収容・送還専門部会 最終報告(2020年6月15日)

収容・送還に関する専門部会開催状況(法務省ウェブ)

○本専門部会において取りまとめられた報告書(2020年6月)

報告書「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(概要)[PDF]

報告書「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」[PDF]

報告書
「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」
令和2年6月
第7次出入国管理政策懇談会
「収容・送還に関する専門部会」
「収容・送還に関する専門部会」名簿
(敬称略・部会長以外の委員は五十音順)
(委員)
部会長 安 冨 潔 慶應義塾大学名誉教授
やす とみ きよし
明 石 純 一 筑波大学人文社会系准教授
あか し じゆん いち
大 橋 秀 夫 医師
おお はし ひで お
川 村 真 理 杏林大学総合政策学部教授
かわ むら ま り
髙 橋 直 哉 中央大学大学院法務研究科教授
たか はし なお や
髙 宅 茂 日本大学危機管理学部教授
たか や しげる
弁護士
てら わき かず みね
野 口 貴公美 一橋大学大学院法学研究科教授
の ぐち き く み
宮 崎 真 弁護士
みや ざき しん
柳 瀬 房 子 特定非営利活動法人難民を助ける会会長
やな せ ふさ こ
(オブザーバー)
川 内 敏 月 国連難民高等弁務官駐日事務所副代表
かわ うち とし つき
目 次
第1 本専門部会の設置の趣旨及び検討経過
1 本専門部会の設置の趣旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2 本専門部会における検討経過・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
第2 送還及び収容・仮放免に関する現状等
1 出入国在留管理庁による現状説明
⑴ 送還に関する現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
⑵ 収容・仮放免に関する現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
2 オブザーバーの意見及びヒアリングにおいて示された意見・・・・・・・・・18
第3 本専門部会の提言の前提となる基本的な考え方・・・・・・・・・・・・・・21
第4 各論点についての検討及び提言
1 送還を促進するための措置の在り方
⑴ 本人の事情を適切に把握するための措置等・・・・・・・・・・・・・・・22
⑵ 退去強制令書の発付を受けた者に対する自発的な出国を促すために考えられる運
用上又は法整備上の措置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
⑶ 退去強制令書が発付されたものの本邦から退去しない行為に対する罰則の創設・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
⑷ 庇護を要する者を適切に保護しつつ,送還の回避を目的とする難民認定申請に対
処するための運用上又は法整備上の措置・・・・・・・・・・・・・・・・・34
⑸ その他送還を促進し,又は送還が困難な者に適切に対処するための措置・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
2 収容の在り方
⑴ 収容期間の上限,収容についての司法による審査・・・・・・・・・・・・42
⑵ 被収容者のプライバシーの確保や被収容者に対する医療,被収容者の心情把握・
ケアに関する取組等の被収容者の処遇・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
⑶ 仮放免その他収容の長期化を防止するための措置
ア 仮放免の要件・基準,収容代替措置・・・・・・・・・・・・・・・・・51
イ 仮放免された者等による逃亡等の行為に対する罰則等の創設・・・・・・54
3 本専門部会の課題に関し示されたその他の主な意見・・・・・・・・・・・・57
第5 終わりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
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第1 本専門部会の設置の趣旨及び検討経過
1 本専門部会の設置の趣旨
「 収 容 ・ 送 還 に 関 す る 専 門 部 会 」( 以 下 「 本 専 門 部 会 」 と い う 。) は , 送 還 忌 避 者
の 増 加 や 収 容 の 長 期 化 を 防 止 す る 方 策 や そ の 間 の 収 容 の 在 り 方 を 議 論 ・ 検 討 す る た
め,令和元年10月,法務大臣の私的懇談会である第7次出入国管理政策懇談会の下
に設置されたものである。
同懇談会及び本専門部会第1回会合において出入国在留管理庁から説明された本専
門部会の設置の趣旨は,次のとおりである。
「かねてより退去強制令書の発付を受けたにもかかわらず,様々な理由により,
送還を忌避する者が相当数存在しており,実務上,迅速な送還の実現に対する大き
な障害となっている。
そして,このような送還忌避者の中には,法律上,難民認定手続中は一律に送還
が停止されることに着目し,この送還の停止を目的に申請していると思われる濫用
・誤用的な難民認定申請者も少なからず見受けられ,これに対する適切な対応の必
要性もかねてより指摘されているところである。
送還忌避者の増加は,我が国にとって好ましからざる外国人を強制的に国外に退
去させるという退去強制制度の趣旨を没却するばかりか,退去強制を受ける者の収
容の長期化の主要な要因ともなっている。
そして,送還忌避者の増加や収容の長期化が適正な出入国在留管理行政や被収容
者の健康上問題であることは明らかであることから,これらを防止する方策やその
間の収容の在り方を検討することは,出入国在留管理行政にとって喫緊の課題であ
る。
そこで,これら送還忌避者の収容・送還に関する問題を解決するため,今後,入
管当局が採るべき具体的な方策について,現状や課題を踏まえつつ,専門的知見を
有する有識者や実務者の方々に御議論いただくこととし,出入国管理政策懇談会に
専門部会を設置することとした。」
2 本専門部会における検討経過
本専門部会の会合は,令和元年10月21日の第1回会合から令和2年6月15日
の第10回会合まで,計10回開催された(これらの会合のほか,同年3月から4月
までの間には,後記のとおり提言骨子(案)を基に委員からの意見を募る手続もとっ
た。)。
各会合等の概要は,次のとおりである。
○ 第1回会合(令和元年10月21日)
出入国在留管理庁から,本専門部会の設置の趣旨,送還忌避者の実態,大村入国
管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書について,それぞれ説明が行わ
れた。
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その後,委員の間で,本専門部会における議論の対象となる論点の整理に向けた
意見交換を行った。
○ 第2回会合(同年11月11日)
第1回会合で委員から示された論点整理に向けた意見を踏まえ,部会長から示さ
れた論点整理案に基づき,本専門部会で検討すべき論点に関する議論が行われた。
また,出入国在留管理庁から,送還に関する現状等に関する説明が行われ,その
後,送還を促進するための措置の在り方等について,委員による議論を行った。
○ 東日本入国管理センターの視察(同年11月20日,令和2年1月22日)
