【2020年難民10大ニュース】

1.  2019年、難民申請数・認定数が横ばい、不服審で認定わずか1人 

〔説明文〕 

 3月の入管庁による発表で、不服審(異議申立)での難民認定者数がわずか1人(棄却率がほぼ100パーセント)であることが判明し、不服審に独立性が欠如し、機能不全に陥っていることが更に浮き彫りとなった。難民申請者数・認定者数は入国者数の増加に相関せずに横ばいとなり、また、取下げ率が一次手続と不服審査手続のいずれでも過去最高を更新したが、支援の現場からは、難民申請の受理拒否や取下げへの誘導が疑われる事例が複数報告された。

【声明等】全難連「法務省発表「令和元年における難民認定数等について」を受けての声明〜「濫用防止対策」のもと、庇護希望者にとって極めて厳しい状態が続く〜 」PDF](2020331日)

【統計資料】難民認定数等の推移(1979~2019)


2. 無国籍の難民、東京高裁「地球上で行き場を失うことは、明白だった」逆転勝訴判決(1月) 

〔説明文〕 

 2020129日、東京高裁は、旧ソ連・現ジョージア出身(アルメニア民族)の無国籍の男性に対する難民不認定処分を取り消し、退去強制令書発付処分の無効を確認する逆転勝訴判決を言い渡した。裁判所は、男性は「難民であるばかりではなく無国籍者でもあり、受入見込国が存在しないこと、退去強制令書を発令すると地球上で行き場を失うことは、一見明白であった」と判断。受入見込国の不存在が退去強制の違法性に影響することを明確にした。この判決を受け、同年2月に男性は難民認定。「定住者5年」の在留資格を得た。出身国を追われてから27年、日本で難民申請をしてから10年を要した。

【判決】東京高判令和2年1月29日[東京高等裁判所 第11民事部 平成30(行コ)222](外部リンク:裁判所ウェブ

【関連報道】


3. ミャンマー・カチン族難民高裁判決 東京高裁が地裁の認定判決を覆し難民と認めず逆転敗訴(12月) 

〔説明文〕 

 2020310日、東京地裁は、ミャンマーのカチン族女性の難民不認定処分について、ミャンマーでは20116月に国軍がカチン独立機構との停戦協定を破棄して以降、国軍によるカチン州での暴力、破壊、反政府活動支持者への迫害がなされていたと認め、日本で反政府デモ等に参加していた女性の難民該当性を認めた。ところが1217日、東京高裁は、国軍が女性の反政府活動を認識しているとはいえず、仮に認識しても迫害の対象となるような活動ではないとして、いわゆる個別把握説に立脚して一審判決を取り消した。カチン州における人権侵害状況を無視した判決と言わざるを得ない。

【関連報道】


4. イラン・キリスト教改宗難民 難民不認定取消・義務付け、在留期間更新不許可取消訴訟で高裁でも勝訴(2月・3月) 

〔説明文〕 

 2020213日、東京高裁は、3回目の難民申請時に特定活動の在留期間更新を不許可とされたイラン国籍男性の処分取消を求める訴訟の控訴審で、2018年以降の「難民認定制度の適正化のための運用の更なる見直し」の運用下においても、改めて申請を行うことについて相応の合理性が認められる場合の在留制限は違法として、一審判決を維持した。また、同男性の難民不認定処分取消等訴訟についても、同年318日、東京高裁は、イランにおいて信仰実践を外面に表出するキリスト教改宗者は迫害される傾向にあるとして、難民該当性を認めた一審判決を維持した。個別把握説によることなく、一般的な迫害類型から認定した判決であった。

【高裁判決】東京高判令和2318日[東京高等裁判所第22民事部 令和元(行コ)255全難連DB(会員専用))

【地裁判決】東京地判令和元年917日[東京地方裁判所民事第51部 平成30(行ウ)287裁判所ウェブ

【判例解説】前田直子「国際法1. 改宗と難民該当性(東京地判令和元・917)」『ジュリスト臨時増刊号』1544号(令和元年度重要判例解説)274

【判例解説】戸田五郎「イスラム教からキリスト教への改宗者の難民該当性」『新・判例解説WATCH26319


5.       難民審査請求手続の問題(口頭意見陳述不実施7割) 

〔説明文〕 

 難民審査参与員制度のもとでの不服申立手続は,その効果を発揮せず,2013年からは一桁の認定数で推移し,2017年に続いて2019年も認定一人となり機能不全ぶりが激しい。2020年に至り,コロナの問題に乗じてか,口頭意見陳述不実施は不服申立数の7割に及んでいると言われている。難民申請者の訴える迫害のおそれの内容を理解するのに,十分な出身国情報の分析のないまま直接の面接も実施しないとあっては,迫害の実態や信憑性の判断を形骸化するもので,難民申請に対する適正な判断とは乖離したものであり,条約締約国に値しないという事態にまで至っている。

【政府】出入国在留管理庁「令和元年における難民認定者数等について」2020324日)

【声明等】日本弁護士連合会「行政不服審査法改正の趣旨に沿った、難民不服審査制度の正常化を求める会長声明」2020827日)


