極
めて限定的な現状があるのだから、法改正や新法制定が不可欠である。
(a)ヘイトスピーチ禁止法の現段階
国レベルでは差別の扇動の禁止法が制定されないままである。
地方レベルでは、差別的言動に対する禁止規定を含む条例をもつところも多少あるが、これまで
刑事規制はなかった。
川崎市では、解消法成立後、ヘイトスピーチを含む差別をなくす教育、啓発活動を強化したが、ヘ
イト街宣が繰り返されたため、教育や啓発では止めることができないことを理由として、2019 年 12
月、悪質な公開の場でのヘイトスピーチに限定し、日本で初めて刑事罰(最高 50 万円の罰金)付き
の「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」条例を制定した9。
なお、政府が、第7回報告書(CCPR/C/JPN/7)のパラ 23 で、人種差別的行為に対して現行法で対
7 Rumours after 2011 Japan earthquake pinned blame on Chinese, Koreans for crimes that didn’t happen (The
South China Morning Post, March 17, 2017)http://www.scmp.com/print/news/asia/east-asia/article/2079137/rumoursafter-2011-japan-earthquake-pinned-blame-chinese-koreans
8
‘No Chinese allowed’: Japanese shop criticised for coronavirus sign (the Week in Asia, 22 Jan, 2020)
https://www.scmp.com/week-asia/health-environment/article/3047144/no-chinese-allowed-japanese-shop-criticised
9 EDITORIAL: Ordinance on hate speech welcome but needs monitoring(Asahi Shimbun, December 13, 2019)
http://www.asahi.com/ajw/articles/13055700
9
処しうるかのように述べているが、誤導である。確かに日本の法制度においては、特定の人(団体含
む)に対して民族、国籍などの属性を理由として部屋を貸さない、サービスを提供しない、就職させ
ないなどの差別的取扱いがあれば、権利侵害として、民法の一般条項である不法行為として違法と
なり、損害賠償を請求することは可能である。しかし、差別禁止法がないため、差別か否かではな
く、一般の民事裁判として、権利侵害があったかどうかを被害者が主張、立証する裁判を起こさなけ
ればならない。その場合、一審で通常2年、二審、最終審まで含めると3,4年かかり、数十万円の
弁護士費用などの経費もかかる。公開の法廷で行われるため、被害者は差別主義者たちの新たな攻
撃を受ける二次被害も伴う。よって、ほとんどの人は裁判を断念し、救済されていない。たとえば、
外国籍者のほぼ半数が経験している入居差別の裁判も、戦後 70 数年の間で数件しか起こされていな
い。
刑事規制については、差別行為が脅迫罪や威力業務妨害罪などの犯罪にあたる場合、被害者は告
訴できるが、起訴できるのは検察だけであり、差別事案について検察は消極的である。
さらに、不特定の集団に対する差別を違法として規制する法律はなく、ある民族の皆殺しを叫ぶ
ヘイトデモを行ったものに何らの法的責任を課すことはできない。また、たとえば「外国人お断り」
とのポスターを店が張り出すことは、権利侵害ではないと扱われており、違法とする法律がない。
(b)ヘイトデモの抑制
ヘイトデモを直接規制する法はなく、ヘイトスピーチそのものを違法もしくは犯罪とする法律も
ない。
警察は、ヘイトスピーチ解消法成立後は、ヘイトデモ参加者を守りカウンターを敵視してより多
く逮捕する姿勢は変化し、ヘイトデモ主催者に対し、ヘイトデモ届出の際や、デモの現場でヘイトス
ピーチを行わないよう注意するようにはなった。しかし、ヘイトデモは合法のままであり、警察は毎
回デモ参加者の数倍の人員でデモ参加者に同行して、カウンターによる抗議活動からデモを守って
いる。
他方、川崎市では、地方公共団体として初めて前述の条例に罰則付きのヘイトスピーチ禁止条項
を置いた。規制対象はヘイトスピーチ解消法の定めたもののうち、深刻で明白な3つの表現類型に
限定し、市長が勧告、命令をだしても3回ヘイトスピーチをおこなった場合に、市長が刑事告発する
仕組みである。
(c)国による実態調査
NGO は、ヘイトスピーチ解消法施行後、何度も政府に対して新たな調査を要請しているが、予算が
ないなどの理由で拒まれている。
すでに解消法施行後4年以上経ち、前述のようにヘイトスピーチがとまらない現状から、解消法
に効果があったのか検証するためにも実態調査を行うことは必要不可欠である。
(d)教育・啓発
国の教育カリキュラムに、人種差別撤廃教育の項目はなく、日本にどのようなマイノリティがい
るのか、その歴史的経緯や言語を含む文化、差別の現状などを学校教育で教えていない(第7回政府
報告書(CCPR/C/JPN/7 パラ 29)。
法務省の啓発活動は、「ヘイトスピーチ、許さない」という一般的な内容にとどまっている。NGO か
らは、例えば災害の度に、何の根拠もなく「犯人は朝鮮人」という差別的デマがネット上で投稿され
たとき、その直後に、そのような投稿内容はヘイトスピーチであって許されない、とのメッセージを
出すべきだと要請しているが、法務省は認定をさけ、具体的な事案については啓発を行わないため、
その効果は極めて限定的である(CCPR/C/JPN/7 パラ 30)。
10
検察官、裁判官、警察官に対し、ヘイトスピーチをはじめとする日本における人種差別に特化した
研修は行われず、差別かどうか認定する能力を養成する訓練も行われていない。ヘイトデモの現場
でも、現場の警察官で、ヘイトスピーチ解消法の存在自体知らない者もいる。
NGO からは、政府に対し、ヘイトスピーチに関しどのような研修が行われているのか、どのような
プログラムで、どのようなテキスト、講師を呼んでいるのか、などと質問したが、回答がなかった
(CCPR/C/JPN/7 パラ 31-32)。
(e)ヘイトクライム
日本の法制度上、ヘイトクライムという概念が確立しておらず、ヘイトクライムについて担当す
る部署もなく、調査研究もおこなわれず、啓発・教育もなく放置されている。
政府は報告書(CCPR/C/JPN/7 パラ 33)において、差別的動機の場合、量刑上加重することは可能
であり「適切に考慮される」とあるが、虚偽に等しい。政府報告書パラ 34(CCPR/C/JPN/7)で自ら
認めているように、ヘイトクライム関連の判例調査も行っていないのに、「適切に考慮される」とい
える何の根拠もない。差別目的であると民事裁判で認定された事件であっても、刑事裁判でそれが
考慮されて加重される場合はほとんど例がない。
ヘイトクライムは質・量とも悪化しつつある。前回 2014 年の審査以降で、報道されている事件を
報告する。
2015 年 3 月には韓国文化院等4件で火をつける犯罪があり10、同年 11 月、建造物損壊、器物損壊、
建造物侵入で「特定の国やその国の人に対して抱いた悪感情を、無差別に火を付けるという形で示
すことは許されない」とし、初犯だが、東京地裁で懲役2年の実刑判決となった。
2016 年7月、福岡県のデパート等のトイレに数か所、在日コリアンを差別するビラを貼った者が、
同年 10 月、福岡地裁で、建造物侵入罪で懲役1年、執行猶予3年とされた。
2017 年5月には、韓国政府の日本軍「慰安婦」問題に対する態度への不満を動機として、名古屋
の朝鮮系信用金庫への放火事件があり、有罪となった。
2018 年2月、これまで在日コリアンに対するヘイトデモ・街宣を繰り返してきた右翼活動家ら2
名が、朝鮮総連本部正門前に車で乗り付け、車内から内部に5発銃弾を撃ち込み、門扉に命中した事
件が起きた11。彼らは逮捕され、同年8月、銃刀法違反などで、懲役8年と懲役7年の実刑判決が出
された。
2018 年5月、在日コリアン集住地区に対するヘイトデモに抗議して名前が報道された在日コリア
ン三世の女性に対し、1年9カ月もの間、ネット上の差別ツイートを毎週繰り返してきた加害者は
横浜地検川崎支部へ脅迫罪で送検された。しかし、2019 年 2 月に検察が不起訴とした。被害者は神
奈川県迷惑行為防止条例違反で新たに告訴し、2019 年 12 月、加害者は同条例違反で起訴され、罰金
30 万円の略式命令が出された12。
10
Arson attempted at Tokyo Korea Cultural Center (the Korean Herald, Mar 26, 2015)
http://www.koreaherald.com/view.php?ud=20150326001044
11
Japanese police arrest 2 men suspected of shooting up a pro-North Korean compound (BUSINESS INSIDE, 23
FEBURARY 2018) https://www.businessinsider.com/japanese-police-arrest-2-suspected-of-shootingpro-north-korean-compound-2018-2
12
Man, 51, fined for racist tweets against ethnic Korean woman(The Asahi Shimbun, December 28, 2029,
http://www.asahi.com/ajw/articles/13056030)
11
2018 年6月、川崎市で市所有のベンチなどに対し、在日コリアンに対する差別落書きが 50 件以上
行われた。器物損壊罪として捜査されたが、犯人は不明。
2018 年 12 月、川崎市の在日コリアン中学生に対する差別ブログ書き込みに対し、加害者は侮辱罪
で起訴され、罰金 9000 円の略式命令となった。
2019 年1月、沖縄の在日コリアンの業者に対する差別投稿で、名誉毀損で加害者2名に対し罰金
10 万円(略式命令)。
2019 年7月、韓国大使館あてに、「日本から出て行け」と書かれた脅迫状と共に銃弾が送り付けら
れたが、犯人は不明である。
2019 年 11 月、京都朝鮮学校前での差別街宣に対し、在特会元幹部に名誉毀損罪で罰金 50 万円の
判決が出される13。
2020 年1月、川崎市立の在日コリアンなど外国籍住民と日本人住民との交流施設に対し、在日コ
リアン虐殺、施設爆破を予告する連続脅迫事件が起きた14。同年7月、犯人が逮捕された。
2020 年2月、京都市で、「感染した中国人は日本に来るな」との趣旨のビラを何枚も電柱に貼り付
けた者が、京都市屋外広告物条例違反で逮捕された。
2020 年3月、横浜中華街の数店舗へ、「中国人はばい菌、ゴミ、悪魔」等と侮辱する文書が送られ
たが、犯人は不明である15。
なお、逮捕、裁判などの形になっていないヘイトクライムが大量に存在している。例えば、2002 年
以降、朝鮮学校の生徒・学生たちは、朝鮮人だとわかるとヘイトスピーチ、ヘイトクライムのターゲ
ットとなる危険性が高いため、民族衣装の制服による通学は避けるようになっている。学校や生徒
たちが警察に暴行、傷害などの被害届をだしても、ほとんど逮捕されていない。
ネット上ではヘイトスピーチについて実名で批判する在日コリアン、とりわけ女性に対しては、
実生活上でもネット上でも脅迫、名誉毀損、侮辱が多数行われているが、これも被害届を出しても警
察が熱心ではないこともあり、ほとんどの人が泣き寝入りしている。また、ネットを使わないように
もなっている。
3.勧告案:
・国は、不特定の集団に対するものを含むヘイトスピーチを法律で禁止し、ジェノサイドの煽動な
ど、深刻で悪影響の大きいものについては刑事規制すべきである。
・国は、ヘイトクライム対策法を整備し、担当部署を設置して調査、研究を行い、また、人種主義
的動機による犯罪がヘイトクライムとして対処されるよう法改正すべきである。
・国は、速やかにネット上のヘイトスピーチに対し実態調査し、ネット上のヘイトスピーチの被害
者が迅速に救済されるよう、救済手続きを含む包括的な対策法を制定すべきである。
・国は、マスコミ、出版業界、インターネット業者団体と協議し、ヘイトスピーチを抑制する具体的
で実効性ある自主規制の対策をとるよう促すべきである。
・国及び地方公共団体は、ヘイトスピーチ及びヘイトクライムが生じた際に、深刻な悪影響のある
13 Former senior member of Zaitokukai fined ¥500,000, but escapes prison term over anti-Korean hate speech (the
Japan Times, November 30, 2019)
https://www.japantimes.co.jp/news/2019/11/30/national/crime-legal/zaitokukai-fine-prison-anti-korea-hate-speech/
14 New Year’s card threatening to ‘massacre’ Korean residents sent to Kawasaki facility (the Mainichi, January 24,
2020), https://mainichi.jp/english/articles/20200124/p2a/00m/0na/011000c
15 Racist letters sent to Yokohama Chinatown restaurants amid Japan coronavirus fears (the Mainichi, March 7,
2020), https://mainichi.jp/english/articles/20200307/p2a/00m/0na/004000c
12
ものについて、速やかに公的に非難すべきである。
・警察は、ヘイトスピーチ対策プロジェクトチームを置き、全警察官へのヘイトスピーチに関する
研修を徹底し、ヘイトデモ参加者の過剰な保護とカウンターへの過剰警備をやめ、ヘイトスピー
チ・ヘイトクライム被害者を救済し、ヘイトスピーチ実行者に犯罪行為があった場合は厳正に対
処すべきである。
・国は、ヘイトスピーチ根絶のため、マイノリティ当事者や差別問題専門家の意見を聴取した上
で、人種差別の歴史と実態及び国際人権基準を含む、具体的な人種差別撤廃教育の計画を立てて
実行すべきである。
・裁判官、検察官、入管職員をはじめとする全公務員には、人権研修一般ではなく、ヘイトスピーチ
及びヘイトクライムをふくむ人種差別及びそれに対する国際人権基準などを学び、実際の差別事
案に対処できる能力を身につける研修を行うべきである。
5.作成:外国人人権法連絡会
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文: パラ6、12
被差別と民族的、人種的あるいは宗教的憎悪の衝動の禁止 第 2 条、20 条、26 条
2.問題:部落問題の解決
3.勧告案:
① 部落差別解消推進法を改正し、差別禁止規定と罰則規定を設けること。
② 政府が主張してきた「部落問題は社会的差別であって、世系ではない」は、修正され、
「部落問題は世系(descent)に基づく差別である」ことを確認する。
③ 政府は潤沢な予算を計上し、地方自治体の相談窓口での対応能力の向上に努め、教育
啓発の質的向上を図ることで部落問題の根本的解決を図ること。
4.背景:
① 2016 年に施行された部落差別解消推進法第 6 条に基づいて、政府は「部落差別に関す
る実態調査」を実施し、2020 年に報告書を出した。報告書のまとめで以下のように指摘
