「東日本入国管理センター被収容者の連続死亡事件に関する決議(平成26年度 決議2)」(外部リンク:関弁連)
日付:2014年9月26日
団体:関東弁護士連合会
関東弁護士会連合会は,本年3月29日及び30日に,入国者収容所東日本入国管理センター(茨城県牛久市久野町1766所在,以下「東日本入国管理センター」という。)に収容されていたイラン人男性及びカメルーン人男性が相次いで死亡した事件(以下「入管連続死亡事件」という。)について,失われた人命の尊さに鑑み,法務省入国管理局及び東日本入国管理センターが,直ちに以下の行動を起こすことを求める。 2014(平成26)年9月26日平成26年度 決議2
東日本入国管理センター被収容者の連続死亡事件に関する決議
関東弁護士会連合会提案理由
東日本入国管理センターは,2014年3月28日に30歳代のイラン人男性の被収容者が意識不明になったため,救急車の出動を要請したが,同男性が翌29日に病院にて死亡したと発表した。
また,東日本入国管理センターは,2014年3月30日に40歳代のカメルーン人男性の被収容者が意識及び呼吸がない様子で発見されたため,救急車の出動を要請したが,同男性が同日中に病院にて死亡したと発表した。
これらの事件は,既に国内外においてマスメディアにおいて報道されており,市民社会のみならず,国際社会の注視するところとなっている。
30歳代~40歳代の被収容者が同一の収容施設内で連日亡くなるという異常な事態を受け,関東弁護士会連合会は,両事件において亡くなった方々の死亡の経緯につき,真相を解明すべく,入国管理局外の中立的な第三者委員会が設置され,徹底的な調査を受け入れることを強く求める。
また,その調査結果は,直ちに公表されるべきである。上述の通り,既に,弁護士会のみならず,日本の市民社会及び国際社会は,今回の入管連続死亡事件を,重大な関心と懸念をもって注視している。家族・友人・知人らから引き離し,本人が自らの意思で医療を受ける自由を許さない状態で,国家権力が人間を身体拘束している以上,国家の責任で被収容者の健康状態に十分に留意し,これに必要な医療を与えることは,被収容者処遇規則第30条・国際人権法の諸条項を挙げるまでもなく,明らかに国家の責務である。今回,入国管理局の収容施設における収容の末に,2名もの壮年の被収容者の死亡という尋常ならざる事態が発生したのであるから,それら事件の背景と真相を十分に調査し,その原因を究明することこそが,再発の防止を確保するために,まずは真っ先に取るべき道である。かかる悲劇を二度と繰り返さぬために,更に,私たちは,入国管理局が,有効な善後策を直ちに採ることを求める。
入国管理局収容施設の被収容者死亡事件は,病死であれ,自死であれ,従来から多数回,繰り返されてきた。この事実は,入国管理局の自浄能力に限界があることを示している。体制の大幅な改善のために,入国管理局の外からの提言や助言がぜひとも必要と考える所以である。
り病若しくは負傷した被収容者が,適切な医療を受けることが出来ずに病状を悪化させること,まして死亡することなど断じてあってはならず,かかる事態の発生につき,入国者収容所長らと,所轄官庁たる法務省入国管理局の責任は極めて重い。
具体的には,①医師の診察を求める願箋が被収容者から提出された場合は,施設内若しくは施設外において24時間以内に診察を実施する体制を整備すること,合わせて,②緊急事態にあっては時間をおかずに直ちに救急車を呼ぶ体制を構築すること,③患者である被収容者が医師を信頼できないと感じた場合は,施設外の医療機関に所属する医師によるセカンド・オピニオンを被収容者が求める権利を保障することが,上記改革の施策に含まれるべきである。
かかる抜本的改革は,今回の入管連続死亡事件の調査結果の公表を待たずして行うべきであるが,調査結果の公表後には,同調査結果に基づき,広く改善に向けた意見を募り,同改革を更に果断に進めるべきである。
また,たとえば,難民認定を求めている者,退去強制令書発付処分等取消請求訴訟を行っている者など,即刻の送還が不可能若しくは著しく不適切な者を長期間無期限収容することに,何の正当性があろうか。外部との連絡手段,情報収集手段が極端に制限された被収容生活にあって,自らの難民性を十全に主張し,あるいは公正な裁判を受ける権利を享受することは不可能であり,この観点からも,長期間の無期限収容は,直ちに排されるべきである。
