声明・提言等(2022年4月22日)全難連より「難民の強制送還条項等を含む昨年廃案となった入管法改正案の再提出をしないよう求める声明」を発表しました。

難民の強制送還条項等を含む昨年廃案となった入管法改正案の再提出をしないよう求める声明[PDF]

日付:2022年4月22日

団体:全国難民弁護団連絡会議

声明文テキスト 

難民の強制送還条項等を含む昨年廃案となった入管法改正案の再提出をしないよう求める声明

2022年4月22日

全国難民弁護団連絡会議

  今月に入り、政府は、ウクライナ避難民の保護を理由に、2021年の通常国会で事実上廃案になった入管法改正案[1]を、夏の参院選後の臨時国会に再提出する検討に入った、と複数のメディアが報じています[2]

私たちは、以下のとおり、難民の強制送還条項など重大な問題のある条項が多数含まれていた昨年の入管法改正案の再提出に反対するとともに、紛争から逃れてきた人々の迅速かつ確実な保護に結びつく法制度を改めて作るよう求めます。

1 “ウクライナ避難民の保護”は、法案再提出の理由とはならないこと

 同改正案は、今年1月にも政府が再提出を目指したものの、昨年、名古屋入管内で死亡したウィシュマさんの問題が解決されておらず、世論の批判を免れない等の理由で、再提出が見送られてきました[3]

 今般、政府は、ウクライナ避難民の保護を理由に、再提出を検討するとしていますが、ウクライナから退避してきた人々の保護と、ウィシュマさんが犠牲となった長期収容問題や、昨年、東京高裁で違憲判決が出された難民申請者に対する強制送還の問題は、全く別の問題です。

ウクライナからの退避者の保護を積極的に進めようとしている取組は歓迎すべきであり、これらの人々を含む紛争から逃れてきた人々の保護は、人権保障および人道支援の見地から、さらに進めていく必要があります。

具体的には、難民条約上の「難民」として救済しうる人は「難民」として保護すべきです[4]。その上で、難民条約に基づき「難民」として保護できない人についても保護すべきですが、昨年廃案になった改正案の「補完的保護対象者」では、迅速[5]かつ確実[6]に保護される保障は全くありません。むしろ、同改正案の「補完的保護対象者」の範囲は、極めて狭く、ウクライナからの退避者はこれにあたらず、救済されません。しかも、退避者の保護のためには、査証(ビザ)の発給などの受け入れ段階や生活支援など、昨年廃案になった改正案の範囲に留まらない法制度が必要です。

 一方で、昨年の改正案に含まれていた、難民の複数回申請者に対する強制送還条項や、無期限収容の問題点は、何ら解決されておらず、これらを含めた改正案を再提出することに、正当性や必要性はまったく見出せません。政府が今年1月にも再提出を目指していたことからすれば、政府の本当の目的は、ウクライナ避難民の保護ではなく、難民の強制送還や、無期限収容などの入管の権限確保にあると考えざるを得ません。

 私たちは、政府に対し、ウクライナ避難民の保護とは無関係であり、かつ、人権保障面で深刻な問題のある条項を含む、昨年廃案になった改正案の再提出に強く反対します。

2 昨年廃案になった改正案の問題点

 同改正案については、昨年の通常国会期間中、多くの市民、NGO、学者、法律家、弁護士団体などが、問題点を指摘[7]した結果、廃案となりました。これらの問題点は、廃案になった後も改善されていません。

⑴ ウィシュマさんの死亡事件と長期収容問題

 昨年3月、スリランカ国籍のウィシュマさんは、名古屋入管内で長期間収容された上、適切な医療を受けられずに亡くなりました。今年3月、ウィシュマさんの遺族は国家賠償請求訴訟を提起しており、原因の解明はまだ進んでいません[8]

 入管庁は、昨年8月に出入国在留管理庁調査チームによる「名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告書」を発表しましたが[9]、内部調査では公正さを欠く、ビデオと実態が異なるなどの批判がなされています[10]。入管において打ち出した改善策も、「出入国在留管理の使命と心得」の策定や、医療従事者の形式的な増員など[11]、抜本的な解決とは言い難いものです。