している。「部落差別に関する国民の正しい理解は進んでいるが、心理面における偏見、
差別意識は依然として残っている。このような意識が、結婚・交際に関する差別意識に
つながっている可能性がある。また、増加しているインターネット上の差別情報の特性
として、識別情報の適時(全国の被差別部落一覧・部落探訪)と特定の者に対する誹謗
中傷が特定のウェブサイトに集中している。」これらは確信犯であるために、教育・啓発
を受け入れず、政府の削除要請にも応じていない。裁判手続きによってのみ、解決を計
らざるを得ない。時間も費用もかかるし、被害者の精神的負担は重すぎる。部落差別解
消推進法を改正し、差別禁止規定と罰則規定を設けるべきである。
② 政府回答 19 にある「同和問題(部落差別)」の表記は初めてである。政府は部落民に関
する定義を明らかにしてこなかった。しかし、上記実態調査報告書では「部落差別の定
義」の項目を設け、部落差別の定義は、政府が発行する「人権教育・啓発白書」にある
同和問題に関する説明を使用することが合理的であるとした。すなわち「同和問題は、
日本社会の歴史的過程で形作られた身分差別により、日本国民の一部の人々が、長い間、
経済的、社会的、文化的に低い状態に置かれることを強いられ、同和地区と呼ばれる地
域の出身者であることなどを理由に結婚を反対されたり、就職などの日常生活の上で差
別を受けるなどしている、我が国固有の人権問題である。」と確認した。政府が主張して
きた「部落問題は社会的差別であって、世系ではない」は、修正され、「部落問題は世系
(descent)に基づく差別である」ことを確認すべきである。
部落差別解消推進法第 4 条の相談体制および第 5 条の教育啓発の充実は重要である。
上記実態調査報告書が明らかにしているのは、政府の相談窓口はほとんど機能せず、地
14
方自治体の窓口対応が圧倒的に多い。教育啓発についても政府の取り組みより、地方自
治体の取り組みが多い。2002 年の特別措置法終了後は地方自治体への予算措置がなされ
ておらず、地方自治体が取り組みに苦慮している。従って、政府は潤沢な予算を計上し、
地方自治体の相談窓口での対応能力の向上に努め、教育啓発の質的向上を図ることで部
落問題の根本的解決を図ることである。
5.作成:部落解放同盟
15
1. LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文: パラ 10、ジェンダーに基づく暴力および DV
2 条、3条、24 条、26 条
2.問題:移民女性等のマイノリティ女性 DV 被害者への保護・支援策および在留資格の保障の欠如
3 勧告案:
➢ 移民女性等のマイノリティ女性の DV 被害の現状について、国レベルでの実態調査を実施し、
その結果に基づく保護・支援策を講ずること。
➢ 移民女性 DV 被害者が被害から逃れ、また公的保護と支援を受けられるよう、(入管法第 22 条
の4第1項の配偶者の在留資格取り消し制度をふくむ)不安定な在留資格制度の見直しを行う
こと。
4. 背景:
前回の総括所見においては、移民女性や同性カップルなどのマイノリティに対する暴力および
DV に関連して、実態を完全に調査すること、および移民女性の在留資格の保障をふくめ被害者の
適切な保護へのアクセスを強化する旨が勧告されている(パラ 10)。
しかし 2014 年 8 月以降、移民女性等のマイノリティ女性に対する暴力、DV 施策の立案に必要な
実態調査さえ実施・公表されておらず、移民女性への暴力に関する新たな施策は講じられていない。
移民女性等のマイノリティ女性の脆弱性ゆえに高い暴力被害のリスクにさらされていることは知
られているが、日本においても、DV 被害者の一時保護者数のデータと外国籍・日本籍女性の人口
比率から、移民女性が日本人女性と比較して5倍に近い割合で保護されている実態が明らかになっ
ている。DV 防止法は「国籍を問わず、被害者の人権が尊重される」旨を謳っているが、その具体的
な施策についてのナショナルミニマムスタンダードは存在しない。移民女性被害者への支援策は、
言語通訳の確保などの基本的な部分でさえ国による財政的な保障がないまま各自治体の努力に任さ
れており、一部の先進地域をのぞき、取り組みは遅れている。
移民女性 DV 被害者の在留資格の保障については、2014 年 8 月の自由権の総括所見以降、女性差
別撤廃条約委員会(2016 年 2 月)人種差別撤廃委員会(2014 年 8 月、2018 年 9 月)、からも勧告が
出されている。
人種差別撤廃委員会の総括所見では、とくに「委員会はとりわけ、2012 年の改定出入国管理及び
難民認定法に基づき、日本人または永住資格を有する外国人と婚姻した外国人女性が、その配偶者
の身分を有する者としての活動を6月以上行わないで日本に在留している場合、当局が同法第 22 条
の4第1項に規定されているように、その在留資格を取り消すことができるということに懸念する」
と、改定入管法における配偶者の在留資格取り消し制度が DV 被害女性に与える影響についての懸
念とその改善勧告を行っている。
配偶者の在留資格取り消し制度の問題は、実際の取り消しの件数(2017 年 19 件、2018 年ともに
年間 24 件)にかかわらず、この制度が存在することにより、制度の対象となりうる「日本人/永住
者の配偶者等」の在留資格の多数の移住女性に脅威を与え、DV 被害から逃れることを躊躇させ、
被害を深刻化させる要因となっていることにある。
なお、日本政府は、DV 被害者については、在留資格取り消しの除外対象となる旨を説明してい
るが、この除外規定は当事者には周知されておらず、また当時者が入管に事情を説明することは難
しい。そのため、婚姻中であり DV 被害を受けて遺棄されているにもかかわらず、在留資格を取り
16
消された例なども NGO に報告されている。この取消し制度については、事前に本人に意見聴取を
する旨が規定されているが、本人への意見聴取の実態は、一切明らかにされていない。
また近年では、就労資格で来日する移民の配偶者や子どもが「家族滞在」の在留資格で日本に滞
在し、生活するなかで配偶者からの DV 被害に遭うケースに関する報告が急増している(「家族滞
在」の在留外国人数は 201,423 人(2019 年 12 月法務省統計))。しかしながら配偶者に依存した「家
族滞在」という不安定な在留資格ゆえに DV 被害に遭っても、一時保護の後の中長期的な福祉的支
援のめどがたたず、公的保護や支援が受けられない場合も多い。難民申請中の夫婦間での DV 被害
の場合も同様に、在留資格の不安定さゆえに、公的被害者支援の枠組みからは完全にはずされてい
る。このように移民女性が、不安定な在留資格ゆえに公的な保護や支援の枠からとりこぼされてい
る状況改善のため、DV 被害に遭った女性への在留資格の保障と、在留資格にかかわらず DV によ
る保護および生活保障がえられるよう、在留資格制度および関連福祉制度の見直しが求められる。
5.作成:移住者と連帯するネットワーク
17
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文: パラ 19、人身取引(第8条 奴隷、強制労働、
人身取引の廃止)
LOIPR 19 (a)特に強制労働の被害者に関し,被害者認定手続きを強化する
2.【問題】
・労働搾取を受ける人身取引被害者認定手続き強化の不履行
・労働搾取を受ける人身取引被害者の不認定
3.【勧告案】
(1)厚生労働省の中に人身取引を担当する部門を設置し、すべての労働基準監督署に人身取引担当官
を配置すること
(2)すべての労働基準監督官に対し、人身取引に関する専門研修を実施すること
(3)労働搾取の人身取引被害者に対する保護・支援の施策を策定し、実施すること
4.【背景】
政府回答パラ 157 は、行動計画と推進会議について述べているが、質問に答えていない。
政府回答パラ 158 も、被害者認定手続きの強化にはまったく触れていない。
パラ 158 で言及されている「人身取引事案の取扱方法(被害者の認知に関する措置)」には、行為・手
段・目的の各項目につき被害者認定の着眼点が記載されているが、いずれも議定書3条の用語解説の域
を出ず、具体性に欠ける。この「取扱方法」には、「労働関係行政機関」がなすべき人身取引事案への対
応にかかる記載もあり、被害者認定については「(a)各種窓口における対応:労働基準監督署等におい
て、人身取引被害者やその関係者から相談や保護要請があった場合に積極的かつ適切に対応する、(b)
取締り過程における被害者の発見:外国人に係る労働基準法等違反事案の取締り過程において、人身取
引事犯の発見に努める。」と記載されている。しかし、それ以上の記載はなく、具体性に欠ける。
厚生労働省や労働基準監督署の中に人身取引を担当する部門はなく、担当者もいない。労働基準監督
官への研修も実質的には行われていない(政府の別添資料7(1)イの記載内容には疑問がある)。
労働基準監督署が認定した人身取引被害者は皆無である。警察や入管が労働搾取の人身取引被害者と
認定した者はいるが、極めて少ない(2019 年はゼロ、2018 年は2人(ホストとマッサージ店)、2017 年
は3人(露天商、飲食店、民宿)、2016 年は4人(労務作業員2人、建設、他1名は不明)、2015 年は7
人、2014 年はおそらくゼロ)。
労働搾取の人身取引被害者に関する被害者認定手続きは強化されていない、と言わざるを得ない。
なお、上記「取扱方法」には、労働関係行政機関がなすべき対応として「(c)被害者の保護:人身取
引被害者を認知した際には、被害者が悪質な雇用主、ブローカー等から危害を加えられるおそれが強い
こと等を踏まえ、必要に応じて警察や入国管理局への通報を行うほか、関係行政機関と相互に連携して
適切な保護措置を講ずる」との記載もある。しかし、日本政府は、労働搾取の人身取引被害者に対する
特別の保護・支援策を用意していない。
(b) 関係する職員に対し,専門的な研修を提供すること。
2.【問題】
・専門研修の対象人数・内容の非開示
・検察官や裁判官、婦人相談所・児童相談所職員への専門研修の未実施
3.【勧告案】
(1)検察官や裁判官、婦人相談所・児童相談所職員も含めた関係機関のより多数の職員に対し、専門
研修を実施すること。
(2)専門研修の内容(時間、回数、講師、資料、実施方法など)を明らかにし、必ずNGO関係者を
講師として参加させること。
18
4.【背景】
政府回答パラ 159 は、5 つの省庁で職員への研修を実施しているとする。しかし、例えば専門研修の
受講者は、入管庁ではわずか 23 人、他の省庁では不明である。また、専門研修の内容(時間、回数、講
師、資料、実施方法など)も不明で、人身取引被害者の認定や保護にどの程度役にたっているのかも明
らかでない。労働基準監督官への専門研修の実施も、現場の監督官はこれを確認していない。
しかも、検察官や裁判官、婦人相談所・児童相談所職員への専門研修は実施されていない。被害者の
保護支援の充実のためだけでなく、加害者に行為の重大さに見合った刑罰を科すためにも、これらの者
への研修も実施すべきである。
(c)責任者を捜査・訴追し,有罪の場合には,犯した行為の重大さに見合った刑罰を科すこと(2014
年7月以降に行った捜査,訴追,有罪判決及び制裁について,関連の統計を提供願いたい)。
2.【問題】
・議定書定義に沿った法律の未整備
・「人身取引取締りマニュアル」の非開示・活用不十分
・犯した行為の重大さに見合った刑罰の不実施・刑罰統計の報告不十分
3.【勧告案】
(1)議定書が定義する「権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること」という手段が用いられた事
案を確実に取り締まる法律を整備すること。
(2)人身取引事犯の取り締まりに際し、政府自ら作成したマニュアルを十分に活用すること。またそ
の内容を可能な範囲で開示すること。
(3)人身取引加害者の刑罰を行為の重大さに見合ったものにすること。執行猶予付きや罰金のみを無
くし実刑判決にすること。
4.【背景】
(1)政府回答パラ 160 には「我が国においては、本議定書において定義される人身取引に該当する行
為は全て犯罪とされている。」とあるが、これには疑問がある。たとえば、議定書では人身取引の手段と
して「権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること」が含まれているが、これはどの罰条で犯罪とさ
れているのか。2005 年の刑法改正の際にこの点が詳しく検討された形跡はなく、改正前刑法にあった「脅
迫」に該当する(だから規定の新設は不要)とされたようである。そして、「脅迫」とは、「自己または
親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知すること(刑法 222 条参照)」をい
う。しかし、外国人労働者が奴隷的な搾取労働に苦しむ背景には「本国での前借金」と「強制帰国の脅
し」との板挟みがあるが、これらは「脅迫」に該当するのだろうか。罪刑法定主義のもと、構成要件の
解釈は厳格になされるべきところ、疑義がある。労働分野の人身取引の摘発が日本で皆無に近い背景に
は、実際には「権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること」が犯罪化されていないからではないか。
(2)パラ 161 に「人身取引事犯の適用法令や具体的適用例等をまとめた『人身取引取締りマニュアル』
を作成し,警察,出入国在留管理庁,検察,労働基準監督署及び海上保安庁において捜査等に活用して
いる。」とあるが、この「人身取引取締りマニュアル」の内容は不明である。人身取引被害者認定に関し
て、政府(警察)は NGO との対話の中で常に「議定書3条の定義と、対象者の国籍、入国経緯、在留
資格、稼働実態、年齢、本国での借金、生活実態等を照らし合わせて個別かつ総合的に判断」(2016.10.21)
などと説明しており、「マニュアル」に則っているとは明言していない。もしこのマニュアルに適用法令
や適用例が記されているのであれば、上記(1)の解明のためにも可能な範囲でそれを開示し、実際に
どのような適用法令や適用例があるのか具体的に説明するべきである。
(3)「2014 年 7 月以降」の統計の提出を求められているのに対し、政府回答パラ 163 では 2018 年の
数字しか述べておらず、懲役刑の人数も巧妙に隠されている。実際には、有罪確定者 29 人中、実刑は
わずか 10 人で、執行猶予付きが 17 人、罰金のみが 2 人である。ちなみに 2019 年は起訴 32 人、うち
有罪確定 23 人(実刑はわずか 5 人、執行猶予つき 17 人、罰金のみ 1 人)公判係属中 9 人である。
また懲役刑の長さが「犯した行為の重大さに見合った刑罰」となっているかどうかも疑問である(米
国務省「人身取引報告書」では最低でも 4 年の懲役刑が勧告されている)。
政府が報告した 2018 年については、実刑 10 人の平均が 2 年 9 カ月である。執行猶予付きの 17 件に
19
ついても(後に執行猶予が取り消されて収監される例は少ない)多くは 1 年 6 カ月程度である。2019
年は実刑 5 人の中に懲役 10 年と 8 年の者がいたことから、平均 4 年 7 カ月になっている。執行猶予付
きは 1 年~3 年程度の懲役である。さらに、実刑判決を受けても多くが満期を迎えず出所するのが一般
的であり、加害者処罰の重さが妥当かどうかは疑問である。
(d)適切な通訳サービスや賠償請求のための法的支援を含む,実効的な被害者保護及び支援措置を確
保すること。
2.【問題】
・通訳人に対する人身取引への理解を深める研修の未実施
・警察・入管以外の政府機関や民間支援機関が利用できる良質の通訳サービス制度の未整備
・法的支援にかかる制度周知の未実施
・法律扶助制度・損害賠償命令制度における利用被害者へのメリットの欠如(加害者の資産把握不可)
・日本での生活・就労希望の被害者への支援策の未整備
3.【勧告案】
