「第 7 次出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」(専門部会)の提言に基づき第 204 回国会(2021 年)に提出された出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案に関する UNHCR の見解」(外部リンク:UNHCR)
日付:2021年4月9日
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)から「出入国管理及び難民認定法」の政府改正案に関する見解が入管庁に提出されました。
— 全国難民弁護団連絡会議(全難連) (@zennanren) April 10, 2021
送還停止効の停止はルフールマン(難民条約等により送還が禁止される国への送還)の可能性を高めるため望ましくない等、多くの再検討を求めています。https://t.co/Lnw2TEtn4j pic.twitter.com/hfpE1pceO7
改正法案第 61 条の 2 の 9 第 1 項-第 3 項(現行入管法第 61 条の 2 の 6)(退去強制手続と 専門部会報告書の関連個所
1
第 7 次出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」(専門部会)の提言に基づき
第 204 回国会(2021 年)に提出された
出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案に関する UNHCR の見解
2021 年 4 月 9 日
目次
I.はじめに …………………………………………………………………………………………………………………………………… 2
II.長期的提言:包括的な庇護法制に向けて ………………………………………………………………………………….. 3
III.短期的提言:専門部会報告書を受けた入管法改正に関する見解 ……………………………………………… 5
1.特定の事案に関する自動的な送還停止効の解除について(改正法案第 61 条の 2 の 9 第 4 項 第
1 号および第 2 号) …………………………………………………………………………………………………………………… 6
1.1 特定の事案における自動的な送還停止効の解除:総論 …………………………………………………… 8
1.2 保護のための「相当の理由がある資料」を提出せず複数回(3 度目以上)の申請を行う者(改正
法案第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号) ………………………………………………………………………………….. 10
1.2.1 複数回申請の処理一般に関する UNHCR の見解 ……………………………………………………. 10
1.2.2 予備審査および保護の「相当の理由がある資料」の解釈 ………………………………………….. 11
1.2.3 効果的な救済措置 …………………………………………………………………………………………………. 12
1.2.4 公正性を損なうことのない、複数回申請についての迅速手続 ……………………………………. 15
1.3 一定の犯罪歴がある者またはテロリズムや暴力主義的破壊活動等に関与するおそれがあると
疑われる者(第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2 号) ………………………………………………………………………. 16
1.3.1 難民保護を損なわずに安全上の懸念に対処する …………………………………………………….. 17
1.3.2 聴取される権利、効果的な救済措置に対する権利および 1951 年の難民条約第 1 条に基
づく完全な審査を受ける権利 ……………………………………………………………………………………………. 18
1.3.3 第 33 条第 2 項に基づくノン・ルフールマンの例外-一般的指針 ……………………………… 19
1.3.4 1951 年の難民条約第 33 条第 2 項にいう「国の安全にとっての危険」 ……………………….. 20
1.3.4.1 総論 ……………………………………………………………………………………………………………….. 20
1.3.4.2 手続的問題 …………………………………………………………………………………………………….. 21
1.3.5 1951 年の難民条約第 33 条第 2 項にいう、「特に重大な犯罪」を理由とする「社会にとって
の危険」に基づく例外 ………………………………………………………………………………………………………. 22
1.4 難民認定の原処分の質を向上させるための措置 ……………………………………………………………. 23
1.5 明らかに理由がない申請の概念 ……………………………………………………………………………………. 24
1.6 送還停止効の解除に関する結論要約 ……………………………………………………………………………. 25
2.補完的保護について(改正法案第 2 条第 3 号の 2) …………………………………………………………….. 26
3.退去の命令または旅券発給申請命令に従わない行為等に対する罰則の創設について(第 55 条
の 2 第 1 項および第 72 条第 8 号、第 52 条第 12 項および第 72 条第 6 号) …………………………….. 27仮訳・原文英語
2
4.「監理措置」の導入(改正法案第 44 条の 2 第 1 項および第 52 条の 2 第 1 項)および収容代替措
置の利用拡大の努力 ………………………………………………………………………………………………………………. 32
5.収容期間の上限および収容(継続)決定についての独立した審査 …………………………………………. 36
6.新設される「監理措置」の対象とされている間に逃亡したことに対する罰則の創設(改正法案第 72
条第 4 号) ……………………………………………………………………………………………………………………………… 37
7.その他の論点 ……………………………………………………………………………………………………………………… 39
7.1 収容環境および被収容者の処遇 ………………………………………………………………………………….. 39
7.2 在留の正規化および合法的な移住の選択肢 …………………………………………………………………. 39
7.3 COVID-19、収容代替措置および在留の正規化 ……………………………………………………………. 40
7.4 難民の権利の増進 ……………………………………………………………………………………………………….. 41
7.5 国際保護の必要がないと判断された人々の処遇 ……………………………………………………………. 41
I.はじめに
1.UNHCR は、難民およびその任務内にあるその他の人々に対して国際保護を提供し、かつ難民
問題の恒久的解決策の追求に関して政府を援助する責任を国連総会から委ねられた機関1として、
この見解を提出する。設置規程に定められている通り、UNHCR は、特に「難民保護のための国際
条約の締結及び批准を促進し、その適用を監督し、かつその修正を提案する」2ことによって国際保
護に関わる任務を履行している。設置規程に基づく UNHCR の監督責任については日本も締約国
である 1951 年の難民条約3の第 35 条であらためて述べられており、その規定によれば、締約国は
「国際連合難民高等弁務官事務所(……)の任務の遂行に際し、〔同〕機関と協力する」ことを約束
しており、「特に、〔同〕機関の条約の適用を監督する責務の遂行に際し、〔同〕機関に便宜を与える」
とされる。同じ約束は 1967 年議定書4第 II 条にも掲げられている。
2.2020 年 6 月 19 日、第 7 次出入国管理政策懇談会の下に設けられた「収容・送還に関する専門
部会」(専門部会)が報告書を発表して提言を行った。UNHCR は、検討の際にオブザーバーとして
見解を共有する機会を得た。専門部会の提言およびその他の考慮事項に基づき、法務省の出入
国在留管理庁(入管庁)は、2021 年 2 月 19 日、出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法
律案(「改正法案」)を国会に提出した。UNHCR は、収容/送還との関連で、また国際保護を必要
とする人々の保護を確保しながら庇護制度の濫用の問題5に対処する方法との関連で、入管庁が
直面している課題を認識する。これは世界中で一般的に見られる課題である。UNHCR は、これらの
問題に対応するために入管庁が行っている多大な努力(後掲第 47 段落参照)を評価するとともに、
改正法案の中には庇護希望者および難民の保護の強化につながると期待されるものもあることを歓
1 国際連合難民高等弁務官事務所規程(UN General Assembly Resolution 428 (V), Annex, UN Doc. A/1775,
https://www.unhcr.org/jp/statutetext)第 1 項参照。
2 前掲(8)(a)。
3
UN Treaty Series No 2445, Vol.189, P137.
4
UN Treaty Series No. 8791, Vol. 606, P267.
5 「明らかに理由がない申請の概念」については本文書の第 30-32 段落参照。仮訳・原文英語
3
迎する。一方で、1951 年条約および日本が締約国であるその他の人権文書6に基づく日本の義務
に照らして非常に重大な懸念を生じさせ、国会議員および関係するその他のアクターによるさらなる
議論が必要な様々な側面が存在する。
3.本見解では、UNHCR が日本に対して検討を提案する長期的提言を最初に掲げた後、UNHCR
にとって特に関心が高い改正法案および専門部会の関連の提言について取り上げ、UNHCR が口
頭および書面で提出してきた見解をあらためて述べる。UNHCR はその際、適用される国際基準だ
けではなく、報告書の各提言に関連して「検討」に記載された専門部会委員の関連の所見と発言の
一部をも参照する。本見解が、法改正をめぐる議論の参考として議論へ寄与することを希求するす
るものである。本見解の一部は、改正入管法およびその他の運用上の改革の実際の運用について
検討する際にも有用となる場合があろう。
II.長期的提言:包括的な庇護法制に向けて
4.2011 年 11 月、難民条約採択 60 周年および日本の同条約加入 30 周年を記念して、日本の国
会は「難民の保護と難民問題の解決策への継続的な取り組みに関する決議」を全会一致で採択し
た。同国会決議は、日本政府に対して「国内における包括的な庇護制度の確立」を求めた。
5.UNHCR 駐日事務所の「日本と世界における難民・国内避難民・無国籍者に関する問題につい
て(日本への提案)更新版」(以下「日本への提案」、2017 年 5 月)7で詳述されている通り、UNHCR
の見解では、このような包括的アプローチは難民保護全体を包含するものであり、これには包括的
な庇護法の制定、専門機関の設置、庇護希望者の適切な処遇条件(収容代替措置(ATD)の活用
を含む)、公正かつ効率的な庇護手続、難民の社会統合および第三国定住/人道的受入れも含
まれる。無国籍への対応も、このような包括的プロセスの延長線上にある。
6.「日本への提案」(2017 年 5 月)ですでに取り上げた内容を繰り返すことは避けるものの、以下に
続く「短期的提言」の背景を示すため、いくつかの側面についてはあらためて主旨を示しておく価値
がある。第 1 に、処遇条件、難民認定および社会統合問題を含む庇護全体を総体的にカバーする、
適切かつ包括的な法的枠組みの策定が推奨されるところである。このような法律(出入国管理関連
の事項を規律する法律とは別に定めることも考えられる)では、庇護希望者および難民の権利およ
び義務を明確に規定するとともに、関係諸機関の責任についても言及することが求められる。また、
難民関連の主要な事項をすべて担当する専門の政府機関を設置し、現在さまざまな政府機関が扱
っている業務を集約させることを検討するのも有用であろう。包括的な法律の制定および専門機関
の設置は、必ずしも不可欠というわけではないものの、庇護関連の課題へのより総体的かつ効率的
な保護中心アプローチを確保する一助となる、効果的措置である。専門機関を設けない場合、少な
くとも、難民認定およびその他の庇護関連業務を担当する現在の諸機関・部署を増強し、整理しか
つ格上げするための制度的改革を検討することが有用であろう。
6 日本は、児童の権利条約、自由権規約、拷問等禁止条約、社会権規約その他の人権文書の締約国である。
7 さらに詳しくは、「日本と世界における難民・国内避難民・無国籍者に関する問題について(日本への提案)更新版」
(2017 年 5 月) 参照。 https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/protect/Points_for_Consideration_JAPANESE_May_2017.pdf 仮訳・原文英語
4
7.公正かつ効率的な庇護手続8は、1951 年条約および他の国際人権法上の義務に基づいて国際
保護を必要とする人々を特定するためにきわめて重要である。前掲「日本への提案」(2017 年 5 月)
で明らかにされている通り、難民の定義を全面的かつ包摂的に解釈/適用することに加え、特に以
下の中核となる要素が確保されなければならない。すなわち、(1)難民認定手続における不服申立
ての独立性、(2)庇護希望者に対する全段階での法律扶助および代理人等による支援の確保、(3)
独立かつ最新の、関連性・信頼性のある出身国情報(COI)の収集と利用可能性、(4)庇護手続に
関与する全当事者、とりわけ判断権者(加えて通訳者、法的代理人や裁判官等)を対象とした継続
的な研修および能力育成、(5)複数回申請の取り扱いおよび補完的形態の保護(補完的保護)の付
与に関する基準および手続的保障を含む、適切な法律上の規定の導入、(6)十分な財源および人
的資源の配分、ならびに、(7)難民認定プロセスの質を常に確保するための(クオリティ・アシュアラン
スの)確立された仕組みである。国際保護の必要がないと判断された人々の取り扱いの枠組みを定
める法律も、重要な要素であると考えられる。これらの要素の多くが、UNHCR もオブザーバーとして
参加した難民認定制度に関する専門部会の提言(2014 年)に含まれている一方、入管庁は一部の
分野、特に(3)および(4)に関して相当の進展を達成し、(6)に関してもある程度の進展を達成した。入
管庁は現在(5)への対応に取り組んでいる(後掲第 47 段落も参照)。
8.無国籍への対応に関しては、無国籍者の地位に関する 1954 年の条約(無国籍地位条約)およ
び無国籍の削減に関する 1961 年の条約(無国籍削減条約)に加入することならびに無国籍者を保
護するための無国籍認定手続を設置することが望ましい9。
9.また、日本として、在留の正規化によるものを含む合法的な移住の選択肢または経路を整備す
ることも重要となろう10。そのような方策は、保護/無国籍関連の理由以外で難民認定手続を利用
8 例えば、UNHCR 執行委員会の結論第 8 号(XXVIII)「難民の地位の認定」-1977 年
(https://www.unhcr.org/jp/protect-committee-8)参照。公正かつ効率的な手続へのアクセスの重要性は、執行委員会結
論第 29 号(XXXIV)-1983 年、第 55 号(XL)-1989 年、第 65 号(XLII)-1991 年、第 68 号(XLIII)1992 年、第 71
号(XLIV)-1993 年、第 74 号(XLV)-1994 年、第 81 号(XLVIII)-1997 年、第 82 号(XLVIII)1997 年、第 85 号
(XLIX)-1998 年、第 92 号(LIII)-2002 年でも再確認されている。また、“Global consultations on international
protection/Third track: Asylum processes (Fair and efficient asylum procedures),” UNHCR, 2001
https://www.refworld.org/docid/3b36f2fca.html を含む UNHCR の膨大な資料群も参照。さらに、Chapter 7 “Making
asylum procedures fair and efficient,” in UNHCR, A guide to international refugee protection and building state asylum
systems, 2017, Handbook for Parliamentarians N° 27, available at: https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html;
UNHCR, Procedural Standards for Refugee Status Determination Under UNHCR’s Mandate (26 August 2020), available
at: https://www.refworld.org/docid/5e870b254.html(旧版の日本語訳は https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/2017/06/PSRSD.pdf より入手可能);「公正かつ効率的な庇護申請手続き:適用可能な国際基準
の非包括的概観」(2005 年 9 月 2 日、https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/protect/0509_rsd.pdf);
“UNHCR Discussion Paper: Fair and Fast – Accelerated and Simplified Procedures in the European Union” (25 July 2018),
available at: https://www.refworld.org/docid/5b589eef4.html; “UNHCR Aide-Memoire & Glossary of case processing
modalities, terms and concepts applicable to RSD under UNHCR’s Mandate (The Glossary),” (2020) available at:
https://www.refworld.org/docid/5a2657e44.html も参照。 また、UNHCR「難民認定基準ハンドブック-難民の地位の認
定の基準及び手続きに関する手引き-」(1979 年、2011 年改訂、https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/2017/06/HB_web.pdf)も参照。
9 さらに詳しくは、「日本と世界における難民・国内避難民・無国籍者に関する問題について(日本への提案)更新版」
(2017 年 5 月)、p.7 参照。 https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/protect/Points_for_Consideration_JAPANESE_May_2017.pdf
10 UNHCR「難民保護と混在的な人の移動についての 10 ポイントプランインアクション(2016 年アップデート)」第 9 章
「難民でない者の帰還枠組みと移民としての代替オプションの整備」(2016 年, pp.250-254 参照。日本語抄訳が専門部会
の第 4 回会合(2019 年 12 月 12 日)に提出されており、http://www.moj.go.jp/content/001318369.pdf より入手可能であ
る。仮訳・原文英語
5
する日本滞在希望者の問題に対処する一助になるはずである。
10.以上の点に関して日本がさらに前進することは、国際社会が行っている努力に対する重要な貢
献となり、また日本が賛意を示した「難民に関するグローバル・コンパクト」(GCR)11および「移住に関
するグローバル・コンパクト」(GCM)12ならびに GCR と GCM 双方が支持している「無国籍をなくすた
めの #IBelong キャンペーン」13にも合致するほか、日本がコミットしている持続可能な開発目標
(SDGs)14の達成にも寄与することになろう。特に、「国際保護のニーズの特定」という見出しの下、
GCR は第 62 段落で、公正かつ効率的な、適応力および整合性のある国内庇護制度の発展および
強化に関して各国を支援する「庇護能力サポートグループ」(ACSG)について言及しており、日本も
この仕組みを活用できよう。
III.短期的提言:専門部会報告書を受けた入管法改正に関する見解
11.総論的コメントとして、UNHCR としては、ノン・ルフールマン原則を含む国際難民法および国際
人権法上の原則が日本によって適正に遵守されることを確保するため、専門部会報告書および改
正入管法の実施プロセスにおいて日本政府に関連の貢献を行う用意がある。特に、法案で提案さ
れている改正の中でも、退去強制手続の自動的停止効(以下「送還停止効」、現在はすべての庇
護希望者に適用される)を一定の事案について解除する旨の提案は、ルフールマンの可能性を高
めるため、望ましくないものとして非常に重大な懸念を生じさせるものである。UNHCR としては、現
在は自動的に生ずる送還停止効に対する何らかの例外を法制化・実施することに限られた資源を
割くのではなく、難民認定の質をさらに向上させるための措置(難民認定制度に関する専門部会が
2014 年に行った提言の全面的実施および前掲第 7 段落で挙げたもののようなその他の課題に対
処するための努力の継続によるものを含む)をとることがきわめて重要であると考える。初回申請時
に良質かつ迅速な決定を行うことに対して資源を投入するこのような努力は、専門部会が検討を委
ねられた収容・送還の問題に根本的に対処する上でも役に立つことになろう。にもかかわらず、日
本が、改正法案で提案されているように自動的な送還停止効に対する何らかの例外の導入を決定
するのであれば、それはきわめて限定された事案に限られなければならず、初回の申請者が含まれ
てはならず、かつ、ノン・ルフールマン原則を確保するために――後述するように(後掲セクション 1.
