声明・提言等(2020年3月31日 )全難連より「収容・送還に関する専門部会におけるこれまでの議論に対する意見」を発表しました

収容・送還に関する専門部会におけるこれまでの議論に対する意見[PDF形式]

日付:2020年3月31日 

団体:全国難民弁護団連絡会議

収容・送還に関する専門部会におけるこれまでの議論に対する意見

2020年3月31日

全国難民弁護団連絡会議

2019年10月に「出入国管理政策懇談会」の下に設置された「収容・送還に関する専門部会」(以下「本専門部会」という。)は、第6回会合(2020年1月28日)の配布資料として、本専門部会における従前の議論を整理した上、「これまでの議論において提案された(主な)方策等(案)」(以下「本方策等(案)」という。)を公表している。

当会議は、難民を保護するために活動する法律実務家の団体として、日本における難民保護という観点から、本件専門部会におけるこれまでの議論とともに、本方策等(案)で述べられている「庇護を要する者の適切な保護」のための方策等について、以下のとおり意見を述べる。

第1 本専門部会におけるこれまでの議論について

当会議は、本専門部会を通して、「送還忌避者」と言われる存在の実体を理解しようとし、そして、送還されたくない理由をもっている人たちが多く存在し、そのような人たちへの扱いにおいて一方的な出入国管理の価値の実現のみではなく、難民の適正な保護の実現や、家族や子どもの権利などの人権諸条約の実現の問題に絡んだ複雑な様相を有する課題であることを確認した。

特に、資料として提出されてきた送還忌避者の割合に占める難民申請者の割合は極めて高く、この問題が難民条約の実践と深く結びついていることを示している。この難民条約の履行は、裁量行為によるものではなく、本来羈束行為としてなされるべきものであるにもかかわらず、日本の難民認定率は世界各国に比しても異様な低さであって、様々な機会に国際社会からの批判を浴びている状況にある[1]

しかも、今回の議論の開始にあたって配布された資料には、送還忌避者の中に刑事犯罪に問われている者がいるとし、殺人罪で処罰された経験を有するものであるかのような情報が含まれていた。この情報は完全な誤導であった。かかる重大な誤導によって始まった議論について、誤導が影響していないという疑いを払しょくできているか否か疑問があることを指摘せざるを得ない。

さらに、本専門部会の議論に影響する事案として、2019年9月17日のイラン改宗ケースの難民事件判決(高裁でも維持)[2]に続き(この事案は2回目の難民申請の処分が争われた)、今般3月10日に東京地裁(民事51部)で下された難民事件判決[3]について触れておきたい。この原告はミャンマー・カチンの女性であるが、難民申請は3回繰り返され、3回目の難民不認定処分が裁判で争われ、裁判所は原告を難民と認め、法務大臣に難民認定を命じている。当会議は、今回の本専門部会の決断が、このような当事者の存在を排除する結果となることを恐れ、日本の難民認定制度がこのような当事者を適正に保護する状態にないことこそが問題であることを強く感じている。

かかる状況認識と実態把握とを前提に考えるとき、今回の本専門部会の議論の方向性があまりにも一方的で片面的であるということを指摘せざるを得ない。

特に難民に関連しては、送還禁止効の一部例外を認めようと検討がされているが、そもそも立法趣旨が難民申請者の法的地位の安定にあり[4]、その立法趣旨が現時点で喪失したとは到底考えられない。しかも、これまでの2度にわたる難民専門部会の中で繰り返し指摘されてきた「真の難民を保護」や「難民認定制度は、全体として合理性と透明性の高められたものであること」等の取組が具体的に進捗していない中で、送還禁止効の一部例外のような議論がされるのは、文字どおりの本末転倒と言わざるを得ない。

さらに、収容の問題についても、本方策等(案)がほとんどが自由裁量となっている収容実態に対してメスをいれず、行政サイドの問題点を浮き彫りにできない内容にも到底納得はできない。特に司法的抑制の意義については、「行政訴訟制度による司法審査の機会」等という事後的なチェックでは何らの抑制にもならないことは現状に照らしても明らかであり、また収容期限の上限の設置という点についても、人身の自由への重大な制約であることに鑑みれば積極的な判断が求められるところ、これも軽視されたとしか言いようがない。