収容に関する実情等の把握のため,各委員の日程の都合を踏まえて2回に分けて,
入国者収容所東日本入国管理センターの視察を行った。
○ 第3回会合(令和元年11月25日)
部会長から,第2回会合における意見交換を踏まえて修正した論点整理案が示さ
れ,委員により,本専門部会の論点整理として了承された。
本専門部会において整理された論点は,以下のとおりである。
1 送還を促進するための措置の在り方
○ 退 去 強 制 令 書 の 発 付 を 受 け た 者 に 対 す る 自 発 的 な 出 国 を 促 す た め に 考 え
られる運用上又は法整備上の措置
○ 退 去 強 制 令 書 が 発 付 さ れ た も の の 本 邦 か ら 退 去 し な い 行 為 に 対 す る 罰 則
の創設
○ 庇 護 を 要 す る 者 を 適 切 に 保 護 し つ つ , 送 還 の 回 避 を 目 的 と す る 濫 用 ・ 誤
用的な難民認定申請に対処するための運用上又は法整備上の措置
○ その他送還を促進し,又は送還が困難な者に適切に対処するための措置
2 収容の在り方
○ 収容期間の上限,収容についての司法による審査
○ 被 収 容 者 の プ ラ イ バ シ ー の 確 保 や 被 収 容 者 に 対 す る 医 療 , 被 収 容 者 の 心
情把握・ケアに関する取組等の被収容者の処遇
○ 仮放免
・ 仮放免の要件・基準
・ 仮放免された者による逃亡等の行為に対する罰則の創設
○ その他収容の長期化を防止するための措置
また,出入国在留管理庁から,収容・仮放免に関する現状等について説明が行わ
れ,その後,収容の在り方等について,委員による議論を行った。
○ 第4回会合(同年12月12日)
出入国在留管理庁から,入管収容施設(入国者収容所又は収容場をいう。以下同
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じ。) 内 の 処 遇 に 関 す る 現 状 , 諸 外 国 に お け る 収 容 ・ 送 還に 関 す る 法制 度 等 に 関 す
る説明が行われ,その後,被収容者の処遇の在り方,送還を促進するための措置の
在り方等について,委員による議論を行った。
ま た , I O M ( 国 際 移 住 機 関 ) 駐 日 事 務 所 佐 藤 美 央 代 表 か ら ,「 IO M に よ る 自
主的帰国・社会復帰支援プログラム」についてヒアリングを実施した(本専門部会
におけるヒアリングの概要については,後記第2の2参照)。
○ 第5回会合(令和2年1月16日)
収容・送還に関する関係者ヒアリングとして,東京出入国在留管理局処遇部門首
席入国警備官から同局における被収容者の処遇の現状等について,同局執行第一部
門統括入国警備官から同局における被退去強制者の送還の現状等について,認定N
PO法人難民支援協会石川えり代表理事から難民保護の視点からの収容・送還の課
題等について,入管関係訴訟等に携わる児玉晃一弁護士から長期収容とその解決に
向けた提言等について,それぞれヒアリングを実施した。
また,出入国在留管理庁から,諸外国における収容・送還に関する法制度に関す
る資料について,前回会合以降に更新された部分に係る説明が行われた。
○ 第6回会合(同月28日)
収容・送還に関する関係者ヒアリングとして,大村入国管理センターにおいて被
収容者の支援活動等に携わる柚之原寛史牧師から,被収容者が有する意見,要望等
についてヒアリングを実施した。
次に,収容の在り方について,委員による議論を行った。
最 後 に , 出 入 国 在 留 管 理 庁 か ら,「 こ れ ま で の 議 論 に お い て 提 案 さ れ た ( 主 な )
方 策 等 ( 案 )」( 各 論 点 に つ い て 本 専 門 部 会 の こ れ ま で の 議 論 に お い て 委 員 か ら 提
案された方策をリストとしてまとめた資料)に関する説明が行われ,その後,送還
を促進するための措置の在り方に係る部分について,委員による議論を行った。
○ 第7回会合(同年2月17日)
出入国在留管理庁から,諸外国における収容・送還に関する法制度(前回会合以
降に更新された部分),入管法上の罰則等について説明が行われた。
その後,「これまでの議論において提案された(主な)方策等(案)」について,
前回に引き続き委員による議論を行った。
○ 提言骨子(案)(部会長私案)の配布等
令和2年3月5日に予定されていた第8回会合では,部会長から,議論の取りま
とめのための素案を示すこととされていたが,諸般の事情により,同日の開催は延
期された。
会合の開催に代え,事務局から,提言の叩き台となる部会長私案として作成され
た 「 提 言 骨 子 ( 案 )」 等 を 各 委 員 に 送 付 し , そ れ に 対 し ,各 委 員 か ら意 見 が 提 出 さ
れた。
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○ 第8回会合(同年5月22日)
出入国在留管理庁から,入管施設感染防止タスクフォースにおいて作成された「入
管施設における新型コロナウイルス感染症対策マニュアル」の概要について説明が
行われた。
その後,本報告書で示す提言のうち送還を促進するための措置の在り方に関する
ものについて,委員による議論を行った。
○ 第9回会合(同月29日)
本報告書で示す提言のうち収容の在り方に関するもの及び報告書の構成全般につ
いて,委員による議論を行った。
○ 第10回会合(同年6月15日)
委員による議論を行った上,これを踏まえて必要な修正について部会長一任とし,
本報告書を取りまとめることとされた。
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第2 送還及び収容・仮放免に関する現状等
1 出入国在留管理庁による現状説明
前記第1の2のとおり,本専門部会の各会合において,出入国在留管理庁から,送
還及び収容・仮放免に関する説明が行われたところ,同庁による現状説明の要旨は,
次のとおりである(なお,以下で述べる平成31年・令和元年及び令和2年における
各数値は,いずれも確定集計に至っていない速報値である。)。
⑴ 送還に関する現状
ア 送還の制度の概要等
(ア)退去強制令書の発付に至る手続の概要
退去強制は,我が国にとって好ましくない外国人をその意に反しても国外に
退去させるという強力な行政作用であることから,出入国管理及び難民認定法
( 以 下 「 入 管 法 」 又 は 単 に 「 法 」 と い う。) は , 退 去 強 制 手 続 の 対 象 と な る 外
国人の主張を十分に聴き,聴取した事情その他の事実関係を踏まえて適切な処
分を行うことが可能となるよう,退去強制令書の発付に至るまでに数段階の慎
重な審査を行う手続を定めるとともに,特別に在留を許可すべき事情がある場
合には在留特別許可を付与することができるものとしている。
すなわち,退去強制手続は,入国警備官の違反調査(法第27条)により開
始されるところ,入国警備官は,違反調査の結果,退去強制事由に該当すると
疑うに足りる相当の理由があるときは,容疑者を収容した上で入国審査官に引
き渡さなければならない(法第39条第1項,第44条)。
引渡しを受けた入国審査官は,容疑者が退去強制対象者に該当するか否かに
ついて違反審査(法第45条)を行い,これに該当すると認定したときは,容
疑者にその旨を知らせる(法第47条第3項)。
容疑者がこの認定に異議があるときは,特別審理官による口頭審理(法第4
8条)を請求することができ,特別審理官は,口頭審理の結果,入国審査官の
認定に誤りがないと認めるときは,容疑者にその旨を知らせる(同条第8項)。
容疑者は,特別審理官の判定に異議があるときは,法務大臣に対して異議の