自動送還停止効の解除を参照)適正な手続的保障を確立すること等により――適正な措置を整備
する必要がある。これは、専門部会報告書の関連個所で指摘されている通り、難民認定に関する原
決定の質を確保するための措置がすでにとられていることが前提である。
11
国際連合「難民に関するグローバル・コンパクト」(GCR、2018 年 12 月 17 日、https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/2019/04/Global-Compact-on-Refugees_JPN.pdf)。
12
国 際 連 合 「 安 全で 秩 序 あ る 正 規 移 住 の た め の グ ロ ー バ ル ・ コ ン パ ク ト 」 ( GCM 、2018 年 12 月 19 日 、
http://www.moj.go.jp/content/001312805.pdf)。
13 GCR セクション 2.9 および 2.8 ならびに GCR 第 20 項(e)参照。UNHCR が 2014 年 11 月に開始した、2024 年までの
10 年間で無国籍をなくすための「#IBelong キャンペーン」は 2014 年 12 月の国連総会決議で歓迎された。詳しくは
https://www.unhcr.org/ibelong/ 参照。
14 例えば外務省の特設ページ https://www.mofa.go.jp/policy/oda/sdgs/index.html 参照。仮訳・原文英語
6
1.特定の事案に関する自動的な送還停止効の解除について(改正法案 15第 61 条の 2 の 9 第 4 項
第 1 号および第 2 号)
入管法(現行法・改正法案)の関連条項および専門部会の提言の抜粋
の関係)は、大要、庇護申請を行っている者について退去強制手続の自動的停止 (退去強制の
執行そのものの停止を含む)を定めている。内閣提出の入管法改正案第 61 条の 2 の 9 第 4 項
は、このような保障の例外を新たに導入するものである。
具体的には、改正法案第 61 条の 2 の 9 第 3 項は、大要、「在留資格未取得外国人(UNHCR
注:難民申請または補完的保護の申請を行っている者)(……)について、第 5 章に規定する退
去強制の手続を行う場合には、(……)第 52 条第 3 項の規定による送還(……)を停止するもの
とする」と定める。
そして、改正法案第 61 条の 2 の 9 第 4 項は次のように定める。「前項の規定は、同項の在留資
格未取得外国人が次の各号のいずれかに該当するときは、適用しない。
一 (……)申請(UNHCR 注:難民申請または補完的保護の申請)前に当該在留資格未取得
外国人が本邦にある間に 2 度にわたりこれらの申請を行い、いずれの申請についても(……)
(UNHCR 注:棄却される)こととなつたことがある者((……)申請(UNHCR 注:すなわち、3 度目以
上の難民申請または補完的保護の申請)に際し、難民の認定又は補完的保護対象者の認定を
行うべき相当の理由がある資料を提出した者を除く。)
二 (UNHCR 注:日本にいる間に)16無期若しくは 3 年以上の懲役若しくは禁錮に処せられた
者(刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者又は刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者を
除く。)又は第 24 条第 3 号の 2、第 3 号の 3 若しくは第 4 号オからカまでのいずれかに該当する
者若しくはこれら(UNHCR 注:すなわち、入管法第 24 条第 3 号の 2、第 3 号の 3 若しくは第 4 号
オからカまで)のいずれかに該当すると疑うに足りる相当の理由がある 者」
現行入管法17第 24 条(前掲改正法案第 61 条の 2 の 9 第 4 項で参照されている規定)は退去
強制事由を定め、「次の各号のいずれかに該当する外国人については、次章に規定する手続に
より、本邦からの退去を強制することができる」とする。
第 24 条第 3 号の 2 は、退去強制事由の 1 つとして、「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資
金の提供等の処罰に関する法律(平成 14 年法律第 67 号)第 1 条18に規定する公衆等脅迫目的
15 出入国管理及び難民認定法(入管法)改正案(閣法)、2021 年 2 月 19 日:
http://www.moj.go.jp/isa/laws/bill/index.html より入手可能。
16 改正法案の規定では、当該刑の言渡しが日本の国内で行われたものか国外で行われたものかについて明示されてい
ないが、改正法案でこの規定が置かれている箇所を考慮すれば、この規定は日本国内におけるものに言及していると解
される。
17 出入国管理及び難民認定法(現行法)。http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail/?id=3039&vm&re
18 公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律(平成 14 年法律第 67 号、最終改正・平成
26 年法律第 113 号)第 1 条(参照英文 http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail/?vm=&re=&id=2977&lvm=0
2)。同条全文を参照するべきであるが、同条は例えば、公衆または国・地方公共団体もしくは外国政府等を脅迫する目仮訳・原文英語
7
の犯罪行為……、公衆等脅迫目的の犯罪行為の予備行為又は公衆等脅迫目的の犯罪行為の
実行を容易にする行為19を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者として法務大
臣が認定する者」を挙げている。
第 24 条第 3 号の 3 は、「国際約束により本邦への入国を防止すべきものとされている者」を挙
げている20。
第 24 第 4 号のオ~カは次の者を挙げている。
「オ 日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又
はこれを企て若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入している者
ワ 次に掲げる政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入し、又はこれと密接な関係を有
する者
(1)公務員であるという理由により、公務員に暴行を加え、又は公務員を殺傷することを勧奨す
る政党その他の団体
(2)公共の施設を不法に損傷し、又は破壊することを勧奨する政党その他の団体
(3)工場事業場における安全保持の施設の正常な維持又は運行を停廃し、又は妨げるような
争議行為を勧奨する政党その他の団体
カ オ又はワに規定する政党その他の団体の目的を達するため、印刷物、映画その他の文書
図画を作成し、頒布し、又は展示した者21
専門部会報告書の提言の関連個所抜粋
専門部会報告書の第 4 の 1(4)の提言(p.34)では次のように述べられている (太字は引用者)。
「① 後記③の庇護を要する者を適切に保護しつつ,難民条約第 33 条等の規定に反映されてい
るノン・ルフールマン原則の遵守を前提として ,送還停止効に一定の例外を設けること。例えば,
従前の難民不認定処分の基礎とされた判断に影響を及ぼすような事情のない再度の難民認定
申請者について,速やかな送還を可能とするような方策を検討すること。
② (……)なお,審査手続の合理化・効率化の検討に当たっても,適正手続を保障する観点か
ら,行政庁の判断の適正性について第三者によるチェックが機能するよう留意すること。また,初
回申請の面接では,申請者が自らの全ての事情を当初から述べることが難しいこともあり得ること
を考慮して事情聴取するなど,申請者の置かれた立場に十分に配慮すること。
③ 前記①及び②の施策の実施に際しては,庇護を要する者が確実に保護されるよう,国際的な
的をもって行われる人の殺害、傷害、ハイジャック行為、建造物の損壊または他の関連の行為を挙げており、また日本が
締結したテロ防止のための条約に掲げられた犯罪行為も含まれる。
19 同法第 3 条~5 条は、例えば資金またはこれらの罪の実行に資するその他利益を提供することによりこれらの罪の実
行を容易にするする行為に対する罰則を定めている。公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関す
る法律(平成 14 年法律第 67 号、最終改正・平成 26 年法律第 113 号)(参照英文
http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail/?vm=&re=&id=2977&lvm=02)。
20 第 24 条第 3 号の 3(注 18 参照)。国際連合憲章第 25 条に基づく安全保障理事会決議はここでいう「国際約束」と見
なされる。出入国管理法令研究会「注解・判例 出入国管理実務六法」(日本加除出版、2020)、p.98。
21 入管法(現行)(昭和 26 年政令第 319 号、最終改正・平成 26 年法律第 113 号)。
http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail/?id=3039&vm&re 仮訳・原文英語
8
動向に留意しつつ,難民該当性に係る認定基準を明確化してこれを公にすること や難民条約上
の難民とは認められないものの国際的に保護の必要がある者に対して在留許可を付与するため
の新たな枠組みを創設することなど,平成 26 年 12 月第 6 次出入国管理政策懇談会・難民認定
制度に関する専門部会における「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」の
提言を踏まえた施策を併せて実施すること。」
1.1 特定の事案における自動的な送還停止効の解除:総論
12.内閣による入管法改正案第 61 条の 2 の 9 第 4 項では、現行入管法上は自動的に行われてい
る、難民認定に関する処分(不服申立て段階の決定を含む)が行われるまでの送還の停止(「送還
停止効」という)を特定の事案において解除することが提案されている。この点に関する UNHCR の
基本的立場は、庇護申請の自動的な送還停止効を廃止することは「国際保護を必要とする者がノ
ン・ルフールマン原則に反して送還されるおそれを高める」
22ので望ましくないというものである。
13.UNHCR は次のように考える。
「庇護希望者は原則として庇護国の領域に留まる権利を認められるべきであり(……)、当該申
請に関して最終的な決定が出される(……)までは、退去させられたり、国外に追放されたり、
あるいは送還されたりするべきではない。」23
さらに、効果的な救済措置に対する権利は次のような形で保障されなければならない。
「適正手続の基準により、不服申立てまたは再審査のメカニズムが必要になる。(……)したが
って、すべての庇護希望者に、申請の非許容・却下の処分(UNHCR 注:negative admissibility
decision。後掲 1.2.2 の説明を参照)を含む不認定決定に対し、原処分を行った機関とは別の
独立した機関、裁判所または審判所における不服申立てまたは再審査を申し立てる権利が認
められるべきである。(……)救済措置は法令上のみならず実際上も利用可能でなければなら
ない。すなわち、例えば申立人には不服申立てを提起しかつ不服申立ての準備を行うための
十分な時間が認められなければならない(……)ということである」24
次に述べる通り、不服申し立て(および第一次審査)は原則として自動的な送還停止効を有する
べきである。
「不服申立ては原則として『送還停止効』を有するべき であり、すなわち庇護希望者は不服申
立てに関する終局的処分が行われるまで領域に留まることを認められるべきである。第一次審
査で誤った判断が行われた場合の深刻な影響 の可能性に鑑み、庇護に関する不服申立ての
22 “Efficiency measures” within Executive Summary, P5, “UNHCR Comments on the European Commission’s Proposal
for an Asylum Procedures Regulation,” April 2019, COM (2016) 467, available at:
https://www.refworld.org/docid/5cb597a27.html.
23 総論として、専門部会第 2 回会合(2020 年 11 月 10 日)に対する UNHCR の提出資料「明らかに理由のないまたは
濫用的な難民申請等に関する UNHCR の立場・助言等についての公開文書の抜粋」。
http://www.moj.go.jp/content/001312806.pdf 所収、Section 7.10 “Appeals and effective remedy” in UNHCR, A guide to
international refugee protection and building state asylum systems, (2017), Handbook for Parliamentarians N° 27,
available at: https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, p.180 参照。
24 Section 7.10 “Appeals and effective remedy” in UNHCR, A guide to international refugee protection and building state
asylum systems (2017), Handbook for Parliamentarians N° 27, available at:
https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, p.179. 仮訳・原文英語
9
送還停止効は、ノン・ルフールマン原則の尊重を確保するためのきわめて重要な保障措置で
ある。そして、送還停止効は自動的に生ずるべきである。例外が認められるのは、UNHCR 執
行委員会『難民の国際的保護に関する結論』第 30 号で定義されている明らかに理由がない申
請または明らかに濫用的な申請の場合(……)、申請の本案を再度の審査を正当なものとする
事情等が無いとされた(res judicata)複数回申請の場合(……)および二国間または多数国間
の合意に基づき庇護申請を審査する責任を割り振る決定が出された場合(……)に限られる。
これらの例外的場合であっても、不服申立てを行った者に対しては送還停止効の発生を求め
ることが可能となるような実効的な機会が与えられるべきである 」
25
14.これとの関係で、UNHCR は、専門部会が報告書の第 4 の 1(4)で行った関連の提言において、
自動的な送還停止効の解除は「ノン・ルフールマン原則の遵守」が条件とされていることに留意する。
そのため日本は、前述の国際基準および専門部会の提言に照らし、現在は自動的に生ずるものと
されている複数回申請(不服申立てを含む)の送還停止効の例外を実際に設けることにするのであ
れば、ノン・ルフールマンをどのように確保するかについて検討する必要がある。したがって、送還
停止効の例外を導入するための前提条件である、難民認定制度に関する専門部会が 2014 年に行
ったその他の提言の実施および行政庁の判断の適切性に関する第三者によるチェックの導入等を
通じた難民認定の質の向上についての専門部会の提言第 4 の 1(4)の②および③26が重要である。
この点については後掲第 46 段落で詳しく取り上げる。
15.理解を容易にするため、第 61 条の 2 の 9 第 4 項に基づき送還停止効の解除対象となる者を
UNHCR の理解に基づき簡潔に列挙する(正確な理解のための厳密な基準については、前掲の関
連条文抜粋/条文全文を参照)。改正法案第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号は、3 度目以上の複数
回申請を行った者で、申請の本案に関する再検討を正当化する事由 を提出しない者を対象として
いる。第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2 号は、(日本で)3 年以上の懲役・禁錮に処せられた者と、現行
入管法第 24 条第 3 号の 2、第 3 号の 3 または第 4 号のオ~カのいずれかに該当する者(すなわち
テロリズムや暴力主義的破壊活動等に関与する疑いがあると入管庁内の審査によって認められた
者等)
27について送還停止効を解除するとしている。以下で検討する通り、効果的な救済措置を確
保するための――すなわち当該庇護希望者が、(特定の側面について司法審査が行われる可能
性を除き)自動的な送還停止効を解除する旨の決定に対して不服申立てを行い、かつ独立機関に
対してその間の退去強制の執行停止を要請することができるようにするための――手続的保障が
限られているように見受けられる。以下、UNHCR として、第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号および第
2 号に基づく提案のそれぞれについて検討し、主要な提言を提示する。
25 Section 7.10 “Appeals and effective remedy” in UNHCR, A guide to international refugee protection and building state
asylum systems (2017), Handbook for Parliamentarians N° 27, available at:
https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, p.179.
26 本見解の前掲第 12~14 段落も参照。
27 内閣提出の入管法改正案第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2 号の後半(現行入管法第 24 条第 3 号の 2、第 3 号の 3 また
は第 4 号のオ~カを参照している部分)に該当する者を要約して表現するのは難しいが、入管法に関する権威のある注
釈書では、第 24 条第 3 号の 2 および第 3 号の 3 に該当する者について「外国人テロリスト等」、第 24 条第 4 号のオ~
カのいずれかに該当する者について「暴力主義的破壊活動に関与する者」という表現を用いているため、第 24 条第 3 号
の 2 の文言も考慮し、ここではこのような要約表現を用いる。出入国管理法令研究会「注解・判例 出入国管理実務六
法」(日本加除出版、2020)。仮訳・原文英語
10
1.2 保護のための「相当の理由がある資料」を提出せず複数回(3 度目以上)の申請を行う者
(改正法案第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号)
16.改正法案第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号は、複数回(3 度目以上)の申請を行う者であって「難
民の認定又は補完的保護対象者の認定を行うべき相当の理由がある資料」を提出しない者 につい
て、送還停止効を解除すると定める。UNHCR の理解では、第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号に基づ
き、3 度目(以上)の複数回申請を行う者については、第一次審査中にも、個人面接が行われる前
に送還停止効が解除される可能性がある。
1.2.1 複数回申請の処理一般に関する UNHCR の見解
17.複数回申請の処理一般に関する UNHCR の基本的立場は次の通りである。
「庇護制度の濫用を防止するため、申請が本案審査に基づいて最終的に棄却された後に提
出された複数回申請については迅速手続および/または簡略手続の対象とする旨、法律で
定めることは可能である」(迅速手続の利用については後掲 1.2.4 を参照されたい)
さらに、UNHCR は、適正な判断が下された複数回申請については、やはり専門部会の会合で触
れられていたように28、予備審査または許容性審査が難民認定の効率性を増進させる有用な手段と
なり得ることがあると考える。ただし、このような審査の基準が適正に確立・解釈されることが条件で
ある。他方、申請本案の再審査を正当化する事由のない複数回申請について自動的な送還停止
効の例外を限定的に設ける国も確かに存在するものの29、UNHCR としては、自動的な送還停止効
の解除はルフールマンのおそれを高めるので一般的に望ましくないという基本的立場に変わりがな
い30。このカテゴリーに属する者について自動的な送還停止効を解除するのであれば、これらの者
は、その申請に前述の資料が伴っていないと判断した決定に対して効果的な救済措置を求めるこ
とができるべきである。さらに、不服申立てを行おうとする者に対しては、独立機関に申請して不服
申立ての送還停止効を求める実効的機会が与えられるべきである 31。
「ある事案に関して管轄権を有する機関により適正かつ実体的な判断が下された場合(かつ、申
請が例えば(……)先行する申請の明示的もしくは黙示的取下げにより終結したのではない場
合)、再審査を実施するのではなく、単にこれを審査しないとする行政上の処分を行うことは既判
力(res judicata)の原則に沿うものといえる」32。
18.ただし、ある事案に関して上記「適正な判断」が行われたとされるためには、難民認定に関する
28関連の議論として、専門部会の第 2 回会合に提出された川村教授の意見書、p.4 を参照
http://www.moj.go.jp/content/001312803.pdf.
29 Section 7.10 “Appeals and effective remedy” in UNHCR, A guide to international refugee protection and building state
asylum systems (2017), Handbook for Parliamentarians N° 27, available at:
https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, p.179.
30 “Efficiency measures” within Executive Summary, p.5, “UNHCR Comments on the European Commission’s Proposal
for an Asylum Procedures Regulation,” April 2019, COM (2016) 467, available at:
https://www.refworld.org/docid/5cb597a27.html.
31 Section 7.10 “Appeals and effective remedy” in UNHCR, A guide to international refugee protection and building state
asylum systems (2017), Handbook for Parliamentarians N° 27, available at:
https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, p.179.
