法相会見(2021年10月8日)東京高等裁判所における国家賠償請求訴訟判決に関する質疑について

法務大臣閣議後記者会見の概要「東京高等裁判所における国家賠償請求訴訟判決に関する質疑について」(2021年10月8日)(外部リンク:法務省ウェブ

東京高等裁判所における国家賠償請求訴訟判決に関する質疑について 

【記者】
 9月22日に東京高裁で,2014年12月にチャーター便で強制送還されたスリランカ人男性の国賠訴訟の判決が出たのですが,国が上告を断念し,先日10月6日に判決が確定しました。
 これは,難民不認定とされた人の裁判を受ける権利を奪ったことであるとか,行政手続上も適正手続がされていなかったということで違法であるということ,なおかつ,違憲であるということで憲法違反にも踏み込んだ判決でした。同類の裁判というのは今年1月にも名古屋高裁で,同じ飛行機で強制送還されたスリランカ人男性の請求を認める判決が出て,今回はそれに加えて憲法違反であると,そこまで踏み込んだ判決でした。
 東京高裁判決では,難民申請が濫用であったかどうかも含め司法審査の対象とされるべきであるということで,現在は難民認定制度の審査の在り方についても司法審査を入れるべきであると,そういう踏み込んだ判断をされました。
 この件について入管庁は,今年6月に通達を出しているのですが,これは難民不認定の告知ですとか,強制送還の時期の告知などについて見直すという内容の通達となっています。この中では,このような形で強制送還された人が,どういう被害を受けたかや,今の難民認定手続そのものが適正なのかどうかといったことについての内容は全く含まれていません。そういった運用の見直しということにはなっていないのです。
 ということでありまして,今回の違憲判決を受けて,強制送還されたことで,このような強制送還と今までチャーター便の強制送還も2013年以降8回行われています。こういったチャーター便の強制送還だけではなく,難民申請中に送還されたり裁判を受けずに送還された人がたくさんいるわけですが,その実態調査を法務省としてきちんとやるお考えがあるのかどうか。
 今回判決が出たお二人に対して,あるいは,名古屋高裁の人も含めてですが,裁判を受ける権利を保障するということで,裁判を受ける場合に日本に入国することを認めるということを考えていらっしゃるのかどうか。今の難民認定制度の在り方全体を含めて,もしお考えがあれば,今言った具体的な点も含めてお答えいただけると助かります。

【大臣】
 御指摘の事案については,従来,出入国在留管理庁において送還を拒む者の集団送還を円滑に実施する中で行われていたものであると認識しています。
 今年1月の同種の訴訟についての名古屋高等裁判所判決を踏まえ,御存じのとおり,今年6月に通達を発出し,難民審査請求に理由がない旨の裁決を通知した被退去強制者に対しては,送還計画を立てた上で送還予定時期を告知すること,送還予定時期は裁決告知から2か月以上後にすることを原則とすることなど,既に運用を変更しています。
 また,裁判のための入国についてのお尋ねがありましたが,一般論として,本邦に上陸しようとする外国人から申請があったときは,入管法に規定する上陸のための条件に適合しているかどうかを審査し,審査の結果,当該外国人が上陸のための条件に適合している場合は,上陸が許可されることになります。

【記者】
 今回の東京高裁判決の一番のポイントは,裁判を受ける権利を与えないまま強制送還をやってしまったということなので,今お話しした送還を拒む者の送還を実施したいから集団送還したんだというような理由だけでは全く説得力がないです。それが違憲だという指摘を受けたのです。
 昨日,原告の1人が,オンラインで今のお気持ちを答えました。入管がやってきたやり方というのはやはりとても汚い,今回30万円の賠償というのが出るということですが,謝罪は一切なく,やはり真摯に謝罪してほしいと。彼を含めて,分かっているだけでも48人の方が,2014年と2016年に裁判を受ける手続を得ないまま,集団送還されました。これについて,違憲をしてしまったことを入管庁が認めるのであれば,自分たちも含めて,もう一度難民申請をさせてほしいと言っています。
 大臣として,これに真摯に応えるつもりがあるのかという点と,やはり謝罪が何よりも必要だと思います。担当者は,お金を払うから口座番号だけ教えてくれという電話だけを昨日弁護士に連絡してきたと言っていました。謝罪をする,お言葉を出すつもりはあるのか,お願いいたします。