申出をすることができ,法務大臣は,異議の申出に理由があるかどうかを裁決
する(法第49条)。
この裁決の特例として,法務大臣は,容疑者の異議の申出に理由がないと認
める場合であっても,特別に在留を許可すべき事情があると認めるときは,在
留特別許可を付与することができる(法第50条。なお,異議の申出に対する
裁決や在留特別許可を行う権限は,法第69条の2の規定に基づく権限の委任
として,地方出入国在留管理局長に委任されている。)。
主任審査官による退去強制令書の発付は,容疑者が退去強制対象者に該当す
る 旨 の 違 反 審 査 の 認 定 に 服 し た と き ( 法 第 4 7 条 第 5 項 ), 容 疑 者 が 違 反 審 査
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の認定に誤りがない旨の特別審理官の判定に服したとき(法第48条第9項)
又は法務大臣が容疑者の異議の申出に理由がないと裁決したとき(法第49条
第6項)に行われる。
このように,退去強制令書の発付は,入国警備官とは官職を異にする入国審
査官による違反審査,特別審理官による口頭審理並びに法務大臣による裁決(法
第49条第3項)及び在留特別許可の許否の判断という多段階の審査・判断の
機会が与えられた手続の下で,退去強制対象者に該当し,かつ,在留特別許可
を付与すべき事情もないと判断された者に対してなされる処分である。
主任審査官により発付された退去強制令書は,入国警備官が執行する(法第
5 2 条 第 1 項 )。 入国 警 備 官 は , 退 去 強 制 令 書 を 執 行 す る と き は , 退 去 強 制 を
受ける者に退去強制令書又はその写しを示して,速やかに送還先に送還しなけ
ればならない(同条第3項)。
(イ)送還の類型
入管法上,送還は,入国警備官が送還先まで送還する方法によるもの(法第
52条第3項)が原則として定められているが,退去強制令書を発付された外
国 人 ( 以 下 「 被 退 去 強 制 者 」 と い う。) が , 入 国 者 収 容 所 長 又 は 主 任 審 査 官 の
許可に基づき,自らの負担により,自ら本邦から退去する方法(同条第4項)
によることも可能である。後者の送還方法は,実務上,自費出国と称され,後
記(ウ)のとおり送還件数の大多数を占めている。
自費出国をしない被退去強制者については,国費による送還(以下「国費送
還 」 と い う 。) が行 わ れ る 。 国 費 送 還 に は , 一 人 の 被 送 還 者 を 個 別 的 に 送 還 す
る個別送還と,複数の被送還者をまとめて送還する集団送還とがある。
個別送還には,入国警備官が護送官として送還先まで同行するものとそうで
はないものがある。送還を拒んでいる者や帰国を希望するものの病気等で介護
が必要な者については,入国警備官が護送官として送還先まで同行する護送官
付き国費送還の方法がとられる。他方,帰国を希望するものの帰国費用が不足
している者については,入国警備官が護送官として送還先まで同行することな
く,費用の全部又は一部を国費で負担して帰国させることにより送還を行う方
法がとられる。
集団送還は,チャーター機を手配した上で,送還先が共通する被退去強制者
を集団で送還する方法であり,平成25年度から実施されている。
なお,国費送還とは別に,IOMが実施している自主的帰国・社会復帰支援
プログラムにより,送還先国への帰国が実現されることもある。このプログラ
ムは,IOM駐日事務所の協力を得て平成25年度から実施されており,帰国
後の職業紹介,医療機会の提供等の社会復帰支援を行うことにより,被退去強
制者が有する帰国後の生活等に対する不安を払しょくし,自主的帰国を促すも
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のである。
(ウ)送還件数に関する統計
入管法上は,国費送還が原則とされているが,実際には,送還の大部分は自
費出国によるものであり,国費送還はそれに比して少数である。
送還の件数は,訪日外国人及び在留外国人の増加を背景に,ここ数年増加傾
向にあり,平成26年には,国費送還が235件(内訳は,護送官付き個別送
還 5 5 件 , 護 送 官 な し 個 別 送 還 1 4 8 件 , 集 団 送 還 3 2 件 ), 自費 出 国 が 5 2
28件であったが,平成30年には,国費送還が517件(内訳は,護送官付
き 個 別 送 還 1 6 9 件 , 護 送 官 な し 個 別 送 還 3 0 1 件 , 集 団 送 還 4 7 件 ), 自 費
出国が8755件,平成31年・令和元年には,国費送還が516件(内訳は,
護 送 官 付 き 個 別 送 還 2 0 3 件 , 護 送 官 な し 個 別 送 還 3 1 3 件 ), 自費 出 国 が 8
967件にまで増加している。
なお,前記のIOMの自主的帰国・社会復帰支援プログラムによって,平成
25年のプログラム開始以来,令和2年3月末までに,47件82人が帰国し
ている。
イ 送還忌避者について
(ア)送還忌避者の意義及び人数等
前記ア(ア)記載のとおり,被退去強制者については,入管法上,速やかな
送還が求められているが,退去強制令書の発付を受けたにもかかわらず,様々
な事情を主張し,自らの意思に基づき,法律上又は事実上の作為・不作為によ
り本邦からの退去を拒んでいる者が相当数存在しており,入管実務上,このよ
うに送還を拒んでいる被退去強制者を「送還忌避者」(注)と呼んでいる。
(注)送還忌避者か否かは,自らの意思に基づき本邦からの退去を拒んでいる
か否か,すなわち,自費出国ではなく国費送還が必要となり得る者である
か否かという観点から判別しているものであり,難民認定手続中(審査請
求 中 を 含 む 。 以 下 同 じ 。) 又 は 訴 訟 係 属 中 で あ る 者 も , 自 ら の 意 思 に 基 づ
き退去を拒んでいる限りは,送還忌避者に含まれることとなる。難民認定
手続中又は訴訟係属中の者の中には,真に難民として認定され,又は訴訟
において請求が認容されるべきものもいれば,送還を回避するための手段
として手続を利用しているものもいるが,これらを手続中に峻別すること
は困難であるので,飽くまで自らの意思に基づき本邦からの退去を拒んで
いるか否かという観点から判別している。もっとも,後記(イ)②及び③
のとおり,現行法上,難民認定手続中の者について送還を行うことはなく
( 法 第 6 1 条 の 2 の 6 第 3 項 ), ま た , 入 管 関 係 訴 訟 が 係 属 中 の 者 に つ い
ては,運用上の配慮として,送還を差し控えている。
令和元年12月末時点において,退去強制令書の発付を受けて入管収容施設
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に収容中の者942人のうち,自らの意思に基づき送還を忌避する者(以下「送
還忌避被収容者」という。)は,649人(約69パーセント)である。
また,同月末時点において,退去強制令書の発付を受けて仮放免中の者(以
下 「 被 退 令 仮 放 免 者 」 と い う 。) は 2 2 1 7 人 で あ る と こ ろ , そ の 多 く は 送 還
忌避者である(同年6月末時点においては,被退令仮放免者2303人のうち,
2242人(約97パーセント)は送還忌避者であった。)。
(イ)法律上又は運用上送還の障害となる事由
被退去強制者に対しては,入国警備官がその者を送還先に送還することが義
務 付 け ら れ て い る ( 法 第 5 2 条 第 3 項)。 そ れ に も か か わ ら ず 相 当 数 の 送 還 忌
避者について速やかな送還を行うことができない状況にあるのは,以下にみる