32 Section 7.9 “Subsequent application and abandonment or withdrawal of applications” in UNHCR, A guide to
international refugee protection and building state asylum systems (2017), Handbook for Parliamentarians N° 27, available
at: https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, p.177. 仮訳・原文英語
11
原処分の質と、適正手続についての最低基準が保障されていなければならない。これには、聴取を
受ける権利、証拠収集・提出責任の共有、申請者が自己の理解できる言語で手続に参加できるよう
にするための通訳への権利、および、効果的な救済措置に対する権利(すなわち、代理人弁護士
等の援助を得て、第一次審査機関とは別の独立した機関に対し、不認定処分について不服申立て
を行う権利)が含まれる33。さらに、このような場合でも、適正手続の要請および難民の定義が将来
の迫害のおそれを見据えた宣言的な性格 を有するものであることに鑑み、各国は庇護希望者の個
別の事情を評価することが求められる34。
1.2.2 予備審査および保護の「相当の理由がある資料」の解釈
19.UNHCR は、第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号にいう「難民の認定又は補完的保護対象者の認
定を行うべき相当の理由がある資料」という文言が定義されていないことに留意する。ただし、専門
部会報告書の第 4 の 1(4)の提言①および②に付された「検討」で引用されているいくつかの意見で
は、従前の不認定処分の判断に影響を及ぼすような「新たな事情」または「新たな証拠」への言及が
見られる(pp.34-36)。したがって、前述の「事情」には、原処分後に生じた新たな事情、要素、事実
認定および証拠が当然に含まれる(ただしこれに限定されない)ことになろう。UNHCR の基準に基
づき、このような個別評価においては、(a)「庇護希望者の個人的状況および/または出身国におけ
る事情の変化であって、後発的事情に基づく申請の根拠となり得る相当な実質的変化」および(b)
「先行する申請に関連性を有しかつその裏付けとなる新たな証拠であって、新たな申請の実体面で
の審査または先行する申請の審査再開を正当化するに足る証拠」の有無について検討することが
必要である35。
20.UNHCR は、新たな要素および事実の有無を明らかにするための予備審査は「事実問題と法律
問題の双方について行われるべきであり、新たな要素または事実の概念は、1951 年難民条約の趣
旨および目的に則り、保護志向のやり方で解釈されるべきである」と考える。「申請の本質的部分を
裏付ける事実関係であって従前の処分・判断の修正に寄与し得るものは、一般的には新たな要素
と認められるべきである。申請の提出期限のような手続的要件は、申請者による複数回申請を実質
的に妨げるようなやり方で定められるべきではない」36。
さらに、UNHCR は各国に対して次の点を考慮するよう勧告している。
「庇護希望者が先行する申請においてすべての関連の事実を提示しなかった正当な理由(性
33 Ibid. 157.
34 UNHCR, A guide to international refugee protection and building state asylum systems, 2017, Handbook for
Parliamentarians N° 27, available at: https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, Section 7.9 (Subsequent
application and abandonment or withdrawal of applications), pp.177-178.
35 UNHCR, A guide to international refugee protection and building state asylum systems, 2017, Handbook for
Parliamentarians N° 27, available at: https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, Section 7.9 (Subsequent application
and abandonment or withdrawal of applications), p.178. また、“Unit 9: Procedures for RSD Case Closure and Re-opening”
in UNHCR, Procedural Standards for Refugee Status Determination Under UNHCR’s Mandate (26 August 2020),
available at: https://www.refworld.org/docid/5e870b254.html(旧版の日本語訳は https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/2017/06/PSRSD.pdf より入手可能)も参照。
36 UNHCR, “Improving Asylum Procedures: Comparative Analysis and Recommendations for Law and Practice – Detailed
Research on Key Asylum Procedures Directive Provisions” (March 2010), available at:
https://www.refworld.org/docid/4c63e52d2.html, P407 (Interpretation of “new elements or findings”) 仮訳・原文英語
12
暴力と関連するスティグマ、トラウマおよび/または誤った情報等)」37
また、UNHCR としては、申請の審査再開について期限を設けることまたはこのような事情がある場
合に申請を退けることは「現に存在している保護のニーズが審査・判断されかつ認識されない危険
を招くおそれを伴う」ものであると考える38。
21.UNHCR は、新たな要素および事実認定の有無を明らかにするための予備審査は「事実問題と
法律問題の双方について行われるべきであり、新たな要素または事実の概念は、1951 年難民条約
の趣旨および目的に則り、保護志向のやり方で解釈されるべきである」と考える。「申請の本質的部
分を裏付ける事実関係であって従前の処分・判断の修正に寄与し得るものは、一般的には新たな
要素と認められるべきである。申請の提出期限のような手続的要件は、申請者による複数回申請を
実質的に妨げるようなやり方で定められるべきではない」39。また、専門部会の報告書でも間接的に
指摘されていたように(pp.35-36)、第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号にいう「難民の認定又は補完的
保護対象者の認定を行うべき相当の理由がある資料」には、「申請に関する処分が不適正に行わ
れ、かつ/または難民該当性に関する事由が十分に審査されもしくは取り上げられなかった」状況
も含まれる場合がある40。
1.2.3 効果的な救済措置
22.UNHCR の理解では、改正法案第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号にいう「難民の認定又は補完
的保護対象者の認定を行うべき相当の理由がある資料」をある者が提出したか否かを判断するた
めの審査は、前掲 1.2.2 で取り上げた「許容性審査手続」のような正式な手続としての性格を持たな
い。UNHCR の理解によれば、ある者が再度の審査の正当化のための資料を提出しなかったという
認定(または送還停止効を解除する旨の決定そのもの)は「行政処分」ではないため、それ自体、行
政上または司法上の再審査の対象とならない。そのため、3 度目の申請を行っている者が、個人面
接を受ける前または第一次審査の処分を受ける前に送還されることも、理論的にはあり得る。
37 UNHCR, A guide to international refugee protection and building state asylum systems, 2017, Handbook for
Parliamentarians N° 27, available at: https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, Section 7.9 (Subsequent application
and abandonment or withdrawal of applications), p.178. また、UNHCR, “Improving Asylum Procedures: Comparative
Analysis and Recommendations for Law and Practice – Detailed Research on Key Asylum Procedures Directive
Provisions” (March 2010), available at: https://www.refworld.org/docid/4c63e52d2.html, P409 も参照。
38 UNHCR, A guide to international refugee protection and building state asylum systems, 2017, Handbook for
Parliamentarians N° 27, available at: https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, Section 7.9 (Subsequent application
and abandonment or withdrawal of applications), p.178.
39 UNHCR, “Improving Asylum Procedures: Comparative Analysis and Recommendations for Law and Practice – Detailed
Research on Key Asylum Procedures Directive Provisions” (March 2010), available at:
https://www.refworld.org/docid/4c63e52d2.html, P407 (Interpretation of “new elements or findings”)
40 国家実行という観点からは、APD(2013 年)第 40 条が、「申請者が国際的保護の受益者としての資格を有するか否か
に関連する新たな要素が生じ又は申請者によって提出されたか否か」に関する予備審査について定めている。何が旧
APD(2005 年)の対応条項における「新たな要素又は事実」に当たるかについての詳細な研究から有用な洞察を得ること
ができよう。Council Directive 2005/85/EC of 1 December 2005 on minimum standards on procedures in Member States for
granting and withdrawing refugee status which has been superseded by Directive 2013/32/EU of the European Parliament
and of the Council of 26 June 2013 on common procedures for granting and withdrawing international protection available
at: https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32013L0032&from=en. 2005 年版 APD の第 32 条
4 項(「新たな要素又は事実認定」および 5 項(その他の再開理由)がさまざまな EU 諸国でどのように実施されているか
に関する比較分析は、UNHCR, “Improving Asylum Procedures: Comparative Analysis and Recommendations for Law
and Practice – Detailed Research on Key Asylum Procedures Directive Provisions” (March 2010), available at:
https://www.refworld.org/docid/4c63e52d2.html, P400-409 に掲げられている。仮訳・原文英語
13
23.複数回申請を行っていて送還停止効を解除された(または解除される予定の)者が退去強制を
止める方法は、発付された退去強制令書の取消しを求める訴訟を提起した上で、訴訟の継続中は
退去強制令書を執行しないよう求める、執行停止の申し立てがある。強調しておく必要があるのは、
日本では、在留資格の無い外国人が利用できる国の資金による法律扶助プログラムが存在せず、
かつボランティアで庇護希望者の代理人を引き受ける弁護士も非常に少ないことから、大多数の庇
護希望者にとって、司法審査を求めるために代理人弁護士を確保することは実際上不可能だという
ことである。複数回申請を行う当該申請者が効果的な救済措置に対する権利を行使できるようにす
るためにも、UNHCR は、正式な許容性審査手続を設置し、ある事案についてあらためて本案審査
を行うことを正当化する理由がないと判断する却下処分を行政不服審査法に基づく行政審査に服
させられるようにすることを提言する。このようなアプローチがとられないのであれば、行政事件訴訟
法に基づく(難民申請もしくは補完的保護の申請の不認定処分またはこのような難民申請を理由と
する退去命令の取消しを求める)訴訟を対象者が希望する場合、その準備のために認められた 6か
月の出訴期間中は退去強制を執行しないという規定を設ける等の手段により、個人による司法審査
へのアクセスを尊重するための措置を日本政府としてとることが、ますます重要となる。さらに、現在
は在留資格のない者を受益者から除外している総合法律支援法を改正する等の手段により、代理
人弁護士等へのアクセスを促進するための措置がとられれば、非常に有用となろう。
24.「資料」の提出の時期に関して、第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号は、難民の認定または補完的
保護対象者の認定を求める 3 度目以上の「申請に際し」と述べている。このことは、複数回の難民申
請書に記載された庇護希望者の陳述の裏付けとなる補強証拠であって、申請後にアクセスできるよ
うになった証拠が、考慮されない可能性があるのではないかという疑問を提起するものである。ただ
し、UNHCR の理解にによれば、通常は申請時に資料が提出されるべきであるものの、申請の時点
で資料の提出が予見される時(近々に資料を提出できる見込みであると申請者が述べる場合等)は、
このような資料が考慮される可能性は高い。とはいえ、日本政府として、複数回申請の提出後にこ
のような資料の提出が認められる合理的期限、および、提出された資料が保護のための「相当の理
由」となるか否かを入管庁が判断する期限を第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号で明示的に規定する
ことにより、当該期限を超えれば送還される可能性があることを対象者が承知できるようにすることが
推奨される。送還停止効の解除が望ましくないという UNHCR の立場は変わらないものの、日本が
第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号に該当する者について送還停止効を解除すると決定するのであれ
ば、解除のいかなる判断も、上記の期間が経過した後でなければ行うべきではない。
25.複数回申請を行った者に対しては、通常、従前の難民認定申請が不認定とされた段階で退去
強制令書が発付されている。理論的には、当該複数回申請者が、送還停止効が認められたか否か
を認識せず、効果的な救済措置を求めることができないまま送還される可能性があるのではないか
という懸念が生ずる。この点、UNHCR の理解によれば、新設される第 52 条の 8(退去のための計
画)に基づき、対象者に対しては通例、送還時期に関する入管庁の計画が通知されることになる。
第 52 条の 8 は次のように定める。
「入国警備官は、次の各号のいずれかに該当するときは、退去強制令書の発付を受けた者の
意向の聴取その他の方法により、その者を直ちに本邦外に送還することができない原因となつ仮訳・原文英語
14
ている事情を把握した上で、退去のための計画を定めなければならない。/一 退去強制令
書の発付を受けた者を第 52 条第 9 項の規定により収容したとき。/二 ……退去強制令書の
発付を受けた者に対し監理措置決定がされたとき」
UNHCR の理解によれば、退去強制令書の執行は入管法第 52 条に基づいて「速やかに」行うの
が通例であるところ、入管庁としては、申請者の意向を聴取した上で、または難民認定関連手続の
進展状況に応じて、「退去のための計画」の調整を図る意図であると理解している。対象個人が訴
訟提起の意向を示した場合、または 3 度目以上の申請を行う際に提出された資料が保護のための
「相当の理由がある資料」と判断されて入管庁が送還停止効を認めると決定する場合、「退去のた
めの計画」は延期されるものと理解している。同条の文言からは明らかではないものの、入管庁は、
退去のための当初計画に変更があった時は対象者への通知も行う予定であると UNHCR は理解し
ている。これにより、申請者が、前述の訴訟提起のために代理人弁護士を確保して効果的な救済
措置を求められる可能性が高まることが考えられる。よって UNHCR は、退去のための計画について
対象者に通知するという入管庁の計画を、現時点では明示的に言及されていない第 52 条で義務
化するよう提言する。この際対象者に提供されるべき情報は、送還停止効が認めれたか否か、送還
停止効の例外となるのであればその理由、送還の時期等である。
26.入管法第 53 条(送還先)にノン・ルフールマン原則が反映されていることにも言及しておく必要
がある。同条第 3 項は、退去強制を受ける者の送還先として指定される国に、(i) 1951 年の難民条
約第 33 条第 1 項に規定する領域の属する国その他その者が迫害を受けるおそれのある領域の属
する国(「法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合を除く。」)、(ii) 拷問等禁
止条約第 3 条第 1 項に規定する国または (iii) 強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条
約第 16 条第 1 項に規定する国を含めてはならないと規定しているためである。UNHCR が理解して
いるところでは、対象者が難民認定申請の送還停止効を享受するか否かにかかわらず、入管庁は
実務的には、対象者の退去強制令書に記載された送還先が適切かどうかを、ノン・ルフールマン原
則に基づく日本の義務に照らし、令書の執行前に検討する必要性が生じる。個々の案件で第 53 条
第 3 項が現在どのように適用されているかは不明であるが、送還停止効の解除の決定について行
政不服審査を求める権利が存在しない中、第 53 条第 3 項が、追加的保障として機能するようなや
り方で運用されることが望まれる。
27.国家実行という観点からは、約 25 か国が拘束されるところの「国際的保護の付与・撤回のため
の共通手続きに関する 2013 年 6 月 26 日付けの欧州議会・理事会指令 2013/32/EU(改)」(2013
年 EU 庇護手続指令、APD)41において、同様の対応の余地について定められており、申請本案の
再審査を正当化する事情のない再度の申請は非許容(inadmissible)事案に分類され(第 33 条第 2
項(d))、自動的な送還停止効の対象から除外され(う)る(第 46 条第 6 項(b))。ただし、第 41 条第 1
項では、ノン・ルフールマン原則の遵守が送還停止効の解除の前提条件とされている。さらに、そう
いった事案でも、第 46 条第 6 項(b)では効果的な救済措置に対する権利(非許容処分に対して不
服申立てを行う権利および裁判所または審判所に対してその間の送還停止効を申請する権利を含
41 国際的保護の付与・撤回のための共通手続きに関する 2013 年 6 月 26 日付けの欧州議会・理事会指令 2013/32/EU
(改)。https://www.refworld.org/cgi-bin/texis/vtx/rwmain/opendocpdf.pdf?reldoc=y&docid=54899e4c4. 仮訳・原文英語
15
む)が定められており、また第 46 条第 8 項では送還停止効に関する決定が言い渡されるまで領域
に滞在する権利が定められている。EU 庇護手続指令第 20 条は、不服申立ての権利の実効性を確
保するため、不服申立て段階における法律扶助および法的代理へのアクセスの便宜について規定
している。さらに、EU 庇護手続指令が、庇護決定の公正性および効率性を確保するための重層的
な措置を明示的に規定している点にも留意するべきである。EU 庇護手続指令は、独立した不服申
立てへのアクセス、UNHCR の監督役割、難民認定面接の適正な記録方法、出身国情報の調査/
分析および通訳者/難民認定担当官の資格について具体的に規定している(前文第 26 項、第 4
条、第 10 条および第 29 条参照)。これらの点は、初回からの審査の質をさらに増進させようとする
日本政府の取り組みにとって有用な事例となりえるであろう42。
1.2.4 公正性を損なうことのない、複数回申請についての迅速手続
28.UNHCR は、専門部会報告書第 4 の 1(4)の提言②で、複数回申請の処理を迅速に進めること
が提案されていることに留意する。この点は、改正法案には特に反映されていない。送還停止効を
解除する前述の措置(これはルフールマンの危険性を生じさせる)とは対照的に、迅速な処理自体
は、庇護制度の公正性と整合性を維持しながら難民認定の効率性を増進させるための有用な手段
である。ただし、どのような申請が当該手続の対象とされるかについて明確に定めかつ限定すること
ができ、また適切な保障措置が整備されていることが条件となる。
「多くの国が、(……)庇護を求める理由のある申請にとって害になる形で庇護手続に過度な負
担を与える申請について迅速に判断するために迅速手続を導入してきた43。(……)『迅速手続』
という用語は、一般的に、難民の地位の申請について実体的かつ個別的審査を行うが、手続
の工程のすべてまたは一部について迅速処理を適用するものを指す。このことは、登録、面接
および決定までの期間が短くなることを意味する場合がある。迅速手続は簡略手続と併せて用
いることも可能である。ただし、迅速手続は、実体的判断または手続のいずれかの側面の簡略
化を意味するものではなく、手続的公正性の保障の低減を意味するものでもない 。(……)取り
扱われる申請数が相当多い場合には、適切な保障措置が整備されるのであれば、このアプロ
ーチは、審査・判断を迅速化する有用なケースマネジメント手段となり得る 。申請の受理件数
がそれほど多くない場合、単一の手続の下で迅速かつ質の高い審査・判断を行うことに焦点を
当てる方が効果的な選択肢である可能性が高い」44。
29.日本政府は、2015 年 9 月に「難民認定制度の運用の見直し」を通じて案件の振分けを導入し
た際に、実際上、迅速処理を導入している。そこでは、庇護申請が A 案件(明らかに十分な理由の
ある案件)、B 案件(明らかに理由のない案件)、C 案件(新たな要素のない複数回申請)および D
42 弁護士の宮崎真委員が 2020 年 2 月 17 日の第 7 回専門部会会合に提出した資料の pp.4-7(複数回申請の「許容性
審査」及び送還停止効の例外の導入と、ノン・ルフールマン原則の順守のための手続き保障の整備について)参照。
http://www.moj.go.jp/content/001318378.pdf
43 UNHCR 執行委員会は、結論第 30 号(XXXIV)「明らかに理由がないかまたは明らかに濫用された難民の地位もしく
は庇護の申請の問題」(UNHCR 執行委員会、1983 年)でこの問題を取り上げている。
https://www.unhcr.org/excom/exconc/3ae68c6118/problem-manifestly-unfounded-abusive-applications-refugee-statusasylum.html.
