声明・提言等(2020年3月31日 )全難連より「法務省発表「令和元年における難民認定数等について」を受けての声明〜「濫用防止対策」のもと、庇護希望者にとって極めて厳しい状態が続く〜 」を発表しました

法務省発表「令和元年における難民認定数等について」を受けての声明〜「濫用防止対策」のもと、庇護希望者にとって極めて厳しい状態が続く〜 [PDF形式]

日付:2020年3月31日 

団体:全国難民弁護団連絡会議

法務省発表「令和元年における難民認定数等について」を受けての声明

〜「濫用防止対策」のもと、庇護希望者にとって極めて厳しい状態が続く〜

全国難民弁護団連絡会議

2020年3月31日

2019年、不服申立手続での難民認定者数が再び1人となり、不服申立ての棄却率[1]が過去15年で最悪の99.98%となり、不服申立ての機能不全が浮き彫りとなった。合計の難民認定者数は前年と同水準の44人(前年比2人増)であったが、人道配慮による在留許可数も前年と同水準の37人に留まり、難民認定と人道配慮をあわせた庇護数は81人と3年連続で二桁となった。庇護希望者にとって依然として極めて厳しい状態が続いている。近年の濫用・誤用対策の名のもとで、難民保護を必要する者が収容や送還の危機に瀕していることが危惧される。

一次申請 正規 非正規 合計
初回 9,782人 132人 9,914人
比率 94.3% 1.3% 95.6%
複数回 291人 170人 461人
比率 2.8% 1.6% 4.4%
合計 10,073人 302人 10,375人
比率 97.1% 2.9%
  • 2019年の難民保護状況の概観

2019年、一次手続での難民認定申請者数は前年とほぼ同数の1万375人となった。在留状況・申請回数別で見ると、初回・非正規在留者と複数回・被正規在留者の難民申請者数がそれぞれ過去10年で最小値の132人(申請数全体の1.3%)、170人(1.6%)となり、複数回申請者数の比率は過去10年で最小値の4.4%となった。

また、処理数に占める取下率が過去最大の30パーセントに達した。

難民認定者数は前年と同水準となった一方で、不認定処分の数が半減した。そのため、難民認定率は前年から倍増して0.9パーセントとなった。難民認定者の出身国別でみると、2019年に申請者数が多い上位10か国出身者については、スリランカ1人(裁判後の認定)とパキスタン1人(不服審査での認定)を除き、難民認定はいなかった。トルコ出身者については、本邦で難民認定制度の運用が開始された1982年から難民認定者が0人という状況が続く結果となっている。

  • 2019年に注目すべき問題
    • 不服申立手続の機能不全

不服申立手続での難民認定数は、わずかに1人であった。認容率(難民認定率)は0.02パーセントにすぎず、参与員の認定意見が法務大臣に覆される事件が明るみになった2013年から7年連続で棄却・却下率(不認定率)が99パーセントを上回る結果となっている。

不服申立手続における認容(難民認定)数等の推移

2015 2016 2017 2018 2019
不服申立て 3,120人 5,197人 8,530人 9,021人 5,130人
認容 8人

(0.5%)

2人

(0.1%)

1人

(0.0%)

4人

(0.1%)

1人

(0.0%)

棄却 1,763人

(99.5%)

2,112人

(99.9%)

3,084人

(100.0%)

6,013人

(99.9%)

6,021人

(100.0%)

不服申立手続の難民審査参与員については、原審からの独立性に欠けているという問題に加え、専門的訓練を受けていないこと、保護ではなく国境管理のメンタリティーへ偏重していることなどが指摘されている[2]。難民関係訴訟での難民の勝訴率が約5パーセント(最近5年間では3パーセント程度)あることから比較しても、難民審査参与員制度は、行政手続を再審査する制度としては機能不全を来していると言わざるを得ない。