ように,法律上又は運用上送還を妨げることとなる様々な事由があるためであ
る。
① 送還先国の非協力(送還困難国の存在)
送還忌避者を送還しようとしても,その者の受入れを拒否する国や,駐日
大使館・領事館が臨時旅券の職権発給に応じない国(送還困難国)が一部に
存在し,そのような国の国籍を有する者が送還を忌避する場合,送還が著し
く困難となる。
なお,現状において,送還困難国であっても,本人が送還に応じる意思を
示していれば,受入れや旅券発給には応じるのが常であり,本人が帰国を希
望するにもかかわらずその受入れ等を拒む国は見当たらない。
② 難民認定手続中の送還停止効
法第61条の2の6第3項は,難民認定申請をした者に対する退去強制手
続については,難民不認定処分がされて審査請求期間が経過したときや,難
民不認定処分に対する審査請求を棄却等する裁決がされるなどしたときまで
送還を停止する旨規定している。
現行法上,このような難民認定手続中の送還停止効は,難民認定申請の理
由や回数にかかわらず生じるものとされている。もとより,送還停止効は,
難民認定手続中の者が,同手続中に送還されることなく安心して審査を受け
られるよう,法的地位の安定化を図るという趣旨に基づき,適切に運用され
ているが,送還忌避者にとっては,たとえ難民認定申請や審査請求が退けら
れても,申請を繰り返している限り,送還されることはないこととなる。
なお,前記(ア)記載の令和元年12月末時点における送還忌避被収容者
6 4 9 人 の う ち , 難 民 認 定 手 続 中 の 者 は 3 9 1 人 (約 6 0 パ ー セ ン ト ), 複
数 回 の 難 民 認 定 申 請 に 及 ん で い る 者 は 2 2 7 人 (約 3 5 パ ー セ ン ト ( 難 民 認
定手続中の者の約58パーセント),最多は申請5回目)である(注)。
(注)令和元年12月末時点における難民認定申請(一次審査)の未処理数
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は1万8562人(そのうち,初回申請が1万7870人,複数回申請
が692人)であり,同時点における審査請求(不服申立て)の未処理
数は1万562人(そのうち,初回申請が8951人,複数回申請が1
611人)である。
難民認定申請(一次審査)の未処理数のうち,複数回申請が多い国は,
トルコ,ミャンマー,スリランカ,イラン,ナイジェリア等である。
③ 訴訟提起
我が国の裁判所で入管関係訴訟(例えば,退去強制処分や難民不認定処分
を争う訴訟)が係属中の被退去強制者については,前記②記載の難民認定手
続中の送還停止効とは異なり,法律上の送還停止効があるわけではないが,
裁判を受ける権利に配慮して,裁判終結までの間は送還を差し控える運用が
行われている。
なお,前記(ア)記載の令和元年12月末時点における送還忌避被収容者
649人のうち,入管関係訴訟係属中の者は75人(約12パーセント)で
ある。
④ 送還妨害行為
従来から,送還忌避者について個別送還として護送官付き国費送還を行お
うとする場合において,送還に使用する民間航空機(定期就航便)の中でそ
の者が大声を出したり,航行中に暴れるつもりである旨の脅迫的言辞を弄す
るなどの送還妨害行為に及んだ結果,機長の判断で搭乗を拒否されるなどし
て,送還の実現に至らないこととなる事例が一定数存在する。
⑤ 仮放免中の逃亡
仮放免中に逃亡して所在不明になる者が相当数存在しており,このような
者についても,所在が判明して再収容に至るなどするまでの間,送還の実現
は不可能になる。
(ウ)本邦からの退去を拒む理由として主張される事由
被退去強制者が送還忌避者に該当するか否かは,退去強制令書の発付後に入
国警備官がその者と面接(執行面接)をして事情を聴取した際,本人が帰国希
望の意思を示すか退去を拒む意思を示すかにより判断している(退去を拒む意
思を示す者が送還忌避者である。)。
こうした際,退去を拒む理由として主張される事由としては,
① 自分が難民であることその他迫害等のおそれにより本国に帰国することが
困難であること
② 本邦にいる家族との同居や,本邦にいる子の養育を行いたいこと
③ 本邦に生活の基盤があること
④ 本邦で稼働したいこと
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などが挙げられる。
なお,前記ア(ア)のとおり,通常,本国に帰国することが困難である事情
や本邦への在留を希望する事情の有無・内容等については,退去強制令書の発
付 に 至 る ま で の 手 続 ( 難 民 認 定 申 請 を 行 っ て い る 場 合 は , 難 民 認 定 手 続 を 含
む 。) に お い て 把 握 ・ 考 慮 さ れ て お り , こ れ ら の 事 情 等 が 総 合 考 慮 さ れ た 上 で
難民認定や在留特別許可を行うべき事案ではないとの判断がなされた結果とし
て,その者に対し退去強制令書が発付されているものである(例えば,日本人
の同居家族がいるとしても,本人の違反内容や犯罪歴等関係する事情を総合考
慮し,在留特別許可が不相当として退去強制処分が行われるなど)。
⑵ 収容・仮放免に関する現状
ア 収容に関する現状
(ア)収容の制度の概要
退去強制を受ける者の収容には2種類ある。
1つは,入国警備官の違反調査により退去強制事由に該当するとの容疑が認
められた者について,退去強制対象者に該当するかを審査する手続を進めるに
際して行う,収容令書に基づく収容(法第39条第1項)である。収容令書に
基づく収容の期間は,30日以内とされているが,やむを得ない事由があると
認められる場合に最大30日延長することができる(法第41条第1項)。
もう1つは,前記⑴ア(ア)記載の手続を経て退去強制令書が発付された者
について行われる,退去強制令書に基づく収容である。退去強制令書に基づく
収容は,退去強制令書を執行する場合において,被退去強制者を直ちに本邦外
に送還することができないときに,送還可能のときまで行うことができるもの
とされている(法第52条第5項)。
本専門部会では,被退去強制者の送還忌避や長期収容に関する問題に関する
議論・検討を行ってきたものであるので,以下では,主として退去強制令書に
基づく収容に関して述べる。
(イ)収容に関する統計
入管収容施設における各年末時点での被収容者数の総数(収容令書による収
容と退去強制令書による収容の総数)は,平成26年12月末時点で932人
であったが,その後増加し,平成30年12月末時点では1246人に至った。
なお,令和元年12月末時点では,若干減少して1054人となっている。
このうち,収容期間6か月以上の被収容者は,平成26年12月末時点では
290人(総数の約31パーセント)であったが,平成30年12月末時点で
は681人(総数の約55パーセント)に上り,令和元年12月末時点では若
干 減 少 し た も の の 4 6 2 人 ( 総 数 の 約 4 4 パ ー セ ン ト ) と な っ て い る ( 注 )。
(注)収容期間6か月以上の被収容者につき,平成26年12月末,平成30
– 11 –
年12月末及び令和元年12月末の各時点における収容期間別の数を比較
すると,次のとおりである。
収容期間 平成26年12月末 平成30年12月末 令和元年12月末
6月以上1年未満 199人 190人 97人
1年以上1年半未満 67人 178人 86人
1年半以上2年未満 12人 146人 82人
2年以上2年半未満 6人 76人 77人
2年半以上3年未満 2人 65人 57人
3年以上 4人 26人 63人
イ 収容中の処遇に関する現状
(ア)処遇に関する法令の定め
法第61条の7は,入管収容施設の被収容者の処遇について,施設の保安上