以上の諸事情を考慮した場合,どんなに長くとも6ヵ月を超える無期限収容は,被収容者及びその家族らの心身を過剰な危険に曝し,被収容者が適正手続を享受する権利・公正な裁判を受ける権利等を不当に侵害するものと評価せざるを得ない。従って,国家権力は厳にこれを慎み,直ちに被収容者の身体を解放すべきである。
無期限長期収容に苦しむ被収容者の孤立と苦境を救うべく,当連合会をはじめ,各地の単位会に所属する弁護士たちが,現在,労を厭わずに東日本入国管理センター等の施設に通い,少しでも多くの被収容者が法的助言と支援を受けられるよう,懸命の取組みを続けている。その成果は現在,徐々に表れており,現況,東日本入国管理センターの被収容者たちの間で,弁護士受任率が,大幅に向上したと報告されている。難民認定申請手続・入管訴訟等を受任した弁護士らの多くは,難民認定申請手続を代理し,或いは訴訟代理人として活動するばかりでなく,著しく体調を崩した依頼者に適切な医療を与えるよう施設と交渉し,或いは仮放免許可申請を行うなどして,無期限収容に苦しむ被収容者たちの健康と生命を守るべく,今日も懸命の活動を続けている。
今後も,当連合会をはじめとする弁護士の取組みは続けられるが,被収容者の死亡事件等の再発を防ぐためには,被収容者の身体を拘束する入国管理局自体が大きく改善されなければならない。
当連合会は,2014年5月1日付けで,本決議と同趣旨の連合会理事長声明を発表した。それ以外にも関東弁護士会連合会管内の7単位会(発表順に東京,茨城県,千葉県,横浜,群馬,第一東京,長野県)が,やはり第三者機関による調査及び医療体制の改善等を求める会長声明を発表している。
これを受けての政府の対応については,2014年6月5日の参議院法務委員会において,谷垣禎一法務大臣が答弁をしているが,調査は内部調査に留まるし,その結果も入国者収容所視察委員会に対して報告をすること,医療体制の充実についても「大きな努力を傾けなければいけない」という抽象的な答弁に留まっている。
政府の対応は,全くもって不十分というほかない。
当連合会「外国人の人権救済委員会」は,昨年度より,日常的に東日本入国管理センターをはじめとする入国者収容所等の処遇状態を継続的に調査してきたが,その医療体制の不備は,事件発生より今日に至るまで全く改善は見られない。深刻な傷病を患いながら,1~2ヵ月間,適切な医療を受けることなく筆舌に尽くし難い痛苦に苛まれている被収容者が珍しくない実態が今日も続いていることは,当連合会としても,深い懸念を示さざるを得ない。外国人の人権救済委員会は,これまで,東日本入国管理センターとの懇談を通じて状況の改善を申し入れるなどしてきたが,今後は,更にその活動を組織化・活発化していく予定である。
どんな立場にある者であっても,人は,「人らしく」処遇されるべきである。即ち,少なくとも,傷病に罹患した被収容者には即時に適切な医療が与えられるべきであり,かかる医療を与えずに被収容者の傷病を悪化させることが決してあってはならない。そもそも,適切な医療を与えることが出来ない施設において,人の身体拘束を行うことは絶対に許されないのである。以上の認識を,当連合会は,ここに改めて確認し,法務省入国管理局及び東日本入国管理センターをはじめとする入国者収容所等に,①かかる認識を共有すること及び,②本件連続死亡事件の如き悲惨な事件を現出された責任を認めると共に猛省することを求めるものである。
更に,昨今,被収容者の平均収容期間は顕著に長期化しており,たとえば,東日本入国管理センターの被収容者については,今年初旬段階で被収容者の平均収容日数が(東日本入国管理センターの収容期間に限定してさえ)平均して140日間を超えていることが明らかになっている。既に述べたように,先の見えない収容期間の徒な長期化は,(難民認定申請を行っている者も多数含む。)被収容者の心身に,常軌を逸した強いストレスを与えており,前述の通りの医療体制の著しい不備と併せて,かかる収容期間の長期化が,被収容者の心身を蝕み続けている現状から,目を逸らしてはならない。本件連続死亡事件は,このような収容実態を背景にして,発生したものであった。
よって,当連合会は,今回の入管連続死亡事件につき,法務省入国管理局及び東日本入国管理センターが,①その真相を解明するための独立した第三者機関を直ちに設置し,同機関による徹底的な調査を受け入れること,且つ同調査結果が,直ちに公表されるべきこと,②今後,被収容者の死亡事件が二度と発生しないための対策として,入管医療の改善手段を直ちに策定して公表・実施すると共に,被収容者の心身に著しい負担を課する長期収容自体を直ちに停止することを強く求めるものである。