声明・提言等(2023年4月26日)全難連を含む4団体より共同プレスリリース「国連特別手続の専門家らが日本政府に対し、国会審議中の入管法の国際人権法違反を懸念。徹底的な見直しと情報提供を呼びかける。ー国際人権法上の義務と日本の誓約に沿った対応が求められる。」を発表しました。

共同プレスリリース「国連特別手続の専門家らが日本政府に対し、国会審議中の入管法の国際人権法違反を懸念。徹底的な見直しと情報提供を呼びかける。ー国際人権法上の義務と日本の誓約に沿った対応が求められる。」日本語版[PDF・3MB]/英語版[PDF・483KB]

日付:2023年4月26日

団体:アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ナウ、全国難民弁護団連絡会議、恣意的拘禁ネットワーク

<声明文全文> 

国連特別手続の専門家らが日本政府に対し、国会審議中の入管法の国際人権法違反を懸念。徹底的な見直しと情報提供を呼びかける。
ー国際人権法上の義務と日本の誓約に沿った対応が求められる。

 2023年4月25日、日本・東京 – 2023年3月7日、出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)の一部を改正する法律案(以下、2023年法案)が閣議決定され、政府案として第211回国会(常会)へ提出されました[1]。2021年の同法の改正案(以下、2021年法案)[2]の廃案から約2年ぶりのことです。2023年法案は、同年4月13日に衆議院本会議で審議が開始され、4月19日及び4月21日に衆議院法務委員会で審議が行われたところですが、4月18日(ジュネーブ時間)に国連人権理事会の専門家らは日本政府に対して共同書簡を送り、2023年法案が国際法、特に市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)に違反する恐れがあると指摘していることが、4月21日(ジュネーブ/日本時間)に判明しました[3]。専門家らは、収容の例外的使用の無担保、収容の判断にかかる司法審査の欠如、無期限の収容期間、ノン・ルフールマン原則違反、新設された非拘禁的な措置(「監理措置」)における権利侵害や搾取のリスク、子どもの権利の保障などの点から2023年法案への懸念を表明し、懸念点について日本政府へ対話を求めました。私たちは、本書簡で提起された懸念を強く支持します。そして、2023年法案がすでに審議中であるという緊急事態に鑑み、日本政府による可及的速やかな対応と、全ての国会議員に対し、本書簡の対応にかかる最大限のコミットメントを求めます。

【概要】

 本書簡は、国連の恣意的拘禁作業部会、移住者の人権に関する特別報告者、宗教または信条の自由に関する特別報告者から日本政府へ送られました。入管法の改正案について、国連の特別手続を通じて日本政府に書簡が送られたのは、2021年に続き、これが2度目です。2021年当時、同年3月31日付の書簡において2021年法案が国際人権基準を下回るものであるとして深刻な懸念が示され[4]、日本政府は同年6月17日に同法案の見送りを報告しました[5]。今回2023年の書簡では、2023年法案は2021年法案に一部修正が加えられていることを認めつつも、2021年の書簡において提案された事項については基本的に変更されておらず、依然として国際基準に合致していないとして、国内法制を国際人権法の下での日本の義務に沿うものにするため、改正案を徹底的に見直すことを求めています。そして、日本政府に対し、書簡で言及された懸念についてさらなる情報提供を求め、すべての移住者、庇護希望者及び難民の人権の保護の強化に向けて必要な協力を行いたい旨を述べています。

【共同書簡の内容】

特に、専門家が懸念を表明しているのは以下の点です。

1. 原則収容主義の維持 

 2023年法案においても、監理措置が適用されない限り常に収容が優先する点、監理措置を適用するか収容されるかは入管(主任審査官)の裁量によるという点について、身体の自由を原則とし、収容は最後の手段でなければならないとする自由権規約9条、世界人権宣言9条に違反しうることを指摘。2023年法案が依然として収容を前提とした制度であることに特に懸念を表明。

2. 新設された収容代替措置の問題

 2023年法案は、収容しない場合に在宅で手続きを進めることを認める措置として、監理人の「監理措置」の新設を維持。2021年法案と比べ、①300万円以下の保証金の納付が必須条件ではなくなったものの、入管(主任審査官)が必要と考えれば課すことができること、②監理人の報告義務が軽減されたように見えるものの、主任審査官が必要と考えれば義務づけることができることや、③監理人が報告義務に違反すれば、2021年法案と同じく罰金を科すことができること、④監理人と被監理者双方のプライバシーの権利を侵害すること等から、監理措置を利用するのは、現実的には困難であり、搾取のリスクを伴うとして懸念を表明。収容代替措置においても、移住者の人権の保護が目指されるべきと強調。

 「重要なことは、そもそも収容を正当化する理由がない場合には、収容代替措置が適用されてはいけないということです。そのような場合、移民は釈放されるべきです。」と述べ、収容が必要でない場合は、収容か監理措置かの判断の対象ですらないと指摘。

3. 司法審査の欠如

 依然として、入管施設での収容について司法審査がない点について懸念を表明。2023年法案では、3か月毎に入管(主任審査官)が監理措置の必要性を検討するとしているが、「出入国管理手続における収容を含むあらゆる形態の拘禁は、裁判官その他の司法当局によって命じられ、承認されなければならない」として、これは司法審査に当たらないと指摘。