(1)通訳人に対し人身取引への理解を深めるための研修を実施すること。警察や入管以外の政府機関
や民間支援機関が良質の通訳サービスを利用できる制度を設けること。
(2)法的支援にかかる制度の周知をはかること。被害者が加害者の資産を容易に把握できる制度、又
は、加害者の犯罪収益を没収し被害者の被害回復の原資とする制度を設けること。
(3)日本で生活し就労することを希望する被害者への支援制度を設けること。
4.【背景】
政府回答パラ 164 が引用する「人身取引事案の取扱方法(被害者の保護に関する措置)ついて」には、
被害者保護の着眼点や被害者保護に関する措置について、ある程度の言及はある。しかし、「多国語によ
る支援」については、入管や警察は通訳人を確保しているがその質は必ずしも担保されておらず、それ
以外の政府機関や民間支援機関が良質の通訳人を確保し利用できる制度もない。
政府別添資料7(2)アおよびエに記載されている「法的支援」については、そもそも被害者への周
知が十分になされていない。また、「民事法律扶助」(政府別添資料7(2)ア)の利用状況は不明であ
り、弁護士への委任や、加害者の資産把握が困難であるため、実際にはほとんど利用されていないと思
われる。さらに、「損害賠償命令」(同上7(2)エ)は利用できる罪名が限定され、加害者が売春防止
法、児童買春児童ポルノ禁止法、児童福祉法、入管法、職業安定法、労働基準法などの違反で起訴され
た場合は利用できないうえ、裁判所が発した命令の履行を確保する特別の制度はなく、一般の強制執行
制度を利用しても加害者の資産が把握されなければ履行は確保できない。NGOは政府が加害者から犯
罪収益を没収のうえ被害者への賠償にあてる制度を創設すべきだと主張しているが、政府は検討してい
ない。
帰国支援はある程度なされているが、日本で生活し就労することを希望する被害者への支援策は用意
されていない。
5.作成:人身売買禁止ネットワーク(JNATIP)
20
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文: パラ 20 技能実習、規約第8条
2.問題: 技能実習制度に対する効果的な改善措置
3.勧告案:
2009 年の入管法改定及び 2016 年の技能実習法制定にもかかわらず、技能実習制度における人権侵
害の根本的な改善はみられない。同制度が「技能、技術又は知識の移転による国際協力」というより、
労働力不足に対応する制度と化している実態を踏まえ、外国人労働者が多くの債務負担をすることな
く、その意に反して強制帰国されることもなく、また転職の自由を含む労働者としての権利を十全に
保障される、技能実習制度とは異なる新たな外国人労働者受入れ制度への移行を真剣に検討すべきで
ある。
4.背景:
1)技能実習制度の現状
在留外国人統計によれば、2019 年末に日本に在留する外国人は 2,933,137 人(総人口の 2.3%)で
あり、永住者が最も多く 79.3 万人、次いで技能実習生が 41.1 万人となっている。2019 年には、技能
実習生が 8.3 万人も増加している一方、労働力不足対策として同年4月よりスタートした新たな在留
資格「特定技能」の外国人は、2020 年 3 月末現在で 3,987 人に過ぎない。しかも、「特定技能」とな
った外国人のうち、9割以上が技能実習からの移行者で占められており、「特定技能」自体が大きく技
能実習に依存した制度となっている。他方、在留資格「研修」は、2010 年 7 月以降、公的な研修や非
実務のみの研修に特化されて存続しており、技能等の移転は在留資格「研修」によってその目的を達
成すべきである。
2)技能実習制度の根幹的問題点
技能実習制度の根幹的な問題として、転職の自由なし、多額の借金、強制帰国という3点が挙げら
れる。
すなわち、技能実習制度が技能等の移転を目的とするため、実習生には転職の自由がなく、同一企
業で実習を継続・修了しなければならない。また、来日前に手数料や研修費用また渡航費用等の名目
で、年収の数年分にも及ぶ多額の支払いのため借金をしていることも多い。このため、もし実習期間
の途中で帰国することになると多額の借金だけが残る。それを避けるため、日本国内で労働条件や居
住環境等に問題があっても我慢して働き続けることを強いられる、債務奴隷的な状況におかれること
も珍しくない。さらに、実習生が勇気を奮って労働条件の違法な取扱いや居住環境の劣悪さについて
権利主張をした場合、実習生の意に反して実習期間途中で帰国させるいわゆる強制帰国が、日頃の抑
圧手段とされ、また監理団体や送出し機関関係者により実行されることも多い。
これらが、同制度における劣悪な労働条件や人権侵害の根幹的な要因となっている。その結果、低
賃金、賃金不払い、寮費・水光熱費等の不当な控除、妊娠の禁止を含む私生活上のさまざまな制約、
暴力・暴言・パワハラ、セクハラ・性的暴行等が起こっている。
また、実習監理を行い技能実習制度の中核を担う監理団体は、技能実習法において技能実習生や実
習実施者から手数料や報酬を受けてはならないとされているが、他方、様々な経費等について実習実
施者から監理費を取ることが認められている。この監理費が、技能実習生一人当たり月額3〜5万円
に及ぶことが多く、実習実施者にとって負担が増し、低賃金や賃金不払い、寮費・水光熱費等の不当
な控除に結びつくことにもなっている。その結果、非営利法人とされる監理団体が、実は技能実習制
度において最も利益を得る構造となっている。
さらに、近年は大企業でも技能実習制度が活用され、問題を起こしている。2019 年1月、三菱自動
車が技能実習計画の認定取消しと改善命令を受け、同年9月には日立製作所も改善命令を受けた。い
ずれも本来の技能実習職種以外の作業をさせていたためで、大企業にまで悪弊が広がっている。
21
なお、技能実習生の失踪理由は、実習先における労働条件の劣悪さが主たる原因であることも明ら
かとなっている。同年3月に発表された法務省の「技能実習制度の運用に関するPT」報告でも、「残
業時間等不適正」「割増賃金不払い」「賃金からの過大控除」「最低賃金違反」等が失踪の主な原因とし
て指摘されている。
しかし、技能実習法に基づくさまざまな規制策も現象面への対応にとどまり、問題の根幹に迫る方
策は持ち得ていない。技能実習法の施行から3年近く経つが、制度の改善はまったく見通せていない。
3)日本政府報告に関するファクトチェック(LOI パラ 20)
(a) 強制帰国について
政府報告では、強制帰国について「事前に把握することが可能」とされている。しかし、技能実習
法第 19 条及び第 33 条では「技能実習を行わせることが困難となったときは、遅滞なく」届け出るこ
ととされているが、「事前」とは定められていない。また、これらの規定は強制帰国に関するものでは
なく、技能実習の継続が困難となったことの届出であるにすぎない。さらに、強制帰国に関与するこ
との多い監理団体が届出主体であることから、帰国理由を強制帰国とすることは考えられない。従っ
て、強制帰国を事前に把握することができるというのは虚構にすぎない。
技能実習生が途中帰国する場合に空海港で意思確認票を用いてチェックはしているものの、このチ
ェックが始まった 2016 年9月からの2年間に途中帰国者2万人超の中で強制帰国を訴えた技能実習
生は 36 人にすぎず、また強制帰国と認定された者はゼロであった。意思確認票によるチェックは有効
な対策となっていない。なお、こうしたデータは、2019 年以降公開されなくなっている。
ちなみに、監理団体や送出し機関の日本駐在員などは、強制帰国される技能実習生に対して手数料
等による多額の債務の多くが免除されるなどとして強制帰国に異議を唱えないようにしたり、自ら帰
国する旨の書面にサインさせたり、一時帰国して家族とよく相談するようになどと言って実は再来日
を困難にしたりするなど、途中帰国時に強制帰国である旨を技能実習生が申し立てないようにするノ
ウハウを心得ている。
(b) 低賃金について
政府報告では、技能実習生は日本人と同等以上の報酬と定められているとされており、そのことは
技能実習法に明記されている。このことは技能実習法以前から上陸基準省令においても定められてい
たが、まったく機能せず、各地の地域最賃レベルになっていた状況は、技能実習法の施行以降も改善
されていない。
昨年度初めて外国人労働者の実態賃金が調査されたが、外国人労働者全体の平均月額が 223.1 千円
のところ、技能実習生は 156.9 千円と著しく低くなっており、時給でみると留学生のアルバイト賃金
をも下回っていた。これでも「日本人と同等以上の報酬」と認定する政府の判断が問われている。
(c) (d) 実地調査の回数等
2018 年度の技能実習機構による実地検査数は、実習実施者へは 7,886 件、監理団体には 2,483 件で
ある。同年度末の実習実施者数はほぼ5万件であり、3年に1回という目標達成には程遠い。他方、
同時期の監理団体数はほぼ 2.5 千件であり、1年に1回という目標をほぼ達成している。なお、監理
団体の許可取消しは、2020 年6月までに8件、改善命令は 1 件であった。実習実施者に対する技能実
習計画の認定取消しは、同月までに 42 社(585 件)、改善命令は 3 件となっている。法令違反の指摘
は多くが「指導」として行われており、取消し・命令等の行政処分はまだ十分とは言えない。
(e) 技能実習生による申立
2018 年度の技能実習生による技能実習機構への申立は、90 件であった。2018 年末の技能実習生数
が 32 万人を超えていることから考えるに、申立件数は著しく少なく、技能実習制度のチェック機能を
十分に果たしているとは言えない。
5.作成:移住者と連帯するネットワーク
22
1.LOIPRパラ番号と該当する規約条文: パラ 21
政府報告書 (CCPR/C/JPN/7) パラ178~180、183 庇護希望者の拘禁
パラ189、庇護希望者の送還
パラ194、収容の長期化
パラ195、難民に該当する者の適正な認定
難民及び庇護希望者を含む外国人の処遇(規約7条、9条、10条、13条)
2.問題:
難民認定業務に関する政府の消極的な姿勢
ノンルフールマン原則を無視した法改正の動き
難民認定申請中の者の収容
非正規滞在者の恣意的な収容
3.勧告案:
適正な手続と、国連難民高等弁務官事務所の意見に沿った公正な基準による、独立した機関の審査を経ていな
い庇護希望者を、送還してはならない。
退去強制手続中の被収容者の不当な扱いを禁止し、入国者収容所等視察委員会の権限と独立性を強化するべき
である。被仮放免者の生存権を保障するべきである。
退去強制手続における収容を可能な限り短期間で、かつ代替手段が検討された場合にのみ行うようにすべきで
あり、適正手続を保障するべきである。
非正規滞在者の在留許可を、人権・人道に配慮した基準と、理由付記などの適正手続保障の下で行うべきであ
る。
非正規滞在者であることを理由に犯罪者・反社会的存在として扱うべきでなく、治安維持目的の隔離対象とみ
なすべきでない。
4.背景:
政府報告書195は、「難民と認定すべき者を適正に認定している」と述べる。しかし、難民認定業務を担当する
出入国在留管理庁は、難民認定に消極的であり、引き続き、難民認定率が異常に低く、世界の趨勢との乖離が著し
い(別紙1)。
政府報告書189は、「入管法上,難民認定申請中及び審査請求中であるときは,退去強制令書が発付されている
者であっても送還を停止する旨の規定があることから,庇護申請者の送還は実施していない。」と記載する。
しかし、難民認定手続が終了したが未だ裁判の機会がある者について、入管の難民認定担当部署が、本人に申請
棄却を通知する時期を送還担当部署との間で調整し、通知当日に強制送還の執行をするという事案が複数発生した。
さらに、法務省は2015年9月以来、難民認定申請中の送還停止制度の例外を設けることを計画し、2019年9月、
法令に基づかない、非独立の「専門部会」を招集した。法務大臣は、退去強制令書を発付されて自ら帰国しない被
収容者と被仮放免者(多くの難民認定申請者を含む。)を「送還忌避者」と名付け、「収容されている送還忌避者
は治安のため解放するべきでない」という説明や、被仮放免者の逮捕数等の統計が記載された資料(但し、実際に
起訴されたかどうかの調査はなされていない。)を「専門部会」委員に配付し、またウェブサイトで公開した。専
門部会委員らは、2020年6月、送還忌避者を処罰する罪の創設や、難民申請中の送還停止の一部解除の方針を含む
提言をまとめた(以下「提言」という。)。法務省は同提言を基礎にした法改正を意図している。
政府報告書178~180は、「在留資格を持たない者が難民認定申請をした場合については,逃亡のおそれがある等,
一定の除外事由に該当する場合を除き,仮滞在許可がなされ,収容されることはない」と述べる。しかし、法務省は
「逃亡のおそれ」の範囲を過度に拡大している。2017 年に空港で難民認定申請をした者 133 人のうち、仮滞在許可
を受けた者は0人で、仮滞在不許可となった者は115人、そのうち逃亡のおそれが理由とされた件は100件だった。
23
また、政府報告書が触れていないが、在留資格がない者が退去強制令書発付前に難民認定申請をし、仮滞在許可を
受けられなかった場合、暫定的に退去強制令書(本国を送還先とする。)の発付を受け、自動的に送還の執行が停止
され、難民認定手続が続行される。入管は彼らを原則として収容する。そのため、難民該当性についての結果が未定
の多数の者が、無期限に収容されている。
政府報告書180、194は、「特に人道上の配慮が必要な者」「被収容者に病気等のやむを得ない事情がある場合」
については,「仮放免を弾力的に運用することで最大限配慮している」等と記載している。
しかし、収容と仮放免に関する処分に司法の関与がなく、また入管は処分に理由を示さない。さらに、2018年頃か
ら、収容に耐えられない重大な疾患を有する者以外は仮放免がされないという硬直した運用となった。収容の期間
は急激に長期化し、たとえば2019 年6 月末時点の茨城県所在の収容所の被収容者316 人のうち2 年以上の収容期
間の者が180人となった(その後、新型コロナウイルス問題の影響で約半数は解放された。)。法務省は収容の期
限を法令に設ける意図がなく、前述の「提言」でも否定されている。
また、2015年以降、仮放免許可に際して「職業、報酬を受ける活動」を禁止する条件を入管が付して、違反者を収
容した。被仮放免者は社会保障の対象からも排除されている。特に新型コロナウイルス問題に対応する公的援助は、
感染者医療費負担以外、被仮放免者が除外されており、著しい困窮の状況にある。
政府報告書183は被収容者の健康状態の把握を徹底していると述べる。しかし、入国者収容所等視察委員会が、
例えば茨城所在の収容所に対し、再三、申出から診療を受けるまでの期間の短縮を求めたが、改善は確認されてい
ない。その他、不当な処遇の深刻な事例が、別紙2のとおり続いている。
日本政府は、非正規滞在者の集団的な在留正規化措置を行ったことがなく、その意図がない。
個別の案件について在留正規化をする「在留特別許可」制度については、法令が運用透明化を求めているにも関わ
らず、不許可理由が示されない。また法務省は同制度の運用のガイドラインを公開して、日本人と婚姻した者、在
留が長期化した者等に自主的な申告を促しているが、ガイドラインに挙げられた考慮要素は人権・人道の見地から
十分でない上に、ガイドラインの遵守すら確実でなく、在留特別許可の許可率が低下している(別紙 3)。日本人
と結婚しているにも関わらず、子供がいないことを消極要素として考慮され、不許可とされた事例もある。
5.作成:全国難民弁護団連絡会議
24
別紙 1
RSDdecisionsin 2019
FirstInstance (FI)- 4,979 persons (among them 43 persons were given refugee status.)
AdministrativeReview(AR)- 6,022 persons (among them 1 person was given refugee status.)
