国会質疑等(2025年8月15日)ラサール石井議員(社民・参)質問主意書への政府回答[不法滞在者ゼロプラン]

「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」に基づく強制送還の実態に関する質問主意書(外部リンク:参議院ウェブ

提出者:ラサール石井議員(社民党)
番号:第218回国会 質問5号
提出日:2025年8月5日
答弁書受領日:2025年8月15日

合体版(質問&答弁)[PDF・250KB]

質問&回答テキスト 

「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」に基づく強制送還の実態に関する質問主意書&答弁書

 出入国在留管理庁は2025年5月23日、「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」(以下「ゼロプラン」という。)を公表し、「退去強制が確定した外国人のうち、令和5年改正入管法により送還停止効の例外として送還が可能となった者や重大犯罪者などを中心に、計画的かつ確実に護送官付き国費送還を実施する。」、「出国命令制度や上陸拒否期間短縮制度の積極的な活用を促し、自発的な帰国を促進する。」との方針を打ち出した。国連の特別報告者等から、日本の入国管理制度は既に国際人権法に違反していると批判を受けているが、ゼロプラン導入によって人権侵害が一層加速することが懸念されている。

 東京出入国在留管理局(以下「東京入管」という。)は2025年6月10日、在留特別許可を求めて東京地方裁判所に裁判を提起したネパール人男性に対し、同年7月第5週に強制送還を行う旨を送還予定時期通知書によって通知した。強制送還は一度中止されたが、東京入管は本人の出頭を求めており、出頭すれば収容・送還される可能性があると支援者らは危惧している。

 また、同年7月23日には、難民申請中のクルド人家族五人全員が仮放免を更新するため東京入管に出向いたところ収監され、直ちに護送官付きでトルコに強制送還され、トルコの空港に到着した直後に父親が現地の警察に逮捕されたという事案が発生した。同家族には日本生まれの子供も含まれていたとされており、児童の権利に関する条約で規定される各種の権利を侵害する深刻な事案である。

 ゼロプランにより、日本で暮らすことを望む外国にルーツがある人々の排除が加速されることを深く憂慮し、以下質問する。

一 ゼロプラン導入以降、強制送還された外国人の人数(及び未成年者の内数)を、出身国別に示されたい。

一及び三について

 お尋ねのような形での統計をとっておらず、お答えすることは困難である。

二 強制送還の判断基準を示されたい。庇護希望者の地位が判断される前に送還・追放されてはならないとする国際難民法の原則に違反しないために、手続の公正性は確保されているか示されたい。

ニについて

 前段のお尋ねについては、「強制送還の判断基準」の意味するところが必ずしも明らかではないが、退去強制令書を発付するに当たっては、出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。以下「入管法」という。)第24条各号に掲げる退去強制事由のいずれかに該当する疑いのある外国人について、入国審査官による審査のほか、当該外国人の請求に基づく特別審理官による口頭審理、異議の申出に基づく法務大臣の裁決を経て慎重に判断することとしており、退去強制令書が発付された者(以下「被退去強制者」という。)については速やかに送還することとしている。

 後段のお尋ねについては、被退去強制者が難民認定手続中である場合は、その者が入管法第61条の2の9第4項各号のいずれかに該当しない限り、同条第3項の規定により送還を停止するものとされており、また、被退去強制者の送還先については、入管法第53条第3項に基づき、いわゆるノン・ルフールマンの原則が適用されることとなり、お尋ねの「手続の公正性」は確保されているものと考えている。

三 ゼロプラン導入以降、退去強制令書が発付された件数を示されたい。また、子供のいる家族に対して発付された件数及びそのうち子供のいる家族の親のみに対して発付された件数を示されたい。

一及び三について

 お尋ねのような形での統計をとっておらず、お答えすることは困難である。

四 係争中の難民申請者を強制送還することは、日本国憲法が保障する裁判を受ける権利の侵害に当たると考えるが、政府の見解を示されたい。

四について

 入国警備官は、被退去強制者を速やかに送還する義務を負っており、かつ、行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)上、処分又は裁決の取消訴訟等を提起したとしても、裁判所が執行停止決定をしない限り、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げないとされているところ、難民不認定処分を受けた被退去強制者は、送還前に、難民不認定処分及び退去強制令書発付処分の取消訴訟等を提起し、裁判所に退去強制令書に基づく執行の停止を申し立てることが可能であり、「係争中の難民申請者を強制送還することは、日本国憲法が保障する裁判を受ける権利の侵害に当たる」とは考えていない。

五 難民申請中の子供のいる家族又はその親のみを強制送還することは、「親と引き離されない権利」、「国外に連れ去られない権利」、「難民の子供が守られ支援を受けられる権利」、「教育を受ける権利」といった、児童の権利に関する条約が規定する各種の権利を侵害すると考えるが、政府の見解を示されたい。

五について

 お尋ねの「親と引き離されない権利」については、児童の権利に関する条約(平成6年条約第2号。以下「条約」という。)第9条1について、我が国は、「出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用されるものではないと解釈するものであることを宣言する」との解釈宣言を行っており、お尋ねの「難民申請中の子供のいる家族又はその親のみを強制送還すること」が同条1に違反するものではないと考えている。

 お尋ねの「国外に連れ去られない権利」について、条約第11条は、「児童が不法に国外へ移送されることを防止・・・するための措置を講ずる」と定めているところ、お尋ねの「強制送還」は、法令に基づいて行うものであり、同条に違反するものではないと考えている。

 お尋ねの「難民の子供が守られ支援を受けられる権利」について、退去強制手続の目的は、被退去強制者を確実かつ迅速に送還することであるところ、条約第22条は、「適当な保護」及び「適当な措置」をとると規定するにとどまり、右に述べた目的から行うお尋ねの「強制送還」がなされたとしても、同条に違反するものではないと考えている。

 お尋ねの「教育を受ける権利」について、条約第28条に規定する「教育についての児童の権利」は絶対的なものではなく、これに対する合理的な制限は許容されると解されており、仮に、お尋ねの「強制送還」により教育を利用する機会等が制限されたとしても、同条に違反するものではないと考えている。

 

〔了〕

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