支 障 が な い 範 囲 内 に お い て で き る 限 り の 自 由 が 与 え ら れ な け れ ば な ら な い 旨
(同条第1項)を規定するなどした上で,同条に規定するもの以外の被収容者
の処遇に関し必要な事項は,法務省令で定めるものとしている(同条第6項)。
これを受けて定められた法務省令である被収容者処遇規則(昭和56年法務
省令第59号)は,被収容者の人権を尊重しつつ,適正な処遇を行うことをそ
の目的(同規則第1条)として規定し,施設の保安上支障がない範囲内におい
て,被収容者がその属する国の風俗習慣によって行う生活様式を尊重しなけれ
ばならないこととしている(同規則第2条)。
(イ)処遇の実情
様々な処遇上の場面における取扱いの例は,別表「入管収容施設における処
遇状況」(17ページ参照)のとおりである。
例 え ば , 被 収 容 者 の 心 情 把 握 と い う 観 点 で は ,「 看 守 勤 務 者 に よ る 面 接 」 の
欄に記載のとおり,看守勤務者が適宜のタイミングで被収容者に声をかけ,別
室で面接を実施し,健康状態の聴取や退去強制手続に関する相談等を行ってい
る(送還に応じる意思や送還先に関する希望等も,この面接の中で聴取するよ
う に し て い る 。)。 ま た , カ ウ ン セ ラ ー に よ る カ ウ ン セ リ ン グ の 機 会 を 設 け て
いる。
また,入管収容施設では,開放処遇,すなわち,日中の時間帯に居室扉を解
錠 し , ホ ー ル 等 で 自 由 に 活 動 す る こ と を 認 め る 処 遇 を 実 施 し て お り ,「 外 部 交
通」の欄に記載のとおり,開放時間帯には電話通信を自由に実施できるように
している。面会についても,領事官・弁護士等はもとより,家族,友人等との
間でも許可している(同規則第33条,第34条)。
– 12 –
入管収容施設では,保安上の必要性から,カーテン等の設置されていない居
室での集団処遇を原則としているが,プライバシーの確保という観点では,「衛
生・入浴」の欄に記載のとおり,被収容者に対し,適宜入浴させる(同規則第
29条)際,開放処遇時間帯は看守勤務者によるシャワー室前における立会な
し の 状 態 で シ ャ ワ ー 室 を 自 由 に 使 用 で き る よ う に す る な ど の 配 慮 を 行 っ て い
る。
食事(同規則第25条,第26条)については,宗教やアレルギー等に配慮
した食事を用意しており,例えば,東日本入国管理センターにおいては,10
0種類以上の特別食を必要としている。
運動・余暇活動については,開放処遇時間帯であれば,戸外の運動場での運
動が可能であり,また,就寝時までは読書やテレビ視聴等様々な活動を自由に
選択できる。
宗教的配慮については,宗教上の行為等に特段の制限はなく,方角の表示等
により礼拝等にも配慮している。
なお,現在,収容期間6か月以上の被収容者は,東日本及び大村の各入国管
理センター並びに東京,名古屋及び大阪の各出入国在留管理局において収容し
ているところ,東日本及び大村の各入国管理センターには男性のみ,東京,名
古屋及び大阪の各出入国在留管理局には男女を収容している。
(ウ)被収容者に対する医療
被 収 容 者 処 遇 規 則 第 3 0 条 第 1 項 は,「 所 長 等 は , 被 収 容 者 が り 病 し , 又 は
負傷したときは,医師の診療を受けさせ,病状により適当な措置を講じなけれ
ばならない。」旨規定している。
入管収容施設においては,被収容者が医師による診療を必要とする場合,庁
内診療(入管収容施設内で診療を受けさせること)又は庁外診療(被収容者を
外部の病院等に同行して診療を受けさせること)により対応している。
庁内診療は,近隣医療機関から当該入管収容施設に来診する非常勤の医師又
は歯科医師により行っている。大規模な入管収容施設では,常勤又は非常勤の
看護師や准看護師の資格を持つ入国警備官を配置している(ただし,准看護師
については,現在,大村入国管理センターに配置していない。)。
なお,令和2年6月1日現在,東日本入国管理センター,大村入国管理セン
ター及び東京出入国在留管理局には各1名の常勤医師(国家公務員の身分で勤
務する医師)の配置枠があるところ,東日本入国管理センターには常勤医師1
名が配置されているが,大村入国管理センター及び東京出入国在留管理局では
その配置に至っていない。出入国在留管理庁及びこれら両施設は,関係機関に
協力を求めるなどして引き続き常勤医師の確保に取り組んでいる。
ウ 収容に関する現下の課題
– 13 –
(ア)収容の長期化
前記ア(イ)記載の統計に示されているとおり,近時,退去強制令書による
収容期間が長期化している被収容者の比率が増加している。
退 去 強 制 令 書 に よ る 収 容 は ,「 送 還 可 能 の と き ま で 」( 法 第 5 2 条 第 5 項 )
執り得る措置として規定されており,送還が円滑に実施される限り,長期収容
が生じることはないところ,前記⑴イで述べた送還忌避者の問題が,収容の長
期化の大きな要因となっているものと考えられる。
収容の長期化は,被収容者のストレスの高まり等を通じて,次に述べる処遇
の困難化にも大きく影響しているものと考えられる。
(イ)処遇の困難化
① 被収容者の遵守事項違反行為と制止・隔離措置
入管収容施設においては,一部の処遇困難な被収容者により,集団での官
給 食 の 摂 食 拒 否 ( 拒 食 ), 集 団 で の 帰 室 拒 否 及 び 施 設 の 汚 損 ・ 破 壊 等 の 行 為
が発生し,処遇を担当する入国警備官は,このような被収容者の行為に対処
しなければならない上,処遇の過程で脅迫的な言動を受けることもあるなど,
被収容者の処遇に苦慮している。
被収容者がこのような行為に及んだ場合,入国警備官は,被収容者の遵守
事項(被収容者処遇規則第7条)に違反したものとしてその行為を制止した
り ( 同 規 則 第 1 7 条 の 2 ), 他 の 被 収 容 者 か ら 隔 離 し て 収 容 し た り す る ( 同
規則第18条)ことがあるところ,平成27年には,制止件数が463件,
隔離収容件数が174件であったが,平成30年には,制止件数が1425
件,隔離収容件数が407件,平成31年・令和元年には,制止件数が14
31件,隔離収容件数が569件に上っている。
隔離措置については,入管収容施設の保安上の必要性から行われるもので
あり,刑事収容施設において矯正処遇の規律維持の必要性から行われる懲罰
とは異なるため,対象となる被収容者は,単独室などに移されるのみであり,
その余の処遇内容は他の被収容者と変わるものではない。そのため,隔離後
も上記のような遵守事項違反行為を繰り返す被収容者も少なくなく,これも
入国警備官にとって処遇業務を行う上での大きな負担となっている。
② 拒食事案の発生
処遇を困難化させる被収容者の行動の中で,近時大きな課題となっている
のは,仮放免を求めての拒食事案の発生である。
全国の入管収容施設においては,大村入国管理センターにおいて拒食中の
被収容者の死亡事案が発生した令和元年6月頃から,拒食が急速に拡大して
おり,半年以上が経過した令和2年1月末時点においても,完全な収束には
至っていない。
– 14 –
現在拒食中の者及びこれまでに拒食に及んだことがある者の累計は,令和
2年1月末時点において,235人に上る。
拒食者に対しては,摂食指導や説得を継続するとともに,医師の診察等に
より対処しているが,健康状態に著しい悪化が認められる場合には,諸般の
事情を総合的に考慮して,当該拒食者の仮放免を許可する場合もある。
しかし,拒食後に仮放免された者が逃亡して所在不明となる事案が増加し
ており,令和2年1月末時点において,拒食後に仮放免され,逃亡して所在
不明となっている者は64人に上っている。