本専門部会に求められることは、適正な難民保護であり、人権条約の履行であり、人身の自由に対する十分な配慮のある制度とその運用である。その点をあらためて明確にしておきたい。

第2 本方策等(案)で述べられている「庇護を要する者の適切な保護」のための方策等について

本方策等(案)においては、「庇護を要する者の適切な保護」のための方策として、①難民条約上の「難民」の解釈の明確化、②人道的な配慮を理由に在留を認める者の明確化、③難民認定における手続の整備(代理人の同席等)が挙げられている。

そこで、以下においては、これらの方策等を具体化するための立法上及び運用上の措置に関する意見を述べる。

1 難民条約上の「難民」の解釈の明確化について

(1) 立法上の措置

【現行入管法】

(定義)

2条 出入国管理及び難民認定法及びこれに基づく命令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

(略)

3号の2 難民 難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)第1条の規定又は難民の地位に関する議定書第1条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいう。

(略)

【改正試案】3号の2の末尾に以下の記載を追加する。

 なお、「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」の判断にあたっては、難民関連の諸条約に関する国連難民高等弁務官事務所の解釈や勧告等を十分尊重しなければならない。

現行法2条3号の2は、難民認定の処分要件である「難民」の定義(概念)を規定するところ、同条項のなお書き・括弧書き等として、上記のとおり、法定の解釈規定を設けるべきである。

現行法2条3号の2の「難民」の定義は、難民条約1条の「難民」の定義をそのまま国内法化したものであり、ドイツ法・アメリカ法等も同様である(ドイツ法・アメリカ法は具体的に「難民」の定義を国内法として再度規定している点は異なる)。

しかしながら、日本政府の行政解釈では「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」の判断において、「申請者が迫害の主体から殊更に注視されていなければならない」との解釈が採用されていることから、他国に比してそもそも難民概念が限定されている。

そこで、平成16年改正においても参議院で附帯決議として「3 出入国管理及び難民認定法に定める諸手続に携わる際の運用や解釈に当たっては、難民関連の諸条約に関する国連難民高等弁務官事務所の解釈や勧告等を十分尊重すること」との事項があえて規定されていたところである。

しかしながら、それでも国内法の解釈は変更されることなく現状に至っており、もはや法律をもって解釈指針を規定するほかない状況にある[5]

よって、「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」の判断において、前記のとおりの法定の解釈規定を定めるものである。

(2) 運用上の措置

次に、運用上の措置としては、難民の定義の解釈の明確化を実現するためのより具体的な方策について、速やかにあらためて難民専門部会を開催して検討した上、これに基づき、「難民認定実務取扱要領」「難民審査請求事務取扱要領」等において、難民条約上の難民定義の各要素についての解釈基準を明確化して記載するとともに、これを公表すべきである。このような明確化が必要な難民の定義の解釈としては、例えば、どの程度将来の迫害のリスクがあれば「十分に理由のある恐怖」があると認めるかの基準、「迫害」の定義、「特定の社会的集団」とはどのような集団を意味するのか、迫害の恐怖と条約上の理由との因果関係があると認めるにはどの程度の関連性(唯一又は主要な理由でなければならないのか、又は寄与の程度でよいのか等)が要求されるのか等を挙げることができる。

次に、第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会(以下「難民専門部会」という。)による「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」(2014年12月。以下「難民専門部会の提言」という。)の「提言Ⅱ」には、「保護対象の明確化」以外にも、「手続きの明確化」が提言されているところ、一部の先進国で行われているように、信ぴょう性の評価基準や手法、面接の手法や面接記録の取り方についてできる限り明確化した基準を作成した上、できる限り公開すべきである。また、諸外国で行われているように、出身国別・難民申請者のプロファイル(背景・経歴)別に、詳細な難民該当性の評価に関する資料を作成し、同様のケースの先例・指針とすることも、適正性だけでなく、効率性の観点からも有用である。このような例としては、英国やニュージーランドのCountry Guidance Casesが挙げられる。