44 UNHCR, A guide to international refugee protection and building state asylum systems, 2017, Handbook for
Parliamentarians N° 27, available at: https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, Section 7.8 (Accelerated
procedures) p.175. 仮訳・原文英語
16
案件(通常の案件)に振り分けられ、B 案件および C 案件に振り分けられた案件は迅速処理の対象
とされた45。日本政府は、難民認定処理の迅速化を目的とする案件の振分け状況の検証を委ねら
れた、UNHCR も構成員であったところの「有識者会議」の一連の提言を考慮するよう奨励される。こ
のことは、振分けの適切さおよび難民認定審査の質一般をさらに増進させることになろう46。処分の
公正性および質ならびに制度の整合性を損なうことなく難民認定処理の迅速化を図る措置の事例
は、UNHCR が作成した多数の資料で詳しく述べられており47、日本政府としてはこれらの事例を参
照することができよう。
1.3 一定の犯罪歴がある者またはテロリズムや暴力主義的破壊活動等に関与するおそれがあ
ると疑われる者(第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2 号)
30.関連条項の正確な文言を参照すべきであるが(前掲セクション 1 冒頭の抜粋参照)、要約すれ
ば、第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2 号に基づいて送還停止効が解除される第 1 の類型は、「無期若
しくは 3 年以上の懲役若しくは禁錮に処せられた者(……)」である。第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2
号に掲げられた第 2 の類型は、幅広い活動にさまざまな水準で関与した相当に広範な者を対象と
しており、当該行為に関与したと「疑う」理由がある者も含まれる。具体的には、この集団には、公
衆・政府等を脅迫する目的をもって行われる犯罪行為の「実行」またはその「予備行為」もしくはその
実行を「容易にする行為」を行う「おそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者として法務大
臣が認定する者」が含まれる(入管法第 24 条第 3 号の 2)。これらの犯罪行為については公衆等脅
迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律(政府は「テロ資金提供処罰法」
と称している)第 1 条48で定義されている。問題の行為には外国政府に対する脅迫も含まれ、また
「容易にする行為」には資金もしくは当該行為の実行に資するその他利益も含まれるとされている49
点が、留意されるところである。第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2 号が適用される第 2 の集団は、「国際
約束により本邦への入国を防止すべきものとされている者」(入管法第 24 条第 3 号の 3、ここでいう
国際約束とは具体的には国連安全保障理事会決議を指す)50や、日本国憲法もしくは日本政府の
破壊を企て、公務員もしくは公共の施設への攻撃を勧奨し、または(工場における安全保持の施設
45例えば、入国管理局(現・入管庁)の資料「難⺠認定制度の運⽤の⾒直しの概要」
http://www.moj.go.jp/isa/publications/press/nyuukokukanri03_00110.html の p.7 を参照。ABCD の類型名の正式なもの
は「難民認定制度の運用の更なる見直し後の状況について」と題する資料(2018 年 9 月)
http://www.moj.go.jp/isa/content/930003743.pdf の p.8 等を参照。
46 難民認定制度運用の見直し状況検証のための有識者会議に関する情報は、第 1 回報告書を含めて
http://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/nyuukokukanri08_00041.html より入手可能である。第 2 回報告書は
http://www.moj.go.jp/content/001272566.pdf より入手できる。
47 例えば、UNHCR, “UNHCR Discussion on Paper Fair and Fast – Accelerated and Simplified Procedures in the European
Union,” (25 July 2018) available at: https://www.refworld.org/docid/5b589eef4.html 参照。
48 注 XX および XX 参照。公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律(平成 14 年法
律第 67 号、最終改正・平成 26 年法律第 113 号)第 1 条。
http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail/?vm=&re=&id=2977&lvm=02
49 公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律(平成 14 年法律第 67 号、最終改正・平
成 26 年法律第 113 号)第 3~5 条。http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail/?vm=&re=&id=2977&lvm=02
50 国際連合憲章第 25 条に基づく安全保障理事会決議は、本号にいう「国際約束」と見なされる。出入国管理法令研究
会「注解・判例 出入国管理実務六法」(日本加除出版、2020)、p.98。各国にテロ関連の措置をとるよう求める多数の国
連安全保障理事会決議で確認されている通り、これらの措置は、国際人権法、国際難民法および国際人道法を含む国
際法に一致するものでなければならない。仮訳・原文英語
17
の正常な運行を妨げるような)争議行為を勧奨する政党その他の団体に(さまざまな水準で)関与す
る者51(入管法第 24 条第 4 号のオ~カ)も対象としている。注目に値するのは、後掲 1.3.4.2 で取り
上げるように、第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2 号の規定上、前述の入管法第 24 条第 3 号の 3 および
第 24 条第 4 号のオ~カに該当すると「疑うに足りる相当の理由がある」者についても、送還停止効
が解除されることである。
1.3.1 難民保護を損なわずに安全上の懸念に対処する
31.とりわけ深刻に懸念されるのは、改正法案第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2 号の現在の文言では、
初めて難民申請を行った者についても、難民認定に関する第一次審査の処分が言い渡されてい
ないまたは難民調査官による最初の個人面接さえ実施されていない段階で――すなわち、1951 年
の難民条約第 1 条に基づく難民該当性についての評価が行われる前に――送還停止効が解除さ
れ得ることである。犯罪歴がある者または犯罪活動等に関与するおそれがある者等については、送
還停止効の例外に関する専門部会の提言(専門部会報告書、第 4 の 1(4)①、p.34)では何ら言及
されておらず、専門部会の報告書または会議録にも特段の記載がない。UNHCR は、テロ行為を支
持しまたは実行した者がもたらす可能性のある安全上の脅威に対応しなければならないという各国
の正当な懸念を共有するものの、難民保護を損なわずに安全上の懸念に対処する ことについての
UNHCR の指針52で詳述されている通り、安全と保護は相容れないものではない。国際難民法は、
テロ行為を支持しまたは実行した者に安全な避難先を提供するものではない53。第 1 に、難民の定
義は、適切に適用されれば、テロ行為を含む重大な犯罪行為の責任を負う者が難民に該当しない
という判断または第 1 条 F に基づく除外につながるはずである54。避難国において重大な犯罪を行
った難民はその国の適正手続に服することになる55。以下で詳しく論じるように、ノン・ルフールマン
原則には 1951 年の難民条約第 33 条第 2 項に基づく例外もあり、難民が受入国の「安全にとって
危険である」場合または「特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し……社会にとって危険な
存在となった」場合には適用対象外となる。とはいえ、人権上の原則に対するすべての例外と同様
に、第 33 条第 2 項は制限的に解釈・適用されるべきであり、すなわち、このような例外の適用は、危
険を消滅または軽減させるために取り得る最後の手段であり、かつ、当該個人が国または社会に対
51 注目に値するのは、第 24 条第 4 号のワ(3)では(「次に掲げる政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入し、又
はこれと密接な関係を有する者(……)」として)「工場事業場における安全保持の施設の正常な維持又は運行を停廃し、
又は妨げるような争議行為を勧奨する政党その他の団体」に言及されており、第 24 条第 4 号のカでは「オ又はワに規定
する政党その他の団体の目的を達するため、印刷物、映画その他の文書図画を作成し、頒布し、又は展示した者」と定め
られていることである。
52 UNHCR「難民保護を損なわずに安全上の懸念に対処する-UNHCR の見解-」(2015 年 12 月 17 日、改訂第 2
版、https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/protect/UNHCRs_perspective_Addressing_Security_Concerns_JPN.pdf)第 2 段落・3 段落。
UNHCR はまた、「難民保護と混在的な人の移動についての 10 ポイントプランインアクション(10 Point Plan in Action on
Refugee Protection and Mixed Migration)」に表れている通り、保護に配慮した国境管理システムを発展させかつ実行す
るために各国と協力も続けている。同行動計画では、管理戦略および入国制度に関する実際的提案が提示されている。
https://www.unhcr.org/the-10-point-plan-in-action.html
53 前掲(「難民保護を損なわずに安全上の懸念に対処する」)、第 7 段落。
54 前掲(「難民保護を損なわずに安全上の懸念に対処する」)、第 7 段落と第 12 段落か(および除外に関してより詳しい
指針を示している第 18-26 段落)。
55 UNHCR「難民認定基準ハンドブックー難民の地位の認定の基準及び手続に関する手引き」(1979 年、2011 年改定)
第 154 段落。https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/2017/06/HB_web.pdf 仮訳・原文英語
18
して及ぼす危険は送還された場合に当該個人が直面する危険を上回るものでなければならないと
いう意味で比例性がある場合に限られるべきである。
1.3.2 聴取される権利、効果的な救済措置に対する権利および 1951 年の難民条約第 1
条に基づく完全な審査を受ける権利
32.関連の執行委員会結論および国際人権基準に基づき、すべての庇護希望者、特に初めて難
民申請を行う庇護希望者に対して保障されなければならない適正手続の最低基準には、第一次審
査の際、庇護申請に関する判断に責任を負う当局の、資格・資質を認められた公平な審査官による
個人面接を受ける権利が含まれる56。庇護希望者が認定を受けられなかった時は、同処分につい
て、行政機関か司法機関かにかかわらず別の独立した機関に不服申立てを行うための十分な期間
が認められるべきである。このような救済措置が実効的であるためには、申請に関する最終的な処
分が行われるまで、当該庇護希望者が領域内に滞在することも認められなければならない(非常に
限定された例外的な場合を除く――本見解の第 13 段落参照)57。
33.さらに、1951 年の難民条約第 33 条第 2 項に基づくノン・ルフールマンの例外の個人に対する
適用可能性を検討するためには、まず、当該個人の申請を 1951 年の難民条約第 1 条に照らして
十全に評価することが不可欠となる。第 33 条第 2 項は難民として認定された者に適用される規定
だからである58。第 1 条に基づく地位の認定においては、対象者がそもそも難民該当性を有してい
るか否かを評価した上で、難民該当性ありと判断された場合に、当該個人が避難国または避難先
の社会に及ぼす危険が送還時に当該個人が直面する危険を上回るか否かに関する比例性評価を
実施することが、第 33 条第 2 項に基づく例外を適用するための他のすべての要件が満たされてい
ることを条件として、国に認められている。したがって UNHCR は、初めて難民申請を行うすべての
者――3 年以上の懲役等に処せられた者またはテロリズムや暴力主義的破壊活動に関与するおそ
れがあると疑われる者を含む――が、完全な難民認定手続にアクセスし、かつ難民性に関する自
己の主張を 1951 年の難民条約第 1 条に照らして評価される権利を保障されるようにすることを提言
する。このような権利には、個人難民認定面接を受ける権利および不認定処分について実効的な
不服申立てを行う権利が含まれる(不服申立ての継続中、申立人の送還は停止されるものとする)。
国家が直面する安全上の懸念に照らし、このような案件の処理は専門の部署によって迅速なやり方
で進めることも可能であり、そのような部署の設置について UNHCR には日本を支援する用意があ
56 Section 7.3 “Minimum procedural guarantees” in UNHCR, A guide to international refugee protection and building state
asylum systems (2017), Handbook for Parliamentarians N° 27, available at:
https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, p.156-158.
57 Ibid. 157.
58 UNHCR, “Background Note on the Interpretation and Application of the Exclusion Clauses: Article 1F of the 1951
Convention relating to the Status of Refugees,” 4 September 2003, available at:
https://www.refworld.org/docid/3f5857d24.html の第 10 段落参照。そこでは次のように述べている。「難民該当性を有し
ない者に関連する第 1 条 F とは異なり、第 33 条第 2 項はすでに難民と認定された者を対象とする規定である。このよう
に、第 1 条 F と第 33 条 2 項はまったく別の法的規定であり、その目的も非常に異なる。第 33 条 2 項が適用されるのは、
当該難民が行った犯罪の重大性ゆえに庇護国にとって著しい脅威となった難民である。その目的は避難国の安全を保
護するところにあり、当該難民が実際のまたは将来の大きな脅威であるという評価に基づいて決定される」仮訳・原文英語
19
る
59。
34.したがって、初めて申請を行ういかなる庇護希望者についても、犯罪歴またはテロリズムや暴力
主義的破壊活動に関与するおそれもしくは可能性を理由として送還停止効が解除されないように
すること(不服申立て段階を含む)が不可欠である。
1.3.3 第 33 条第 2 項に基づくノン・ルフールマンの例外-一般的指針
35.専門部会の提言から明らかなように、1951 年の難民条約第 33 条第 1 項に定式化されているノ
ン・ルフールマン原則は、国際難民保護体制にとって中心的重要性を有するものである。国際難民
法で定められたノン・ルフールマン原則について唯一認められる例外は、1951 年の難民条約第 33
条第 2 項に掲げられている。これらの例外は 2 つの事情がある場合に適用される。難民個人が、在
住している「締約国の安全にとって危険である」と認めるに足りる相当な理由 がある場合と、「特に重
大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった 」場合であ
る。
36.UNHCR がかつて助言した通り、
「難民条約の起草者らは当初、条約上のノン・ルフールマンの義務にいかなる例外を設けるこ
とにも消極的であった。最終的には安全にとっての脅威を理由とする例外が設けられたものの、
起草者らの意図としては、その適用は制限的であるべきであるとされた。……」60
さらに、「人権保障に対するすべての例外と同様に、第 33 条第 2 項は制限的に、かつ比例性の
原則を全面的に尊重して解釈されなければならない 。すなわち、受入国の安全または当該国の社
会に対して難民が及ぼす危険は、ルフールマンを正当化するのに十分なほど深刻なものでなけれ
ばならないということである。『安全にとっての危険』に基づく例外を適用するためには、脅威が避難
国にとってのものであり、かつ非常に深刻でなければならない。認定は相当の理由に基づいて行わ
れ、かつ信憑性および信頼性のある証拠によって裏付けられなければならない。『社会にとっての
危険』の例外を適用するためには、特に重大な犯罪についての有罪の確定判決と、対象者が将来
のリスクであるという認定が必要となる。いずれの場合にも、難民の退去強制と危険の消滅との間に
合理的関連性がなければならない。ルフールマンは、危険の消滅または軽減のためにとることが可
能な最後の方法でなければならず、かつ、国または社会にとっての危険がルフールマンに伴う当該
難民にとってのリスクを上回っていなければならない という意味で、比例性のあるものでなければな
らない」61。
「比例性」に関する上述の評価は、より具体的には次のことを意味する。
「第 33 条第 2 項の適用に関する決定を行う際には、当該個人が示す危険の重大性と、ルフー
ルマンによって生じる可能性がある影響(恐怖の対象である迫害の度合い を含む)との比較衡
59 除外条項の適用との関係では、UNHCR「難民保護を損なわずに安全上の懸念に対処する-UNHCR の見解-」
(2015 年 12 月 17 日、改訂第 2 版)第 13 段落参照。https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/protect/UNHCRs_perspective_Addressing_Security_Concerns_JPN.pdf
60 Advisory Opinion from UNHCR on the Scope of the National Security Exception Under Article 33(2) of the 1951
Convention Relating to the Status of Refugees, available at: https://www.refworld.org/docid/43de2da94.html.
61 Section 4.2 “Admission to territory and the scope of the non‑refoulement obligation,” in UNHCR, A guide to
international refugee protection and building state asylum systems (2017), Handbook for Parliamentarians N° 27, available
at: https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html p.66. 仮訳・原文英語
20
量が必要である。申請者が過酷な迫害に直面する可能性がある場合、国の安全にとっての危
険が非常に深刻でなければ送還は正当化されない」62
対象者が 1951 年の難民条約第 33 条第 2 項に該当する旨の判断は、「安全上の脅威の実証に
つながり、かつ、当該個人がそのような主張に対抗できる可能性のあるいかなる証拠も提出すること
を認める、法の適正手続に従って行われなければならない」という点も重要である63。
37.また、日本が締約国である人権条約に基づき、ルフールマンは、それによって対象者が拷問ま
たは残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは刑罰のリスク にさらされる場合、決し
て認められないことにも留意するべきである。拷問等禁止条約第 3 条は、いかなる者についても、拷
問の実質的危険がある場所に追放しまたは送還することを禁じている。市民的及び政治的権利に
関する国際規約(自由権規約)第 6 条および第 7 条も、拷問または残虐な、非人道的なもしくは品
位を傷つける取扱いもしくは刑罰もしくは死刑が行われる場所への追放または送還を禁じていると
解釈されてきた64。
1.3.4 1951 年の難民条約第 33 条第 2 項にいう「国の安全にとっての危険」
38.送還停止効の解除の対象として、第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2 号に掲げられた第 2 の類型、
すなわち入管法第 24 条第 3 号の 2、第 3 号の 3 および第 24 条第 4 号のオ~カに該当する者を
導入する考え方は、1951 年の難民条約第 33 条第 2 項にいう「国の安全にとっての危険」に基づく
例外から派生したものと思われる。
1.3.4.1 総論
39.「国の安全にとっての危険」に基づく例外との関連で、UNHCR は、「『国の安全にとって危険』で
あるという文言の使用は、危険の重大性が十分に高い基準に達していなければならないことを含意
する。条約起草作業から、起草者らが考えていたのは国の安全にとっての著しい脅威のみであるこ
とは明らかである」と強調してきた65。
この点に関する 1951 年の難民条約の起草者らの議論は、要約すると次の通りである。
「一般的に言えば『国の安全』を理由とする例外を援用できるのは、当該国の憲法、統治体制、
領土保全、独立または外的平和を直接または間接に危うくする、どちらかと言えば深刻な性質
の行為に対してである」66
同様に、国際難民法に関するヨーロッパの専門家である Walter Kälin 教授は、「第 33 条第 2 項が
62 UNHCR, N- A- M-, Petitioner, v. Michael Mukasey, Attorney General of the United States, Respondent. Brief for the
United Nations High Commissioner for Refugees as Amicus Curiae in Support of Petitioner, 19 June 2008, available
at:http://www.refworld.org/docid/48622dd72.html (第 33 条第 2 項のノン・ルフールマン原則の例外;対象者が「特に重
大な犯罪」について終局判決によって有罪とされていなければならないという要件;対象者が今後「社会にとって危険な
存在」となるか否かの評価に関する意見書)
63 Ibid paragraph 28.
64 Section 4.2 “Admission to territory and the scope of the non‑refoulement obligation,” in UNHCR, A guide to
international refugee protection and building state asylum systems (2017), Handbook for Parliamentarians N° 27, available
at: https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, p.66.
65 UNHCR, Advisory Opinion from UNHCR on the Scope of the National Security Exception Under Article 33(2) of the
1951 Convention Relating to the Status of Refugees, 6 January 2006, available at:
https://www.refworld.org/docid/43de2da94.html.