4. 無期限収容

 依然として、収容期間の上限について定めがないこと、無期限収容となる可能性があることについて、懸念を表明。出入国手続きにおける無期限収容は恣意的拘禁にあたり、自由権規約に反することや、収容の期間の上限は法律によって規定されなければならないとも指摘。

5. 子どもの収容に関する問題

 依然として、子どもの収容を禁止する規定が、存在しないこと等に遺憾を表明。

 

6. 難民申請者への送還停止効の解除の問題

 依然として、難民申請を3回以上している者、日本で3年以上の拘禁刑を受けた者、暴力・破壊活動に関与・助長した可能性があると疑われる者について、送還停止効が解除されることは、送還後に生命や権利が脅かされる可能性があり、拷問等禁止条約3条、強制失踪条約16条、自由権規約7条が保障するノン・ルフールマン原則を損なうことを強く懸念。

 「送還前に状況や保護の必要生の個別評価を明確に求める適切な手続き上の保護措置がない場合には、前述のカテゴリーに含まれる難民申請者の送還停止効を解除する法案が、国際人権法及びノン・ルフールマン原則を損ないます。」として、今回の法案の送還停止効が国際法違反となることを指摘。

【日本に求められること】

 作業部会および特別報告者は、国連人権理事会(日本は一貫して理事国を務めています)によって任命され、人権理事会の主たる機能のうちの一つである、人権問題に関する世論喚起、人権状況の改善を達成するため、人権理事会によって与えられたマンデートにより特別手続の遂行にあたっています。特別手続の対象は、個人に対する人権侵害から、各国の法律や政策まで多岐に渡ります。今回の共同書簡の送付もそのマンデートの一環としてなされたものです。

岸田文雄首相は、2022年9月20日の第77回国連総会において「国際社会における法の支配を推進する国連の実現」へのコミットメントを表明しました[6]。2023年3月3日に行われた、第52回人権理事会ハイレベルセグメントでは、中谷元総理補佐官は「日本は、国際及び国内の人権の保護と促進に主導的役割を果たす」と述べています[7]。また、日本は2019年に続き、2023年の人権理事会理事国選挙への立候補を表明しています。人権理事会立候補に当たっては、日本は、自発的誓約として、人権高等弁務官事務所(OHCHR)及び特別手続との有意義で建設的な対話を非常に重視しており、日本は、引き続き協力を提供していく予定であると繰り返し述べています[8]

 今回の書簡の最後には、「非正規移民への対応を目的としたものを含むあらゆる移民に関するガバナンスの措置が、移民の人権と尊厳の享受に悪影響を及ぼしてはならないことを改めて表明します。人権は、国籍、年齢、性別、在留状況、その他の属性に関わらず、すべての移住者を含むすべての人に適用されます。出入国管理に関連するすべての主要な国際人権条約に基づく国家の義務は、移民への対処のあらゆる段階において中心的なものとなるようにすることを要求しています。」と述べられています。基本的人権は「配慮」するものではなく、あらゆる法制度の「中心」に据えられるべきものです。包摂すべき人とそうでない人がいるものでもありません。

 書簡に示された多くの懸念点は、2023年法案の骨格に関わるものです。また、法的な視点から述べられたものであり、運用上の対応を求めているものではありません。私たちは、日本が基本的人権を普遍的価値として尊重する上で、2023年法案の抜本的な見直しが必須と考えます。すなわち、早急な国会審議ではなく、特別手続きを含む、国内外のステークホルダーとの丁寧な議論を何よりも優先させ、本共同書簡においても求められているとおり、国際人権法の下での日本の義務に沿うものにするため、改正案を徹底的に見直すことを強く求めます。

以上

[1]  出入国管理及び難民認定法(入管法)改正案(閣法)、2023 年 3 月 17日: http://www.moj.go.jp/isa/laws/bill/index.html より入手可能。

[2] 同上。

[3] 共同書簡(資料番号:OL JPN 1/2023)、2023年4月18日:原文 https://spcommreports.ohchr.org/TMResultsBase/DownLoadPublicCommunicationFile?gId=27995/日本語仮訳 https://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/2023/04/OL_JPN_1_2023_japanese-1.pdf

[4] 共同書簡(資料番号:OL JPN 3/2021)、2021年3月31日:原文  https://spcommreports.ohchr.org/TMResultsBase/DownLoadPublicCommunicationFile?gId=26325/日本語仮訳  http://www.jlnr.jp/jlnr/wp-content/uploads/2021/04/joint_letter_20210331_japanese.pdf

[5] 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部回答、2021年6月17日:原文 https://spcommreports.ohchr.org/TMResultsBase/DownLoadFile?gId=36354/日本語一部訳 https://www.moj.go.jp/isa/content/001350894.pdf

[6] 第77回国連総会における岸田総理大臣一般討論演説、2022年9月20日:https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/unp_a/page3_003441.htmlより入手可能。

[7] ​第52回人権理事会ハイレベルセグメントにおける中谷総理補佐官ステートメント​、2023年3月3日:https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_004031.htmlより入手可能。

[8] 世界の人権保護促進への日本の参画、2016年7月15日:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000175307.pdf人権に関するコミットメントと誓約、2019年1月(原題:Japan’s Human Rights Commitments and Pledges) https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000175306.pdf(英語のみ)を参照。

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