 ウィシュマさん事件の原因の解明と、再発防止のために実効性のある解決策の実施なくして、法改正はあり得ません。

⑵ 難民の強制送還条項

 改正案では、3回目以上の難民申請者に対して、原則として強制送還を可能とする条項が定められていました[12]。しかし、日本は難民認定率が1パーセントに及ばず、他国であれば難民として認定されているような申請者であっても、難民として認定されていません。たとえば、トルコから来たクルド人については、ある難民審査参与員が複数回の認定意見を出したにもかかわらず、過去に1人も難民として認定されていません[13][14]。改正案によれば、クルド人は「補完的保護対象者」にもならず[15]、難民申請を繰り返した場合は強制送還がなされ、迫害の危険に晒されてしまいます。

 さらに、難民申請者の強制送還については、昨年9月、東京高裁において、難民不認定処分に対する裁判を起こす前に強制送還することは、憲法32条の裁判を受ける権利を侵害し、かつ、憲法31条の適正手続の保障とこれに結び付いた13条に違反するという判決が言い渡されました[16]。改正案の強制送還条項は、司法審査の前提となる行政庁の判断すらされないうちに送還を可能とするものであり、難民の裁判を受ける権利を侵害することに直結します。

 また、改正案は、難民申請者であっても、無期もしくは3年以上の実刑判決に処せられた者等については、強制送還を可能としていました[17]。難民条約33条2項は、「特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者」については、送還禁止の対象外とすることを認めていますが、改正案のように広い範囲で送還を認めてはおらず、改正案は難民条約、ノン・ルフールマン原則に違反します。

⑶ 国際法違反の収容制度

⑴のウィシュマさんの問題で述べたように、長期収容による人権侵害は深刻なものとなっています。ところが、改正案によっても、原則収容主義が維持されており、収容にあたって司法審査がないこと、収容期間に上限がないことは、現行法と変わりません。改正案は、新たに「監理措置制度」を導入するとしていましたが、どのような場合に監理措置制度が適用されるかは入管の広い判断に委ねられており[18]、収容の要件が明確に定められていませんでした。むしろ、監理措置制度では、「監理人」に対象者の生活状況などの報告義務を負わせ[19]、違反した場合は過料の制裁[20]があるなど、監理人に過剰な負担を強いる内容となっていました。

廃案になった入管法改正案については、2021年3月、国連特別報告者ら4者の共同書簡により、司法審査の欠如や無期限収容について、国際人権法違反であるという強い懸念が示されていました[21][22]。そのまま改正案を再提出した場合は、依然として国際人権法に違反することになってしまいます。

また、それに先立つ2020年9月には、国連恣意的拘禁作業部会が、日本の入管収容は恣意的拘禁にあたるという意見を出しました[23]。日本政府はこのような国連機関からの意見に反論し、受け入れようとしていません。今年1月、作業部会へ通報した原告2人が、東京地方裁判所において、日本の入管収容制度は自由権規約に違反するという訴訟を提起しており、政府はこの意見を真摯に受け止める必要があります[24]

⑷ 退去強制に従わない者に対する罰則

 改正法案は、退去強制令書が出された者に対し、退去の命令を発したり[25]、旅券の発給の申請その他送還するために必要な行為を命じることができるとし[26]、この命令に従わない者には1年以下の懲役もしくは罰金を科すと定めていました[27]

 しかしながら、⑵で述べたように、日本では難民として認定されるべき者が認定されておらず、帰国するに帰国できない人々が多くいます。このような人々に、罰則を適用して帰国させようとすることは、ノン・ルフールマン原則に違反するとともに、もし、本国での迫害をおそれて帰国よりも罰則を選んだ場合は、服役と入管収容を繰り返すという循環に陥ってしまいかねません。

3 結論-再提出によって起きる問題

 このように、昨年廃案になった入管法改正案には、深刻な人権侵害を生み出しかねない条項が含まれており、これを再提出するべきではありません。ウクライナからの退避者を保護するために、これらの問題ある条項は必要ないどころか、むしろ、強制送還条項や罰則は、本来保護すべき人々を危険な国に送還したり、処罰したりすることに繋がりかねません。