66 Atle Grahl-Madsen, Commentary on the Refugee Convention, Articles 2–11, 13–37, published by UNHCR (1997) and
available at: http://www.unhcr.org/cgibin/texis/vtx/refworld/rwmain?docid=4785ee9d2, commentary to Article 33, para.(8). 仮訳・原文英語
21
対象としているのは『暴力または他の不法な手段を通じて受入国政府を転覆しようとする試み、受入
国への報復につながる可能性がある他国への敵対的活動、テロ行為およびスパイ行為』のような行
為であり、国にとっての危険の要件は、『迫害国への難民の送還が許容されるためには、当該難民
が国の根幹または存在そのものにとって深刻な危険を及ぼす存在でなければならないということ以
外を意味し得ない』と指摘している67。
UNHCR は例えば、米国法との関係で次のような助言も行っている。
「INA68で広く定義されている『テロ活動』に従事した個人または団体に支援を行った個人が必
ずしも米国の安全にとって危険な存在となるわけではない」69
したがって、安全上の理由による難民の追放を認める規定を 1951 年の難民条約第 33 条第 2 項
と一致するやり方で適用する際には、入管庁は、ある者が日本の安全にとって危険であると考える
に足る相当の理由があるか否か、および、迫害が行われる可能性のある場所にその者を送還するこ
とが当該危険を消滅させる唯一の手段であるか否かを判断するため、当該個人または団体の活動
ならびに当該団体への対象者の関与または援助の性質および程度を考慮することが必要となる。
1.3.4.2 手続的問題
40.ある者がテロ活動または類似の活動に関与していた可能性がある(改正法案第 61 条の 2 の 9
第 4 項第 2 号に掲げられた第 2 の集団)と認定するための手続に関しては、入管法第 24 条第 3 号
の 2 に基づき、法務大臣がこの点についての認定を行う。認定は、行政機関である法務省入管庁
の内部で、司法機関の関与を得ることなく行われると理解される。第 24 条の 2 第 1 項では、法務大
臣は、第 24 条第 3 号の 2 による認定を行う前に、「外務大臣、警察庁長官、公安調査庁長官及び
海上保安庁長官の意見を聴くものとする」と規定されている。
41.救済措置に関しては、ある者が入管法第 24 条第 3 号の 2 に該当する旨の判断はまず入管庁
の入国審査官によって行われ、その後、退去強制手続の対象とされたすべての者に適用される入
管庁内部の「三審制」を経ることができる。ある者が第 24 条第 3 号の 2 に該当すると入国審査官に
よって判断された段階で、その者は「特別審理官に対し口頭審理の請求をすることができる」。その
者は、口頭審理の判定に異議がある時は、法務大臣に不服申立てを行うことができる。ただし、
UNHCR の理解では、対象者が入管法第 24 条第 3 号の 2 に該当するという法務大臣の最終的認
定自体は「行政処分」とは認められず、対象者は、この認定自体について、行政不服審査法に基づ
く審査または行政事件訴訟法に基づく司法審査を求めて不服の申立てを行うことができない。もっ
とも、最終的に退去強制令書が発付されれば、対象者はその取消し(または無効確認)を求めて訴
訟を提起することができる(効果的な救済措置に関する前掲 1.2.3 の第 23 段落参照)。それでも、
送還停止効を解除する旨の判断を行政処分と見なして行政不服審査の対象とし、かつ、入管庁と
して対象者にこのような処分の通知を行うことが推奨される。対象者には、そのような行政不服審査
67 UNHCR, Advisory Opinion from UNHCR on the Scope of the National Security Exception Under Article 33(2) of the
1951 Convention Relating to the Status of Refugees, 6 January 2006, available at:
https://www.refworld.org/docid/43de2da94.html.
68 米国移民国籍法(Immigration and Nationality Act of the United States)。
69 UNHCR intervention before the United States Court of Appeals for the Fifth Circuit in the case of Tiuang Ling Thang v.
Gonzales, Attorney General, 21 February 2007, available at: https://www.refworld.org/docid/4891c94a2.html [accessed 16
November 2020]. 仮訳・原文英語
22
の間の送還停止を求める実効的な可能性も認められるべきである。
42.第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2 号が、第 24 条第 3 号の 2 とがあわさった場合、送還停止効の解
除に関する敷居がどのような程度になるのかについても不明である。というのも、第 61 条の 2 の 9 第
4 項第 2 号は第 24 条第 3 号の 2、第 24 条第 3 号の 3 および第 24 条第 4 号のオ~カに該当する
と「疑うに足りる相当の理由がある」者について送還停止効を解除するとしており、第 24 条第 3 号の
2 ではさらに、公衆・政府等を脅迫する目的をもって行われる犯罪行為の実行またはその「予備行
為」もしくはその実行を「容易にする行為」を行う「おそれがあると認めるに足りる相当の理由がある
者として法務大臣が認定する者」について定められているためである。
1.3.5 1951 年の難民条約第 33 条第 2 項にいう、「特に重大な犯罪」を理由とする「社会
にとっての危険」に基づく例外
43.改正法案第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2 号への第 1 の類型(すなわち、日本で 3 年以上の懲
役・禁錮に処せられた者)の導入は、第 33 条第 2 項にいう「社会にとっての危険」に基づく例外から
派生したものと思われる。
44.「特に重大な犯罪」という文言との関係で、UNHCR は次のように述べている。
「決定的要因は、難民が行った犯罪の重大性または罪種ではなく 、犯罪および有罪判決に照
らして当該難民が社会にとって今後危険な存在となるか否かである」70
さらに、UNHCR はこうも述べている。
「1951 年の難民条約は第 33 条第 2 項に該当する犯罪を具体的に列挙していないが、『犯罪』
という文言が『特に』および『重大な』という文言で二重に限定されていることは重要であり、この
例外条項に該当するためには犯罪が高度に重大なものでなければならないことを強調するも
のである」71
対照的に、1951 年の難民条約第 1 条 F(b)は、「難民として避難国に入国することが許可される前
に避難国の外で重大な犯罪(政治犯罪を除く)を行った」いかなる者についても難民保護から除外
している。「重大な犯罪(政治犯罪を除く)」という事由は、あまりにも重大かつ非良心的な行為――
「死刑対象犯罪またはきわめて重大な処罰対象行為」――を行ったために国際保護を与えるのに
ふさわしくないと判断される者への適用を意図したものである72。
「第 33 条第 2 項の適用範囲は狭くあるべきであるという起草者らの見解に則り、2 番目の修飾
語として『特に』が追加されたことは、第 1 条 F(b)にいう『重大な犯罪(政治犯罪を除く)』よりもさ
70 UNHCR, N- A- M-, Petitioner, v. Michael Mukasey, Attorney General of the United States, Respondent. Brief for the
United Nations High Commissioner for Refugees as Amicus Curiae in Support of Petitioner, 19 June 2008, available at:
http://www.refworld.org/docid/48622dd72.html (第 33 条第 2 項のノン・ルフールマン原則の例外;対象者が「特に重大
な犯罪」について終局判決によって有罪とされていなければならないという要件;対象者が今後「社会にとって危険な存
在」となるか否かの評価に関する意見書)
71 UNHCR, N- A- M-, Petitioner, v. Michael Mukasey, Attorney General of the United States, Respondent. Brief for the
United Nations High Commissioner for Refugees as Amicus Curiae in Support of Petitioner, 19 June 2008, available at:
http://www.refworld.org/docid/48622dd72.html (第 33 条第 2 項のノン・ルフールマン原則の例外;対象者が「特に重大
な犯罪」について終局判決によって有罪とされていなければならないという要件;対象者が今後「社会にとって危険な存
在」となるか否かの評価に関する意見書)
72 UNHCR「国際的保護についてのガイドライン-除外条項の適用-難民の地位に関する 1951 年条約第 1 条 F 項」
HCR/GIP/03/05(2003 年 9 月 4 日)(「UNHCR 除外ガイドライン」)。仮訳・原文英語
23
らに高い基準とさらに限定的な適用を要求するものと解されなければならない」
「ある難民が『社会にとって危険な存在』となるか否かの個別評価においては、さまざまな要素
を考慮することが必要である。検討すべき要素には、最低限、犯罪行為の性質および事情、当
該行為を行った動機、当該犯罪が実行された時期、ならびに、酌量要素があれば当該要素
(犯罪実行時の精神状態、過去の犯罪活動、更生および社会への再統合の可能性ならびに
再犯の可能性の証拠等)が含まれなければならない。……」73
結論としては、ノン・ルフールマンの義務に対する関連の例外が適用されるのは、「特に重大な犯
罪」について有罪判決を受け、かつ「社会にとって危険な存在」であると認定された難民に限られる。
さらに、ある難民が社会にとって危険な存在であるか否かを判断するためには、あらゆる関連の要
素を評価する個別の検討が行われなければならない74。
1.4 難民認定の原処分の質を向上させるための措置
45.UNHCR はさらに、先に引用した通り、専門部会報告書の第 4 の 1(4)に掲げられた専門部会の
提言(p.34)で、専門部会が検討を委ねられた収容・送還関連の問題に根本的に対処する 方法とし
て難民認定に関する決定の質、公正性および効率性を一層向上させるための措置が、一定の事
案について送還停止効を解除する前提としていくつか提案されていることを想起する。
46.UNHCR は、専門部会の提言(第 4 の 1(4)②)で、特に行政庁の判断の適切性について「第三
者によるチェック」が行われる必要性に言及されていることにも留意する。「クオリティ・アシュアランス
(またはクオリティ・イニシアチブ)」75と呼ばれるものを含むこのような第三者によるモニタリングの仕
組みは、実際、難民認定に関する処分の質を確保する手段として、UNHCR の関与の有無にかか
わらず多くの国で実践されており、庇護制度の透明性およびアカウンタビリティの増進にも役立って
いる。UNHCR は、この提言を踏まえて法改正または運用上の改善を行うことが、難民認定に関する
決定の質を一層向上させる上で役立つと考えるものである。UNHCR は、難民認定の処理を迅速に
進めるための案件の振分け状況の検証を委ねられ、UNHCR も委員として参加した「有識者会議」
(難民認定制度運用の見直し状況検証のための有識者会議)を復活させてその委任事項を拡大す
ることも、有効な選択肢の 1 つであることを付言したい(前掲第 29 段落参照)。UNHCR はまた、申
請者の主張内容の理解を向上させるために難民認定における面接技法を一層向上させるべきであ
73 UNHCR, N- A- M-, Petitioner, v. Michael Mukasey, Attorney General of the United States, Respondent. Brief for the
United Nations High Commissioner for Refugees as Amicus Curiae in Support of Petitioner, 19 June 2008, available at:
http://www.refworld.org/docid/48622dd72.html (第 33 条第 2 項のノン・ルフールマン原則の例外;対象者が「特に重大
な犯罪」について終局判決によって有罪とされていなければならないという要件;対象者が今後「社会にとって危険な存
在」となるか否かの評価に関する意見書)
74 UNHCR, N- A- M-, Petitioner, v. Michael Mukasey, Attorney General of the United States, Respondent. Brief for the
United Nations High Commissioner for Refugees as Amicus Curiae in Support of Petitioner, 19 June 2008,
http://www.refworld.org/docid/48622dd72.html (第 33 条第 2 項のノン・ルフールマン原則の例外;対象者が「特に重大
な犯罪」について終局判決によって有罪とされていなければならないという要件;対象者が今後「社会にとって危険な存
在」となるか否かの評価に関する意見書)
75 「UNHCR は世界各地で相当の数の国と共に、いわゆる『クオリティ・イニシアチブ』に取り組んでいる。これは、(……)
UNHCR が関係当局と協働して作業するという精神に則って行われている取り組みである」。UNHCR 駐日事務所「第 5
次出入国管理基本計画案に関する UNHCR の見解(2015 年 7 月 24 日)」 https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/protect/Final_UNHCR_Comments_JPN.pdf 。この文書の pp.11-12(UNHCR の役割)では、ケー
スレビューも含めて UNHCR が政府を援助し得るさまざまな方法について述べている。また、Refworld にはクオリティ・ア
シュアランスに関する特設ページが設けられている。https://www.refworld.org/qualityassurance.html 仮訳・原文英語
24
る旨の提言も想起する。さらに、送還停止効に何らかの例外を設けることが決定されるのであれば、
その規定の実施状況についてもこのような第三者チェックの仕組みの対象とすることが重要となろう。
47.UNHCR はまた、専門部会の提言第 4 の 1(4)③で、入管庁に対し、難民認定制度に関する専
門部会が 2014 年に行った提言のうち、難民の定義の解釈および補完的保護の付与の基準の明確
化および公表を含む、その他の提言の実施が促されていることにも留意する。UNHCR は、2014 年
に開催された難民認定制度に関する専門部会にオブザーバーとして参加する機会を得た。専門部
会がとりまとめた上記の提言は、特に難民認定の第 1 次審査との関連で、かなり包括的なものとなっ
ている76。前掲「I.はじめに」で述べた通り、UNHCR は同提言を実施するために入管庁がこれまで行
ってきた多大な努力を評価し、特に難民認定審査に関与する入管庁職員の対応力強化および同
庁の出身国情報(COI)体制の強化の分野で、入管庁と緊密に協働してきた。UNHCR としては、そ
の他の提言の実施77、特に難民認定基準および補完的保護の基準の明確化のためのさらなる努力
に関して入管庁をサポートする用意がある。このような努力においては、国際難民法・国際人権法
の基準を反映することが有益であろう。さらに、UNHCR は、日本政府に対し、難民認定手続の公正
性および整合性をさらに増進させるため、本見解の前半、特に第 7 段落に掲げた長期的提言の一
部(難民認定の第 1 次審査の段階から独立した不服申立て制度を導入すること、法律扶助および
代理人等の支援へのアクセスを容易にすることを含む)を検討するよう奨励する。
1.5 明らかに理由がない申請の概念
48.現在の改正法案では「明らかに理由がない申請」という用語には何ら言及されていないものの、
専門部会報告書第 4 の 1(4)の「検討」(pp.35-36、「提言」では言及がない)および専門部会の会議
録ではこの用語に数回言及されている。この概念は、日本政府による事実上の案件の振分けでも
用いられている(B 案件、前掲第 29 段落参照)ほか、国家実行の問題として不服申立て段階にお
ける自動的な送還停止効の例外として考えられうる類型の 1 つにも挙げられている(前掲第 13 段落
参照)。したがって、慎重な定義および適用が必要であるこの概念については、説明しておく価値
がある。
49.「明らかに理由がない」という用語は、現在の UNHCR の指針では、「難民の地位の基準に関連
していないことが明白である」または「明白な欺罔もしくは濫用である」難民申請を対象とするものと
して定義されている78。次の点に留意しておくべきである。
「その者を難民と認定するために関連の高い、重要は実質的な性質の事項について虚偽的と
思われる主張をした場合で、かつ審査を進める正当な根拠となるその他の要素が当該申請に
含まれていないことが明白である場合にのみ、当該申請を『明白な虚偽』と判断することができ
る。(……)ただし、単に虚偽の陳述を行った(……)というだけでは、難民の地位の基準を満た
していないということにも、庇護の必要性がなくなるということにもならない。明らかに理由がない
76 「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」(2014 年 12 月)。
http://www.moj.go.jp/content/001130133.pdf
77 入管庁「難民認定制度に関する専門部会における提言への対応状況について」(2020 年 6 月)。
http://www.moj.go.jp/content/001323270.pdf
78 UNHCR, “UNHCR’s Position on Manifestly Unfounded Applications for Asylum,” (1 December 1992), 3 European
Series 2, available at: http://www.refworld.org/docid/3ae6b31d83.html, p.397. 仮訳・原文英語
25
可能性が高いと判断される申請は、棄却される可能性が高いとはいえ誠意をもってなされてい
る庇護申請とは区別されるべきである 。特定の国から来たまたは特定の経歴・背景を有する申
請者が提出する申請の認定率は、過去または現時点においてきわめて低い場合がある。この
ことは、しかし、このような申請が『明白に』難民認定の要件に関連していないこと、または当該
国から来たもしくは当該背景を有する申請者が信義則に沿って行動していないことを必ずしも
意味するものではない」79
したがって、たとえある者に、第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 2 号で定められているように犯罪歴があ
り、またはテロリズムや暴力主義的破壊活動に関与するおそれもしくは可能性が疑われるとしても、
その申請が「明らかに理由がない」ものであるか否かには何ら関係ない場合がある。
50.したがって、「明らかに理由がない」申請の意味は明確かつ限定的に定義されるべきであり(前
述)、ある申請が「明らかに理由がない」とする決定自体も、十分な資格・資質を認められた難民調
査官による申請人の主張を十分に酌み取った事情聴取を含めた、適切な保障措置を伴う手続によ
りなされなければならない80。さらに、適正手続原則の原則に基づいて、明らかに理由がないとして
申請を棄却した決定に対し、原処分を行った機関とは別の独立した機関において不服申立てを行
う権利が認められなければならない81。
1.6 送還停止効の解除に関する結論要約
51.結論として前述のポイントを要約すれば、UNHCRは、送還停止効の解除はルフールマンのリス