Decisions atFI by country of origin
2019 Sumof 2006 to 2018
Rejected Recognized Rejected Recognized
SriLanka 1,006 1 (afterjudicialreview) 3,585 4
Philippines 846 0 5,414 0
Nepal 761 0 6,966 2
Turkey 436 0 4,774 0
Myanmar 382 0 5,331 214
別紙2 被収容者への不当処遇等の事例
1 茨城県所在の収容所で、2014年2月から胸痛等を訴えていた男性被収容者(収容期間5ヶ月)が、3月27日
に診察を受けたのち、独房に移され、入管から委託された警備員の観察を受けた。同被収容者は 29 日夜から床
を転げ回って苦しみ、「私は死にそうだ(I’mdying)」と繰り返したが、警備員は医師に連絡せず、翌朝病死が確
認された。
2 東京所在の収容所で、2017年6月3日、ある男性被収容者(難民認定申請者。当時の収容期間1年2ヶ月)
が腹痛を訴えたが、独居房に移されただけで診察はなく、同日深夜に大声で苦痛を訴えたところ、職員から生活
態度が悪いと叱責されただけで診察はなかった。翌日午後、救急搬送されて腹膜炎と診断され緊急手術を受けた。
3 大阪府所在の収容所で、2017 年 7 月、ある男性被収容者(難民認定申請者)が、警備官に態度に苛立って壁
に本を投げたところ、隔離のため連行され、7~8 人の警備官によってうつぶせに倒され、頭、胴、足などを床
に押さえつけられ、後ろ手に手錠をされ、約1分半押さえつけられ、右腕を骨折した。
4 茨城県所在の収容所で、2019年4月26日、ある男性被収容者(難民認定申請者)が、睾丸の痛みを訴えた。
収容所勤務医は精巣腫瘍を推測して専門医による診療を指示したが、専門医の診察がないまま 3 ヶ月 20 日が過
ぎた。当該被収容者はハンガーストライキをしたことで仮放免となり、その間に精巣癌と転移が判明して準緊急
手術を受けた。収容期間は3年3ヶ月。
5 茨城県所在の収容所で、2019 年1月19 日、向精神薬を交付されないことに抗議した男性被収容者(難民認
定申請者。当時の収容期間2年8ヶ月)について、入国警備官らが、後ろ手に手錠を施した上、首の付け根の痛
点を押し、腕を上に締め上げるなどした。当該被収容者の不服申出によって、収容所長は不当な処遇を認めたが、
警備官らに対する処分、同被収容者への補償はなく、警備官らは当該被収容者の担当を続けた。間もなく当該被
収容者は自殺未遂を繰り返した。
25
6 2019年6月25日、長崎県所在の収容所で、国籍国と日本が送還方法について協議中で送還執行がで
きない状態で、約2年7ヶ月間収容されていた男性被収容者が、ハンガーストライキの末に餓死した。餓死
前の7日間、医師は診察・容態把握をしなかった。職員は切迫する死の危険を把握していなかった。同年10
月、出入国在留管理庁は、今後、ハンガーストライキをする者に対して強制治療をする方針を示唆した。
7 2020 年4月25 日、東京所在の収容所で、コロナウイルス対策のための仮放免が恣意的であると抗議した女
性被収容者数人(ひとりは難民認定申請者で、当時の収容期間2年3ヶ月)に対して、男性を含む数十人の警備
官が制圧をし、隔離措置をした。被収容者らは、過度の暴力と、性的侮辱を受けたと訴えている。
8 東京所在の収容所で、2019年9月から収容が続くトランスジェンダー被収容者に対して、収容当初から2020
年8月現在まで、1日のうち22時間は独房に置かれ、2時間は共用スペースに出られるが、ほかの被収容者と自
由時間帯がずらされて、会うことができないため、独居拘禁状態にある。収容当初から 2020 年 4 月頃までホル
モン投与が認められなかった。収容中に鬱病の診断を受けている。
以上
別紙 3
動向: 在留特別許可
50.0%
55.0%
60.0%
65.0%
70.0%
75.0%
80.0%
85.0%
90.0%
95.0%
100.0%
–
2,000
4,000
6,000
8,000
10,000
12,000
permitted no ground ratio
26
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文: パラ 27、平和的集会結社の自由 21 条
2.問題:
1)沖縄の人権擁護者に対する恣意的な自由の剥奪
2)沖縄の抗議活動に対する監視
3)報道への制限
3.勧告案:
1)締約国は、国連恣意的拘禁に関する作業部会が採択したオピニオン 55/2018 を尊重し、実行する
こと。特に作業部会が求める人権擁護者であり、平和的抗議活動のリーダーである山城博治さんの
恣意的な自由の剥奪に関する独立した調査と、山城さんに対する国際人権基準に見合う救済及び
補償を遅滞なく行うこと。
2)締約国は、集会の適切な管理に関する共同報告書(A/HRC/31/66)の勧告及び自由権規約委員会
の平和的集会に関する一般的勧告 37 を遵守し、民間警備会社が抗議活動を行う市民の監視、調査
を通じて市民の集会の自由、表現の自由を侵害しないように、適切に指導すること。
3)ドローンによる取材を含む報道の自由を尊重、確保し、人びとの情報へのアクセスを確保するこ
と。
4.背景:
1)沖縄の人権擁護者に対する恣意的な自由の剥奪
山城博治さん(沖縄平和運動センター議長)は沖縄県東村で米軍施設建設に対する抗議活動中に
「フェンスの有刺鉄線を二本切った」として 2016 年 10 月 17 日に逮捕され、その後公判前に5ヶ
月間にわたって勾留された。その間、2回にわたって遡求的に逮捕された。勾留中、山城さんは弁
護士以外は家族とも面会が禁止された。2018 年3月 14 日に那覇地裁が威力業務妨害などで懲役2
年、執行猶予3年を言い渡した。福岡高等裁判所那覇支部は 2018 年 12 月 13 日に控訴を棄却。山
城さんは最高裁判所に上告したが、2019 年4月 22 日、最高裁判所は棄却し、刑が確定した。
国連の恣意的拘禁に関する作業部会は、オピニオン No55/2018
1で沖縄の新基地建設反対運動の
リーダーである山城博治さんの逮捕・長期勾留による自由の剥奪を山城さんの政治的意見に基づく
差別であり、「恣意的」な自由の剥奪であると認めた。その上で、日本政府に対し、山城さんの自由
の剥奪について独立した機関による調査を行い、遅滞なく救済・賠償を行うよう求めた。このオピ
ニオンが公開されて一年半以上経過したがオピニオンは未だに実施されていない。
沖縄の平和的抗議活動のリーダーである山城さんの逮捕及び長期勾留は、山城さん自身の権利を
侵害するばかりか、他の抗議者に対し萎縮効果を与え、彼らの平和的集会の権利を脅かすものであ
る。
1 A/HRC/WGAD/2018/55
27
2)沖縄の抗議活動に対する監視
2016 年には沖縄県東村高江地区での米軍施設建設のために人口わずか 140 人ほどの地区に 500 人
を超える機動隊が派遣され、抗議する市民を暴力的に排除した2。それ以後も警察による抗議者の強
制的排除が続いているが、最近は民間の警備会社を経由した抗議者への監視の強化が顕著である。
毎日新聞は、防衛省沖縄防衛局からの依頼で、民間警備会社が沖縄の基地建設反対活動を行う市民
60 人の個人情報や写真付きのリストを作成したと 2019 年1月 28 日に報道した3。このようなリス
トの存在はそれ以前から地元紙の取材で知られていたが4、日本政府は 2016 年にその関与を否定す
る答弁書を閣議決定していた。毎日新聞は、民間警備会社の内部文書を入手しており、この報道は抗
議者の監視への日本政府の関与を裏付けるものである。その後、防衛省は省内で調査を行い「沖縄防
衛局職員が、リストの作成や個人情報の削除の指示などを行なった事実は確認されませんでした」と
HP で発表したが5、警備会社への聞き取り調査も行われておらず、調査内容の詳細も明らかにされ
ていない。さらに本年7月 17 日からは、辺野古の新基地建設現場の警備員が胸に小型カメラを装着
し始め、市民への監視を強めている6。
集会の適切な管理に関する共同報告書(A/HRC/31/66)にあるように、そもそも法執行官が参加
者を記録する行為は、集会、結社および表現の自由を含む諸権利の行使を萎縮させる効果を持ち(パ
ラ 74)、合法性、必要性及び均衡性に留意して法による規制が必要である。沖縄では民間警備会社
が実質的に警察的任務や情報収集を行なっているが、そもそも民間の警備保障会社が集会において
警察的任務を担うべきではない(パラ 85)。さらに、「非国家主体が人権を侵害した場合であっても、
国がそれらの行為を承認し、支援し、または黙認していた場合は、国がその責任を負う」(パラ 87)
ものであり、今回抗議者の個人情報を収集し、リストを作成したのは防衛省沖縄防衛局と契約関係に
ある民間警備会社であることから、日本政府はその責任を免れない。
3)報道への制限
報道への制限は物理的な妨害行為7に、法律による制限が加わっている。2019 年6月に改正ドロー
ン規制法が施行された。もともとこの法律の立法趣旨は、東京五輪やラグビー杯に向けたテロ対策と
説明されていたが、実は規制対象に防衛省が指定した自衛隊基地と米軍基地の上空も含まれている。
大浦湾を埋め立てて新基地建設が続く辺野古では、進捗状況を確認する有効な方法として、報道各社
や市民団体が頻繁にドローンを飛ばしていた、この規制法により米軍の同意がなければドローンで
の撮影が違法とされることから、法律によって報道による監視に大きな制限がかけられる状況だ。
2 https://imadr.org/wordpress/wp-content/uploads/2017/05/Joint-report-Targeted-attack-on-freedom-of-expression-in-Okinawa_27SEP2016.pdf
3 The Mainichi (28 Jan 2019), Japan gov’t ordered security firm to list Okinawa base demonstrators: records, available at:
https://mainichi.jp/english/articles/20190128/p2a/00m/0na/003000c
4
(Original source in Japanese) Okinawa Times (30 June 2016), “Purchase of the security company’s list of protesters in Henoko. Citizens allege
“Government’s involvement”, last accessed on 5 August 2016 at: http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/34252
5 https://www.mod.go.jp/j/press/news/2019/08/09c.html
6
(Original source in Japanese) Ryukyu Shimpo (18 July 2020) “Security guard wearing small-sized camera. Filming civilians?” last accessed on 29
July, 2020 at: https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1158458.html
7 https://imadr.org/wordpress/wp-content/uploads/2016/02/Joint-submission-Violation-of-freedoms-of-expression-and-peaceful-assembly-inOkinawa_11Dec2015.pdf
28
また、一部の取材から沖縄の新聞社二紙が排除されるケースも生じているが、このような事態に対
して日本政府はこの事態を放置している。沖縄島に本社を置く新聞二紙は米軍によって繰り返される
刑事事件や航空機などの事故、騒音や土地汚染を含む環境問題を厳しく批判してきた。米軍はこの二
紙を敬遠し、取材機会の提供に当たってあからさまな選別をすることもある。例えば 2019 年 11 月、
空軍が空中給油訓練を東京や沖縄に本社を置く報道機関五社に公開した時、また 2020 年7月に海兵隊
が新型コロナ対策の意見交換会に東京に本社を置く報道機関を招いた時も沖縄の二紙は除外された。
5.作成: 沖縄国際人権法研究会
29
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文:パラ 28、公的生活への参加の権利、規約第 25 条・
第 26 条
2.問題: 在日コリアンの地方参政権・住民投票権の否認
3.勧告案:
(1)締約国は、在日コリアンをはじめ、一定の居住条件・年齢条件を満たす外国籍住民の政治参画
の権利として、地方参政権を認めること。
(2)締約国は、外国籍住民の参画を排除する「当然の法理」を破棄し、外国籍住民が地域の公的役
割を担えるようすること。
4.背景:
<地方参政権の否認>
日本政府は、在日コリアンなど、永住資格をもつ外国籍住民 1,105,665 人(2019 年 12 月末現在)
に対して、地方参政権を保障していない。
日本の地方自治法は第 10 条で「住民」の定義について、「市町村の区域内に住所を有する者は、当
該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする」としている。また 2012 年7月の外国人登録法
廃止にともない、3か月を超えて日本に滞在し住所を有する外国籍住民は、日本国民と同様に「住民
基本台帳」に登録するシステムとなった。そして地方自治法第 10 条では、「住民は、法律の定めると
ころにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分
任する義務を負う」と定めているところから、外国籍住民の地方自治体への政治参画は、権利として
認められるべきである。
1990 年代以降、在日コリアンをはじめとする外国籍住民に対して、地方参政権を付与すべきかどう
かの議論が行なわれてきたが、1995 年2月、最高裁は外国籍住民の地方参政権付与が憲法上禁止され
ているものではないとの判断を示した。しかし、いまだに地方自治法第 11 条で地方参政権の行使主
体について「日本国民たる普通地方公共団体の住民」に限定し、外国籍住民を排除している。
このことは、外国籍住民が政治参画のための地方選挙権・被選挙権を行使できないことにとどまら
ない。地方自治体では人権擁護委員、民生委員、児童委員など、公的役割をになう特別職の非常勤国
家公務員(無報酬)が住民から選ばれるが、その対象は選挙人名簿に登録された有権者である。した
がって外国籍住民はこうした公的役割を担い、地域社会に参画することができない。
在日コリアンをはじめ、日本に定住し永住する外国籍住民に、地方参政権および人権擁護委員・民
生委員・児童委員などの就任権が保障されなければならない。
<住民投票権の否認>
地方自治体の首長・議員の選挙以外でも、地方自治体の統廃合や公共施設の建設、原子力発電所建
設、廃棄物処理など、住民生活に直接影響のある重要政策をめぐって、意見を問う「住民投票」が各
自治体で行なわれている。住民投票については各地方自治体の定める条例にもとづいて実施されるた
め、外国籍住民の参加が認められるケースもある。2002 年に滋賀県米原町で自治体合併を争点に住民
投票が実施され、その時にはじめて永住資格をもつ外国人に投票が認められた。それ以降、約2年半
30
の間に約 150 の地方自治体が、自治体統廃合の是非を問う住民投票で、永住資格を有する外国籍住民
の投票を認めている。在日コリアンが最も多く居住する大阪府でも、これまで7つの自治体で永住資
格を有する外国籍住民の投票を認めた住民投票が実施されている。
しかし、住民投票での外国籍住民の参加は、法によって権利として保障されたものではなく、外国
籍住民が投票できるかどうかは、あくまでも実施する自治体の裁量によって決定されている。そのた
め、重要政策を決定する住民投票で外国籍住民が排除される問題がいまだに起こっている。
2020 年 11 月、大阪市を4つの特別区に再編したうえで大阪府に一元化をすすめる「大阪都構想」
の是非を問う住民投票が予定されている。2019 年 12 月末現在で大阪市の人口は約 2,730,000 人で、
そのうち外国籍住民は約 146,000 人(5.3%)を占めているが、実質的に大阪市の解体か存続かという
地域住民の生活にとって重大な影響を与えるこの住民投票には、外国籍住民の投票は認められていな
い。その根拠について大阪市は、この住民投票の根拠法は国が制定した「大都市地域における特別区
の設置に関する法律」であり、その規定により住民投票の投票者が公職選挙法上の有権者に限定され
る、と説明している。
これに対して、大阪市で実施される住民投票に外国籍住民が参加できるように法改定を求める市民
キャンペーンが行なわれ、32,000 人を超える賛同署名が集まった。それにもかかわらず、松井大阪市
長は、記者会見で「住民投票に参加したいのであれば、日本国籍を取得すべき」と述べ、外国籍住民
を排除する姿勢を強調している。
在日コリアンをはじめ、日本社会に定住し永住するすべての外国籍住民に住民投票権を保障すべき
である。
5.作成: 特定非営利活動法人 コリア NGO センター
31
1.パラ 29 マイノリティの権利
2.問題:日本政府が琉球民族を IPs と認めず、自己決定権が尊重されていないこと
3.勧告案
(1)旧琉球国の領土である奄美群島に先住してきた人々を含め、琉球民族を IPs と認
め、UNDRIP に完全に一致する形で琉球民族の権利を保護、尊重、促進し実現する
こと。そして、これまで国連条約機関から出された勧告を早急にかつ進撃に履行す
ること。
(2)日本の少なくとも義務教育課程で使用される教科書で、IPs である琉球民族の差別
を受けてきた歴史を含め、言語や文化について正確に反映するため必要な全ての措
置をとること。また、日本政府は早急に IPs 話者への聞き取り調査をおこない言語
の保存や記録、継承の取り組みをおこなうこと。
(3) 日本政府は琉球民族の土地の軍事化をただちにやめ、その非軍事化を開始すること。
特に、琉球民族の合意が得られていない名護市辺野古への米軍新飛行場建設を中止
すること。
(4) 米軍および米軍関係者による犯罪、事故、環境破壊の実態や影響、および被害者
の状況について包括的な調査を行い、必要であれば米政府とともに、被害者全てに
対して適切な保障を提供すること。またこれらの事件の再発を防止するため、琉球
民族の代表者と共に、広く審議を行い、琉球民族の意見を尊重した適切な対策をと
ること。
4.背景(問題の説明と勧告案の理由など)
LOI パラ 29 にある委員会の質問に関係する問題については、根本的に日本政府が琉球民族
を IPs と認めず、琉球民族の自己決定権が尊重されていないことに大きな問題がある。これ
まで、AIPR では国連の各条約機関等に歴史的背景1
や人権侵害の状況について単独レポー
ト2
や ERD ネットとの共同レポート3
を提出してきた。その度に、各条約機関は「琉球の人々
を IPs と認めよ」と日本政府へ勧告を出しているが、日本政府はいまだに琉球民族を IPs と
認めていない。さらに、日本政府は「沖縄県民は全て法の下の平等が保証された『日本国民』
である」として、民族と国籍の決定的かつ重要な違いを区別できぬまま、琉球民族を IPs と
して拒否しているのが現状である。同時に、これまで各委員会から日本政府に出された勧告
の文書には「沖縄(琉球)」「琉球・沖縄」という文言が記載されていた。しかし、これらの
文言は 2020 年現在、琉球列島には多くの大和民族が移住し、日本の一地方の沖縄県民とし
て暮らしているため、多くの人に誤解を招く恐れがあるだけでなく、琉球民族と沖縄県民の
間の適切な区別を曖昧にする恐れがある。そのため、琉球民族に言及する際、自由権規約委
員会でも「琉球・沖縄の人々」ではなく、「琉球民族」と明確に IPs の名前を記載すること
を強く望む。そういった上記のことを踏まえ、琉球の中では琉球民族の自己決定権が尊重さ
れていないことにより、土地、資源、独自言語での教育について問題が深刻化しているのが
現状である。
特に、琉球の沖縄島にある名護市辺野古への米軍新飛行場建設については、琉球民族の意に
反し 2018 年2月に土砂の投入が強行された。その海域は、2019 年 10 月に米環境 NGO が
選ぶ世界で最も重要な海域「ホープスポット4
」にも認定されている。埋め立て工事により、
赤土流出や海洋汚染、潮流の変化に伴う漁獲量の減少など琉球の漁民にとっては甚大な影
1
Alternative report to the Committee on the Elimination of Racial Discrimination(CERD) for the review of 10th
and 11th periodic of Japan(CERD/C/JPN10-11)96th session(6-30 August 2018)July 2018(p.1-4):