 これらの理由により、私たちは、昨年廃案になった入管法改正案の再提出に強く反対するとともに、紛争から逃れてきた人々の迅速かつ確実な保護に結びつく法制度を改めて作るよう求めます。

以上

[1] 出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案https://www.moj.go.jp/isa/laws/bill/index.html

[2] 時事通信2022年4月7日https://www.jiji.com/jc/article?k=2022040600950&g=pol

毎日新聞2022年4月12日https://mainichi.jp/articles/20220412/k00/00m/010/299000c

[3] 朝日新聞2022年1月7日https://www.asahi.com/articles/ASQ175SMSQ17UTFK00R.html

時事通信2022年1月7日https://sp.m.jiji.com/article/show/2686167

[4] 難民条約の締約国は、紛争下においても、条約難民の要件を満たす人は、難民条約に基づき難民として保護しなければならない責務を負います。日本政府は、「難民」の要件の一つである「迫害を受けることについて十分に理由のある恐怖」の要件について、迫害主体から殊更に標的にされていることを要求しており、このことが難民の保護に関する大きな障壁の一つです。

[5] 法務省発表「令和2年における難民認定者数等について」によると、難民申請者の一次審査の平均処理期間は約25.4月,不服申立ての平均処理期間は約26.8月であり、補完的保護対象者の認定も同程度の期間がかかる可能性があります。https://www.moj.go.jp/isa/content/001345018.pdf

[6] 改正案の補完的保護対象者の要件として、注4記載の難民の要件と同様の「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」を残していました(2条3号の2)。

[7] 全難連ほか4団体による「改正入管法案に対する共同声明」http://www.jlnr.jp/jlnr/wp-content/uploads/2021/02/jlnr_joint-statement_20210219_nyukanho.pdf

[8] 名古屋地方裁判所令和4年(ワ)第891号国家賠償請求事件

[9] https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/01_00156.html

[10] 朝日新聞2022年3月23日「ウィシュマさんの映像見た野党議員、『入管の報告書は虚偽』と批判」https://www.asahi.com/articles/ASQ3R560CQ3RUTIL01V.html

[11] https://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/05_00016.html

[12] 改正案61条2の9第4項1号

[13] 2022年3月まで難民審査参与員を務めた阿部浩己氏は、10年間で22人のトルコから来たクルド人について難民認定意見を述べたが、法務大臣は1人も認定しなかったと述べています。https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/636/

[14] 大橋毅「クルド難民を拒絶する法務省」https://migrants.jp/news/blog/20210212_1.html

[15] 改正案の「補完的保護対象者」(2条3号の2)は、難民条約の5つの迫害理由以外の迫害理由を対象とする以外は、従前の要件と同じでした。

[16] 東京高等裁判所2021年9月22日判決。スリランカ国籍の難民申請者2名に対して異議申立てを棄却する通知をした後、訴訟を希望していたにもかかわらず、翌日、集団送還を行いました。https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/694/090694_hanrei.pdf

[17] 改正案61条の2の9第4項2号

[18] 改正案44条の2第1項、5項、52条の2第1項、4項は、「主任審査官が・・・相当と認めるとき」に監理措置に付すると定めていました。

[19] 改正法案44条の3第5項、52条の3第5項

[20] 改正法案77条の2第2号、4号

[21] 2021年3月31日、国連移住者の人権に関する特別報告者、恣意的拘禁作業部会、宗教または信条の自由に関する特別報告者並びに拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は刑罰に関する特別報告者が、政府入管法改正案に対する共同書簡を公表、政府に送りました。https://hrn.or.jp/activity_statement/19726/

[22] 日本政府は、国連人権高等弁務官事務所に対して「事前に御説明する機会があれば、こうした立案の背景、法案の内容、その適正性について、正確に理解していただくことができたものと考えています」等という意見を公表しました。https://www.moj.go.jp/isa/publications/others/05_00012.html

[23] A/HRC/WGAD/2020/58。日本語訳はhttps://naad.info/wp-content/uploads/2021/03/WGAD_Opinion_JPN_final.pdf

[24] 東京地方裁判所令和4年(ワ)第528号自由権規約に基づく損害賠償請求事件

[25] 改正案55条の2第1項

[26] 改正案52条12項

[27] 改正案72条6号、8号

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