クを高めるので望ましくないという立場をあらためて表明したい。したがってUNHCR は、例外(すな
わち第61条の2の9第4項第1号および第2号)の新設は望ましくないと考える。さらに、送還停止効は、
初めて難民申請を行う申請者については、難民認定に関する第一次審査と不認定処分に対する
不服審査が行われている間、一定の犯罪歴がある、またはテロリズムや暴力主義的破壊活動等に
関与したまたはするおそれや可能性があるというだけの理由によっては、決して解除されてはならな
い。UNHCRは、テロ行為を支持しまたは実行した者が生じさせる可能性のある安全上の脅威に対
応しなければならないという各国の正当な懸念を共有するものの、安全と保護は相容れないもので
はない。国にとって危険であることが疑われる申請者については、必要な専門性を備えた専門部署
によって迅速に処理を進めることも可能である。難民が受入国の「安全にとって危険である」または、
特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国社会にとって「危険な存在となった」場
合の、1951年の難民条約第33条第2項に基づくノン・ルフールマンの原則の例外は、危険を消滅ま
たは軽減させるために取り得る最後の手段でなければならず、かつ、当該個人が国または社会に
対して及ぼす将来の危険は送還時に当該個人が直面する危険を上回るものでなければならないと
いう意味で、比例性がなければならない。したがってUNHCR は、犯罪歴等に言及する第61条の2
79 UNHCR, “Aide-Memoire & Glossary of case processing modalities, terms and concepts applicable to RSD under
UNHCR’s Mandate (The Glossary),” (2020) available at: https://www.refworld.org/docid/5a2657e44.html, P20-
21(“Manifestly Unfounded”)
80 執行委員会結論第 30 号(XXXIV)「明らかに理由がないかまたは濫用された難民の地位もしくは庇護の申請の問題」
(UNHCR 執行委員会、1983 年)。https://www.unhcr.org/jp/protect-committee-30
81 Section 7.10 “Appeals and effective remedy” in UNHCR, A guide to international refugee protection and building state
asylum systems, 2017, Handbook for Parliamentarians N° 27, available at:
https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, p.179. 仮訳・原文英語
26
の9第4項第2号を送還停止効の例外規定から削除することを推奨する。UNHCRには、難民保護を
損なわずに安全上の懸念に対処することに関して日本政府を援助する用意がある 。申請の本案に
関する再検討を正当化する事由を提出せずに3度目以上の複数回申請を行った者について送還
停止効を解除することとの関連で、UNHCRは、そもそも難民認定に関する第一次処分の質を増進
させる必要があることに加えて、関連の手続的保障を確保する必要性を強調したい。これらの保障
には、非許容の(すなわち、保護のための「相当の理由がある資料」がない旨の)決定に対して実効
的な救済措置を求め、かつ、その間、独立機関に対して送還の停止を要請する権利が含まれる。
相当の理由があることを示す資料を提出していない旨の認定に対して行政不服審査を申し立てる
権利が庇護希望者に認められないのであれば、庇護希望者が司法審査にアクセスが保障されるこ
とが重要である。具体的には、送還停止のための訴訟を提起できるよう、計画されている送還時期
が庇護希望者に対して通知されるべきであり、また庇護希望者は、訴訟提起の権利が認められて
いる期間中領域内に留まることを認められ、かつ法律扶助を含むサービスにアクセスできるようにさ
れるべきである。
2.補完的保護について(改正法案第 2 条第 3 号の 2)
現行入管法第2条は「定義」について定めているところ、改正法案第2条第3号の2は次の規定を
新たに追加した。
「補完的保護対象者 難民以外の者であつて、難民条約の適用を受ける難民の要件のうち迫害
を受けるおそれがある理由が難民条約第1条A(2)に規定する理由であること以外の要件を満た
すものをいう。」
専門部会の報告書に掲げられた提言の関連個所については、前掲 III.1(一定の事案に関する
自動送還停止効の解除について(改正法案 第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号および第 2 号))の
冒頭で引用した、専門部会報告書の第 4 の 1(4)③(p.34)を参照されたい。
52.改正法案に、「補完的保護」という――1951 年の難民条約上の難民の定義を満たさない者に
付与される保護(これまでは「人道的配慮による在留特別許可」という文言が用いられてきた)を指
す――文言への言及が初めて採用されたのは、注目に値する。UNHCR は、改正法案に「補完的
保護」の文言および概念が導入されたことを歓迎する。これは、地位の付与が、純粋に同情的な理
由に基づく裁量的なものではなく義務であることを明らかにする上で、象徴的重要性を有する。
53.ただし、UNHCR は、改正法案で提案されている基準において、補完的形態の国際保護の基準
として国際的・地域的な難民法および人権法で一般的に採用されている文言が反映されていない
ことを懸念する。特に、現在の定義では、国際人権文書に基づいて日本政府がノン・ルフールマン
の義務を負う者が対象とならない可能性がある。
54.UNHCR は、「補完的」形態の保護を、1951 年の難民条約に掲げられた難民の定義または地域仮訳・原文英語
27
難民文書に含まれるより幅広い難民認定基準は満たしていないものの、国際保護を必要とする者を
保護し、かつこのような者に地位を付与するための法的メカニズムを指すものと定義している82。(典
型的には国際国境を越えて避難することを余儀なくされたために)出身国の外にあるものの、国際
法または地域法に基づいて難民の資格を認められない者も、一定の状況下で、例えば国際人権法
上のノン・ルフールマンの義務に基づき83、一時的または長期的に国際保護を必要とする場合があ
る
84。国際人権文書に基づく締約国の義務は拘束力のある義務であり、補完的基準を定めるすべて
の努力の枠組みと捉えられるべきである85。日本は自由権規約、拷問等禁止条約、児童の権利条
約および強制失踪条約の締約国であるので、これらの条約で課されたノン・ルフールマンの義務に
よって補完的保護の根拠が生じる86。
55.前掲第 26 段落で述べた通り、入管法には、日本が締約国となっている 2 つの国際人権条約に
基づくノン・ルフールマンの義務がすでに反映されていることが留意される。具体的には、入管法第
53 条第 3 項第 2 号および第 3 号で、退去強制を受ける者の送還先として指定する国には、拷問等
禁止条約第 3 条第 1 項に規定する国および強制失踪条約第 16 条第 1 項に規定する国を含める
ことはできないと定められている。しかし第 53 条第 3 項第 2 号および第 3 号では、このような国際的
義務を理由として送還することができない者への在留資格の付与について具体的に定められてい
ない。日本政府として、改正法案第 2 条第 3 号の 2 にいう「補完的保護対象者」の定義を、締約国
となっている条約(入管法第 53 条第 3 項第 2 号および第 3 号ですでに対象とされている 2 つの条
約を含む)に基づいて日本が負っているすべての国際人権法上の義務を網羅する ものとすることが
推奨される。
3.退去の命令または旅券発給申請命令に従わない行為等に対する罰則の創設について(第 55
条の 2 第 1 項および第 72 条第 8 号、第 52 条第 12 項および第 72 条第 6 号)
改正法案の関連規定
第 6 節(退去の命令)
第 55 条の 2 は次のように定めている。
「〔1〕 主任審査官は、次の各号に掲げる事由のいずれかにより退去強制を受ける者を第 53 条
に規定する送還先に送還することが困難である場合において、相当と認めるときは、その者に対
し、相当の期間を定めて、本邦からの退去を命ずることができる。この場合においては、あらかじ
めその者の意見を聴かなければならない。
82 UN High Commissioner for Refugees (UNHCR), Persons in need of international protection, June 2017, available at:
https://www.refworld.org/docid/596787734.html
83 補完的形態の保護によるものを含む国際保護の提供に関する執行委員会結論第 103 号(LVI)(2005 年)。
84 補完的形態の保護によるものを含む国際保護の提供に関する執行委員会結論第 103 号(LVI)(2005 年)は、保護の
空白を回避し、かつ国際保護を必要とするすべての者がそのような保護を見出しかつ享受できるようにするような方法で、
国際難民保護制度を適用しかつ発展させていくことの重要性を強調している。
85 Paragraph 15, UNHCR, UNHCR submission to the Senate Legal and Constitutional Affairs Legislation Committee in
respect of its inquiry into the Migration Amendment (Complementary Protection and Other Measures) Bill 2015, 3
December 2015, p. 4, available at: https://www.refworld.org/docid/56669e5e4.html [accessed 12 October 2020]
86 Paragraph 12. UNHCR, “Submission by the Office of the United Nations High Commissioner for Refugees Inquiry into
the Migration Amendment (Regaining Control Over Australia’s Protection Obligations) Bill 2013,” 23 January 2014, pp. 2-
3, available at: https://www.refworld.org/docid/530b20594.html [accessed 12 October 2020] 仮訳・原文英語
28
一 その者が自ら本邦を退去する意思がない旨を表明している場合において、その者の第 53
条に規定する送還先が退去強制令書の円滑な執行に協力しない国以外の国 として法務大臣が
告示で定める国に含まれていないこと。
二 その者が偽計又は威力を用いて送還を妨害したことがあり、再び送還に際して同様の行為
に及ぶおそれがあること。
2 前項の規定による命令を受けた者が次の各号に掲げる事由のいずれかに該当するに至つた
ときは、当該事由に該当しなくなるまでの間、当該命令は、効力を停止するものとする。
一 第 61 条の 2 の 9 第 3 項の規定(UNHCR 注:難民申請の自動的な送還停止効)により送
還が停止されたこと。
二 退去強制の処分の効力に関する訴訟が係属し、かつ、行政事件訴訟法(昭和 37 年法律
第 139 号)の規定による執行停止の決定がされたこと。
3 主任審査官は、第 1 項の規定により本邦からの退去を命ずる場合には、その理由及び同項の
期間を記載した文書を交付しなければならない。
4 主任審査官は、必要がある場合には、相当の期間を定めて、第 1 項の期間を延長することが
できる。
5 第 1 項の規定による命令は、入国警備官が同項の期間(前項の規定により期間を延長した場
合においては、当該延長した期間を含む。)内に退去強制令書の発付を受けた者を第 52 条第 3
項の規定により送還することを妨げない。
6 第 1 項の規定による命令により本邦から退去させられた者は、この法律の規定の適用につい
ては、退去強制令書により退去を強制されたものとみなす。」
改正法案第 52 条第 12 項は次のように定める。
「主任審査官は、退去強制令書の発付を受けた者を送還するために必要がある場合には、その
者に対し、相当の期間を定めて、旅券の発給の申請その他送還するために必要な行為として法
務省令で定める行為をすべきことを命ずることができる。」
改正法案第 52 条第 13 項は次のように定める。
「主任審査官は、必要がある場合には、相当の期間を定めて、前項の規定により定められた期間
を延長することができる。」
第 9 章(罰則)
改正法案第 72 条は次のように定める。
「次の各号のいずれかに該当する者は、1 年以下の懲役若しくは 20 万円以下の罰金に処し、又
はこれを併科する。」
第 72 条第 6 号~第 8 号は次のように定める。
「六 第 52 条第 12 項の規定による命令(UNHCR 注:旅券発給申請命令等;2021 年改正法案
で新設されるもの)に違反して同項に規定する行為をしなかつた者
七 (略)
八 第 55 条の 2 第 1 項の規定による命令に違反して本邦から退去しなかつた者
(後略)」 仮訳・原文英語
29
専門部会報告書の提言の関連個所抜粋
専門部会の提言(第 4 の 1(3)の提言、p.29)では次のように述べられている(太字は引用者)。
「退去強制令書の発付を受けた者を直ちに本邦外に送還することができない場合において,前
記⑵①による確認の内容等を踏まえ,送還を控えるべき事情のないときには,当該被退去強制
者に対し,(……)一定の期日までに(……)渡航文書の発給申請等や退去を義務付ける制度を
創設するとともに,これらの義務の履行を確保するため,命令違反に対し罰則を定めることを検討
すること。
このような命令制度の創設を検討するに当たっては,送還を停止すべき難民認定申請者に義
務が課されたり,罰則が科されたりすることがない ことを明確に規定するほか,命令の対象が,被
退去強制者一般ではなく,退去させるに当たり,罰則による間接強制を伴う退去義務を課するこ
とが真に必要となる者に限定されるようにするため,(……)命令発出の判断において,その者が
送還を拒んでいる事情を適切に考慮するための手続や仕組みを工夫すること。
※ なお,一部の委員から,このような命令や罰則を創設すべきではない旨の反対意見が述べら
れた。」
56.新設される改正法案第 55 条の 2 第 1 項第 1 号および第 2 号の規定により、入管庁は、退去強
制の施行が困難な者に対して退去命令を発出できるようになる。このような者には、自ら日本を退去
する意思がない旨を表明している者や、偽計または威力を用いて送還を妨害したことがあり、送還
に際して再び同様の行為に及ぶおそれがある者が含まれる。また、新設される改正法案第 52 条第
12 項に基づき、入管庁は、退去強制令書の発付を受けた者を送還するために必要がある場合、そ
の者に対し、旅券の発給の申請その他送還するために必要な行為をすべきことを命ずることができ
る(以下「旅券発給申請命令等」)。これらの命令に従わない者は、1 年以下の懲役もしくは 20 万円
以下の罰金に処され、またはこれを併科される(第 72 条第 6 号および第 8 号)。
57.第 55 条の 2 第 1 項に基づく退去命令は、難民申請に伴う送還停止効が適用される難民(送還
停止効の例外の問題については本見解の III.1 参照)と、退去強制令書の取消しまたは無効確認を
求めて訴訟を提起した後に退去強制令書の執行が停止された者(庇護希望者を含む)については
免除される(第 55 条の 2 第 2 項)。したがって、理論的には、改正法案第 61 条の 2 の 9 第 4 項第
1 号および第 2 号に基づいて送還停止効が解除された難民申請者87(本見解の前掲 III.1 参照)に
対しても、入管庁は「退去命令」を出し、退去強制令書が発付された後に出国しなかったことを理由
として処罰することが可能である。また、改正法案第 52 条第 12 項に基づいて新設される旅券発給
申請命令等についてはこのような例外が設けられていない。入管庁は、理論的には、いかなる庇護
希望者(送還停止効が適用される者や、難民申請の不認定/退去強制令書の発付をめぐって司
法審査を追求している者を含む)に対しても、旅券の発給の申請および出国のために必要なその
他の行為するよう命ずることができる。しかし、迫害されるのではないかという恐怖を有している難民
87 本案審査の正当化事由を示さずに 3 度目の申請を行った者、および、一定の犯罪歴を有する者またはテロリズムや暴
力主義的破壊活動に関与するおそれがある者等。送還停止効の解除に関する UNHCR の見解は、本見解の III.1 参
照。仮訳・原文英語
30
である可能性がある庇護希望者は、定義上、出身国の当局に連絡することができずまたは連絡す
ることを望まないのが通例である。国籍国の領事機関に連絡すれば、当該庇護希望者が帰還時に
迫害されるリスクが高まり、または後発的事由による難民該当性の主張が生じる可能性もある。さら
に、無国籍者または国籍不明者は、第 55 条の 2 第 1 項に基づく「退去命令」についても第 52 条第
12 項に基づく「旅券発給申請命令等」についても、特に免除の対象とされていない。
58.総論として、国際人権法の観点からは、国連恣意的拘禁作業部会が、すべての外国人一般に
ついて非正規滞在の犯罪化を行わないよう繰り返し促している88。このような犯罪化には、必然的に、
退去命令の発付後に出国しないことに対する処罰も含まれるはずである。国連恣意的拘禁作業部
会は次のように述べる。
「移住者による非正規な入国および滞在は刑事犯罪として扱われるべきではなく、したがって
非正規な移住の犯罪化は常に 、自国の領域の保護および非正規な移住・移動の流れの規制
に関わる国家の正当な利益に照らして比例性を欠くものになろう 。移住者は犯罪者として分類
されもしくは取り扱われてはならず、また国もしくは公衆の安全および/または健康の観点から
のみ捉えられてもならない」89
UNHCR の見解では、このことは庇護希望者および後述する無国籍者についてとりわけ当てはま
る。
59.UNHCR が 2012 年にとりまとめた「庇護希望者の拘禁及び拘禁の代替措置に関して適用される
判断基準及び実施基準についてのガイドライン」(以下「拘禁ガイドライン」)は、第 32 段落で次のよ
うに述べる。
「(……)非正規な入国または滞在に対する懲罰的な――例えば刑事上の――措置または懲
戒的制裁としての拘禁は、認められない。このような拘禁は、1951 年条約第 31 条にいう刑
罰にあたるのとは別に、国際人権法に違反する集団的懲罰に相当する場合もある」90
60.UNHCR は、専門部会の提言において、「送還を停止すべき難民認定申請者」についてはこの
ような措置の対象としない旨、提言されていることに留意する(p.29、前掲専門部会の提言第 4 の
1(3))。
61.実務上も、庇護希望者の特別な事情を考慮し、庇護希望者一般に対して前述の命令を課す意
図は基本的にないというのが入管庁の立場であると UNHCR は理解している一方、個別事案ごとに
判断される非常に例外的な場合に、このような庇護希望者に対して命令が発出される可能性はある
とも理解している。このような背景に基づき、UNHCR は、国際難民法/人権法の原則を遵守するた
め、改正法案第 55 条の 2 第 1 項および第 52 条第 12 項のいずれにおいても、両方の命令および
88 UNHCR「庇護希望者の拘禁及び拘禁の代替措置に関して適用される判断基準及び実施基準についてのガイドライ
ン」(2012 年)、注 54。https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/protect/Detention_Guidelines_2012_JPN.pdf
89 Paragraph 10, P32 of the No.5 A/HRC/39/45(2 July 2018)Working Group on Arbitrary Detention Revised deliberation
no 5 on deprivation of liberty of migrants(2 July 2018), available at: https://documents-ddsny.un.org/doc/UNDOC/GEN/G18/196/69/PDF/G1819669.pdf?OpenElement.
