難民専門部会(第15回・2014年10月17日)

難民認定制度に関する専門部会開催状況(リンク切れ

○第15回会合 平成26年10月17日(金)
当局から難民認定制度の各論点について説明を行った後,議論を行った。また,委員からフランスの難民認定制度に関する報告があった。

第15回 難民認定制度に関する専門部会 議事概要

1 日時
 平成26年10月17日(金)午後5時30分から7時30分まで

2 場所
 法務省10階入国管理局会議室

3 出席者(敬称略)
(1)難民認定制度に関する専門部会
 山本部会長代行,横田顧問,石川委員,滝澤委員,田中委員,西海委員,柳瀬委員,渡邉委員
(2)法務省
 井上入国管理局長,杵渕官房審議官,菊池総務課長,丸山審判課長,山下警備課長,小新井参事官,君塚難民認定室長 根岸企画室長 他
(3)オブザーバー
 外務省
 UNHCR駐日事務所

4 議事概要
 法務省から難民認定制度の各論点について説明を行った後,議論を行った。委員から出された主な意見や質問は以下のとおりであった。また,委員からフランスの難民認定制度に関する報告があった。

○ 保護対象の明確化のアプローチとしては,各国際人権諸条約を列挙する方法をとるのか,あるいは条約を援用するという形ではなく難民条約の要件とは異なる文言をそこに規定して,それによって具現化するというアプローチをとるのか。

○ 各国が具体的に要件を書いているケースも,当然国際人権条約を意識して書いているのだろうが,条約を生のまま列挙するのか,あるいは条約を踏まえて具体的な要件を書くのか,技術的には両方とも採り得るのではないか。

○ 補完的保護の対象とする人権条約について,自由権規約を含めてはどうか。中身は拷問等禁止条約と似ているが,後者だと迫害主体が国家に限られるため,実質的な保護を行うためには自由権規約が有用ではないか。

○ 子どもの最善の利益という観点で,児童の権利条約も補完的保護に密接に関わるのではないか。

○ 外国の政府や外国における迫害については,日本国憲法が保障する人権が自動的に適用されるわけではない。そうなると,国際条約等の国際法の人権規定が唯一の拠り所になり,国際的保護の文脈において日本を法的に拘束する国際法の規範に基づいた人権規定に基づく権利が侵害されている,あるいは侵害されるおそれがある人について補完的保護を,という考え方が国際法の理念に叶う。

○ 異議の審尋の際に,代理人に最初から「この人は難民でなくても何とか在留の配慮をお願いしたい。」という意見が出されることが増えている。補完的保護を導入するならば,具体的に誰が,何を,どのように判断するかということが明らかにされるべきではないか。

○ 国内法の観点で考えると,およそ保護すべき人は全て難民認定手続で要件を認定していくとすることは,制度・手続としてかなりの無理が生じる。だからこそ現在は,難民認定手続と在留特別許可の仕組みがあるのであり,例えば,在留特別許可の手続の中で保護の要否を必要的に考慮するという方法もとり得るのではないか。いずれにせよ,対象,要件,手続を具体的に議論することが必要。

○ 国際的人権条約のどの部分を補完的保護に取り入れるかというアプローチよりも,実際の申請の具体的事案の中から保護すべき対象を見出すというアプローチのほうが地に足がついた実際的な発想ではないか。それは国際人権条約に照らせばこれに該当する,という発想だと分かりやすい。

○ 補完的保護の対象のストレートなケースは,やはりシリアからの紛争被災民だと思う。実際に300万人のシリア被災民がいる中で,現状では,彼らが明確に保護の対象とされていないことは大きな問題。そのカテゴリーを設ける場合、基準としては,例えば,EU指令の「国際又は国内武力紛争の状況における無差別暴力における文民の生命または身体に対する重大かつ個別の脅威」というワーディングは参考になる。

○ 海外にいる多くの紛争被災民の庇護の議論はもちろん重要だが,部会で議論している日本の難民認定制度は,日本に辿りついた人の庇護手続であり,その中に政策的な海外からの受入れの問題を取り込んでしまうと議論が混乱するおそれがあるため,例えば,今後政府に検討をしてほしいといった形で示すことはあり得るものの,この専門部会のマンデートからは議論の対象外ではないかと考える。

○ 我々は入口で難民概念を定め,プラスアルファで補完的保護を検討しているが,認定された後の国内における実際の地位はおそらくそれほど変わらないため,入口の議論を再検討し,1つの考え方として,難民概念というのを条約上だけの難民だけに限定せず,他のカテゴリーを設けるということも比較法的にはあり得るのではないか。