さらに、難民認定の透明性と質を更に向上させるための具体的措置として、諸外国で行われているクオリティ・イニシアティブのような、国際難民法の外部の専門家(UNHCR等)による認定の過程のモニタリング等を実施することを検討し、次回の出入国在留管理基本計画に盛り込むべきである。

2 人道的な配慮を理由に在留を認める者の対象の明確化について

(1) 難民申請を行った者の家族生活などを理由とする在留特別許可の規定の整備

ア 立法上の措置

【現行入管法】

(退去強制手続との関係)

第61条の2の6

(略)

4  第50条第1項の規定は、第2項に規定する者で第61条の2の4第5項第1号から第3号までのいずれかに該当することとなったもの又は前項に規定する者に対する第5章に規定する退去強制の手続については、適用しない

【改正試案】以下のように改める。

4 第50条第1項の規定は、前項に規定する者に対する第5章に規定する退去強制の手続については、適用しない。

現行法61条の2の6第4項は、①仮滞在許可を受けていたが仮滞在許可を取消された難民申請者(61条の2の4第2項に規定する者(仮滞在を受けた者))で、61条の2の4第5項1号から3号までのいずれかに該当することとなったもの(仮滞在許可が取り消されたもの)、②そもそも仮滞在許可を受けていない難民申請者及び仮滞在許可を受けていたが仮滞在許可の終期が到来した者(前項(61条の2の4第3項)に規定する者)について、すなわち、難民申請者全般に、退去強制手続における在留特別許可の判断(50条1項)を適用しないとするものである。

この規定は、一度でも難民認定申請をしたことのある当事者には、50条1項の規定の適用が一律除外されるとも解釈しうるため、50条に基づく在留特別許可しない旨の判断を含む裁決が存在しないとされ、その職権撤回処分を求める再審情願が不可能であるとも解釈し得る(実際の行政実務の運用はこのようになっている)。

以上を前提として、上記のような場合には、難民該当性でなく、婚姻、出産などの家族生活の保護が専ら問題となる場合であっても、難民申請をせざるをないという構造的問題を生じさせている。

そこで、婚姻、出産といった家族生活の保護が主に問題となる場合に、退去強制手続上の在留特別許可(ないし再審情願)を可能とすることで、難民申請と家族生活などの在留特別許可の整理を図るため、「現に」難民申請中のものに限り50条の適用がないものとするよう、本条を改正すべきである。

イ 運用上の措置

在留特別許可のあり方については、「在留特別許可に係るガイドライン」が公表されているが、この内容については、少なくとも、子どもの最善の利益、家族生活の尊重または私生活に対する恣意的な干渉の禁止、無国籍者の保護などの国際人権条約上の基準と整合性させるべく、改訂すべきである。

(2) 補完的保護を理由とする在留許可の規定の整備

ア 補完的保護の導入とその要件(対象)の明確化

【現行入管法】

(在留資格に係る許可)

第61条の2の2

(略)

2  法務大臣は、前条第1項の申請をした在留資格未取得外国人について、難民の認定をしない処分をするとき、又は前項の許可をしないときは、当該在留資格未取得外国人の在留を特別に許可すべき事情があるか否かを審査するものとし、当該事情があると認めるときは、その在留を特別に許可することができる。

【改正試案】2項の末尾に以下の記載を追加する。

ただし、審査の結果、第53条第3項各号に掲げる国以外に当該在留資格未取得外国人の送還先が存在しないこと又は当該在留資格未取得外国人を送還した場合に重大な危害を被る現実的な危険が存在することが認められた場合には、その在留を特別に許可しなければならない。

(ア) 補完的保護の対象の明確化(要件の明確化)

現行法61条の2の2第2項は、「法務大臣は、前条第1項の申請をした在留資格未取得外国人について、難民の認定をしない処分をするとき、又は前項の許可をしないときは、当該在留資格未取得外国人の在留を特別に許可すべき事情があるか否かを審査するものとし、当該事情があると認めるときは、その在留を特別に許可することができる」と規定し、条約上の「難民」にあたらない場合についていわゆる人道配慮の規定を設けている。

しかし、そもそもその要件が法律上規定されていないことから、その要件を明確にするため、上記のとおりこれを定めるべきである[6]

