声明・提言等(2022年5月31日)全難連より申入書「トルコ国籍クルド人男性に係る迅速な難民認定を求める申入れ」を提出しました

トルコ国籍クルド人男性に係る迅速な難民認定を求める申入れ[PDF]

日付:2022年5月31日

団体:全国難民弁護団連絡会議

提出先:法務省、出入国在留管理庁

申入書テキスト 

法務大臣 古川 禎久 殿
出入国在留管理庁長官 佐々木 聖子 殿

トルコ国籍クルド人男性に係る迅速な難民認定を求める申入れ

2022年5月31日

全国難民弁護団連絡会議
代表 弁護士 渡邉彰悟
事務局長 弁護士 難波 満

第1 はじめに

本年5月20日、札幌高等裁判所第2民事部(長谷川恭弘裁判長、豊田哲也裁判官及び片山信裁判官)において、トルコ国籍クルド人男性についての原判決を取り消すとともに、難民不認定処分を取り消し、在留特別不許可処分の無効を確認する旨の判決が下されました。私たちは、この判決に対して上告等をしないよう求めるとともに、当該のクルド人難民に対して迅速に難民認定を行うことを求めます。

第2 事実の経過

当該のトルコ国籍クルド人男性は、本国トルコ南東部のクルド系住民が多く暮らす地域で生活をしていたところ、トルコ当局等から重大な身体的な危害を受け、更なる迫害の危険から逃れるために日常生活を捨てざるを得ず、2014年2月、単身、日本に逃れてきました。2014年3月に法務大臣に対して難民認定の申請(1回目)をしましたが、2016年12月に難民不認定処分を受け、2018年2月に1回目の難民不認定処分に対する審査請求を棄却されました。そのため、2018年3月に難民認定の申請(2回目)をしましたが、同年5月に在留期間の更新を受けずにオーバーステイとなり、同年10月に2回目の難民不認定処分を受けたため、2019年4月、札幌地方裁判所において、同処分の取消等を求めて提訴しました。その後、2021年1月には札幌地方裁判所から請求を棄却する旨の判決を下されましたが、本年5月20日、札幌高等裁判所において、当該のトルコ国籍クルド人男性の難民該当性を認め、一審判決を取り消すとともに、難民不認定処分を取り消し、在留特別不許可処分の無効を確認する旨の判決が下されました。

第3 申入れ事項

1 当該のクルド人難民は、2014年2月に来日した以降、8年以上にわたり、札幌高等裁判所で取り消された難民不認定処分を受けたことにより、不安定な状態で日本に滞在することを余儀なくされており、とりわけ、2018年5月にオーバーステイとなってからは、在留資格がないという著しく脆弱な状況で長期間にわたり生活をせざるを得なくなっているものです。

私たちは、札幌高等裁判所による判決の内容を尊重し、当該のクルド人難民が一日も早く日本で平穏に安定して生活できるようにするため、この判決に対して上告等をしないよう求めるとともに、当該のクルド人難民に対して迅速に難民認定を行うことを求めます。

2 ところで、難民不認定処分取消判決が確定した者については、終止条項が適用にならない限り、難民認定をすることが義務付けられています(スリランカ・タミル人難民に係る東京高等裁判所平成30年12月5日判決)。これについては、貴庁難民認定室が地方局の難民調査担当首席審査官宛てに発出した文書においても明示されているところです(平成31年1月21日付け法務省入国管理局総務課難民認定室補佐官事務連絡「難民に該当することを理由に難民不認定処分取消判決が確定している外国人に係る難民該当性の評価について(通知)」)。

前記判決では、「…終止条項該当性を判断するに当たっては,本国における変化の根本的な性格を慎重に評価し,難民の地位の付与を正当化する状況が消滅したことを客観的にかつ立証可能な方法で確かめなければならないこと,変化が根本的,安定的かつ永続的な性格のものであるかを,特にUNHCRを含め関連する専門的機関から得られた情報に基づき評価しなければならないなどが指摘されている。」、「現時点までのスリランカにおける政治情勢やLTTE元関係者らの一般的処遇のいける改善策を考慮したとしても、スリランカ政府当局等からLTTEの協力者であると疑いを持たれている具体的な可能性のある控訴人について,根本的,安定的かつ永続的に,迫害を受けるおそれが消滅したことが客観的にかつ立証可能な方法で確かめられたとはいえず,その他本件全証拠を勘案しても,被控訴人について終止条項該当性を認めることができない」と判示しています。

この点、政治的反対派への当局による弾圧が続くトルコであり、特にクルド人である控訴人がクルド系反政府組織の協力者であると疑いを持たれている可能性のある本件において、終止条項が適用になるような根本的、安定的かつ永続的な性格の変化がないことは明らかですので、当該のトルコ国籍クルド人男性に対し、上告等をしないようにするとともに、判決の確定後速やかに難民認定およびその告知を行うように求めます。

第4 結語

我が国には、欧州諸国と比較して地理的には遠いものの、査証なしで入国がしやすいなどの理由により、数千人のトルコ国籍クルド人が庇護を求めてやって来ていますが、1981年に難民条約に加入して以来、トルコ国籍の難民がこれまでに難民認定を受けた例はありません。難民審査参与員が難民認定意見を出しても尊重されず、難民不認定処分取消判決が確定した2件(東京地方裁判所平成16年5月14日判決および名古屋高等裁判所平成18年6月30日判決(いずれも難民の勝訴確定))でさえも、再び難民不認定とされるなど、難民保護制度が異常に歪められ、保護されるべき難民が保護されない状態が続いています。

そのため、今回の控訴人が2回目の難民認定申請であったように、我が国に庇護を求めているトルコ・クルド人は、迫害国である本国への送還を避けるために、難民認定申請を繰り返さざるを得ない状況が続いています。このような状況下で、まるでトルコ・クルド人難民・庇護希望者を標的にするような、3回目以上の難民申請者の送還を可能にしようとする法改正がされようとしています。

難民の迅速かつ適切な保護の観点から、当該のトルコ国籍クルド人男性への早急な難民認定とその告知を求めるとともに、難民保護制度の歪みを是正し、トルコ・クルド人難民・庇護希望者への判断を見直すべく、具体的な対応策を法務大臣に求めます。

以上

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