【大臣】
 出入国在留管理庁においては,本年1月の同種の訴訟についての名古屋高等裁判所判決を踏まえて,本年6月に通達を発出して,既に運用を変更しています。
 先ほど申し上げましたが,難民審査請求に理由がない旨の裁決を通知した被退去強制者に対しては,送還計画を立てた上で送還予定時期を告知すること,送還予定時期は裁決告知から2か月以上後にすることを原則とすることという内容の通達を発出して,既に運用を改めています。
 原告に対する対応の在り方については,まずは,入管庁において適切に検討するものと考えています。

【記者】
 適切に検討したいということは,今後,自分たちのやった違法性を認識するのであれば,謝罪及びもう一度連絡のつく方たちの難民申請を認める,つまり,その場合,日本に上陸してもらって,難民申請手続を得ることを認めるということになるのですが,これが検討の中に入っているかという点。
 それと,前の大臣が明らかにしていないのが,2020年の3月にも,同様の裁判を受ける権利を与えないまま集団送還した事案があるらしいのですが,一体何人の方が今回の彼らと同様に裁判を受ける権利を得られないまま,強制送還されたかの人数を明らかにしていません。こういったことも,さっき言った被害実態を明らかにする上でも,つまびらかにしていただきたいのですが,この状況,先ほどの質問にもあった,過去にどのくらいの人たちがこのような状況にあって,今どのような状況に置かれているのかを含めて調査,そして改善計画を含めて公表するつもりはありますか。

【大臣】
 今後の対応については,入管庁において検討していきたいと思っています。

【記者】
 今回の東京高裁判決,チャーター便送還のスリランカ人の集団送還の件ですが,この件についての被害実態,この件だけではなく過去の2013年以降のチャーター便送還による難民申請者の被害の実態や,今後どのような救済措置を執るかということについて,先ほど「検討します」というお話でしたが,これはきちんと公表されるのか,今回の裁判の原告に対して,きちんとどのような対策を取りますという結果を報告するということは考えていらっしゃるのかということが1点。
 それと,難民申請者を巡っては,先ほどから言っていますように非常にたくさん問題があります。2014年にも難民問題に関する専門部会が開かれましたが,その検討課題はほとんどまだ解決されていません。
 その一方で,送還忌避者という言葉だけが独り歩きして,難民申請の濫用であるということで,今回のチャーター便送還も行われてきたわけですけれども,こういった基本的な難民認定,それから今仮放免で苦しんでいる難民申請者もたくさんいますが,そうした人に対する実態調査ですとか,いろいろな自治体から申出があったりしているわけですけれども,どういう救済措置を講じるのかということを,本当にそういう当該の人たちは,きちんと法務省が在留特別許可の件も含めてやってくれるのかということを非常に懸念して,ずっと生活を耐えている状態です。
 本当に難民申請者が今日本で苦しんでいるわけですが,そういった実態に対してきちんと向き合うつもりがあるのかどうか,そういったことをしっかりと検証して公表するということが今必要だと思うのですが,それについて大臣がどう考えていらっしゃるのか。
 今回の裁判の件と,それから難民申請者が今置かれている全体の状況について,どのように対処していきたいか,基本的な考えを聞かせてください。

【大臣】
 まず,前段の御質問についてですが,これは入管庁において検討をさせます。
 そして,難民認定についての御質問ですが,我が国において難民認定申請がなされた場合は,申請者ごとにその申請内容を審査した上で,難民条約の定義に基づき,難民と認定すべきかどうかということを適切に認定しています。
 制度面においては,仮に難民とは認定されなかった場合であっても,その判断について,不服申立てを行うことができることになっており,不服申立手続では,元裁判官,大学教授,弁護士等の外部有識者からなる難民審査参与員が3名1組で審理を行い,法務大臣は,その意見を尊重して裁決を行っています。
 さらに,難民には当たらないとの判断に不服があれば,司法判断,裁判への道も開かれているわけです。
 また,より適正な運用をしていくため,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との協力関係を構築し,職員に対する研修も行っていただいているところです。
 さらに,出入国在留管理庁では,難民該当性に関する規範的要素の明確化,難民調査官の能力向上,出身国情報の充実を3つの柱として,難民認定制度運用の一層の適正化を図っていくこととしているものと承知しています。
 いずれにしても,法務省としては,難民認定制度の適正な運用に向けた取組をしっかり行うことにより,今後とも,真に庇護を必要とする者を確実に保護したいと考えています。

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