①  53条3項各号に掲げる国以外に送還先が存在しない場合

退去強制手続における送還禁止規定が53条に規定されており、難民ではない場合にも送還の場面においては同条の適用がある。

しかしながら、このような状況に送還禁止するだけでは、送還されないにとどまり、全件収容主義を前提に収容され続けることとなる。例外的に仮放免状態となったとしても就労は禁止されあまりにも過酷な状況が継続することとなる。

そこで、これらの場合には、ドイツ法を参考に、在留資格を取得する制度とすべきであって、退去強制手続の中においては50条の考慮要素とすべきであるが、難民認定手続においては現行法61条の2の2第2項の要件として明確化すべきである。

② 重大な危害を被る現実的な危険を有する場合[7]

現行法53条3項は、送還禁止国として「難民条約第33条第1項に規定する領域の属する国(法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合を除く。)」(1号)、「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約第3条第1項に規定する国」(2号)、「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約第16条第1項に規定する国」(3号)を規定する。

しかし、自由権規約6条に違反する死刑存置国への送還、紛争国への送還(戦争避難民)等を含めて禁止するため、EU指令を参照して同条項に「重大な危害を被る現実的な危険を有する場合」を加えるとともに、これらの場合にも在留資格を取得できるよう規定を整備するべきである。

(イ)補完的保護としての判断の羈束化

現行法61条の2の2第2項は、「その在留を特別に許可することができる」として裁量処分とするが(その意味で「人道配慮は補完的保護ではない」と言われる)、本来は補完的保護は権利性を有するもの(一定の要件を満たす場合には羈束的に認められるもの)であり、補完的保護を導入するため、一定の要件を満たす場合には必要的になされなければならないものとすべきである[8]

そのため、61条の2の2第2項の文言は、「在留を特別に許可することができる」から「在留を特別に許可する」との規定ぶりに改めるべきである。

なお、従前に裁量的に救済されてきた事情については、「その他当該在留資格未取得外国人の在留を特別に許可すべき事情」に含まれるものであり、従前と同様に取り扱われるべきである。

(3) 在留資格を有する外国人の難民申請に対する補完的保護の判断の規定の整備

【現行入管法】

※前掲の第61条の2の2第2項に、在留資格未取得外国人にかかる定めはあるが、短期滞在等の在留資格を有する外国人(難民申請者)については定めが欠落している。

【改正試案】以下の条項(第2項の2)を新設する。

(在留資格に係る許可)

第61条の2の2

22 前項の規定は、前条第1項の申請をした在留資格を有する外国人(6月以下の在留期間が決定された者に限る。)について、難民の認定をしない処分をする場合、又は第1項の許可をしない場合に準用する。この場合において、前項中「当該在留資格未取得外国人の在留を特別に許可すべき事情」とあるのは「当該外国人の在留資格変更を許可すべき事情」と、「在留を特別に許可」とあるのは「在留資格変更を許可」と読み替えるものとする。

現行法では、在留資格を有しない難民申請者に対する在留を許可する処分(いわゆる人道配慮)に係る判断を義務付ける規定は整備されているものの(現行法61条の2の2第2項)、下表のとおり、在留資格を有する難民申請者に対して在留を許可する処分(いわゆる人道配慮)に係る判断を義務付ける規定を欠いている。

すなわち、法律上は、在留資格を有する難民申請者に対する在留を許可する処分(いわゆる人道配慮)を判断しなければならない旨の規定は存在しないところ、補完的保護は在留資格を有する難民申請者にとってもその判断の機会を確保すべきであることから、これに応じた規定を整備すべきである。

難民認定後の在留資格の規定 人道配慮の判断の義務化
在留資格を有しない難民申請者 61条の2の2第1項 61条の2の2第2項
在留資格を有する難民申請者 61条の2の3 規定がない

3  難民認定における手続の整備(代理人の同席等)

(1) 不受理の禁止

【現行入管法】

※61条の2の2第1・2項に、難民認定申請の受理及び受理後の処理に関する定めが欠落している上、行政手続法の適用も除外されている。

 

【改正試案】以下の条項(第2項の2)を新設する。

第61条の2(難民の認定)

(略)

法務大臣は、第1項の申請があったときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、その他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた難民の認定又は難民認定しない処分を判断しなければならない。