https://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CERD/Shared%20Documents/JPN/INT_CERD_NGO_JPN_32100_E.pdf 2 Alternative report to the UN Human Rights Committee For the adoption of the List of Issues Prior to Reporting (LOIPR) on
JAPAN At the 121st session of the Committee (16 October ‒ 10 November 2017) 3
Joint Civil Society Report on Racial Discrimination in japan to the Committee on the Elimination on Racial
Discrimination(CERD) for its Consideration of the Tenth and Eleventh Combined Periodic Report of Japan(CERD/C?JPN/10-11),
August 2018: https://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CERD/Shared%20Documents/JPN/INT_CERD_NGO_JPN_31918_E.pdf 4
https://storymaps.arcgis.com/stories/2bb54fad01b34076a9ce8cb885533958
32
響を及ぼすことになる。また、海が埋め立てられ新基地が完成した場合、新基地(土地)は
日本政府所有の土地になり米軍へ提供される。それにより、琉球民族は陸・海・空域は自由
に使用することができず、生活だけでなく、これまでおこなってきた伝統行事等もできなく
なり、IPs の文化継承にも大きな影響を及ぼす。また、米軍基地が沖縄島に集中することに
より、米軍に関連した事件事故等も後を絶たない。2017 年以降の米軍が関連した事件事故
については下記の表にまとめているが、これらはごく一部である。さらに、米軍基地からは、
有機フッ素化合物(PFAS)による飲料水汚染の問題がこれまでも問題視されてきた。これ
は琉球に住む人々の健康にも大きく関わる。2020 年4月には米軍普天間飛行場から発がん
性が指摘されている PFOS を含む泡消火剤が大量に漏出した事故で、約 22 万 7100 リット
ル(ドラム缶 1135 本)が漏れ、そのうち6割超
の約 14 万 3830 リットル(同 719 本)が基地外
に流れている5
。こういった水質汚染等、米軍関
連の問題は以前からも問題とされているが、
日米地位協定の問題や米軍が情報を出さない
ことなど解決されない障害がある。
さらに、日本の中では、IPs である琉球民族や
その歴史を知らない人が増加している。それは、
上記にも記載したが日本政府が琉球民族を IPs
と認めていないことや琉球民族の自己決定権
が尊重されず、学校教育の場で IPs の文化や歴
史、言語について学ぶ機会がないからである。
琉球諸語については 2009 年2月、ユネスコの
発表時点で消滅の危機にある「重大な危機或い
は危機言語15」に認定されている。話者の高齢化
が進み、話す人も減り消えつつあるのが現状で
あるが、日本政府は記録や保存、継承等の取り
組みを行っていない。例えば、馬車という言葉
一つにしても、現在では日常生活の中で馬車を
使うことがなくなり、車へと乗り物も変化して
いる。そのため、IPs の言葉で“馬車”という言
葉そのものが使用されなくなり死語になりつ
つある。こういった、時代とともに言葉は変化
し、使用されなくなる単語も数多くある。そのため、日本政府の実態調査のみでなく、IPs
話者からの聞き取り調査や言語に関する保存や記録、継承等といった具体的な取り組みを
早急に行う必要がある。また、国際基準で使用されている IPs の概念を含め、なぜ琉球民族
やアイヌ民族が日本の IPs になってしまったのかということを、日本の義務教育過程で歴
史や言語、文化についても教科書に正確に反映し、学ぶ時間を確保する必要がある。
作成: AIPR(琉球弧の先住民族会)
5 沖縄タイムス 2020 年4月 15 日:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/560194 6
琉球新報 2020 年 7 月 21 日:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1160005.html 7
琉球新報 2020 年5月 31 日:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1131020.html 8
琉球新報 2019 年8月 24 日:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-977065.html 9
沖縄タイムス 2018 年9月 20 日:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/317555 10 琉球新報 2020 年7月9日:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1153255.html 11 琉球新報 2020 年1月 29 日:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1065287.html 12 朝日新聞 2019 年 12 月5日:https://www.asahi.com/articles/ASMD563K3MD5TPOB008.html 13 琉球新報 2020 年1月 28 日:https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1064521.html 14 沖縄タイムス 2018 年6月 11 日:https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/265235
15UNESCO Atlas of the Worldʼs Languages in Danger, http://www.unesco.org/languages-atlas/index.php
年 主な内容
米軍人
関連事
件
2020.05 北谷町の外貨両替所にて、米軍
2人組(米陸軍・米空軍)によ
る強盗事件発生6
2020.05 沖縄市の飲食店にて米軍属が
女性を殴打7
2019.04 北谷町の民家にて、米兵(海兵
隊)よる女性殺害事件発生8
2018.09 上半身裸の酔った米兵が読谷
村の民家に侵入(女子高生と生
後5ヶ月の妹と裸足で逃げる)
9
米軍関
連事故
2020.07 沖縄島にある米軍キャンプハ
ンセン内にて、実弾射撃訓練に
よる山火事が発生10
。
2020.01 米軍伊江島飛行場で実施され
ていたパラシュート訓練時に
おいて、投下された物資がフェ
ンス外の民間地に落下11
。
2019.12 金武町の民間地に米軍の 60 ミ
リ迫撃砲照明弾が3発落下12
2019.06 浦添市(浦西中学校テニスコー
ト)に米軍 CH53E 大型輸送ヘ
リコプターの部品が落下13
2018.06 米軍嘉手納基地所属の F 15 戦
闘機が那覇近海で墜落14
。
<2017 年以降の⽶軍関連事件・事故>
33
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文: LOIPR パラ 30、マイノリティの権利、26 条・27 条
2.問題: 高校就学支援金制度からの朝鮮学校生徒の除外
3.勧告案:
締約国は、その立場を見直し、高校就学支援金制度の支援金支給において朝鮮学校の生徒たちが差別
なく平等な教育の機会を持つことを確保してください。
4.背景:
日本政府が 2010 年に開始した高校就学支援金制度に関して、中華学校やブラジル学校など他の外国人
学校 42 校の生徒たちが対象に含まれた一方、朝鮮学校 10 校の生徒たちは同制度から継続的に除外され
ている。2020 年 3 月現在、同制度の適用を受けられなかった生徒数は数千人に及び、その被害額は累計
で 10 億円を超える。この問題に関して、すでに子どもの権利委員会、社会権規約委員会、人種差別撤廃
委員会から日本政府に対して差別の是正を求める勧告が 5 回出されている1。第 3 回 UPR 日本審査でも、
2 カ国が朝鮮学校への同制度の適用を求める趣旨の勧告を日本政府に対して出した2。
日本政府は第7回定期報告書において、朝鮮学校が法令で定める審査基準に適合すると認めるに至ら
なかったために同制度の支援対象となっておらず、政治・外交的な理由により判断されたものではないと
述べている3。しかし、この回答は以下の2つの理由から誤っている。
まず、日本政府は同制度開始後、他の外国人学校には同制度を適用した一方、朝鮮半島での軍事的緊張
の高まりなどの政治・外交的な理由で朝鮮学校への同制度適用を先送りし続けた。2013 年 2 月には、朝
鮮学校の審査基準を削除する省令の改正を行うことによって朝鮮学校を同制度から法的に完全除外した。
すなわち、日本政府が審査基準を削除したことが、同制度からの朝鮮学校除外の原因である。実際、柴山
昌彦文部科学大臣(当時)は、2019 年 3 月、朝鮮学校が同制度から除外されていることについて「現在
は、朝鮮学校が就学支援金の受給申請を行った根拠規定そのものが廃止をされていることから、法令に基
づく適正な学校運営に関する確証の有無にかかわらず、指定されることはありません」4と国会で述べた。
日本政府が審査基準を削除したために、朝鮮学校が同制度の適用を受ける道が閉ざされていることを日
本政府自身が認めているのである。
次に、日本政府は、審査基準を削除した理由を「(日本と朝鮮民主主義人民共和国の間の)拉致問題5に
進展がない」6ことと述べており、朝鮮学校の除外が政治・外交的理由によるものであるということを自
ら明らかにしてもいる7。
1 CRC/C/JPN/CO/4-5, para 39 (c), CERD/C/JPN/CO/10-11, para 22, CERD/C/JPN/CO/7-9, para 19, E/C.12/JPN/CO/3,
para27, CERD/C/JPN/CO/3-6, para 22(e).
2 A/HRC/37/15, para161.145, para161.151.
3 CCPR/C/JPN/7, para 235
4 https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=119815104X00320190319&spkNum=33&single (Written in Japanese)
5 2002 年 9 月、日本の小泉純一郎首相と朝鮮民主主義人民共和国の金正日総書記が会談し、「平壌宣言」を発表した。そ
の際、朝鮮は 1970~80 年代に起きた日本人拉致事件を認め、謝罪した。これ以降、日本では極端な朝鮮バッシングが起
こり、朝鮮学校生徒や在日朝鮮人への嫌がらせも横行するようになった。
6 下村博文文部科学大臣(当時)による記者会見、2012 年 12 月 28 日。
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11373293/www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1329446.htm (Written in
Japanese)
7 この件に関して、2013 年 2 月、日本弁護士連合会は、審査基準の削除は拉致問題の進展の度合いなどの子どもの教育
を受ける権利とは何の関係を持たない事柄を根拠に朝鮮学校への就学支援金の給付を否定するものであり、憲法 14 条な
どが禁止する差別的取扱に当たるとして、審査基準削除の撤回を求めた。附属書類 1 を参照。また、日本の英字有力紙ジ
ャパンタイムズは、2013 年に社説で「すべての生徒を平等に処遇せよ」「生徒は政治的な人質ではない」というタイトル
で同制度からの朝鮮学校除外は差別であり、除外の決定は撤回されるべきだと主張した。附属書類 2 を参照。
34
以上から、同制度から朝鮮学校生徒が除外されていることの原因は、政治・外交的理由に基づいた日本
政府による審査基準の削除にある。日本政府による一連の行為により、朝鮮学校生徒たちが平等に教育の
機会を持つ権利は 10 年以上にわたって阻害されている。
5.作成: 在日本朝鮮人人権協会
35
Statement of President of the Japan Federation of Bar Associations objecting to exclusion
of Korean Schools from applying Free High School tuition policy
The Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT) announced
a proposed amendment to ministerial ordinance on December 28th, 2012, which amends a part of
enforcement regulations regarding tuition waiver for public high schools and tuition support
fund for private high schools. As for the high schools where foreign students are enrolled
such as international schools and ethnic schools, the current enforcement regulations define
the subject for the policy as either high schools that are confirmed through its embassy to
have curriculum equivalent to that of high schools in its native state, or high schools that
are certified by international evaluation body, while the rest of the schools that are
evaluated as having curriculum equivalent to that of Japanese high schools can be the
recipient of the subsidies, whether or not Japan has diplomatic relations with its native
state, after the minister of the MEXT designates each school individually. The proposed
amendment is to delete the grounds for the individual designation.
Regarding the purpose of this revision, the minister of MEXT, Hakubun
Shimomura, stated at the press conference on December 28t h, 2012, that the
proposed amendment is aimed at deleting the grounds for designating Korean
schools because there is no progress to resolve the Democratic People’s Republic
of Korea’s (DPRK) abduction of Japanese citizens, which makes it clear that this
proposed amendment is aimed at excluding Korean Schools from applying the Tuition
Waiver Program for High School Education..
As we stated in the “Statement on Subject High Schools of the Free Tuition
Bill” on March 5th
, 2010, the main purpose of this bill is “to contribute to the creation
of equal educational opportunities by alleviating the financial burdens of high school
education”, which is also demanded by Article 28 of Convention on the Rights of the Child.
Considering the fact that Convention on the Rights of the Child as well as International
Bill of Human Rights (International Covenant on Civil and Political Rights) guarantee the
right to receive education with ethnic identity being maintained, the current ministerial
ordinance which would include international schools and ethnic schools is in a right
direction. Furthermore, it is revealed through the process of the deliberation on the bill
that, as the Government’s collective view, the designation of high schools for foreign
students should not be judged by diplomatic concern but should be judged objectively through
educational perspective.
On the contrary this proposed amendment is to refuse to provide subsidies
based on the grounds that there being no diplomatic relations between Japan and
DPRK or no progress to resolve the DPRK’s abduction issue, either of which has
nothing to do with the right of the child to receive education. It is a
discriminative treatment which is prohibited by Article 14 of the Constitution of
Japan.
Korean Schools in Japan completed applying for the designation based on
the current bill legitimately by the end of November, 2011, this upcoming
amendment is to extinguish the regulations considered as the grounds for applying and
refuse the Korean Schools’ application retroactively after more than two years from the
application, which poses serious doubt on its procedure.
Annex 1
36
The Japan Federation of Bar Associations strongly urges that the proposed amendment
be withdrawn whilst the review of the application from Korean schools be concluded promptly
based on the current law and screening standard.