90 UNHCR「庇護希望者の拘禁及び拘禁の代替措置に関して適用される判断基準及び実施基準についてのガイドライ
ン」(2012 年)、第 32 段落。https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/protect/Detention_Guidelines_2012_JPN.pdf 仮訳・原文英語
31
これに伴う罰則の対象からすべての庇護希望者を特に除外することを提言する。専門部会の提言
第 4 の 1(3)(p.29)に掲げられている「送還を停止すべき難民認定申請者」という用語には、難民の
地位について最終決定を受けておらず、定義上送還を停止すべきすべての庇護希望者が包含さ
れるべきである。これには、改正法案第 61 条の 2 の 9 第 4 項第 1 号および第 2 号に基づいて送
還停止効が解除される者も含まれるべきである(送還停止効の解除に関する UNHCR の見解は、本
見解の III.1 参照)。
62.また、無国籍に対応する責任を国連総会から委ねられた国連機関91として、UNHCR は、専門部
会報告書(p.32、第 4 の 1(3)の提言に関する「検討」をまとめた箇所)で、検討の際に表明された、無
国籍者も(難民認定関連の訴訟を追求している者等に加えて)罰則から除外されるべきである旨の
意見に言及されていることにも、評価の意とともに留意する。そこでは次のように述べられている。
「難民認定申請者のみならず,送還が事実上困難な無国籍者,(……)訴訟(審査請求に対す
る裁決後に提起したものを含み,難民不認定処分取消訴訟,難民認定義務付け訴訟等を含
む。)等を提起中の者(……)等は命令の対象者から除外されるべきである」
63.UNHCR の拘禁ガイドライン(2012 年)で指摘されている通り、移住の状況下にある無国籍者は
「恣意的に拘禁される危険性が高ま」る傾向にあり92、たとえ退去強制令書が発付され、かつ(提案
されている罰則が科されてもなお)無期限に拘禁されることになっても、出国することができないこと
になりかねない。具体的には、「無国籍者はいかなる国でも合法的な在留資格を有していないこと
が多い。無国籍者は一般的に身分証明書または有効な在留許可・資格を有していないため、逮捕
されたり、繰り返し、長期に渡って拘禁されたりする高いリスクに直面している。出身国以外の国で
拘禁されている場合、出身国に帰還することができないため長期に渡る拘禁に直面する可能性もあ
る。しかし、しかるべき書類を有していないことまたは必要な移住・在留資格を得ていないことを口実
として用いて無国籍者の拘禁を一般的に正当化することはできない」93。
64.UNHCR としては、実務上も、帰還に関する対象者の意向にかかわらず、定義上、退去強制を
執行することが不可能または困難な無国籍者に対し、第 55 条の 2 第 1 項または第 52 条第 12 項
に基づくいかなる命令も課す意図は基本的にないというのが入管庁の立場であると理解している。
とはいえ、特に日本では無国籍認定手続が設けられていないことから、無国籍者が必ずしも無国籍
者として特定されず、理論的には、出国しないことまたは旅券発給申請命令に従わないことを理由
として処罰されることもあり得る。したがって UNHCR は、無国籍者も、第 55 条の 2 第 1 項または第
91 国連総会は、1974 年の決議 3274(XXIV)および 1976 年の決議 31/36 によって、無国籍の削減に関する 1961 年の
条約第 11 条に基づき無国籍者を援助する任務を UNHCR に委ねた。それ以降、無国籍に対応する UNHCR の任務は
その後の国連総会決議(1994 年の決議 49/169 および 1995 年の決議 50/152)によって拡大され、現在では 2 つの無国
籍条約の締約国のみならず全世界を対象とするに至っている。
92 UNHCR「庇護希望者の拘禁及び拘禁の代替措置に関して適用される判断基準及び実施基準についてのガイドライ
ン」(2012 年)、第 4 段落。https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/protect/Detention_Guidelines_2012_JPN.pdf また、Handbook on the Protection of Stateless
Persons (2014) paragraphs 112-115, as well as 166-168, available at: http://www.refworld.org/docid/53b676aa4.html;
UNHCR, “Stateless Persons in Detention: A tool for their identification and enhanced protection,” June 2017, available at:
https://www.refworld.org/docid/598adacd4.html も参照。
93 p. 4, UNHCR, “Stateless Persons in Detention: A tool for their identification and enhanced protection,” June 2017,
available at: https://www.refworld.org/docid/598adacd4.html. 仮訳・原文英語
32
52 条第 12 項に基づく命令(およびそれに伴う罰則)の対象から明示的に除外されるようにすること
を提言する。さらに、この機会を捉え、日本政府として、無国籍者が退去強制令書の発付後も無期
限に非正規な状況に留まらざるを得なくなることを防ぐ方策として、無国籍認定手続を設け、または
その他のやり方で無国籍者の滞在を許可することを検討するのも有用となり得よう。さらに、無国籍
者は入管法上の収容代替措置(後述)を享受できるべきである。
4.「監理措置」の導入(改正法案第 44 条の 2 第 1 項および第 52 条の 2 第 1 項)および収容代替
措置の利用拡大の努力
入管法改正案の関連条項
改正法案第 52 条の 2 第 1 項
(注:第 44 条の 2 第 1 項では、収容令書による収容に代わる「監理措置」に付される者について、
同様の規定が置かれている)
(収容に代わる監理措置)
第 52 条の 2 前条第 7 項の規定による通知(注:退去強制を受ける者を直ちに送還することがで
きない場合)を受けた主任審査官は、退去強制を受ける者(収容されている者又は仮放免されて
いる者を除く。)が逃亡し、又は不法就労活動をするおそれの程度その他の事情 を考慮し、送還
可能のときまでその者を収容しないことが相当と認めるときは、法務省令で定める期限までに 300
万円を超えない範囲内で法務省令で定める額の保証金を納付することを条件として、その者を
監理措置(次条に規定する監理人による監理に付する措置をいう。以下この節において同じ。)
に付する旨の決定をするものとする。この場合においては、監理措置に付される者に対し、住居
及び行動範囲の制限、呼出しに対する出頭の義務その他逃亡及び不法就労活動を防止するた
めに必要と認める条件(第 4 項及び第 52 条の 4 第 2 項第 4 号において「監理措置条件」とい
う。)を付するものとする。
2 (略)
3 退去強制を受ける者(収容されている者又は仮放免されている者に限る。次項において同
じ。)は、法務省令で定めるところにより、主任審査官に対し、自己を監理措置に付することを請
求することができる。
4 主任審査官は、前項の請求により又は職権で、退去強制を受ける者が逃亡し、又は不法就労
活動をするおそれの程度その他の事情を考慮し、送還可能のときまでその者を放免することが相
当と認めるときは、その者を放免して監理措置に付する旨の決定をするものとする。この場合にお
いては、監理措置に付される者に対し、300 万円を超えない範囲内で法務省令で定める額の保
証金を納付させ、かつ、監理措置条件を付するものとする。(第 5~7 項略)
(監理人)
第 52 条の 3 監理人は、次項から第 5 項までに規定する監理人の責務を理解し、当該被監理者
の監理人となることを承諾している者であつて、その任務遂行の能力を考慮して適当と認められ
る者の中から、監理措置決定をする主任審査官が選定するものとする。 仮訳・原文英語
33
2 監理人は、自己が監理する被監理者による出頭の確保その他前条第 1 項又は第 4 項の規定
により付された条件の遵守の確保のために必要な範囲内において、当該被監理者の生活状況
の把握並びに当該被監理者に対する指導及び監督を行うものとする。
3 監理人は、自己が監理する被監理者による出頭の確保その他前条第 1 項又は第 4 項の規定
により付された条件の遵守の確保に資する ため、当該被監理者からの相談に応じ、当該被監理
者に対し、住居の維持に係る支援、必要な情報の提供、助言その他の援助を行うように努めるも
のとする。
4 監理人は、次の各号のいずれかに該当するときは、法務省令で定めるところにより、主任審査
官に対し、その旨及び法務省令で定める事項を届け出なければならない。
一 被監理者が次条第 2 項第二号から第五号までのいずれかに該当することを知つたとき。
二 被監理者が死亡したとき。
三 前二号に掲げるもののほか、監理措置を継続することに支障が生ずる場合として法務省令
で定める場合に該当するとき。
5 監理人は、法務省令で定めるところにより、被監理者の生活状況、前条第 1 項又は第 4 項の
規定により付された条件の遵守状況その他法務省令で定める事項を主任審査官に対して届け
出なければならない。
6 第 44 条の 3 第 6 項の規定は監理人の選定の取消しについて、同条第 7 項の規定は監理人
の辞任について、それぞれ準用する。
(監理措置決定の取消し)
第 52 条の 4 主任審査官は、次の各号のいずれかに該当するときは、法務省令で定めるところ
により、監理措置決定を取り消さなければならない。
一 第 52 条の 2 第 1 項の規定により監理措置に付された場合において、被監理者が、法務省
令で定める期限までに保証金を納付しなかつたとき。
二 前条第 6 項において準用する第 44 条の 3 第 6 項の規定により監理人の選定が取り消され
た場合、監理人が辞任した場合又は監理人が死亡した場合において、被監理者のために新た
に監理人として選定される者がいないとき。
2 主任審査官は、被監理者が次の各号のいずれかに該当する場合は、法務省令で定めるとこ
ろにより、監理措置決定を取り消すことができる。
一 送還を実施するために被監理者を収容する必要が生じたとき。
二 逃亡し、又は逃亡すると疑うに足りる相当の理由があるとき。
三 収入を伴う事業を運営する活動若しくは報酬を受ける活動を行い、又はこれらの活動を行う
と疑うに足りる相当の理由があるとき。
四 監理措置条件に違反したとき。
五 次条の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき。
3 (略)
4 主任審査官は、第 2 項の規定により監理措置決定を取り消したとき(同項第 1 号に該当した場
合(同項第二号から第五号までのいずれかに該当した場合を除く。)を除く。)は、保証金の全部
又は一部を没取するものとする。 仮訳・原文英語
34
5 (略)
6 (略)
(被監理者による届出)
第 52 条の 5 被監理者は、法務省令で定めるところにより、第 52 条の 2 第 1 項又は第 4 項の規
定により付された条件の遵守状況その他法務省令で定める事項を主任審査官に対して届け出
なければならない。
(監理措置決定の失効)
第 52 条の 6 監理措置決定は、被監理者に対する退去強制令書が効力を失つたときは、その効
力を失う。
専門部会報告書の関連個所抜粋
専門部会報告書の第 4 の 2(3)ア(p.51)では次のように述べられている。
「①(……)被退去強制者については,(……)仮放免(……)を適切に運用すること。
(……)その要件・基準を現在よりも明確なものにし,法令に適切な定めを置くなどしてこれらを
公にすることを検討すること。(……)
② 収容令書・退去強制令書の発付後から送還時まで収容することが原則とされる現在の制度を
改め,仮放免とは別に,新たな収容代替措置,例えば,第三者の支援又は補助等により,(…
…)当該外国人が違法な就労に及ぶことなく生活手段を確保することが可能となることを前提とし
て,被退去強制者について,(……)逃亡防止や出頭確保を図り,収容施設外で起居するものと
することを認める措置の導入を検討すること。」
65.改正法案では、「監理措置」が導入されている(第 44 条の 2 および第 52 条の 2)。収容令書ま
たは退去強制令書の発付を受けた者(庇護希望者および無国籍者を含む)が、一定の条件(保証
金の支払いを含む)の下、民間人である「監理人」の管理(監督)を受けながら、収容施設外に置か
れる制度である。これは、第三者の支援または補助を得て「新たな収容代替措置」を導入することを
提案した専門部会の提言(第 4 の 2(3)ア、p.51)を反映したものと思われる。UNHCR は、専門部会
の提言②において、特に送還時までの収容を原則とする現行の全件収容制度を改めることが特に
提案されていることに留意する。全件収容主義からの離脱は、最終的な処分が出ていない庇護希
望者および送還が不可能である可能性が高い無国籍者にとって、とりわけ重要である。収容代替措
置の利用を拡大する意図および努力自体は、歓迎すべきことである。
66.UNHCR は、特に、「監理措置」の対象とされた者の中には入管庁が「相当と認める」時に就労を
認められることがある者もいるが(第 44 条の 5)、就労許可を付与されず、困窮しかねない者(すで
に退去強制令書を発付された者を中心に)もいる可能性があることに留意する。改正法案第 44 条
の 3 第 3 項および第 52 条の 3 第 3 項に基づき、「監理人」は、被監理者に対し、「住居の維持に係
る支援」ならびに必要な情報の提供および助言を含む援助を行うように「努める」ものとされる。今の
ところ、「監理人」に対して日本政府が資金を提供するという情報はないため、当該個人を援助する
ための努力は監理人自身の資源を用いて行わなければならないと推測される。しかし、民間人によ仮訳・原文英語
35
る善意/自発的努力を頼りにするだけでは、持続性を欠く可能性がある。どのような受入れ態勢を
設けるかについて柔軟な選択の余地はあるものの、人々が十分な生活水準(難民認定に関する最
終的決定が行われていない庇護希望者の生計手段を含む)を保てるようにすることは最終的には
国の責任であり94、就労の権利が認められていない場合に国の資金による生活扶助を行うことはそ
のための手段の 1 つである。さらに、UNHCR は、「監理措置」の対象とされている者に対し、国際人
権基準に従って、基礎的保健ケア(予防接種を含む)および基礎教育等の公共サービスへのアク
セスを確保する必要性を強調したい。さらに、一般的に言って、庇護希望者の自由を制限する収容
代替措置は、「その人権に影響を及ぼす可能性があるので、人権基準(独立機関による個別ケース
の定期的再審査を含む)に服さなければならない。拘禁の代替措置の対象とされた者は、適用可
能な、実効的な苦情申立て制度及び救済措置に、時機を失することなくアクセスできる必要がある」
95。さらに、収容代替措置は収容の代用的形態として利用されるべきではなく、収容代替措置の立
案に際しては、国として、最小限の介入の原則を尊重することが重要である96。
67.専門部会の会合でも議論された通り、逃亡の防止を確保するためには、特にケースマネジメント
の仕組みおよびコミュニティによる組織的監督(相談その他の援助の提供によるものを含む)を通じ、
政府が市民社会/コミュニティと協働しながら収容代替措置を運営していくことの高い有効性が、日
本でも法務省・日本弁護士連合会(日弁連)・特定非営利活動法人なんみんフォーラム FRJ の三者
協働枠組み等を通じて明らかにされてきた97。改正法案は、「監理人」に対し、入管庁によって付さ
れた条件を被監理者が遵守しているかどうかを入管庁に報告するよう求めており、報告を怠れば
「監理人」に対しても過料が科される(第 44 条の 3 第 5 項、第 52 条の 3 第 5 項ならびに第 77 条の
2 第 2 号および第 4 号)。このことは、支援者・代弁者としての役割から生ずる利益相反/信頼醸成
面での困難の可能性と相まって、庇護希望者・難民・無国籍者のために活動している一部の NGO
および法律専門家に「監理人」の役割を担うことをためらわせる可能性があり、この新たな収容代替
措置の実施の成功を脅かしかねない。「監理措置」を導入するのであれば、政府と、逃亡に関する
ものを含む国の懸念に対処しつつ放免により収容代替措置の代替措置とされた者の基本的人権の
確保を目的として活動する市民社会関係者との、協働の精神の下で実施することが望まれる。
68.関連して付言しておけば、UNHCR は、2005 年に導入された仮滞在の許可に関連する新たな
規定を歓迎する。これらの規定は、難民認定に関する処分がなされていない庇護希望者が在留資
94 執行委員会結論第 93 号(2002 年):個々の庇護制度の文脈における庇護希望者の受入れに関する結論(第 93 号
(LIII)-2002))(Executive Committee Conclusion No. 93 – 2002: Conclusion on reception of asylum-seekers in the
context of individual asylum systems, No. 93 (LIII) – 2002 https://www.unhcr.org/excom/exconc/3dafdd344/executivecommittee-conclusion-93-2002-conclusion-reception-asylum-seekers.html)。
95 UNHCR 拘禁ガイドライン(2012 年)、第 37 段落。
96 UNHCR 拘禁ガイドライン(2012 年)、第 38-39 段落。
97 FRJ「日本の空港において難民としての庇護を求めた者に係る住居の確保等に関する事業の実施状況について」
(2019 年 12 月 6 日)、専門部会第 5 回会合(2020 年 1 月 16 日)に提出された難民支援協会(JAR)の資料、p.5
(http://www.moj.go.jp/content/001318373.pdf)。UNHCR が同第 5 回会合(2020 年 1 月 16 日)に提出した資料
(UNHCR「オプションペーパー2:開かれた処遇と収容代替措置に関する政府のオプション」(2015 年)
http://www.moj.go.jp/content/001318372.pdf; UNHCR(アリス・エドワーズ)「基本に立ち返って:難民、難民認定申請者、
無国籍者その他の移住者の人身の自由と安全への権利と『拘禁の代替措置』について」(2011 年 4 月)
https://www.unhcr.org/jp/wp-content/uploads/sites/34/protect/Alternatives_to_Detention_Back_to_Basics_Jpn_.pdf; 国際
拘禁連盟(IDC)「代替措置は存在する 不必要な入国管理当局による収容を防止するためのハンドブック」(2011 年 5
月)https://www.refugee.or.jp/library/IDCHandbook.pdf)仮訳・原文英語
36
格(第 61 条の 2 の 5)および就労許可(第 61 条の 2 の 7 第 2 項)を取得できるようにすること等によ
り、これらの庇護希望者の保護の強化につながることが期待される。仮滞在許可は、在留の許可を
得ていない庇護希望者(庇護希望者のために設けられたいかなる在留資格もない状況の中、空港
で難民申請を行った者を含む)の法的地位の安定化を図ることを特に目的として、2005 年に導入さ
れた98。したがって、入管法で定められたすべての収容代替措置または庇護希望者の一時滞在制
度の中でも、仮滞在許可を可能な限り多くの庇護希望者に付与することが基本とされるべきであり、
他の収容代替措置は仮滞在許可の要件を満たさない者について検討されるべきである。したがっ
て UNHCR は、日本への上陸後 6 か月以内に難民申請を行っていないと思われること、退去強制
令書を発付されていないことなど、(仮滞在許可を不許可とする事由としてよく適用される)一部の基
準(第 61 条の 2 の 4 第 1 項第 6 号および第 8 号)を廃止し、かつ、入管法改正に関する見解(2004
年)で UNHCR が提言したように逃亡のおそれがないことという要件(第 61 条の 2 の 4 第 1 項第 9
号)を制限的に実施することにより、仮滞在許可が一層幅広く活用されることを希望する。入管法第
18 条の 2 に基づく一時庇護のための上陸許可をさらに柔軟に活用することも重要となろう99。
5.収容期間の上限および収容(継続)決定についての独立した審査
69.さらに、UNHCR は、i)一定期間を超えて収容を継続する場合にはその適否を吟味する仕組み
を設けること、ii)収容に係る行政手続の一層の適正確保を図るために採り得る有効な方策を検討
するべきである旨の専門部会の提言(第 4 の 2(1)①②)が、現在の改正法案には特に反映されてい
ないようであることに、留意する。
専門部会の提言(第 4 の 2(1)①②、p.42)では次のように述べられている。
「① (……)収容期間の上限を設けるべきとの議論があることや(……)国際的な動向にも留意し
つつ,(……)一定期間を超えて収容を継続する場合にはその要否を吟味する仕組みを設けるこ
とを検討する(……)こと。
※ なお,一部の委員から,収容期間及び合算した収容期間の上限を明確に定めるべきである
旨の意見が述べられた。
② (……)行政訴訟制度による司法審査の機会が確保されていることなどから,事前にかつ一律
に司法審査を要するものとすることは問題が大きいものの,前記①記載のように収容継続の要否
を吟味する仕組みを設けること,行政訴訟の機会をより適切に教示することなど,収容に係る行