現行の行政手続法では、「難民の認定に関する処分」が適用除外とされているため(同法3条10号)、難民認定手続には同法7条(申請の応答義務すなわち不受理・返戻の禁止)[9]の適用がない。

しかしながら、それは難民申請に対する不受理・返戻を認める趣旨ではない一方、実務では不受理・返戻の事案も散見されるとの指摘が弁護士又は支援者からされているところである。

そこで、難民認定申請の不受理・返戻を明示的に禁じるため、この規定を置くべきである[10]

(2) 代理人

【現行入管法】

※61条の2においては、代理人に関する定めも欠落している。

【改正試案】以下の条項(第2項の2)を新設する。

(難民の認定)

第61条の2

(略)

4 第1項の申請は、代理人によってすることができる。

5 前項の代理人は、各自、申請者のために、当該申請に関する一切の行為をすることができる。

現行法には難民申請の代理人につき明文の規定がない。

しかしながら、これもまた難民申請者の代理人の選任を禁じる趣旨ではないと思われるが、難民認定手続における適正手続保障と難民申請者の権利保護、そして適正な難民認定制度の運用といった観点からも、難民申請段階から代理人選任権を保障することは必要不可欠である。

しかし、実務上、難民申請そのものも代理人が行うこともできず(そうであるがゆえに不受理・返戻が生じる)、難民調査官によるインタビューの日時の調整も、処分(結果)の告知の日時の連絡も全て代理人には直接されない実務となっており、インタビューへの代理人の立会も実務上は認められていない。このように一次手続全体にわたって代理行為が広範な制約を受けている結果として、申請者に対する権利保障の担保は極めて脆弱である。

一方、二次手続(難民不認定に対する審査請求。61条の2の9以下)には、原則として行政不服審査法の適用がある(行政不服審査法7条1項10号参照)。一部に行政不服審査法の適用除外・読み替え規定が存在するものの(61条の2の9第6項)、行政不服審査法12条の適用があることから、審査請求においては、審査請求人は弁護士の代理人を選任することができる[11]。その他、行政不服審査法上の代理人としての各種活動にかかる規定の適用もあり、口頭意見陳述・審尋期日への出席や意見陳述等も認められている。この点でも、一次手続における手続保障規定の欠落は際立っているのである。

そこで、二次手続との不均衡を解消し、行政手続法の適用除外の穴を埋める趣旨で、入管法上の明文の規定をもって、必要最小限の規定の整備をしようとするのが、上記試案である。

第3 まとめ

当会議は、本専門部会に対し、今後の意見取りまとめの過程で、以上に述べた事項について十分に議論がなされ、「庇護を要する者の適切な保護」のための方策が適切に取りまとめられることを改めて要請する次第である。

以上

≪本意見書に関する連絡先≫

全国難民弁護団連絡会議事務局

〒160-0004 東京都新宿区四谷1-18-6 四谷プラザビル4階

いずみ橋法律事務所内

電話:03-5312-4827 Fax:03-5312-4543

Eメール:jlnr@izumibashi-law.net

URL:http://www.jlnr.jp/

[1] 2011年11月、国会で全会一致で採択がなされた決議でも、「国内における包括的な庇護制度の確立」が政府に要請されていることを想起せねばならない。」とされている。

[2] イラン人複数回申請者(改宗者)の難民不認定処分を取り消すとともに法務大臣に難民認定処分の義務付けを行った、東京高裁令和2年3月18日判決(令和元年(行コ)第255号事件)とその原審の東京地裁令和元年9月17日判決(平成30年(行ウ)第237号事件)

[3] ミャンマーの複数回申請者(カチン族女性)の難民不認定処分を取り消すとともに法務大臣に難民認定処分の義務付けを行った、東京地裁令和2年3月10日判決(平成29年(行ウ)第166号事件)