February 1st, 2013
Kenji Yamagishi
President
Japan Federation of Bar Associations
37
Annex 2
38
1.関連する LOIPR パラと条文番号: パラ 30、マイノリティの権利、26 条・27 条
2.問題: コロナ禍におけるマイノリティへの差別
3.勧告案: 締約国は、新型コロナウイルス感染症対策と関連する施策において、マイノリティへの適
切な資金援助を差別なく確保してください。
4.背景:
A)「『学びの継続』のための学生支援緊急給付金」における差別
2020 年 5 月 19 日、日本政府は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で困窮する大学生らが、修学をあ
きらめることがないよう現金1を支給する「『学びの継続』のための学生支援緊急給付金」2(以下、本給付
金)の創設を発表した。しかし同制度は、以下の3つの点で自由権規約 26 条、27 条に違反すると思われ
る問題があった。
第一に、本給付金の対象学校から朝鮮大学校が除外された。本給付金は創設当時、国公私立大学・短大・
高専・日本語教育機関を含む専門学校に在学する学生のみを対象としたため、各種学校である朝鮮大学校
及び外国大学日本校は、大学同様の高等教育機関であるにもかかわらず、対象外とされていた。日本政府
は、本給付金制度の開始後、外国大学日本校8校については本給付金の対象に含めることとしたが、朝鮮
大学校は対象外としたままだった。日本政府によれば、朝鮮大学は転学など他大学との教育関係をもって
いないからだそうだ。しかし、日本政府は朝鮮大学校の卒業生に対して日本の大学院入学資格や社会福祉
士の受験資格を認めており、朝鮮大学校を日本の高等教育機関として認めている。朝鮮大学校に通う学生
は日本の旧植民地出身者である在日朝鮮人の子孫であるため、本給付金からの朝鮮大学校の除外は人種、
民族、国民的出身に基づく差別に値する。
第二に、本給付金の対象のうち、外国人留学生に限って成績上位の要件が設けられた。具体的には「前
年度の成績評価係数が 2.30 以上であること」という要件が設けられたが3、外国人留学生の経済的困窮と
学業成績にはなんらの関係もなく、外国人留学生に対してのみ異なる基準を設けることは、国籍差別に値
する4。
B)「学校の段階的再開に伴う児童生徒等の学びの保障」における差別
2020 年 6 月 5 日、日本政府は、各学校が学校再開に伴い新型コロナウイルス感染症対策を講じつつ子
どもたちの学習保障もできるように、公私立のすべての小中高校と特別支援学級を経済的に支援する新
しい施策「学校の段階的再開に伴う児童生徒等の学びの保障」を発表した5。
しかし、同支援策から各種学校である外国人学校が一律的に除外された6。日本政府は、感染症のまん
延防止などを目的とする新型インフルエンザ等対策特別措置法において、その使用の制限を要請する対
象施設に各種学校も含めている。それにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症対策と子どもたちの学
1 住民税非課税世帯の学生には 20 万円、それ以外の学生には 10 万円が支給された。
2 Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT), Emergency Student Support Handout for Continuing Studies:
Application Guide (for Students): https://www.mext.go.jp/content/20200527_mxt_gakushi_01_000007490_01.pdf
3 上記のガイド 5 ページを参照。
4 これらの問題に関して、日本の市民社会は 5 月 25 日に共同声明を発表した。NGO Joint Statement, Calling for the Provision
of the “Cash Handouts to Support Students” to All the Students in Need, https://imadr.net/wordpress/wpcontent/uploads/2020/05/V2-Statement-on-Cash-Handouts-for-Students-in-Need.pdf
5 See page 2 of the MEXT FY 2020 Second Supplementary Budget: https://www.mext.go.jp/en/content/20200720-mxt_kokusai000005414_2.pdf
6 現在、日本には 120 校以上の各種学校認可を受けた外国人学校が存在し、約 25,000 人の子どもたちがそれらの学校に
通う。
39
習保障のための支援策から各種学校を除外するのは不合理であり、人種、民族、国民的出身に基づく差別
に値する。
5.作成:在日本朝鮮人人権協会
40
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文: パラ 30、マイノリティの権利、26 条・27 条
2.問題: 幼保無償化制度からの朝鮮幼稚園をはじめとする各種学校幼児保育・教育施設の除外
3.勧告案:
締約国は、その立場を見直し、外国人学校の幼児保育・教育施設に通う子どもたちを幼保無償化制度
の対象とするべく、必要な措置を講ずるべきです。
4.背景:
2019 年 10 月 1 日より幼保無償化制度がスタートしたi。この制度は、「すべての子どもが健やかに成長
するように支援する」ことを基本理念としている。しかしながら日本政府は、朝鮮学校やブラジル人学
校、インターナショナルスクールをはじめとする各種学校の認可を受けた外国人学校の幼児保育・教育施
設に関しては、幼保無償化制度の対象外iiとした。
日本政府はその理由について、各種学校は「幼児教育を含む個別の教育に関する基準はなく、多種多様
な教育を行っており、また、児童福祉法上、認可外保育施設にも該当」せず、「法律により、幼児教育の
質が制度的に担保された施設」とは言えないことを挙げている。
しかし、今回の幼保無償化制度においては、認可施設のみならず、施設ごとに多種多様な実態があり、
質の担保の観点からも懸念が指摘されていた認可外保育施設もその実態や利用者の声が重視され幼保無
償化制度の対象となっている一方で、各種学校としての認可を受けた外国人学校の幼児保育・教育施設に
関してはその実態がみられることなく形式的に除外されており、理不尽な取り扱いであると言わざるを
得ない。外国人学校が各種学校であることを理由に、外国人学校幼児保育・教育施設に通う子どもたちを
幼保無償化制度の対象から除外することは、日本国憲法14条、自由権規約2条1項、社会権規約2条2
項、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約2条1項などに反する差別にあたるものであり、このような不
平等な取り扱いはただちに是正されるべきである。
そもそも、「すべての子どもが健やかに成長するように支援する」という基本理念に照らすならば、マ
イノリティの子どもたちが自身のルーツにつながる言葉や文化に触れながら、健やかに自己のアイデン
ティティを肯定的に育むことのできる外国人学校の幼稚園を幼保無償制度から除外する理由は見当たら
ない。
以上のことから、外国人学校の幼児教育・保育施設に通っている子どもたちも幼保無償化制度の対象に
含めるべきであり、そのための法改正を含む必要な措置が講じられるべきである。iii
5.作成: 在日本朝鮮人人権協会
i この制度の下では、3~5 歳児クラスの認可幼稚園、認可保育園、認定こども園などに通うすべての子どもの利用料が
無償となる。(0~2歳児クラスは住民税非課税世帯に限り無償)認可外保育園に通う子どもの場合は月額上限 37,000 円
までが無償となる。(0~2 歳児クラスは住民税非課税世帯に限り月額上限 42,000 までが無償となる)
ii 2019 年 5 月の時点で、各種学校の認可を得た外国人学校幼児教育・保育施設の数は 89 園。うち、40 園が朝鮮幼稚園
である。それに対し、今回の幼保無償化の対象となった施設は、認可・無認可を問わず、約 55,000 施設にのぼる。(文部
科学省「学校基本調査」、厚生労働省「幼稚園・保育所等の経営実態調査」から)
iii 日本政府は今後、幼保無償化制度の対象外となった施設に対する財政的支策を講じる予定であると表明しており、その
対象には外国人学校幼児教育・保育施設も含めて検討しているという。しかし、この支援策自体未だ不透明であり、実際
に外国人学校幼児教育・保育施設が対象となるかどうかわからない状況である。現に幼保無償化の適用を受けられなかっ
た施設に通う子どもには脚注ⅰで示したような財政的支援がないため、多大な不利益を被っている。このような不平等を
41
解消するために、日本政府は幼保無償化制度の適用施設の範囲を直ちに拡大し、すべての子どもたちの多様な教育の機会
を保障するべきである。
42
1.関連する LOIPR パラと条約条文:LOIPR パラ 30、マイノリティの権利、規約第 26 条・27 条
2.問題: 在日コリアンのマイノリティとしての地位と権利
3.勧告案:
(1)締約国は、旧植民地出身者とその子孫である在日コリアンをはじめ、日本で暮らす移住労働者・
国際結婚移住者・難民などの外国人とその子孫を、規約第 27 条が定める民族的マイノリティ
として認めない根拠を、委員会の「一般的意見 23」に則して説明してください。
(2)締約国は、在日コリアンに対する規約上の権利、とくに第 27 条が定める民族的マイノリティ
としての権利を否認、あるいは制限している現在の法制度について、その根拠を説明してくだ
さい。同様に、移住労働者・国際結婚移住者・難民などの外国人とその子孫に対する差別的な
法制度について、その根拠を説明してください。
4.背景:
<民族的マイノリティとして認めない>
規約は第 27 条で、民族的・宗教的・言語的マイノリティについて、その地位と権利を定めている。
しかし、日本政府はこの間、在日コリアンについて、「我が国においては……何人も自己の文化を享有
し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利は否定されていない。こうした中、
在日コリアンとその子孫が本規約にいうマイノリティに該当するか否かを判断する必要性は、必ずし
もないものと考える」(2020 年、第7回日本政府報告書パラ 230)という主張を、委員会の日本審査
で繰り返している(1993 年、委員会の第3回日本審査、委員会の総括所見パラ 15)。
しかし、日本政府の主張は、委員会が第 27 条の解釈基準を示した「一般的意見 23」に明らかに反
するものである。「一般的意見 23」では、次のように明記されている。
「締約国の中には、民族(種族)、言語、宗教を理由とする差別は行なっていないと主張し、それ
のみを根拠として、マイノリティは存在しないとする誤った主張を行なうものもある」(パラ4)
「締約国内におけるマイノリティの存在は、締約国の決定によるのではなく、客観的基準によっ
て確定されることを求める」(パラ5<2>)
日本政府は、在日コリアンをはじめ、移住労働者・国際結婚移住者・難民などの外国人とその子孫
(約 410 万人)*を、規約第 27 条が定める「民族的マイノリティ」として認めるべきである。
*注 日本で生活している外国人、および外国にルーツをもつ日本国籍者/重国籍者の数は、➀3カ月をこえる在留
資格をもつ外国人:2,933,137 人(2019 年 12 月末現在)、➁在留資格が認められていない「未登録」外国人:
82,892 人(2020 年 1 月 1 日現在)、➂日本国籍を取得した外国人:568,242 人(2019 年までの帰化許可人数の
累計)、➃外国人と日本人との国際結婚から生まれた子ども:547,908 人(政府統計として公表された 1992 年
から 2017 年までの累計)――総計 4,132,179 人となる。すなわち、規約第 27 条の対象となる民族的マイノリ
ティは、日本においてアイヌ民族や琉球民族の他、410 万人以上の外国人および外国にルーツをもつ人びとが
存在する。
43
<基本的な権利の制限あるいは排除>
旧植民地出身者とその子孫である在日コリアンは、すでに日本生まれの二世・三世・四世が大半と
なり、五世が生まれてきている。
かつて植民地を有していた欧米の旧宗主国に見るように、旧植民地出身者である在日コリアンは、
本来ならば、日本国民あるいは日本とコリアの重国籍者と同等に、規約上の諸権利を保障されなけれ
ばならない。ところが在日コリアンは、今なお下記の権利から制限、あるいは排除されている。
a.入管特例法(日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特
例法)第 22 条によって、退去強制条項が設けられ、「居住権」を否認されている。
b.入管法(出入国管理及び難民認定法)第 26 条と入管特例法第 23 条によって、日本への「再入
国権」を否認されている。(後掲レポート参照)
c.法改正をしなかったことによって、「生活保護を受ける権利」を否認されている。
d.経過措置を設けなかったことによって、年金制度から排除されている高齢者や障碍者が多くい
る。(後掲レポート参照)
e.法律ではなく行政通達による国籍条項によって、公務員や公立学校教員が任用制限されている。
(後掲レポート参照)
f.法律によって地方参政権、教育委員や民生委員の就任権など、地方自治に参画する権利が否認
されている。(後掲レポート参照)
g.民族的マイノリティとしての権利、とくに民族名を名のる権利、民族教育(母語・母文化教育)
を受ける権利が否認されている。(後掲レポート参照)
日本政府は第7回報告書において、在日コリアンの地方参政権(同報告書パラ 223~225)、雇用(パ
ラ 231)、医療(パラ 232)、学校教育(パラ 233)、高校無償化(パラ 235)、社会保障(パラ 236)に
ついて、「国籍による差別は行なっていない」と主張している。
しかし、上記a~fにあるように、在日コリアンに対して日本国民とは違う「別異の取り扱い」を
していることは明らかである。日本政府はその「別異の取り扱い」の根拠について、合理的な説明を
しなければならない。
上記gの民族的マイノリティの権利について、人種差別撤廃委員会は日本政府に対して、「マイノリ
ティの言語による教育およびその言語の教授を促進するよう」繰り返し勧告してきた(人種差別撤廃
委員会 2014 年 9 月 26 日総括所見 24)。
また自由権規約委員会は「一般的意見 23」において、締約国に次のように求めてきた。
「締約国は、当該[第27条]権利の存在と行使を、その否定と侵害から保護することを確保する
義務を負う。それゆえに立法、司法または行政当局を通じた締約国自身の行為から保護するのみ
ならず、締約国内にある他の人びとの行為からも保護するための積極的手段を講じることを要求
される」(パラ6<1>)
しかし日本では、在日コリアンの民族教育(継承語・継承文化教育)を受ける権利について、法制
度上ではいっさい明文化しておらず、かえってその権利を実質上、阻害あるいは制限する措置がとっ
ている。(後掲レポート参照)
また、日本で暮らす移住労働者・国際結婚移住者・難民などの外国人とその子孫に対しても、在日
44
コリアンと同様の差別政策がとられている。しかし委員会は、「一般的意見 23」でこう明言している。
「第 27 条はマイノリティ集団に属する個人に付与される権利であり、すでに規約によりすべて
の者に共通に個人として享受されている他のいかなる権利とも区別され、またこれらに付加され
た権利を確立し認めるものである」(パラ1)
「第 27 条は……国民、市民であることを必要とされないように、永住者であることも必要とさ
れない。したがって締約国内でマイノリティを構成する移住労働者や(短期)滞在者は、それら
の権利を行使することを否定されない権利を有している」(パラ5<2>)
日本政府は、これら外国人とその子孫に対する権利の否認あるいは制限(上記a~g)について、
合理的な根拠を説明しなければならない。
5.作成:在日韓国人問題研究所/マイノリティ宣教センター
45
1.関連する LOIPR パラと条約条文: パラ 30、マイノリティの権利、規約第 26 条・第 27 条および第 12 条
2.問題: コロナ禍での在日コリアンの再入国権
3.勧告案:
(1)締約国は、コロナ禍で日本に再入国できず再入国期限が切れた在日コリアンの特別永住資格を
保護する緊急措置をとってください。
(2)締約国は、入管法と入管特例法を改正して、在日コリアンなど外国人の「再入国の権利」を保
障してください。
4.背景:
<コロナ禍で日本に再入国できない外国人>
いま日本では、新型コロナウイルス感染の世界的なパンデミックによって、米国や韓国、EU 諸国
など 146 カ国からの入国者を拒否している。日本に生活基盤があり在留資格をもつ外国人のうち、「特
別永住者」と、「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」には基本的に再入国が
認められているが、それ以外の「留学」「技能実習」「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格の
外国人は、「特段の事情」が認められなければ再入国できない。
そのため、入管法・入管特例法による再入国許可/みなし再入国許可*を得て海外へ渡航したもの
の、コロナ禍による空港閉鎖のため、日本に再入国できない外国人が続出した。その数は、4月2日
以前に出国した永住者・日本人の配偶者ら 103,000人、留学生・ビジネス関係者ら 88,000 人、計191,000
人になるという(7月1日現在、『日経新聞』7月 28 日)。
*注 入管法第 26 条第1項では、日本での在留資格をもつ外国人が、再び日本に入国する意図をもって出国す
る場合、政府は「再入国の許可を与えることができる」と定めている。つまり、政府の自由裁量による「再入
国許可制度」である。また「みなし再入国許可制度」は、2012 年7月から実施されているもので、日本出国時
に旅券と、在留カードあるいは特別永住者証明書を提示すれば、「再入国の許可をうけたものとみなす」という