政手続の一層の適正確保を図るために採り得る有効な方策 を検討すること。
※ なお,一部の委員から,収容は身体の自由に対する重大な制約であることから,収容の開始
98 さらに詳しくは、UNHCR 駐日事務所「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案に関する国連難民高等
弁務官事務所(UNHCR)の見解」(2004 年 5 月 19 日)、pp.4-8 参照。https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/protect/040520comm_j.pdf
99 入管庁の統計によれば、2019 年に仮滞在許可の該当性について判断が行われた 733 人のうち、許可が与えられた
のは 25 人に過ぎなかった(入管庁「令和元年における難民認定者数等について」2020 年 3 月、p.8、
http://www.moj.go.jp/isa/content/930005069.pdf)。仮滞在許可の適用が(一次庇護のための上陸許可とともに)拡大され
れば、「監理措置」の対象としなければならない者は少なくなると見込まれる。仮訳・原文英語
37
又は継続時には,必ず事前の司法審査によるべきであるとの意見が述べられた。」
70.専門部会報告書(p.18)に要約されている通り、拘禁ガイドライン(2012 年)に掲げられた
UNHCR の立場は、庇護希望者の収容は最後の手段であるべきであり、収容代替措置を検討した
上で、正当な目的に照らして必要性・合理性・比例性がある と個別に認定された場合でなければ行
うべきではないというものである(特に拘禁ガイドラインのガイドライン 4 参照)。収容は、法律にした
がって、かつ法律に基づいた許可を受けて行われなければならない(ガイドライン 3)。収容期間の
上限の設定(ガイドライン 6)と、収容の決定について独立機関が迅速に審査する制度 (ガイドライン
7、第 47 段落(iii))100および収容継続の必要性に関する規則的かつ定期的な再審査 (ガイドライン
7、第 47 段落(iv))
101が必要である。
71.したがって UNHCR は、収容期間の上限および収容の司法審査について定め、かつ収容の開
始または継続時における司法審査を確保するべきである旨の、専門部会報告書の第 4 の 2(1)①②
に記録されている一部委員の提言を支持する。収容の時点で事前審査を行う制度の設置を検討す
ることは、日本政府にとって有益となろう。提言②で言及されている現行の行政訴訟制度は、実際
には、すでに収容が行われた後に、収容令書または退去強制令書の発付決定が適正であったか
否かを審査する機能しか持たないためである。専門部会報告書の関連個所の「検討」で述べられて
いる通り、収容期間の上限および収容/収容継続決定に関する審査制度について立法を行うこと
は、実際、「我が国〔日本〕が加入する難民条約を含む国際人権諸条約,我が国〔日本〕が合意した
移住者のためのグローバル・コンパクト及びこれらに関する各種国際機関からの指摘内容」102を日
本政府が遵守する一助となろう。特に、身体の自由および安全についての権利ならびに恣意的拘
禁からの保護を保障する自由権規約第 9 条は、重要な原則を掲げるものである。
6.新設される「監理措置」の対象とされている間に逃亡したことに対する罰則の創設(改正法案第
100 ガイドライン 7 の第 47 段落は、「庇護希望者は、拘禁される見込みがある場合及び拘禁されている最中に、以下の最
低限の手続的保障を受ける資格を有する」とした上で、(iii)において次のように述べている。「拘禁決定についての審査を
受けるため、司法機関または他の独立機関に速やかに引致されること。理想的には、このような審査は自動的に行われる
べきであり、また庇護希望者を拘禁する旨の最初の決定から 24~48 時間以内に第一次審査が行われるべきである。審
査機関は、最初に拘禁を行った当局からは独立していなければならず、かつ、放免を命じ、または放免条件を変更する
権限を有していなければならない」
101 ガイドライン 7 の第 47 段落(iv)は次のように述べている。「拘禁に関する第一次審査が行なわれた後も、裁判所また
は独立機関において、拘禁を継続する必要性についての規則的かつ定期的な再審査が行われなければならない。庇護
希望者及びその代理人は、当該再審査に出席する権利を有する。優れた実務例においては、司法機関が拘禁する権利
を最初に確認した後、1 カ月が経過するまでは 7 日ごとに再審査が行われ、その後は法律の定める期間の上限に達する
まで毎月再審査が行われている」
102 専門部会報告書、p.43。また、2020 年の最新の進展として、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会が、日本の現在
の入管収容政策/法制(収容期間の上限がないまま無期限に継続され得る)は、収容によって達成しようとしている目的
に照らして比例性を欠いていることも含め、国際人権法上防止されるべき「恣意的拘禁」に相当するとしたことも、留意され
る。Opinion adopted in the 88th session of WGAD on August 28, 2020 A/HRC/WGAD/2020/58, available at:
https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Detention/Opinions/Session88/A_HRC_WGAD_2020_58_Advance_Edited_Vers
ion.pdf. なお、本件については出入国在留管理庁より 2021 年 3 月 30 日づけで「令和 2 年(2020 年)9 月 28 日付け送
付の国連の恣意的拘禁作業部会による意見書に対する日本政府の対応」が発表されている。
http://www.moj.go.jp/isa/publications/press/05_00008.html 仮訳・原文英語
38
72 条第 4 号)
改正法案の関連個所抜粋
第 9 章 罰則
改正法案第 72 条は次のように規定する。
「次の各号のいずれかに該当する者は、1 年以下の懲役若しくは 20 万円以下の罰金に処し 、又
はこれを併科する。」
改正法案第 72 条第 4 号は次のように規定する。
「第 44 条の 2 第 1 項若しくは第 5 項(UNHCR 注:収容令書による収容に代わる監理措置)又は
第 52 条の 2 第 1 項若しくは第 4 項(UNHCR 注:退去強制令書による収容に代わる監理措置)
の規定に基づき付された条件に違反して、逃亡し、又は正当な理由がなくて呼出しに応じない
者」
専門部会報告書(第 4 の 2(3)イ)は次のように提言している。
「① 仮放免された者が定められた条件に違反して,逃亡し,又は正当な理由なく出頭しない行
為に対する罰則の創設を検討すること。
※ なお,一部の委員から,このような罰則を設けるべきではない旨の反対意見が述べられた。
② 収容代替措置を導入する場合,罰則を含む実効的な逃亡防止措置等についても併せて検
討すること。」
72. UNHCR は、改正法案が、新設される「監理措置」の対象とされている間に逃亡する行為につ
いて、1 年以下の懲役または 20 万円以下の罰金という罰則を定めていることに留意する(法改正案
第 72 条 4 号)。これは、新設される収容代替措置(すなわち「監理措置」――「監理措置」について
は前掲 4 参照)中に逃亡した者に罰則を科すべきである旨の、専門部会の提言に基づいたもので
ある。
73.UNHCR は、提言において、このような罰則の創設に反対する少数意見が正式に記録されてい
ることに留意する。逃亡に対して罰則を科すことは目的に照らして比例性を欠くのみならず、必ずし
も、逃亡に関する政府の懸念への対応に必ずしもつながらないおそれもある103。UNHCR は、報告
書の「検討」部分に記録された、逃亡については現在設けられているその他の抑止の仕組み(収容
代替措置に付された時に寄託された保証金の没収および身元保証人または「監理人」の存在)で
すでに対応可能である旨の意見に留意する。専門部会で表明された反対意見の 1 つが正しく指摘
している通り、「現状のいわゆる全件収容主義が改められ,また,収容が最終的な手段になれば,
逃亡や不出頭は極めて限定的になると思われ,そうした法整備をしない状態で罰則を創設すべき
ではない」104。
103 専門部会報告書、pp.54-55 および第 20 回出入国管理政策懇談会(2020 年 6 月 29 日)に提出された市川正司弁護
士の意見書(http://www.moj.go.jp/content/001323272.pdf)も参照。
104 専門部会報告書、p.55。仮訳・原文英語
39
74.UNHCR としては、逃亡に対して新たに罰則(収監刑を含む)を設けるべきではないとの上記少
数意見を支持する。「監理措置」その他の措置の対象とされている者の逃亡のおそれについては、
実際のところ、前掲第 67 段落で論じた通り、収容代替措置に伴う適正なケースマネジメントによって
効果的に対処可能である。仮放免または「監理措置」等の収容代替措置の対象とされた者が逃亡
し、その後身柄を拘束された場合には、例えばモニタリングの強化(頻繁な出頭を条件とすること等)
および/または保証金・保証人の追加等によるあらゆる収容代替措置の適用の可否について、あら
ためて再検討しなければならないであろう。最初の収容の原因となった状況を理由とする再収容は、
利用可能な収容代替措置のうち再逃亡の防止等のために適用し得るものが存在しないと決定され
た後にのみ、行うべきである。
7.その他の論点
7.1 収容環境および被収容者の処遇
75.改正法案には、これまでは関連の法務省令(被収容者処遇規則)で規制されていた、被収容者
の処遇を含む収容施設の環境についての詳細な規定が多数掲げられるに至った。改正法案には、
被収容者のプライバシー、医療ケアへのアクセスおよび情報へのアクセスを保護するために収容環
境の整備を進めるべきである旨の専門部会の提言(専門部会報告書第 4 の 2(2)①)を反映した、多
くの新設規定が掲げられている。前向きな新設規定の例の 1 つは改正法案第 55 条の 5 で、そこで
は「入国者収容所長又は地方出入国在留管理局長(……)は、(……)被収容者に対し、知的、教
育的及び娯楽的活動その他の活動について、援助を与えるように努めなければならない」と規定さ
れている。同条第 2 項では、被収容者のために「書籍を備え付ける」入国者収容所長等の義務に言
及されている(娯楽その他の読書用と推定される)。
76.これらの規定は前向きなものであり、UNHCR の拘禁ガイドライン(2012 年)のガイドライン 8~10
で提唱されているように、被収容者の人権保障、とりわけ人間的かつ尊厳のある環境に対する権利
の達成に寄与することになろう。UNHCR は、この提言に関する報告書の「検討」でも指摘されている
ように、情報およびさまざまな通信機器(新聞、電話、テレビおよびインターネットさえ含むものと解
釈できる)へのアクセスをさらに容易にすることが、自己の庇護申請および帰還についての決断に
関連する重要な情報を収集しかつ受け取る被収容者の能力を増進させ得ることに、留意する。105さ
らに、専門部会の提言で提言されているように、日本政府は、「特に配慮が必要な被収容者の……
適切な処遇」(提言の「検討」(p.49)に掲げられている通り、このような被収容者には、特別なニーズ
および脆弱性を有する人々、とりわけ女性、高齢者、精神衛生上の問題、身体的疾患または障が
いのある人々および LGBTI が含まれると解釈できる)を、心理的カウンセリングおよびケアを提供す
ること等により確保するためのさらなる措置をとるよう奨励される。106
7.2 在留の正規化および合法的な移住の選択肢
77.入管法改正案では、法的地位を有しない者のための正規化措置である在留特別許可を申請
105拘禁ガイドライン(2012 年)、ガイドライン 8、第 48 段落(vii) (xii) (xiii)。
106 拘禁ガイドライン(2012 年)、ガイドライン 8、第 48 段落 (vi). 仮訳・原文英語
40
する権利が、積極的考慮要素の例とともに規定されている(第 50 条)。これは、専門部会の提言第
4 の 1(2)②および第 4 の 1(1)①を反映したものである。付言しておけば、改正法案では、過去の在
留状況、家族関係等を考慮して外国人の再入国を容易にすること、また当該制度においてその者
の技能・技術や日本語能力等を踏まえて就労のための在留資格を付与することも規定されている。
合法的な移住の選択肢を設けることは、庇護手続の濫用または誤用の問題に対処する一助となる
可能性が高い。
78.これまでは、在留特別許可は完全に裁量措置として付与されてきており、いかなる申請権もなく、
入管法でも基準はほぼ定められないままであった。UNHCR は、在留特別許可を申請する権利の創
設を歓迎する。ただし、UNHCR は、在留特別許可の申請権が退去強制令書を発付されていない
者に限定されていることに留意する。UNHCR は、日本政府が、正規化措置の 1 つとして、退去強
制令書を発付された者であって法的地位のないまま日本に長年在住してきた者(最終的に不認定
処分を受けた元庇護希望者を含む)に対しても在留特別許可の申請権を認めることを検討するの
が有用であると考える。COVID-19 パンデミックのため、安全にかつ尊厳をもって出身国に帰国する
ことが現時点では困難である者もいることを踏まえれば、なおさらである。UNHCR はまた、在留特別
許可の基準、またはむしろ「積極的考慮要素」を明確にするための努力も歓迎する。その要素とは、
具体的には「当該外国人について、在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することと
なつた経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となつた事実及び人
道上の配慮の必要性」や「内外の諸情勢及び本邦における不法滞在者に与える影響その他の事
情」である(第 50 条第 5 項)。UNHCR は、積極的考慮要素に、無国籍であること(少なくとも送還の
見通しがないこと)を含めるのも重要であると考える。
7.3 COVID-19、収容代替措置および在留の正規化
79.専門部会報告書の第 4 の 3(2)では、専門部会における議論の継続中に世界中および日本国
内で急速に拡散した COVID-19 の影響に関して一部の委員から表明された意見に言及されてい
る。UNHCR は、「入管施設感染防止タスクフォース」の設置および「入管施設における新型コロナウ
イルス感染症対策マニュアル」の作成107ならびに仮放免の一層の活用108等によって COVID-19 の
拡散を防止するため、入管庁がすでに行ってきた努力に留意してきた。UNHCR はまた、専門部会
報告書で「収容代替措置の重要性や在留の正規化に向けた取組の必要性」を強調した国際機関
からの諸勧告109に言及され、「多くの先進国でも実際にほとんどの被収容者を解放したり,非正規の
滞在者に一時的に一律に在留資格を与えるなどの取組が広がっている」と述べられていることも歓
迎する。専門部会報告書が指摘する通り、COVID-19 パンデミック関連の情勢が近い将来劇的に
変化する見込みはないため、これらの措置は世界中で相当の期間続けられる可能性がある。専門
107 出入国在留管理庁「入管施設における新型コロナウイルス感染症対策マニュアル」。
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri01_00176.html
108 専門会議第 9 回会合会議録、p.2 参照。 http://www.moj.go.jp/content/001323906.pdf
109 専門部会第 8 回会合(2020 年 5 月 22 日)での UNHCR および宮崎真委員の提出資料(pp.20-31)。The Working
Group on Alternatives to Immigration Detention, United Nations Network on Migration, “COVID-19 & Immigration
Detention: What Can Governments and Other Stakeholders Do?” (April 2020), available at:
http://www.moj.go.jp/content/001321075.pdf. 仮訳・原文英語
41
部会報告書で引用されている意見が指摘する通り、収容代替措置(〔不認定処分を受けた〕庇護申
請者を対象とするものも含む)のさらなる拡大に加え、「国費送還の促進が困難になり,帰国が困難
となった外国人を我が国で受け入れる施策の必要性」が日本にとって実際に課題となることが考え
られよう。COVID-19 パンデミックの現状では、基礎疾患または脆弱性を有する者(これらの者は
COVID-19 に感染しやすい)や、国際渡航網の混乱または国境封鎖のため送還することができない
者について収容代替措置を活用することが、ますます必要となる。
7.4 難民の権利の増進
80.改正法案には、難民の保護および社会統合の強化につながるいくつかの修正が含まれている。
その 1 つは、認定難民が「定住者」の在留資格を取得するために必要な要件、すなわち(i)日本に到
着した日から 6 か月以内に申請を行ったことおよび(ii)迫害されるおそれのあった領域から「直接」日
本に入ったこと(現行入管法第 61 条の 2 の 2 第 1 項第 1 号および第 2 号)が廃止されることであ
る。さらに、改正法案上、補完的保護を付与された者は第 61 条の 2 の 2 第 1 項第 2 号に基づく定
住者の在留資格も取得することになる(現行入管法に基づいて「人道的配慮による地位」を付与さ
れた者には、より安定性が低い「特定活動」の資格が付与される)。さらに、法案では、難民旅行証
明書の有効期間の上限も現行の 1 年から 5 年に延長される(第 61 条の 2 の 15 第 3 項、第 5 項)。
UNHCR は、他国への難民の渡航を容易にするために日本政府が行っている努力を歓迎する110。
UNHCR はさらに、特定の難民について特定の要件を免除することにより、永住許可が従来よりも容
易に付与されるようになることを歓迎する(第 22 条第 2 項)。
7.5 国際保護の必要がないと判断された人々の処遇
81.改正法案には特に反映されていないものの(実務上の措置の一環として実施されるものと理解
される)、UNHCRは、第4の1(2)③に掲げられた専門部会の提言を歓迎する。そこでは、「IOM(国際
移住機関)が実施している自主的帰国・社会復帰支援プログラムその他の支援プログラムをより一
層有効に活用することにより,自主的帰国者の増加に努めること」と述べられている。UNHCRが専
門部会で述べたように111、国際保護を求め、包括的かつ公正な手続において申請を適正に考慮さ
れた後、1951年の難民条約上の難民としての資格を有さず、かつ人権上および/または人道上の
理由による国際保護も必要しないと判断された個人をどのように処遇するのかは、信頼に足る難民
認定制度を維持する上で重要な要素である。最終的に申請を棄却され、日本国内において保護を
受ける資格またはその他の在留の権利を有しない庇護希望者の処遇を公正にかつ透明性をもって
110 Section 7.12 “Recognition of refugee status” in UNHCR, A guide to international refugee protection and building state
asylum systems (2017), Handbook for Parliamentarians N° 27, available at:
https://www.refworld.org/docid/5a9d57554.html, p.189.
111 Section 9.2 “Migration options as an alternative to return,” UNHCR, “The 10-Point Plan in Action on Refugee
Protection and Mixed Movements, 2016 Update, Chapter 9: Return Arrangements for Non-Refugees and Alternative
Migration Options” (2016) available at: https://www.refworld.org/docid/584185c14.html. 関連個所の日本語抄訳は専門
部会の第 4 回会合(2019 年 12 月 12 日)に提出され、http://www.moj.go.jp/content/001318369.pdf より入手可能であ
る。
UNHCR 駐日事務所「日本と世界における難民・国内避難民・無国籍者に関する問題について(日本への提案)更新版」
(2017 年 5 月)、pp.5-6 も参照。https://www.unhcr.org/jp/wpcontent/uploads/sites/34/protect/Points_for_Consideration_JAPANESE_May_2017.pdf 仮訳・原文英語
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規定する、法律上の枠組みおよび効果的な制度が整備されるべきである。このような規定には、難
民認定プロセスの終了時にカウンセリングを提供すること、自主的帰国のための支援を提供すること、
および、安全で尊厳のある帰国を確保するための効果的かつ透明性のある帰還モニタリング制度
などを含めることが考えられよう。このような人々の処遇を規律する基本原則には、このような人々が
人道的に、かつその基本的権利および尊厳を全面的に尊重されながら処遇されなければならない
ということが含まれる。
2021 年 4 月 9 日
UNHCR 駐日事務所