  • 在留制限や就労制限による申請の抑止又は取下げの増加

前記のとおり、2019年の難民申請を取り下げた者の比率は、過去最大の30パーセントに達し、2018年から引き続き高水準となった。

支援団体や代理人からは、手続中に在留制限がされ、難民申請を取り下げて収容されずに帰国するか、難民申請を続けて収容されるかの究極の選択を迫られた難民申請者で、日本に残って確実に身体の自由をはく奪されるよりは、帰国して生命や身体の自由のはく奪を含む迫害を受けない可能性に一か八か賭ける者が出ていることが報告されている。

2018年1月の「難民認定制度の適正化のための運用の更なる見直し」による運用変更以降、在留制限や就労制限によって難民申請者が萎縮し、収容などの不利益を避けるために申請を取り下げざるを得ない状況に直面していることが危惧される[3]。在留制限や就労制限の措置は、難民申請者に対する保護費の減少や、ほとんどの場合に難民申請受理から8か月間は住民登録ができず、国民健康保険にも加入できないという状況とあいまって、難民申請者の生活を著しく困難なものとしている。

また、在留制限によって収容された難民申請者については、2018年2月28日の指示以降[4]、収容に耐えられない病気にならない限り、仮放免がほぼ許可されないという運用のもと、長期にわたり収容された状態で申請を継続することを余儀なくされる状況に置かれている。2019年6月には大村入国管理センターにおいて、長期収容に抗議してハンストを行った被収容者が飢餓死したにも関わらず、10月に法務省に設置された収容・送還専門部会においては、罰則規定などの管理という面に偏ったアプローチでの議論がなされるのみで、長期収容の根本的な問題解決についての議論がされているとの情報はない。

  • 空港での難民申請に関する情報の遮断

法務省・出入国在留管理庁は、難民の迅速な保護をうたっているにも関わらず、庇護希望者の到着空港での難民申請受理の件数について、2018年後半から発表をしていない。迅速な保護のためには、一時庇護上陸許可制度や仮滞在制度の運用を含む難民認定手続の改善が前提ではあるが、出来る限り入国後早期に庇護申請を受け付ける、つまり、空港での難民申請を促進させていくことこそが重要であろう。にもかかわらず、従前は公表していた空港申請数を非公表とした変更は、難民の迅速な保護の推進とは明らかに逆行する姿勢の現れといわざるを得ない。難民保護の実態をみるうえで客観的かつ基本的な統計数値を公表しないことは許されることではない。

2018年前半までの統計によれば、空港等の港湾における難民認定申請はわずか12件となっており、2017年の申請が133件であったのと比べて、著しく減少している状態にある。このような減少の原因は必ずしも明確ではないが、到着空港で庇護を求める意思を示したと思われる者に対し、申請をさせることなく出発国等へと退去させた事案が複数報告されており、水際で申請が抑制されているのではないかが懸念されている。

3 おわりに

以上のとおり、2019年においても、難民認定数(一次・二次合計)の若干の増加にもかかわらず、真に庇護を必要としている者を犠牲にしてでも、濫用防止を理由とした難民認定申請者取締りを優先するという法務省・出入国在留管理庁の姿勢は依然として変わっていない。難民条約の前文で述べられているような人間の基本的な権利や自由を保護するという姿勢は、残念ながら見られなかったと言わざるを得ない。

難民条約の趣旨と目的に沿った難民認定制度の運用が強く求められている。

《本声明に関する連絡先》

全国難民弁護団連絡会議事務局

〒160-0004 東京都新宿区四谷1-18-6 四谷プラザビル4階

いずみ橋法律事務所内

電話:03-5312-4827 Fax:03-5312-4543

Eメール:jlnr@izumibashi-law.net

URL:http://www.jlnr.jp/

[1] 棄却数÷(認容数+棄却数)の百分率

[2] 難民研究フォーラム「2020年2月25日研究会『難民の送還:収容・送還に関する専門部会の議論から考える』開催報告」 URL:https://refugeestudies.jp/2020/03/02-25-2/

[3] 申請者の取下げと同時に、保護を受けるべき難民が、収容への恐怖から難民申請を躊躇してしまうことも懸念される。

[4] 平成30年2月28日付け法務省管警第43号法務省入国管理局長指示「被退去強制令書発付者に対する仮放免措置に係る適切な運用と動静監視強化の更なる徹底について」

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