ものである(入管法第 26 条の2)。しかしこれは、政府の自由裁量による「再入国許可制度」の枠内での簡易
手続きである。
この 19 万人のうち、滞在国で再入国期限を経過してしまった外国人が何人になるか不明であるが、
多数に上ることは確実である。
入管法・入管特例法の規定では、滞在国で再入国期限を経過してしまった場合、それまで持ってい
た在留資格を失い、新規入国者として日本に戻らなければならない。そこで日本政府は、緊急措置と
して、これらの「新規入国者=旧在留資格者」が滞在国の日本大使館・領事館で行なうビザ申請の手
続きを簡素化した。また「永住者」については、滞在国の日本大使館・領事館で「定住者」としての
ビザ申請をすれば、日本入国時に「永住者」としての手続きをとる――という(出入国在留管理庁の
6月 26 日案内)。これは、再入国の満了日が、「2020 年1月1日」から「入国制限が解除された日の
1カ月後」までの「永住者」に対する時限措置であるが、当面の救済策としては有効である。
しかし、在日コリアンなど「特別永住者」に対しては、なんら救済策はとられていない。NGO(移
住者と連帯する全国ネットワーク)が政府にそのことを問い合わせたところ、「有効期間満了となるよ
うなケースが頻発する状況にはないことから、永住者と同様の措置を講じていない」「同様の措置を講
ずることが可能かについては……現段階では回答は困難」という回答が届いた(法務省の8月3日文
書回答)。つまり入管法では、政府の裁量によって、「永住者」として日本を出国⇒在外公館で「定住
者」としてビザ申請⇒日本再入国時に「永住者」――とする臨時措置ができるが、「特別永住者」の場
合は別の法律の入管特例法に規定されるため、それができない、というのである。
46
<再入国期限切れを迎える特別永住者>
在日コリアンなど特別永住者の「再入国許可」期間は最長7年、「みなし再入国許可」の場合は最長
2年となっている。特別永住者の「日本出国」年間数は 2016 年:124,998 人、2017 年:124,675 人、
2018 年:129,305 人となっていて、その 95%近くが「みなし再入国許可」で日本から出国している。
特別永住者の 2018 年出国者数のうち、推算では 10,000~18,000 人が、「みなし再入国の2年後の
期限切れ」を今年1月~12 月に迎えることになる。このうちの大半が、すでに日本に帰国したとして
も、また今後滞在国での出国と日本での入国が解禁されたとしても、特別永住者の中には、さまざま
な事情で、滞在国でみなし再入国の期限切れを迎え、特別永住資格を失う――という事態が、いま進
行している。
<特別永住者・永住者の再入国権の否認>
問題の核心は、特別永住者・永住者をはじめ、生活基盤を日本に置く外国人に「再入国の権利」が
認められていないところにある。外国人に「再入国権」が保障されているならば、行政上の再入国期
限が設けられていても、権利としてこれまで持っていた在留資格のまま日本に再入国し、日本での生
活を続けることができる。しかし入管法は、外国人の「再入国権」を認めず、「再入国の許可/不許可
は主権国家の自由裁量」としている。
いっぽう、自由権規約第 12 条4項は「何人も、自国に戻る権利を恣意的に奪われない」と定めて
いる。自由権規約委員会は 1998 年、第4回日本審査において、日本政府の主張をしりぞけて、入管
法第 26 条の再入国許可制度は規約第 12 条に合致しないとし、「日本で出生した在日コリアンのよう
な永住者に対して、出国前に再入国の許可を得る必要性をその法律から除去すること」を勧告した(総
括所見パラ 18)。
そして委員会は翌年、規約第 12 条の解釈基準を示す「一般的意見 27」で、次のように明記した。
a.ここでの「何人も」は、国民と外国人を区別していない。(パラ 20)
b.ここでの「自国」とは、「国籍国」に限らず「当該国に対して特別の関係を有する」永住者およ
び長期居住者においては「居住国」と解釈すべきである。(パラ 20)
c.ここでの「恣意的に」とは、たとえ法律に規定された干渉[恣意的行使]であっても、それは
規約の条項、趣旨および目的に適合し、かつ、いかなる場合においても具体的な状況に照らし
て合理的なものでなければならない。(パラ 21)
日本政府は、コロナ禍で再入国期限切れを迎え特別永住資格を失う在日コリアンに対して、ただち
に救済措置をとらなければならない。そして、規約第 12 条に基づいて入管法と入管特例法を改正し
なければならない。
5.作成:在日韓国人問題研究所/マイノリティ宣教センター
47
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文:パラ 30、マイノリティの権利、規約第 26 条・第 27
条
2.問題: 在日コリアンの民族教育権の否認―民族学級を中心に
3.勧告案:
(1)締約国は、在日コリアンをはじめ外国にルーツをもつ子どもたちの権利保護を目的とした定期
的な実態調査を実施してください。
(2)締約国は、政府予算で初等教育・中等教育で母語・母文化(継承語・継承文化)教育を保障す
る施策を講じてください。
(3)締約国は、外国にルーツをもつ子どもに対するいじめ、ヘイトを根絶する施策をただちに講じ
てください。
4.背景:
<外国にルーツをもつ子どもの不就学>
日本に居住する外国人人口は、2019 年 12 月現在で 293 万人となり、2014 年の 212 万人から約 81
万人も増加している。また、総人口に占める割合も 2.24%を占めている。小学校~高校に通う外国籍
の子ども(6~18 歳)の数は 197,124 人、その他に、日本人と外国人との国際結婚から生まれた子ど
も(日本国籍あるいは重国籍/6~18 歳)は 283,920 人となる。
こうした状況は、学校教育において、多様な文化・ルーツを持つ子どもたちのニーズを高めている。
しかし日本政府は、それに十分に対応していない。
文部科学省が発表した「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(2018 年実施)
によれば、日本語指導が必要な児童生徒(小学生~高校生)は 2008 年に 33,470 人だったが、2018
年には 50,759 人と約 52%も増加している。また日本語指導が必要な高校生の場合は、中途退学率が
9.6%となり、大学などへの進学率は 42.2%にとどまっている。2019 年5~6月に文部科学省が実施
した「外国人の子供の就学状況等調査」によれば、小学校・中学校に就学しているはずの外国人の子
ども 114,214 人のうち、不就学もしくは就学状況が確認できない子どもが 9,768 人(約 8.5%)にの
ぼっている。
日本政府は、委員会の事前質問に対して「学校教育については在日韓国・朝鮮人を含む外国人の子
どもが公共の義務教育諸学校への就学を希望する場合、無償で受け入れを行なっている」と回答して
いる(パラ 233)。しかし、「不就学・就学不明率 8.5%」という数字は、日本語指導や多言語での教育
プログラムを十分におこなっていないため、外国にルーツをもつ子どもたちの教育の権利が、十分に
保障されていないことを示している。
<母語・母文化を学ぶ教育制度の未整備>
規約 27 条に定められている「自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言
語を使用する権利」について、在日コリアンなどマイノリティの子どもたちは十分に保障されていな
い。
日本政府は「外国人が希望すれば、外国人学校に通うこともできる」としている(日本政府第7回
48
報告書パラ 233)。しかし政府は、外国人学校が日本政府の教育指導要領に基づかない独自のカリキュ
ラムをおこなっているとして「各種学校」と位置づけ、保護、支援の対象から除外している。そのた
め外国人学校に通う子どもたちの保護者は、日本の学校と比べて高額の授業料など大きな負担を負わ
なければならない。
また、公立学校に通う子どもに対して、自己のルーツに関わる文化・言語などを学ぶカリキュラム
は、政府の教育施策として実施されていない。これに関して日本政府は、「地域の実情や当該児童生徒
の実態等に応じて、外国人の児童生徒の母語、母文化等に関する学習を、総合的な学習の時間等を活
用して行うことも可能である。なお、母語・母文化等に関する学習を、課外活動において行うことも
可能であり、複数の地方公共団体において実践されているところである」と述べている(人種差別撤
廃条約第7回・第8回・第9回日本政府報告書パラ 128)。しかし、実際に実施されている自治体はご
く一部にとどまっており、実施している自治体も、政府からの財政支援がなく不安定な運営となって
いる。
たとえば大阪では、在日コリアンなどが放課後に母語・母文化を学ぶ「民族学級」が多くの学校に
設置されており、2018 年現在、大阪市で 106 校、大阪府で 69 校(いずれも小学校・中学校)が運営
されている。これらは、1945 年の日本敗戦以降、在日コリアンの子どもを対象にされてきたが、現在
では他の外国ルーツの子どもたちの母語・母文化学習の場ともなっている。民族学級に参加している
子どもの数は約 2,500 人にのぼっている(2019 年現在)。しかし政府は、財政的な支援をおこなって
おらず、運営は大阪市教育委員会の予算でおこなわれている。そのため子どもを指導する講師の多く
が非常勤の契約職であり、処遇も十分に保障されていない。
政府は、外国にルーツをもつ子どもたちの母語・母文化(継承語・継承文化)を学ぶ権利を明示し
て、政府予算のもとでの母語・母文化学習を保障すべきである。
<いじめ、ヘイトなどの人権侵害への対応が不在>
外国にルーツをもつ子どもたちに対する政府の権利保障と保護の政策が明確にされないこともあっ
て、外国人であることを理由とした学校でのいじめが後を絶たない。
2019 年3月に埼玉県川口市の小学校を卒業したクルド人の少女が、1年生から6年間いじめを受け
続けてきたことを明らかにした。彼女は「名前をふざけて呼ばれた」「トイレに閉じ込められた」「背
中を何度も蹴られた」「校長先生が信じてくれなかった」と、その実態を証言している。
また大阪の民族学級に対しても、在日コリアンへのヘイトスピーチが広がるなかで一部の地方議員
から廃止の圧力が加えられ、さらに、民族学級のプログラム内容が日本に敵対するものであるとの誤
解から、民族学級への反発やヘイトが、インターネット上で拡散している。
政府と地方自治体は、このようなマイノリティの子どもたちに対するいじめ、ヘイトを根絶する措
置をただちにとるべきである。
5.作成: 特定非営利活動法人 コリア NGO センター
49
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文:LOIPR パラ 30、マイノリティの権利、規約第2条・
第 26 条
2.問題: 在日コリアンに対する権利侵害―地方公務員の任用制限
3.勧告案:
(1)締約国は、地方自治体における外国籍職員任用においてどのような制度的差異があるかを把握
するための全国自治体調査を行なうこと。
(2)締約国は、外国籍職員を排除するために設けてきた見解「当然の法理」を破棄することにより、
職員採用において国籍条項が付されている自治体においては国籍条項を撤廃し、任用制限が付
されている自治体においては任用制限を撤廃すること。
(3)締約国は、国家公務員の採用において人事院規則第9条で「日本の国籍を有しない者」は採用
試験を受けることができないとする規則を撤廃すること。
4.背景:
現在日本には 293 万人の外国人が暮らしており、日本の総人口 1 億 2596 万人の約 2.3%を占めて
いる。少子高齢化が進む中で、外国人との共生社会の実現は、首都圏、地方都市を問わず大きな課題
となってきている。
日本においては、外務公務員以外の国家公務員と地方公務員には、外国籍者を排除する法的規定は
ない。しかし、1953 年に日本政府は「法の明文の規定が存在するわけではないが、公務員に関する当
然の法理として、公権力の行使または国家意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには日
本国籍を必要とするものと解すべき」として、外国籍者を国家公務員から排除した。
この見解は「当然の法理」と呼ばれてきたが、法の明文規定が無くても外国籍者を排除することが
できるとするもので、法の支配を否定するものである。これは「すべての者は、法律の前に平等であ
り、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する」としている規約第 26 条に
明確に反するものである。
日本政府は 1973 年、「当然の法理」の見解を「公権力の行使又は国家意思の形成」から「公権力の
行使または地方公共団体の意思の形成への参画」と拡大解釈させ、地方公務員にも日本国籍が必要と
して外国籍者を排除していった。
地方自治体において、職員採用の募集要項に国籍条項を設けて外国籍者の受験を認めない自治体が
ある。あるいは、受験を認めても「公権力の行使や公の意思形成への参画」を理由に任用に制限を設
けている自治体もある。たとえば横浜市では、外国籍職員は「公権力の行使」を理由に、市民の権利
や自由を一方的に制限したり、義務や負担を一方的に課したり、強制執行したりする業務から排除し、
また「公の意思形成への参画」を理由に、企画・立案・決定に関与し専決権を有する課長以上の職、
市の基本政策の決定に携わる係長以上の職には就けない、としている。
2016 年に行なわれた共同通信社による「外国人住民に関する全国自治体アンケート」によると、行
政職(一般事務職)で外国籍でも受験可能としているのは都道府県で 23.4%、市町村で 32.2%にとど
まっている。また同調査によると、都道府県の外国籍職員(常勤)は 195 人、市区町村の外国籍職員
(常勤)は 3,015 人にすぎない。たとえば広島市の場合、総人口の中で外国籍住民が占める割合は
50
1.36%だが、市職員 14,579 人のうち外国籍職員はわずか1人、0.006%となっている。
国家公務員法には、国籍条項は存在しない。しかし、人事院規則第9条で「日本国籍を有しない者」
は採用試験を受けることができないという規則を設け、一律に外国人を排除している。
人種差別撤廃委員会は 2018 年8月、4回目の日本審査において、在日コリアンについては「公権
力の行使または公の意思形成の参画にたずさわる国家公務員に就任できるよう確保すること」、「長期
在留する外国人およびその子孫もまた、公権力の行使また公の意思形成の参画にたずさわる公務員の
地位にアクセスできるようにすること」を勧告している(CERD/C/JPN/CO/10-11,para.22,34(e))。
この勧告にしたがって日本政府は、「当然の法理」を破棄し、国家公務員と地方公務員の採用におけ
る国籍条項と任用制限を撤廃しなければならない。
5.作成:かながわみんとうれん/横浜市国籍条項撤廃連絡会
51
1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文:パラ 30 マイノリティの権利、規約第2条・第 26 条
2.問題: 在日コリアンに対する権利侵害――外国籍教員の任用差別
3.勧告案:
(1)締約国は、在日コリアンをはじめ外国籍教員の職階・賃金などの待遇を、日本人教員より下に
固定する規定を廃止し、日本人教員と同じ職に就くことが可能な制度に改めること。
(2)締結国は、公立学校の外国籍教員にも、校長、教頭、主幹教諭、指導教諭、教諭の職に就かせ
る道を開くこと。
4.背景:
締 約 国 の担 当 省 庁 で あ る 文 部科 学 省 は 、 2018 年8月の人種差別撤廃委員会の総括所見
(CERD/C/JPN/CO/10-11,para.22,34(e))以降も、問題解決に取り組む姿勢はない。
日本の学校では、校長、副校長(教頭)、主幹教諭、指導教諭、教諭、講師という職階を置いている。
しかし公立学校の外国籍教員は、末端の講師の職にしか就けない。校長から教諭までの職から外国人
を排除しているからである。
日本人は採用試験に合格すれば教諭として採用される。採用後、昇任し、校長まで昇任することが
可能である。いっぽう外国人は、日本人と同様に教員免許状を有し、教員採用試験を受験して合格し
ても、講師として任用され、退職まで講師の職に据え置かれ、昇任はできない。
現在、公立学校に在日コリアンなど 300 人以上の外国籍教員がいると考えられるが、彼ら彼女らが
校長まで昇任した場合と、ずっと講師のままであった場合での生涯年棒の格差は、1,000 万~2,000
万円といわれている。このように外国籍教員は、経済的にも不利益な状態に置かれている。
日本政府は、「公権力の行使または公の意思形成の参画にたずさわる公務員には日本国籍者に限る」
と主張する(人種差別撤廃条約第 10 回・第 11 回日本政府報告パラ 81)。しかしそれは、法律に基づ
くものではない。法律以前の「当然の法理」だと主張することは、外国人を差別するのは「当然だ」
という根本的に間違った考え方である。
社会権規約第4条では、「法律で定める制限のみをその権利に課すことができる」とあるが、日本政
府は、法に依らず、行政通達などによって、外国人の権利を蹂躙している。
日本政府は、1945 年日本敗戦前の軍国主義時代と同様の国家統制教育を引きずっている。国家主義
教育の遂行には自国民教員しかその教育活動はできない、という思想が存在すると考えられる。また
同様に、皇室を敬い、愛国心を育成し、国家に忠誠を誓う子どもたちに育成する教育推進において、
外国籍教員は障碍であると考えている。そのため、外国籍教員を学校教育の末端の職にしか就かせて
いない。
5.作成:兵庫在日外国人人権協会
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1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文: LOIPR パラ 30、マイノリティの権利、規約第
26 条・27 条
2.問題: 高齢者・障害者の在日コリアンの年金制度からの排除
3.勧告案:
締約国は、在日コリアン高齢者・障害者の無年金者差別を解消するための経過措置をただち
に設けること。
4.背景:
(1)日本の年金制度における国籍差別
日本の年金制度は、勤労者を対象とする被用者年金と、それ以外を対象とする住民年金とに分
かれる。1945 年の日本敗戦以前は、被用者年金のみだったが、国籍要件があるため、外国人は除
