声明・提言等(2023年8月7日)全難連より「「本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」に対する声明」を出しました

「本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」に対する声明[PDF・182KB]

日付:2023年8月7日

団体:全国難民弁護団連絡会議

<声明文全文> 

「本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」に対する声明

2023年8月7日
全国難民弁護団連絡会議

 2023年8月4日、出入国在留管理庁は、「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」(以下「対応方針」といいます。)を発表しました。これにより日本に在留する在留資格のない子どもとその家族の一部に在留資格が認められることで、これまで長期にわたり自由を制限されてきた子どもと家族が、普通の生活を送れるようになることを歓迎します。

 しかしながら、子どもと親に対する在留特別許可は、入管庁が子どもの最善の利益を考慮する義務、家族生活を尊重する義務など国際法上の義務を遵守し[1]、また、在留特別許可に係るガイドラインを適正に運用すれば、もっと早い時期にできたはずです[2]。入管庁は、このような在留資格のない子どもや親の置かれた境遇を熟知していたにもかかわらず、子どもに在留資格を与えなかったり、あるいは、子どもに在留資格を与えることを交換条件に親に帰国を迫るなどしてきました。このような子どもを人質にとる運用が、入管庁によって長期にわたり続けられ、子どもと家族を苦しめてきたことを、社会として認識し、改めていかなければなりません[3]。また、対象者の中には、本来であれば難民として認定されるべきなのに、厳しすぎる認定基準や不透明な手続により、難民認定がなされなかった家族も相当数含まれると思われます。

 そして、今回発表された対応方針についても、次のような問題点があり、これらを改めた上で実施する必要があります。

1 一時的な措置とすべきではないこと

同対応方針では、「既に在留が長期化した子どもに対して、現行法で迅速な送還を実現することができなかったことを考慮→今回に限り、家族一体として在留特別許可をして在留資格を与える方向で検討」とありますが、これは裏を返せば、改定法によって非正規滞在者は全員強制送還できるため、今後は子どもの権利を考慮する必要はないとも読めるものです。しかし、改定法が施行されたとしても、何らかの事情で、子どもや家族の在留資格のない状態が続くことはありえます。国が子どもの最善の利益を考慮する義務、家族生活を尊重する義務は、国際法上の義務であり、普遍的なものです。今回の対応は、当然のこととして国が行うべき措置であり、一時的な例外的/恩恵的措置とするべきではありません。

2 日本で生まれたことを条件とすべきではないこと

 同対応方針によると、「本邦で出生し」たことを在留特別許可の条件としています。しかしながら、日本で生まれた子どもと、幼少期に日本に来た子どもで、日本への定着性に違いはありません。日本で生まれたことについては、条件から削除するべきです。

3 18歳以上の者についても対象とすべきこと

 同対応方針は、子ども、つまり18歳未満の者を対象にしています。しかし、日本で幼少期を過ごし、成人した者は、より一層、日本に定着性を有し、生活基盤を築いているはずです。日本で幼少期を過ごした18歳以上の者に対しても、在留特別許可を認めるべきです。

4 親の事情を考慮すべきでないこと

 同対応方針によると、「親に看過し難い消極事情」、具体的には、①不法入国・不法上陸、②偽造在留カード行使や偽装結婚等の出入国在留管理行政の根幹に関わる違反、③薬物使用や売春等の反社会性の高い違反、④懲役1年超の実刑、⑤複数回の前科を有している場合には、対象から除くとあります。

 しかしながら、日本に定着性を有する子どもは、等しく保護すべきであって、子どもには何の責任もない親の事情によって、差別することがあってはならず、父母の地位、活動等によるあらゆる形態の差別を禁じた子どもの権利条約に違反します[4]。それも、親の前科を理由として子どもを差別することは許される余地がなく、たとえ親については在留を許可しないという趣旨だとしても、子どもの最善の利益を主として考慮すべきとする子どもの権利条約に適合した措置とはいえません[5]

そもそも、前科をことさらに重視し、排除しようとする姿勢は、罪をおかした人を社会に受け入れることの重要性について、認識を高めることを確認した京都宣言にも反します[6]

 親の不法入国や前科など、親の事情によって対象外とする条件は、いずれも削除すべきです。

5 現在、一時的な在留資格を有する家族も対象とすべきこと

今回の対象には、難民申請者として特定活動の在留資格を有している家族は含まれていないようにも思われます。しかしながら、この在留資格は、在留期間も短く不安定であり、現在係属している難民申請中のみ与えられることからすれば、これらの者についても在留資格変更等を通じて、今回の措置の対象となる者と同じ安定的な在留資格が与えられる必要があります。

 

 以上のとおり、今回の対応方針により、一部の外国籍の子どもとその家族に対して、在留資格を認めることは、一刻も早く実施すべきですが、不適切な条件によって保護される者とそうでない者の線を引くことは、あってはなりません。子どもは国籍、年齢にかかわらず平等であり、保護されるべき存在であり、その最善の利益を第一に考慮しなければなりません。

 入管庁においては、当事者や市民社会の声に耳を傾け、適切な対応をとるよう求めます。 

以上

[1] 自由権規約23条、24条、子どもの権利条約など

[2] 在留特別許可に係るガイドラインに、特に考慮する積極要素として「当該外国人が,本邦の初等・中等教育機関(母国語による教育を行っている教育機関を除く。)に在学し相当期間本邦に在住している実子と同居し,当該 実子を監護及び養育していること」、その他の積極要素として「当該外国人が、本邦での滞在期間が長期間に及び,本邦への定着性が認められること」、「その他人道配慮を必要とするなど特別な事情があること」を定めています。

https://www.moj.go.jp/isa/content/930002524.pdf

[3] 入管庁だけではなく、子どもの権利や家族結合の権利に正面から向き合うことの少なかった裁判所の責任もあります。

[4] 子どもの権利条約は、第2条1項で「締約国は、その管轄の下にある児童に対し、児童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種族的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し、及び確保する」、同2項で「締約国は、児童がその父母、法定保護者又は家族の構成員の地位、活動、表明した意見又は信念によるあらゆる形態の差別又は処罰から保護されることを確保するためのすべての適当な措置をとる」と定めています。

[5] 子どもの権利条約は、第3条1項で「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする」、同2項で「締約国は、児童の父母、法定保護者又は児童について法的に責任を有する他の者の権利及び義務を考慮に入れて、児童の福祉に必要な保護及び養護を確保することを約束し、このため、すべての適当な立法上及び行政上の措置をとる」と定めています。

[6] 2021年に開催された国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)では、京都宣言が採択され、「40 犯罪者がコミュニティの一員として社会に受け入れられることの重要性と、犯罪者の長期的かつ社会的な再統合を支援する上でのコミュニティの関与の重要性についての認識を高める」ことが確認されました。

https://www.moj.go.jp/KYOTOCONGRESS2020/programme/download/meeting02.pdf

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