(ウ)被収容者に対する医療に係る負担
各入管収容施設における庁内での診療等は,非常勤の医師・歯科医師(東日
本 入 国 管 理 セ ン タ ー に お い て は , 常 勤 医 師 及 び 非 常 勤 の 医 師 ・ 歯 科 医 師 ), 看
護師,准看護師の資格を有する入国警備官等により対応している。
診療・投薬の件数については,庁内診療,庁外診療及び投薬とも増加してい
る(平成29年は,庁内診療1万8119件,庁外診療2283件,投薬99
万576件,平成30年は,庁内診療1万9326件,庁外診療3057件,
投薬125万9834件,平成31年・令和元年は,庁内診療2万330件,
庁 外 診 療 2 9 2 3 件 , 投 薬 1 2 0 万 1 2 3 6 件 )。 被 収 容 者 を 外 部 の 病 院 等 に
連れて行く場合は,その都度,少なくとも複数の入国警備官を連行要員として
確保しなければならず,投薬を行う場合は,被収容者一人一人の症状に応じて
処方された様々な種類の薬剤を準備した上で薬剤の取り違えや服用間隔の誤り
がないようにしなければならないため,診療・投薬件数の増加は,入国警備官
の処遇業務上の負担を更に大きなものとしている。
エ 仮放免に関する現状
(ア)仮放免の制度の概要
仮放免は,収容令書又は退去強制令書により入管収容施設に収容されている
者について,一定の関係人の請求により又は職権で,保証金を納付させ,かつ,
必要な条件を付して,一時的に収容を停止し,身柄の拘束を仮に解く措置であ
る(法第54条)。
本専門部会では,被退去強制者の送還忌避や長期収容に関する問題に関する
議論・検討を行ってきたものであるので,以下では,主として退去強制令書に
基づき収容された者の仮放免に関して述べる。
仮放免は,飽くまで一時的に身柄の拘束を解く措置であるため,現行制度上,
仮放免が許可されても在留資格が付与されるわけではなく,本邦への滞在や就
労が許される立場にないことに変わりはない。
仮放免の許否は,仮放免請求により又は職権で,個別の事案ごとに被収容者
をめぐる諸般の事情を総合的に勘案して判断される。その判断において考慮さ
– 15 –
れる事項としては,例えば,被収容者の容疑事実又は退去強制事由,仮放免請
求の理由及びその証拠,被収容者の性格,年齢,資産,素行,健康状態等が挙
げられる(法第54条第2項,仮放免取扱要領第9条)。
ただし,現行の運用上,仮放免を許可することが適当とは認められない者に
ついては,その者が収容に耐え難い傷病者でない限り,原則として,送還が可
能となるまで収容を継続し,送還に努めることとしている。特に,①殺人,強
盗,人身取引加害,わいせつ,薬物事犯等,社会に不安を与えるような反社会
的で重大な罪により罰せられた者,②犯罪の常習性が認められる者や再犯のお
それが払しょくできない者,③社会生活適応困難者,④出入国在留管理行政の
根幹を揺るがす偽装滞在・不法入国等の関与者で悪質と認められる者について
は,よほどの事情がない限り,収容を継続することとしている。
仮放免を許可する際には,住居や行動範囲の制限,出頭義務,就労活動の禁
止を含むその他の条件とともに,仮放免の期間を定めている。その期間は,被
退令仮放免者の場合は原則として1か月以内,病気治療等のため長期間の仮放
免を必要とする場合は3か月以内とされるが,仮放免を継続する必要性がある
場合は,その期間の延長が許可される(仮放免取扱要領第17条,第18条,
第19条,第23条)。
保証金額については,逃亡や条件違反のおそれの程度を考慮し,300万円
以下の範囲内で,適当な額の保証金を決定し,仮放免を許可する際に納付させ
ている(法第54条第2項,入管法施行規則第49条第5項)が,職権による
仮放免許可の場合は,その納付を免除することも可能である(仮放免取扱要領
第 1 1 条 , 第 2 7 条 )。 弁 護 士 が 身 元 保 証 人 と な る 場 合 等 は , 保 証 金 の 決 定 に
当たってもこれを評価し,出頭確保の観点から必要最小限の額となるよう配慮
している(平成22年の日本弁護士連合会と法務省入国管理局(当時)との間
の合意に基づく取扱い)。
仮放免された者が逃亡したり,仮放免の条件に違反したりした場合には,仮
放免を取り消すことができる(法第55条)。
(イ)被退令仮放免者に関する統計
被退令仮放免者の数は,ピークとなった平成27年12月末時点では360
6人であったが,令和元年12月末時点では2217人である(注)。
また,同月末時点における被退令仮放免者2217人のうち,難民認定手続
中である者が1412人(約64パーセント),入管関係訴訟係属中の者が18
9人(約9パーセント)である。
難民認定手続中の1412人のうち,複数回申請に及んでいる者は975人
(約69パーセント,最多は申請6回目)である。
平成31年1月から令和元年12月末までの間,被退令仮放免者で警察等か
– 16 –
ら 逮 捕 ( 入 管 法 違 反 に よ る も の を 除 く。) さ れ た 旨 通 報 が あ っ た 者 は 4 7 人 で
ある。
また,同月末時点において,被退令仮放免中に逃亡し,仮放免を取り消され
て手配中の者は362人である。
(注)被退令仮放免者につき,平成27年12月末及び令和元年12月末の各
時点における仮放免期間別の数を比較すると,次のとおりである。
また,同月末時点における被退令仮放免者2217人のうち,20歳未
満の者は297人である。
仮放免期間 平成27年12月末 令和元年12月末
3年未満 2092人 745人
3年以上5年未満 882人 495人
5年以上7年未満 418人 357人
7年以上10年未満 172人 452人
10年以上 42人 168人
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別表 入管収容施設における処遇状況
※参照条文の番号は被収容者処遇規則のもの
(注)なお,施設の状況によって異なることがある。
看 守 勤 務 者
による面接
• 朝夕の点呼時,投薬時,申出書の受理時,動しょう(巡回)中など,適宜
のタイミングで声かけ
• 必要に応じ,処遇室等で面接を実施
• 健康状態の聴取,退去強制手続の相談,その他被収容者の悩み相談など
カ ウ ン セ リ
ング
• 臨床心理士によるカウンセリング(東日本センター・東京局は毎週,大村
センター・名古屋局・大阪局は月2回,横浜支局は不定期)
• 看護師による健康カウンセリング(東日本センター,東京局,横浜支局,
名古屋局及び大阪局で実施)
物品の購入
(第35条)
• 購入できる物品の種類は施設により異なるが日用品,食品等多数であり,
1回に購入できる数量についても原則として制限はない
• 大規模収容場では自動販売機(飲料)が設置されている
食事
( 第 25 条 ,
第26条)
• 一般食以外に文化・習慣・宗教・医療・アレルギーに応じた官給食を支給
• 自費購入の食品を摂ることもできる
運 動 ・ 余 暇
活動
(第28条)
• 原則,毎日,居室開放時間帯に戸外運動を実施
• テレビは,起床後就寝まで視聴できる
• 収容場にある図書の閲読は自由
衛生・入浴
(第29条)
• 居室開放時間帯は,自由にシャワー(温水調節可)使用可能(看守勤務者
の立会なし)
• 清掃業者による共同使用する場所の清掃や専門業者による居室内駆除作業
を定期的に実施
医療
(第30条)
• 入所時において医療従事者による問診,血圧測定等の実施
• 入所後1か月以内に肺X線検査(結核予防の観点)
• 病気やけがの場合は本人の申出等により庁内診療又は庁外診療の実施(歯
科診療を含む)
外部交通
( 第 33 条 ,
第34条)
• 面会は原則として面会室で実施(職員の立会は省略することができる)
• 親子面会は仕切りのない領事面会室等で実施