外された。しかし、戦後の占領改革のなかで国籍差別の禁止が指令され、被用者年金の国籍要件
が削除され、外国人に開放された。
1952 年4月、対日平和条約の発効によって日本は主権を回復するが、その際、日本政府は在日
コリアンなど旧植民地出身者は「日本国籍」を失い、外国人になったと宣告した。当時の在日外
国人の 90%余りは、こうして作られた外国人だった。
1959 年、住民年金としての国民年金法が初めて制定されるが、再び「国籍要件」が課され、在
日コリアンを差別したのである。
こうした排外システムに一矢を放ったのは、1975 年のベトナム難民の発生、およびサミット(主
要国首脳会議)の発足であった。ベトナム難民は、外国人であるため、たとえば、公営住宅にも
入居できなければ、母子家庭向けの児童扶養手当も受給できなかった。こうした状況が、国際的
に批判されたのである。
日本政府は、ようやく国際人権規約と難民条約を批准し、それに伴って 1982 年国民年金や児童
手当の国籍要件が撤廃された。
しかし、国民年金については、国籍要件を撤廃しただけでは、無年金者が生じてしまうのであ
る。
(2)国籍条項撤廃で経過措置がなかったために生じた年金差別
日本の国民年金は、20 歳から 60 歳までの間に、少なくとも 25 年間保険料を納めなければ 65
歳から老齢年金を受給することができない。それゆえ、国籍条項撤廃の時点で 35 歳以上の外国人
は、25 年間保険料を納めることができないので老齢年金を受給することができない。
また、日本の国民年金は、20 歳前に障害を負った人は保険料を納付することなく 20 歳から障
害年金を受給することができる。しかし、国籍条項撤廃の時点で 20 歳を超えていた外国人障害者
については、20 歳の時点で既に障害年金を受給できないと一旦決まっていたので、さかのぼって
は適用されないとされた。
したがって、1926 年以前に生まれた外国人高齢者、および 1982 年時点で 20 歳を超えた外国人
障害者は、制度的無年金者となり、今日に至っている。
制度発足時や、沖縄の日本返還時、中国残留者の日本帰国時などの場合、無年金者が生じない
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ように、必要な経過措置がとられた。しかし、国籍要件の撤廃時だけは、日本政府が同様の経過
措置が取らなかったために、無年金者が生じたのである。
自由権規約委員会は 2008 年 10 月の「総括所見」パラ 30 において、在日コリアン無年金者に経
過措置を講じるべきであると勧告した。この問題については、2006 年6月の現代的形態の人種主
義・人種差別・外国人嫌悪および関連の不寛容に関する特別報告者、ドゥドゥ・ディエン氏の報
告、2014 年9月の人種差別撤廃委員会「総括所見」、2018 年8月の同委員会「総括所見」などで
勧告が繰り返されている。
(3)在日コリアン無年金者への差別を認めない日本政府
第7回日本政府報告書作成に向けた NGO 課題別質問に対して、日本政府は「我が国の国民年金
制度は,外国人を含み,保険料を拠出した者に対して年金を支給することを原則としており,国
籍による差別は行っていない」と回答した。それは、単に現在の制度の説明でしかなく、1982 年
に「国籍条項」を撤廃した時に、必要な経過措置を設けなかった結果生じた在日コリアンを中心
とする外国人無年金者の存在を隠蔽した虚偽の報告である。
在日コリアン無年金者が、2020 年2月、厚生労働省にその救済措置を取るよう要請した時の同
省国際年金課の回答は、以下の通りである。「日本国籍を有していなかったために年金の受給権
を有していない方々に対する福祉的措置について、社会保障制度や社会福祉制度全体の整合性を
十分留意することが重要であると共に、国会関係者等の様々なご議論を踏まえて、引き続き検討
していくことが必要だ」という。
日本政府に要請するたびに、政府は「検討している」と言い続け、「検討」内容について質問し
ても具体的な回答はない。
1981 年に難民条約批准時の国会での議論で、議員が、「年金制度創設時に日本人に取った経過
措置を、外国人に適用する際にも考える必要がある」と質問した。厚生大臣は「その問題も処置
して加入すべきだが間に合わない。留保なしに加入はするが、その後、内国民と同様の資格を得
られた方に対する経過措置であるから、なるべく早いうちにその趣旨に従ってやる」と答弁した。
そして国会では、経過措置が取られずに無年金になった外国人については「検討課題」として「付
帯決議」がなされた。それ以来 38 年間、「検討」を言い訳にして、在日コリアン無年金者に対す
る差別状況は放置されてきた。
さらに、在日無年金障害者、高齢者のこれまでの6件の裁判で、いずれも「遡及措置を講じな
かったことに違憲性はない」という判断が日本の最高裁で示された。しかしながら、日本政府は、
2020 年3月現在、すでに 116 ヶ国が批准している自由権規約・第一選択議定書を批准していない
ため、外国人無年金者は国連に通報する道も閉ざされている。
(4)年金以外の給付制度からも排除されている在日コリアン無年金者
一方、日本政府は、2005 年4月1日より、国民年金の任意加入期間に未加入だったため障害基
礎年金等を受給していない日本人障害者に「特定障害者特別障害給付金支給法」を施行した。し
かし、この制度からも在日コリアン無年金障碍者は排除された。同法の附則2条には「日本国籍
を有していなかったため障害基礎年金の受給権を有していない障害者(中略)に対する福祉的措
置については、(中略)今後検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づい
て所要の措置が講ぜられるものとする」とされた。またもや「検討」で逃げており、法制定から
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15 年が過ぎるが、何らの措置も執られていない。
2019年10月から日本政府は消費税増税の際、低所得の年金受給者への支援として、「年金生活
者支援給付金」制度を創設した。しかし、在日コリアン無年金者は、同様に消費増税の影響を受
けるにもかかわらず、「年金受給者でない」ことを口実にこの制度からも枠外とされた。これほ
どの理不尽があるだろうか。
日本政府の対応の遅滞は、高齢化が進む当事者の減少を意味し、上記の対応はそのためではな
いかと邪推せざるを得ない。日本人に対する経過措置は、国庫負担を伴うものだったが、日本人
同様に納税等の義務を負う在日外国人は、義務は果たしているのに権利が制限されている状態が
続いている。
そもそも、年金制度に国籍要件を設けたこと自体、外国人差別に当たるとして、難民条約批准
時、1982年に国籍要件を外した。その時すでに無年金とされた在日コリアンに対して経過措置を
取らずに放置してきたことは、自由権規約26条に違反しており、明らかな国籍差別である。
5.作成: 年金制度の国籍条項を完全撤廃させる全国連絡会
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1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文: プライバシーの権利(17 条)、法の前の平等・
無差別(26 条)
2.問題: 法執行官によるレイシャルプロファイリング
3.勧告案:
(1) 締約国は、法執行官による外国人に対する民族的・宗教的プロファイリングおよび外国人への監
視に関する実態調査を行うこと。
(2) 締約国は、人種プロファイリングの被害者の救済と法執行官のトレーニングプログラムを含ん
だ、集団の監視と個人のセキュリティ情報の体系的収集に関する法律およびガイドラインの策
定を検討すること。
(3) 締約国は法執行官による人種プロファイリングの被害者に、効果的な救済手続きへのアクセスを
確保すること。
4.背景:
日本政府は、日本においてレイシャルプロファイリングがなされていることについて認めておらず、
第7回定期報告書において、「我が国では、『行政機関の保有する個人情報保護法』において、行政機関に
よる個人情報の保有が制限されているところ、警察は、同法を含めた法令の規定に基づき、公平中立に職
務を執行している」と報告している(CCPR/C/JPN/7, para 199)。
しかしながら、2010 年、警視庁外事第三課からと見られるテロ捜査情報がインターネット上に流出し、
この情報からは、警察当局が在日ムスリム及びイスラム諸国出身者の全員を監視し個人のセキュリティ
情報を体系的に収集していることが明らかになった。2014 年に同プロファイリング捜査及び情報流出に
ついて提訴された国家賠償訴訟の第一審判決において、「当該流出情報が警視庁のものであり,警察当局
が在日ムスリム及びイスラム諸国出身者の全員を監視していること」が認定された。
しかしながら、日本においては依然として法執行官によるレイシャルプロファイリングがなされてい
る。直近では、2020 年5月 22 日に、渋谷区内で警察官によるクルド人男性に対する暴行事件が発生した
ばかりである。報道によると、任意の職務質問を断ったクルド人男性に対して、警察官は「オレに勝つと
思っているのか」と言って威圧行為が始まったという。一人の警察官は同人の足を蹴り、跪かせ、「座れ」
と命令し、「おい。いい加減にしろ、この野郎。なめんなよ」等といって同人を罵倒した。クルド人男性
が有形力を行使して反抗しなかったにもかかわらず、威圧行為が続き、首をヘッドロックのように抑えら
れ、全治 1 か月の傷を負った。なお、クルド人男性は現在、「特別公務員暴行陵虐致傷罪」(刑法 195 条)
で威圧行為を行った警察官2人を刑事告訴している。i
この事件は法の前の平等・無差別(規約第 26 条)が問題となる事件だが、法執行官によるレイシャル
プロファイリングという問題点については、。暴行を行った警察官も、対象がクルド人、つまり「外国人」
だったために上記のような威圧行為がなされたのではないかという疑いは拭えない。
法執行官による人種プロファイリングに関する公式の調査が行われていないため、政府は、法執行官の
トレーニングや権利保持者への救済など、必要なプログラムや措置の策定に必要な実態把握をできてい
ない。同時に、立法上の事実がなく、関係機関間の人種プロファイリングに関する立法に関する議論は始
まっていない。今こそ政府がイニシアチブをとる時である。
5.作成: 反差別国際運動
i https://www.youtube.com/watch?v=zM0XyVZ9pjM
https://www.reuters.com/article/us-minneapolis-police-protests-japan-idUSKBN23D0JG
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1.LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文:(LOIPR 以降の課題)
第 12 条 2 項(自国を含むいかなる国からも離れる自由)及び 4 項(自国へ入国する権利)
2.問題: コロナ禍における出入国に関する移民への不平等な処遇
3.勧告案:
締約国は、委員会による第 4 回日本報告審査において行われた勧告に従って再入国許可制度を撤廃
すること。
4.背景:
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのため、多くの国で出入国の制限が行われ
てきた。
日本においても、“水際対策”と称して厳格な出入国制限の対応が取られ、それに乗じて日本に定住す
る移民に対しても再入国に関して種々の差別的対応がとられてきた。
日本政府はチャーター便手配による帰国援助において、国籍の差別によって搭乗できる者を選別し、
いくつかの例外を除いて、日本に生活基盤を持ち、合法的に定住している移民に対して利用を認めなか
った。
日本政府は、パンデミック発生以降しばらくは、上陸許否対象国と指定される以前にその国に渡航し
た者について、上陸許否対象国となって以降は日本人と特別永住者には帰国後の PCR 検査と 2 週間の
隔離による経過観察を行う対応により帰国を認めたが、移民に対しては、帰国(再入国)それ自体を認
めなかった。そのために職を失った者や留学先の学校での学籍を失う者、また、帰国できないままに在
留資格の期限が徒過する者も出た。また、上陸拒否対象国と指定されて以降にその国へ渡航した移民に
は日本への再入国を認めなかった。そのため母親の葬儀に出席できなかった事例もあった。
最も問題となっているのは「再入国許可制度」である。政府は、2012 年の入管法改定において、利便
性の向上の目的を掲げ、「有効な旅券及び在留カード(特別永住者にあっては特別永住者証明書)を所持
する外国人が、1年以内(特別永住者にあっては2年以内)に再入国する場合は、原則として再入国許
可を必要としない」とする「見なし再入国制度」を導入した。
しかし、COVID-19 のパンデミック以降、海外へ渡航していた永住者と特別永住者の中には、日本
側の上陸制限などにより再入国期限までに帰国できず、在留資格が失う者もでた。こうした状況に対し
て、NGO は、政府に対して、救済措置として見なし再入国期限の延長の特例措置か在留資格の回復の
措置をとることを求めた。その結果、永住者については回復措置の手続きの公表があったが、在留資格
喪失期間の諸権利が喪失したことでの損失はすべて救済されていない。特別永住者については一切の救
済措置はないとされている。
こうした問題が生じるのは、目先の利便性の向上を強調することを以って、永住者や特別永住者に対
し、依然として「許可」なしでは自国へ入国する権利を認めない日本政府の姿勢によるものといえる。
5.作成: 移住者と連帯するネットワーク(移住連)
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1. LOIPR パラ番号と該当する自由権規約条文:(LOIPR 以降の課題)第 26 条(法律の前の平等)
2.問題: コロナ禍における移民に対する不平等な処遇
3.勧告案:
(1)締約国は、住民登録の対象外となっている難民申請者や仮放免者を含む非正規滞在者および
短期滞在者に対して、コロナ禍で生活困窮している状況を鑑みて、特別定額給付金の支給をはじめ
とする公的支援を行うこと。
(2)締約国は、学業の継続が困難になった留学生に対して、日本人学生と同様に、成績や授業の
出席率に関わりなく学生支援緊急給付金を支給すること。
締約国はまた、朝鮮大学校の学生にも同給付金が公平に支給されることを確保すること。
(3)締約国は、生活に困窮するすべての外国人に生活保護を適用すること。とりわけ、健康保険
に加入することができないために、生活困窮に加えて、ケガや病気が深刻化している難民申請者を
はじめとする非正規滞在者が多数存在している現実をふまえ、無料または低額で診療・治療を受け
ることができるよう公的支援を行うこと。
また、政府の支援制度の手続きについて、日本語を母語としない人にも理解しやすいように広報
するとともに、利用要件を緩和し柔軟に対応するなどして、コロナ禍のなかで「誰一人取り残さな
い」政策を実施すること。
(4)締約国は、住宅喪失の危機にある移民に対して、在留資格にかかわりなく公営住宅への入居
を認めるなど、居住が不安定な人の住宅保障を行うこと。
(5)締約国は、コロナ禍により仕事を失った移住労働者に対するいっそう柔軟な在留許可の付与
および就労支援を行うこと。
締約国は、移民政策の一環として、コロナ禍のなかで失職した移住労働者の在留資格別の失業
率に関する統計を集計すること。
4.背景:
(1)特別定額給付金は、日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による経済的影響
への緊急対策のひとつとして、1 人あたり現金 10 万円を給付する制度である。給付対象者は、2020
年 4 月 27 日時点で、住民基本台帳に記録されているすべての人である。しかし、非正規滞在者や
短期滞在者(90 日以内)は、住民登録が受け付けられないことから給付の対象外とされ、就労も禁
じられている。市民社会組織による支援もコロナ禍で途絶えがちで、かれらは日々の食べ物に事欠
くほど困窮している。
(2)文部科学省は、新型コロナ感染症拡大による影響で、世帯収入の激減、アルバイト収入の激
減・中止などの事態を受けて、大学など高等教育における「学びの継続」のための「学生支援緊急
給付金」の制度を設けた。しかし、日本人学生には経済的要件のみで支給の可否を判断する一方、
留学生に対しては、①学業成績が優秀であること、 ②1カ月の出席率が 8 割以上であることなど
の条件を課し、不平等な扱いをしている。
在日朝鮮人の学生が学ぶ朝鮮大学校は、これまでも日本政府の差別的な政策のために各種の助成
金や奨学金の制度が適用されてこなかった。コロナ禍という深刻な事態においても公的支援から排
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除されている。
(3)(4)(5)国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が 2020 年 4 月に公表した「COVID-19 と移
住者の人権:ガイダンス」は、「ディーセント・ワークと社会的保護に対する権利」のなかで、移住
労働者およびその家族は、不安定な労働条件に置かれ、かつ、パンデミックの影響で失業または雇
用の減少により不均衡な影響を受けやすいため、在留資格にかかわらず、社会的保護措置の利用お
よびアクセスを可能にする必要がある、と述べている。
また、「国境管理」の項目では、パンデミック下における在留許可や就労許可の正規化とタイムリ
ーな延長を検討すべきである、と述べている。
以上のようなガイドラインに沿って、政府はコロナ禍における移民政策を遂行すべきである。
(COVID-19 AND THE HUMAN RIGHTS OF MIGRANTS: GUIDANCE
https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Migration/OHCHRGuidance_COVID19_Migrants.pdf )
5.作成:移住者と連帯するネットワーク(移住連)
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