6.       野党議員難民懇(5月設立)が難民法案及び入管法改正案を作成 

〔説明文〕 

 野党系超党派の衆参議員24人からなる「難民問題に関する議員懇談会(難民懇)」(本年5月設立)が、114日に、政府改正案の対案となる「難民等の保護に関する法律案(仮称)」「出入国管理及び難民認定法案(仮称)」の二つの議員立法案を懇談会内で了承した。この法案には、難民認定の主体を独立行政機関とすることや補完的保護対象者も「難民」と位置付けること、全件収容主義を撤廃すること、などといった内容が盛り込まれ、より国際水準に近づいた制度作りが目指されている。

【関連報道】

【その他】「難民問題議員懇で「難民保護のための立法措置・入管法改正案」を了承!」(2020116日)(外部リンク:石橋通宏(立憲民主)フェイスブック


7. 難民申請者2名への入管収容は「恣意的拘禁」国連恣意的拘禁作業部会が意見採択(8月) 

〔説明文〕 

 本年8月28日、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会は、長期収容された難民申請者2名の個人通報に対し、2名の収容は、自由権規約9条等が禁ずる恣意的拘禁であり、同条等に違反するとの意見を採択した。同作業部会が日本の入管収容について意見を採択するのは初めてである。入管収容は、必要性、相当性の要件を満たす必要があり、司法審査の機会を与えられるべきであり、これらを満たさなければ、「恣意的拘禁」であるというのが、国際的に一般的な解釈になっている。作業部会は、この一般的な解釈を採用し、日本政府による、収容が原則であるが、国内法に従ったもので違法ではないとの主張を退けた。

【作業部会意見】国連恣意的拘禁作業部会意見[A/HRC/WGAD/2020/58](日本語訳)[PDF]/原文英語PDF](2020925日)(外部リンク:OHCHR

【声明等】

【関連報道】


8. 収容・送還専門部会の提言(送還忌避罪、送還停止効の例外、仮放免逃亡罪)(6月)、全国各地の弁護士会が提言を発表(7月~11月);自民党の難民議連発足(11月) 

〔説明文〕 

 昨年6月大村入管センターで起きた長期収容中のナイジェリア人の餓死事件を契機に設置された出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」は6月送還忌避者に罰則を設けること、難民申請手続き中は送還を停止している現行法に例外を設けることなどを内容とする提言を公表した。自民党に難民議連が発足し、この重罰化を後押しせんとしているが、全国各地の弁護士会や市民団体はこれに反対している。現状の難民認定の貧困な実情、外国人の基本的人権の軽視による長期収容問題の検証を欠く重罰化は火事場泥棒的ではないか。

【声明等】各地弁護士会の声明・提言等

【声明等】

【関連報道】「⾃⺠党が出⼊国管理と難⺠認定法改正を検討〜外国⼈の不法就労を阻⽌へ」Net IB News20201111日)

【その他】「出入国在留管理業務の適正運用を支援する議員連盟が菅首相に申入れ。…」20201129日)(外部リンク:宮崎政久(自民)ツイッター)

【その他】「出入国在留管理業務の適正運用を支援する議員連盟。本日夕、発足。…」20201110日)(外部リンク:三宅しんご(自民)ツイッター)

【政府】第7次出入国管理政策懇談会「報告書「今後の出入国在留管理行政の在り方」」PDF]/概要PDF](202012月)(外部リンク:出入国在留管理庁

【政府】収容・送還に関する専門部会「報告書「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」」PDF]/概要PDF](202012月)(外部リンク:出入国在留管理庁


9.  新型コロナウイルス感染症拡大と難民・庇護希望者を含む外国人住民の困窮が更に悪化、NGOが給付金を支給(5月~) 

〔説明文〕 

 新型コロナウィルスの感染拡大は、移民・難民の生活に多大な影響を及ぼしたが、とりわけ、公的な支援を受けられない難民申請者や仮放免者の生活を直撃している。これを受け、全難連も参加している移住者と連帯する全国ネットワークでは、移民・難民緊急支援期間を立ち上げ、5月から9月にかけて、これらの難民申請者や仮放免者を支援した。しかし、感染拡大の収束が見えない中、これらの移民・難民に対する公的な支援の実施が緊急に求められている。

【参考資料】移住連「新型コロナ「移民・難民緊急支援基金」最終報告の発表」20201110日)

【関連報道】


10.   新型コロナウイルス感染症拡大と入管収容・仮放免(4月~) 

〔説明文〕 

 新型コロナウィルスの感染拡大を受け、全難連は、4月20日、他の団体とともに、現在入管収容施設に収容されている人のうち、日本国内に受入先のある被収容者を全て解放することなどを内容とする緊急共同要請を行った。入管は、相当数の人を仮放免としたり、新たに収容する人を抑制するなどの対応を行っているが、未だに多くの人が仮放免を受けられておらず、入管収容施設に収容されている人の感染の発生の報道もされている。直ちに全ての被収容者を解放することが求められている。

【声明等】全難連ほか4団体「緊急共同要請」2020420日)[PDF

【声明等】全難連、入管問題調査会、全件収容主義と闘う弁護士の会 ハマースミスの誓いの3団体による申し入れ

【政府】入管施設における新型コロナウイルス感染症対策マニュアル(外部リンク:出入国在留管理庁)


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