[4] 第4次出入国管理政策懇談会の難民問題に関する専門部会(部会長:横田洋三中央大学教授(当時))の「難民認定制度に関する検討結果」では,「(3)難民認定申請中の者の法的地位について」論じ,「現行法の下では,難民認定を申請した者が不法滞在者であれば,退去強制事由該当者として退去強制手続が進められることとなる。そのため,申請者が不法滞在者の場合,難民認定申請手続と退去強制手続が同時に進行することとなり,申請者が退去強制手続のため当局に収容されることについて人権上問題であるとの批判があることも事実である」(2002年11月中間報告)として「このような実情を踏まえて専門部会において検討を重ねた結果,難民認定申請者については,安心して審査が受けられるよう,ア法務大臣による難民認定の許否の決定(異議申出を含む。)が下されるまでの間は,退去強制事由該当者であっても退去強制されないよう法的に保障すること」(2003年12月最終報告)としたのである。

[5] 第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会の「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」(2014年12月))の提言III①においても、「難民該当性に関する判断の規範的要素を、我が国でのこれまでの実務上の先例や裁判例を踏まえ、また、UNHCRが発行する諸文書、国際的な実務先例及び学術研究の成果なども参照しつつ、可能な限り一般化・明確化することを追求するべきである」とされている。特に後者の指摘は個別把握説を前提としないものである。

[6]  難民専門部会の提言の「提言Ⅰ②」は、「また、近年の国際社会の動向を踏まえつつ、国際社会の一員としての我が国の立場から、例えば、世界の各地域において発生した武力紛争による本国情勢の悪化による危険、あるいは、拷問等禁止条約に規定する拷問を受ける危険などから我が国に逃れてきた者等について、まずは、難民該当性の判断を行い、その結果難民条約上の難民に該当しないと考えられた場合であっても、我が国として国際的に保護の必要がある者に対しては、国際人権法上の規範に照らしつつ、我が国の入管法体系の中で待避機会としての在留許可を付与するための新たな枠組みを設けることにより、保護対象を明確化するべきである。」としている(同9頁) 。

また、難民専門部会報告の提言Ⅰ③は、「その際の要件については、例えが、欧州連合の国際的保護に関するルールであるEU資格指令で採用されている、「補完的保護」(補充的保護・Subsidiary Protection)における「重大な危害」に関する規定などが、一つの参考になろう」とする(同9頁)。

[7] 難民専門部会の提言は、「国際人権法上の規範を基礎とする保護の対象範囲としては、現行の入管法で送還禁止が規定されている拷問等禁止条約、強制失踪条約に加え、人権諸条約、特に、自由権規約(国際人権 B 規約)に規定する「拷問及び残虐な取扱い、刑罰等の禁止」や、児童の権利条約に規定する「児童の最善 の利益」などを考慮すべきとの意見があった」とする(同10頁)。

また、同提言は、「欧州においては、『第三国国民又は無国籍者の国際的保護の受益者としての資格、難民又は補充的保護を受ける資格のある者の統一した地位、及び 付与される保護内容についての基準に関する2011年12月13日付け の欧州議会・欧州理事会指令』(EU 資格指令)において、『重大な危害』 として、『出身国における申請者への拷問若しくは非人道的な若しくは品位 を傷つける取扱い、又は刑罰』、『国際又は国内武力紛争の状況における無 差別暴力による文民の生命又は身体に対する重大かつ個別の脅威』などと規定している(第15条)」とする(同10頁)。

[8] 難民専門部会報告書は、「一般的に『補完的保護』とは、難民条約の解釈によっては難民と認定されないものの、各種の理由から本国への帰還が可能でないか望ましくない者に対し、国際的な人権・人道上の規範によって国際的保護の機会を付与する考え方である」とする(同10頁)。

[9]  行政手続法7条(申請に対する審査、応答)「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。」

[10] 難民専門部会の提言「提言Ⅱ」においては、誤用・濫用対策とともに、「申請者の置かれた立場や、行政手続一般に認められているところの手続保障にも十分に配意しつつ、透明性のある手順に従うことが必要である」とし(同23頁)、行政手続一般に認められているところの手続保障に十分に配慮することと併せて要求していたところである。

[11] 行政不服審査法

(代理人による審査請求)

第12条 

1 審査請求は、代理人によってすることができる。

2 前項の代理人は、各自、審査請求人のために、当該審査請求に関する一切の行為をすることができる。ただし、審査請求の取下げは、特別の委任を受けた場合に限り、することができる。

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