• 居室開放時間帯の収容場の電話使用は原則自由,居室施錠中は居室内で使
用を許可することがある
宗教的配慮 • 保安上支障がない限り,宗教上の行為は制限なく,聖書等宗教用具の種類
又は量にほぼ制限なし
• 収容場内に方角の表示
• ラマダンの習慣を有する被収容者には食事時間について特段の配慮
その他 • 物品(貴重品)保管のため,施錠できる金属製ロッカーを被収容者に貸与
– 18 –
2 オブザーバーの意見及びヒアリングにおいて示された意見
⑴ UNHCR(国連難民高等弁務官)駐日事務所副代表(オブザーバー出席者)
本専門部会の各会合には,UNHCR駐日事務所川内敏月副代表がオブザーバー
として出席したところ,同副代表から,提供資料等に基づき,要旨次のような意見
が述べられた。
・ 公正かつ効率的な難民認定制度の確保が重要であり,それをどのように確保す
るかについて,外部の専門家も交えた別の議論の場を設定することも含めて検討
すべきである。
・ ノン・ルフールマンの原則(難民条約等により送還が禁止される国への送還を
行わないこととする原則)を遵守するために,難民認定申請者には不服申立中も
含めて原則として最終決定までの自動的な送還停止効が認められるべきである。
複数回申請で明らかに理由が無い場合に,自動的な送還停止効の例外が設けられ
るとしても,送還停止効発生の訴えも含めた不服申立機会等の手続保障を確保す
べきである。
・ 「明らかに理由がない申請」を迅速処理等の対象とするのであれば,その範囲
を明確かつ限定的に定義すべきであり,ある申請が「明らかに理由がない」とす
る決定自体も,十分な能力を有する難民調査官による申請人の主張を十分に酌み
取った事情聴取を含めた適切な保障措置を伴う手続によりなされなければならな
い。
・ UNHCRの立場として,難民認定申請者の収容は,代替措置を検討した上で,
正当な目的に照らして必要性・合理性・比例性があると個別に認定された場合の
最後の手段であるべきであり,収容期間の上限の設定及び独立機関による収容決
定・必要性審査が必要である。法務省,日本弁護士連合会及び特定非営利活動法
人なんみんフォーラムとの覚書に基づいた既存のプロジェクトも含め,市民社会
との一層の連携の下,収容代替措置の活用を更に進めることが望ましい。
⑵ IOM駐日事務所代表
第4回会合において,IOMが実施する自主的帰国・社会復帰支援プログラムの
実情について,IOM駐日事務所佐藤美央代表から,ヒアリングを実施した際,要
旨次のような意見が述べられた。
・ IOMの自主的帰国・社会復帰支援プログラムは,1970年代後半に開始さ
れた事業であり,IOMは,各国政府と連携してこれを実施している。この事業
は,帰国する外国人にとっては自らの意思に基づく選択で自立支援を受けて帰国
できること,滞在国の政府にとっては様々なコストの節減につながること,出身
国の政府にとっては自国民が合法的に自立支援とともに帰国できることから,い
ずれの立場にとっても有益なものである。
・ プログラムの内容には,滞在国の出発前におけるカウンセリング等の出国準備,
– 19 –
出身国への渡航中における健康面等での支援,出身国への到着後における社会復
帰に向けた支援やそのモニタリング等が含まれる。
・ IOM駐日事務所においては,入管当局や各国駐日大使館等と協力しながら,
自主的な帰国を検討する外国人のカウンセリングや面接等を行うとともに,帰国
者の住宅支援や職業訓練等に取り組む出身国のIOM地域事務所とも緊密に連絡
・調整を行うことにより,帰国者の帰国・社会復帰の支援を実施している。
・ 限られた実施期間の中での様々なニーズへの対応,希望者が多い中での対象者
の選定,自主的帰国・社会復帰支援に対する理解を広げるための周知が,同プロ
グラムの今後の課題である。
⑶ 東京出入国在留管理局処遇部門首席入国警備官
第5回会合において,入管収容施設における処遇業務の現状等について,東京出
入国在留管理局処遇部門首席入国警備官から,ヒアリングを実施した際,要旨次の
ような意見が述べられた。
・ 被収容者の処遇を行う看守勤務者は,収容区域内の動しょう(巡回)のほか,
被収容者に対する給食,投薬,面接等の様々な業務を行っており,その業務負担
が大きい。
・ そのような中,長期収容者・処遇困難者の増加とともに,被収容者による施設
の汚損・破壊,職員や医師に対する暴言等の遵守事項違反行為も増加し,被収容
者処遇規則上の制止・隔離措置を執らざるを得ない事態が頻発している。
・ 看守勤務者は,多忙な通常業務に加えてこのような対応を取らざるを得ないた
め疲弊しており,心身の負担から離職する者も見受けられる。
⑷ 東京出入国在留管理局執行第一部門統括入国警備官
第5回会合において,被退去強制者の送還の現状等について,東京出入国在留管
理局執行第一部門統括入国警備官から,ヒアリングを実施した際,要旨次のような
意見が述べられた。
・ 護送官付き国費送還については,駐日大使館・領事館や航空会社等の関係機関
との調整を慎重かつ丁寧に行うなどした上で実施するが,難民認定申請や行政訴
訟の提起が繰り返し行われることにより,送還計画が頓挫することがある。
・ 被送還者が送還に使用する航空機内で暴れるなどの送還妨害行為により,機長
から搭乗を拒否され,送還を中止せざるを得なくなる事例がある。
・ 送還業務については現在の体制では十分とは言えず,送還促進のための体制整
備等を望んでいる。
⑸ 認定NPO法人難民支援協会代表理事
第5回会合において,認定NPO法人難民支援協会石川えり代表理事から,ヒア
リングを実施した際,要旨次のような意見が述べられた。
・ 送還の回避を目的とする濫用・誤用的な難民認定申請に関する平成27年9月
– 20 –
及び平成30年1月の運用の見直しにより,案件振分けが行われ,濫用・誤用的
な難民認定申請が大幅に減少している。
・ 日本と諸外国との間で難民認定率が大幅に乖離している。
・ 庇護を要する者を適切に保護するため,①難民認定申請者の収容を原則回避す
る た め の 制 度 の 構 築 ( 収 容 代 替 措 置 や 仮 放 免 の 活 用 ), ② 難 民 認 定 手 続 の 改 善 ,
③難民や人道配慮の定義の明確化を提案する。
⑹ 入管関係訴訟等に携わる弁護士
第5回会合において,入管関係訴訟等に携わる児玉晃一弁護士から,ヒアリング
を実施した際,要旨次のような意見が述べられた。
・ 入管収容施設における収容は,飽くまで強制送還のための収容であるはずであ
る。法律上強制送還ができない難民認定申請者を収容するような,強制送還以外
の目的での収容はやめるべきである。
・ 平成30年2月28日付け法務省入国管理局長指示「被退去強制令書発付者に
対 す る 仮 放 免 措 置 に 係 る 適 切 な 運 用 と 動 静 監 視 強 化 の 更 な る 徹 底 に つ い て ( 指
示 )」 に よ る 仮 放 免 の 厳 格 化 は 改 め ら れ る べ き で あ る 。 こ の 指 示 に よ り , 現 状 の
収容がいわゆる予防拘禁に類似する形になっている。
・ 長期収容・送還忌避者増大への対応策として,収容に対する司法審査を導入し,
収容期間の上限を定めるべきである。また,在留の正規化を一斉に実施している
諸外国の例などを参考に,不法滞在者に在留資格を付与する方策が検討されるべ
きである。
⑺ 被収容者の支援活動等に携わる牧師
第6回会合において,大村入国管理センターの被収容者の支援活動等に携わる柚
之原寬史牧師から,ヒアリングを実施した際,同センターの被収容者の声として,
要旨次のような意見が述べられた。
・ 難民として保護されない。
・ 技能実習において契約の半分の時給で働かされ,給与未払により帰国困難とな
った。
・ 医療体制の不備が原因で重篤な状態に陥った。
・ 東京や大阪から大村入国管理センターに突然移送された。
