声明・提言等(2023年6月7日)全難連より「入管法案の廃案を求める」声明を出しました

声明「入管法案の廃案を求める」[PDF・706KB]

日付:2023年6月7日

団体:全国難民弁護団連絡会議

<声明文全文>

入管法案の廃案を求める

2023年6月7日
全国難民弁護団連絡会議 代表 渡邉彰悟

 私たち全国難民弁護団連絡会議は,入管法案(政府案。以下「政府法案」)の廃案を求めます。

1 はじめに

 今回の政府法案の問題点は,これまでにも明らかにしてきた通りですが,審議が深まるにつれて,政府法案の立法事実の欠如,入管側の説明している立法事実とは真逆の事態の隠蔽等が明らかとなってきており,これまでの入管側の説明による法案の前提となる立法事実は崩壊している。

2 日本に難民はほとんどいない発言の問題点

(1) 柳瀬房子参与員発言「難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることができません」「ほかの参与員の方、約百名ぐらいおられますが、難民と認定できたという申請者がほとんどいないのが現状です」等

ア この柳瀬発言の真偽について,その執務状況を確認し,審議の過程で以下の点が明らかになった。

2022年の全体処理数4740件 のうち 柳瀬氏担当1231件(勤務日数32日) 

2021年の全体処理数6741件 のうち 柳瀬氏担当1378件(勤務日数34日)

 つまり,2021~2022年の柳瀬氏の平均処理件数は1日あたり40件程度になる。参与員の勤務が通常は半日(4時間程度)であることを考えると,1件あたり6分となる。

 しかも,その処理案件は「臨時班」として割り振られたもので,もともと入管の判断として難民性の認められない案件を取り扱ってきたということであり,およそ,参与員が扱っている事案の全体を語ることのできない立場にあることが明白となった。

イ また,柳瀬氏は法務省会合「収容と送還に関する専門部会」の第二回、2019年11月11日の時点で「これまで1500件の対面審査を行ってきた」と発言し,その後、上述の2021年4月21日の衆院法務委員会で、「これまで2000件の(対面)審査を行ってきたが、難民と認められたのは6件だけ」と発言した。

 つまり,1年半で500件の対面審査を行ったということになり,その点も問題となった。

 この問題に関し,齋藤法務大臣は「一般論から言って、1年6ヵ月で500件の対面審査は可能」と明言したが,その後撤回,「不可能」だとしたが、発言の中核部分であり,言い間違いとしてはあまりにも不自然・不可解である。

(2)浅川晃広参与員発言

 5月25日の参議院法務委員会で参考人として発言した浅川氏は現役の参与員であるが,その発言で「10年間の経験の中で約3900件を担当し、書面審査だけで年間1000件以上審査をしたこともある、1期日(通常は午後の半日)に書面審査をまとめて50件ぐらい処理」することがあると述べた。

 この際,上記の処理のために,①難民認定申請書、②一次審査における申請者の供述調書、③(審査請求段階の)申述書の「ワンセット」を中心に読み、その結果、出身国情報に当てはめなくても棄却判断ができる案件の方が多く、出身国情報は「たまに」当てはめなければならない程度であるとした。

 不服審査に相応しくない,あまりに杜撰な審査の実態が明らかとなった。

(3) 日弁連推薦参与員のアンケートとその執務実態(全難連調査)

 以上の2名に対して,全難連では日弁連合推薦の参与員(常設班所属の10名)にアンケートを実施し,その審査の実態をみたところ,年間の平均担当件数は36.3件であることが判明した。また、その後、ある参与員によれば難民認定率は18%程度であったとされているほか,元参与員であった阿部浩己教授も40件程の難民認定意見を残してきたということを述べており,柳瀬発言に偏ることの危険性が露になったということができる。

(4) 小括

 以上のように,法案は,柳瀨参与員らの発言を根拠に政府法案の審議を進めようとしてきたものの,それがあまりにも実態と離れたもので,これらの発言を根拠に送還停止効の一部解除等の審議を進めることが,いかに真の難民をその保護から遠ざける結果になるかが明らかになったというべきである。

3 大阪入管医師の問題

 今般,大阪出入国在留管理局の常勤医師が酒に酔って診察をしていたという深刻な問題が明らかとなった。しかも,この問題は,本年1月中には出入国在留管理庁に、2月下旬には斎藤健法相に伝達されていた。にもかかわらず,入管法改正案の審議が続く国会には報告されなかったというのである。

 これまでの審議においても,法相が「常勤医師の確保等の医療体制の強化や職員の意識改革の促進など、改革の効果が着実に表れてきていると思います」と述べ、西山政府参考人は「現在、収容施設が常時開設され診療所が置かれている主要六官署のうち、五官署においてそれぞれ一名の常勤医師を配置している状況にあります。一局、東京局横浜支局には配置できておりませんで、非常勤医師や外部病院受診により対応しているところでございます」としており,この問題の事実を隠して答弁をしていたことも明らかになった。

 入管収容問題について,入管側の判断に委ねていることの危険性がここで明らかになったのであり,国連機関から勧告を受けている収容自体の司法的抑制及び収容期間の制限が不可欠であることが良く理解しうる。

 しかも,問題は収容問題について適切な議論をする前提としての重要な事実を入管側が隠していたという点であり,国会審議を愚弄するものでもある。

4 結論

 かかる状況の下でこれ以上の審議を継続することはできない。衆議院での審議もすべての客観的情報のないままになされてきたことは明らかである。本法案は採決に適さず,法務省はこれを撤回すべきであるし,国会はこれを廃案とすべきである。

以上

 

 

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