○ あくまでも「補完」的保護であるため,およそ難民性の主張のない人が補完的保護だけを求めて難民認定手続の申請をすることは想定し難い。制度の枠組みの基本としては,難民申請の中で補完的保護を措置するアプローチが適当ではないか。また,補完的保護を制度化して,保護した対象については,家族呼び寄せ等について,難民認定を受けた人と同様の取扱いを認めることが望ましいのではないか。

○ 手続を一本化するとなると,様々な要件を全部同じ手続で認定しないといけないということになり,実際上これはかなり困難が生じる。また,仮に一本化したという場合にも,全て参与員の判断対象とするのか,在留特別許可等の別の形で配慮するのかなど,手続の中で分けることを検討しないと,様々な種類の要件を,同じ判断の主体が,同じ手続で全て判断することは現実的には相当に難しいと考えている。

○ 補完的保護という制度を設ける以上は,裁量的なものというよりも,補完的保護の対象に入るものに対しては義務的にそれを保護していくシステムとして位置づけられるべきであり,また,異議審においても補完的保護について明確に位置付けられるべきではないか。

○ 当然,保護の対象は広いに越したことはないのだろうが,仮に,補完的保護の対象として,強い保障を与える取扱いにするのであれば,単純に何でも補完的保護だというふうに範囲が広げられるのだろうか。保護の対象範囲,要件,手続をかなり詳細かつ具体的に考えておかないと実際に判断する側が難渋するのではないか。

○ 現行の人道配慮についても参与員が必要的に判断するのかという点も答えを出していきたい。補完的保護がどの条約に当てはまるのかということではなく,こういうケースは人道配慮をしてもよいということを参与員が各自の専門性に基づき,裁量的に判断する方法があってもよいのではないか。

○ 事前審査制等の手続の明確化の論点について,まず「濫用」というのがどういうものなのか定義したほうがよいのではないか。また,事前審査は受理・不受理の判断になるのか,あるいは振分けといった判断になるのか,どちらに向けて議論していくべきか。

○ 現在の行政手続法上は,基本的には,受理するかしないかについて行政庁側が判断することはできず,結局,振り分けた結果として,認定・不認定あるいはそれは不適法却下という形で,いずれにせよはっきりした処分を行わなくてはいけないということになっている。本人が取り下げない限りは,はっきりと応答しなくてはならないのだろう。

○ 「濫用」に関し,主観的に悪意があるかどうかという基準の策定は難しく,それを事前審査で,直接判断はできないため,外形的におよそ難民認定事由に当たるようなことを主張していないというような場合などを振り分けるということになるのではないか。また,再申請について,新たな事情,やむを得ない事情の有無について事前審査で振分けを誰がそれを行うのかというところと,さらに,簡易迅速処理がされた場合に異議申立てを認めるか否かという点は議論のポイントとなるのではないか。

(フランスの難民認定制度に関する報告)

○ フランスは伝統的に迫害から逃れてきた者に庇護を与えるということを国是としている。

○ 担当機関としては,OFPRA(フランス難民・無国籍者保護局)と,難民専門の不服申立審査機関で特別行政裁判所となっている難民訴訟委員会(CRR)があり,1952年の難民認定法で設けられた。

○ 現在の認定手続は,四つのカテゴリーがあり,「憲法的庇護」,「UNHCRのマンデート難民」,「条約難民」,「補完的保護」の四つが認定判断の対象。いずれもOFPRA,CRRが判断することになる。さらに,2003年改正によって迫害,重大な危険の行為主体は非国家主体のものが含まれることになった一方,国内避難が合理的に推定できる場合には申請が却下されるということが明記された。

○ 2007年にCRRがCNDA(庇護裁判所)に改組された。2013年の資料を見ると,3万8,540件の決定を下していて,その前年に比べて1,200件の増加。庇護申請件数は依然として増加の一途をたどっていて,2007年には3万5,000件だったのが2013年には5万5,000件ほどになっている。これに対して,OFPRAとかCNDAが増員をしているが,審査期間の長期化は改まっておらず,処理には平均19か月程度かかっている模様。

○ フランスでは庇護対象者の概念が比較的明確化されていて,複数のカテゴリーから成り立っているという点,認定審査プロセスにUNHCRの関与を公認している点が日本と顕著な違いといえる。また,不服審査機関が出入国管理を扱う部門とは違う,独立した行政裁判所となっていて,そこにおける審査が OFPRA の資料だけに依存せず,新たに裁判所として新しい資料に基づいて判断を下すということもなされている。

○ 政府刊行物の書物の中で,「庇護は基本的に移民政策を律する論理によって扱われるべきではない。なぜならば庇護と移民政策とはよって立つところが全く違うからだ。」,「移民政策は警察の関心事に属するが,難民というのは人権の問題に属するのだ。」ということが述べられていたのが印象的。

以 上

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