・ 家族や支援者から引き裂かれた。
・ 手錠や縄をつけられ屈辱である。
・ 刑務所よりも精神的に追い込まれた。
・ プライバシーが確保されていない。
・ 駅伝ランナーだったのに,けがを負い捨てられて強制送還されるかもしれない。
・ 7年以上も収容され,星すら見ることも叶わない。
– 21 –
第3 本専門部会の提言の前提となる基本的な考え方
前記第1のとおり,本専門部会は,送還忌避者の増加や収容の長期化を防止するた
めの方策を議論・検討する場として設置された。
もっとも,本専門部会では,委員の間の議論を通じ,送還忌避者の収容・送還に関
する問題は出入国在留管理行政の幅広い領域に関連しており,問題を解決するために
は,収容・送還それ自体に加えて,関連する様々な事項についても必要な範囲で議論
・検討を行い,提言を示すべきであるとの認識が共有されるに至った。
このような認識は,前記第1の2で示した論点整理の過程において既に示されてい
たところである。各論点に関する検討内容や提言は後記第4で示すとおりであり,一
部の論点については,委員全員の意見が集約されるには至らず,少数意見を併記する
形で提言を示しているが,提言の前提となる基本的な考え方として,以下の各点を期
すべきことについては,委員の間に認識が共有されたところである。
○ 送還すべき被退去強制者を把握する前提として,退去強制処分により送還すべき
者と,在留を認め,又は庇護の対象とすべき者とが,先行する退去強制手続等にお
いて適切に判別・認定されている必要があり,その観点から実施すべき制度・運用
の改善をこの機会に推進すること。
○ 送還すべき被退去強制者については,送還を促進すべきであること。
○ 収容は可能な限り短期とすべきであること。そのため,長期収容を解消するため
の方策を講ずるとともに,収容に代わる措置についても検討を進めること。
○ 収容を行う場合,被収容者の処遇は,人権・人道に配慮して適正に行うこと。
以下に示す本専門部会の提言は,このような基本的な考え方に基づき,収容・送還
及びこれらに関連する各分野の出入国在留管理行政がより幅広い国民の理解を得られ
ることを期して取りまとめるものである。
– 22 –
第4 各論点についての検討及び提言
1 送還を促進するための措置の在り方
⑴ 本人の事情を適切に把握するための措置等
【提言】
【検討】
ア 提言①について
本専門部会の議論では,送還を促進するための措置の在り方を検討する上では,
退去強制手続において,退去強制処分を受ける者とこれを受けずに在留を認めら
れる者が適切に判別されていることがその前提であるとの意見が示され,そのよ
うな観点から,在留特別許可制度の在り方に関し,次のような意見が示された。
① 送還を促進するための措置を講じる前提として,我が国への在留を希望す
る事情や本国への帰国が困難である事情がある者については,退去強制令書
を発付するか否かを判断するに当たり,当該事情の十分な調査及び把握によ
って,当該事情が適切に考慮されるよう,手続保障の観点から,本人の希望
に応じ,手続の教示,事情の聴取,判断内容の説明方法に係る手続の充実・
改善に努めること。
その上で,退去強制事由に該当する外国人であっても,我が国への在留を
希望する理由,家族関係,本国事情等を考慮すれば,特別に我が国での在留
を認めるべき者が存在することに鑑み,一層適切な在留特別許可の活用に努
めること。
また,在留特別許可の許否判断の透明性をより一層向上させるため,上記
の活用の視点も踏まえた在留特別許可の考慮要素や基準の一層の明確化及び
これらを公にすることを検討すること。
② 退去強制令書の発付を受けた外国人について退去強制令書の発付から相当
の期間が経過した場合に,送還に関する意向や在留を希望する事情が当初と
は変化することもあり得ることに鑑み,本人の希望に応じ,当該事情に関す
る意見聴取を十分にするとともに,把握された事情等に応じた適切な情報提
供等を行うことにより,円滑な送還を妨げる事情を取り除くよう努めること。
また,退去強制令書の発付後に在留を特別に許可することが相当となるよ
うな新たな事情が生じた場合など,送還を拒むことについてやむを得ない事
情があると認められる場合は,関係部門が連携し,従前の処分の変更を含め,
適切な対応を行うものとすること。
– 23 –
● 送還忌避者の増加防止のためには,在留特別許可の判断の基準を現行の取扱
いよりも更に明確化した上で,この基準に該当しない外国人に対してはその旨
を説明して出国を促すようにすべきである。
● 送還した場合には紛争等により生命の危険があることを在留特別許可を付与
すべき事情に追加するなど,在留特別許可の範囲の拡大(弾力化)を検討すべ
きである。
● 退去強制令書を発付するか否かの判断に当たり,本人の家族状況,生活基盤
の構築の可能性等について,より適切に調査を実施すべきである。当事者が児
童である場合には,児童の権利条約や児童福祉法等の精神にのっとり,その生
存や教育等の観点にも配慮すべきである。
● 在留特別許可の許否の判断内容の説明については,口頭での説明や理由の付
記をすべきである。
他方,在留特別許可の範囲の在り方について,
● 現時点の外国人就労者の受入範囲に含まれない外国人就労者とその家族につ
いて,現状の在留特別許可の対象を拡大して,なし崩し的に受入範囲を拡大す
ることについては,国民的理解が得られない。
旨の意見も示された。
これらの意見において指摘されているとおり,退去強制手続を受ける外国人に
ついては,退去強制手続の中で行われる在留特別許可の許否の判断に際し,個々
の事情が十分に把握され,適切に考慮されている必要があり,それが退去強制手
続の適正の要請にもかなうと考えられる。
具体的には,在留特別許可の許否の判断は,個々の事案ごとに,在留を希望す
る理由,同居家族の有無や子の生育等の家族状況,素行,内外の諸情勢,人道的
な配慮の必要性,更には我が国における不法滞在者に与える影響等,諸般の事情
を総合的に勘案して行うこととされているところ,このような事情が適切に聴取
・調査される必要がある。
そのため,退去強制手続を受ける外国人は,在留特別許可を含めた手続が十分
に教示される必要がある。また,把握された事情が適切に考慮されることを担保
するためには,当該外国人が在留特別許可の許否の判断内容や理由について十分
に説明を受けられることが望ましい。
さらに,在留特別許可は,法務大臣が個々の事案ごとに諸般の事情を総合的に
考慮して決定するものであり,画一的な基準を設けることにはなじまない側面が
あるものの,法務大臣が,個々の事情を適切に把握した上で公平に判断すること
を明らかにするためには,従来の「在留特別許可に係るガイドライン」や「在留
特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例」による公表内容にとど
まることなく,在留特別許可の許否判断の透明性を向上させるとともに,その適
– 24 –
切な活用を図る観点から,更に基準を明確化し,公にすることを検討すべきであ
る。
以上を踏まえ,①のとおり提言することとした。
イ 提言②について
退去強制令書の発付後における事情把握について,本専門部会の議論において
は,次のような意見が示された。
● 退去強制令書の発付までは送還される本人の意見を聴取しつつ慎重に手続が
進められる反面,退去強制令書の発付後は,送還に関する意向や様々な事情が
変化していることがあり得るにもかかわらず,本人の意見を聴取する手続が法
的には準備されていない。被退去強制者の納得を得る上でも,自費出国許可の
申請がなく当初の処分からある程度時間が経過した場合には,複数の担当官が
改めて本人から事情を聴取し,説得を行うなどした上で,退去強制令書の執行
を進めるべきである。
● 送還先を指定して退去強制令書を執行するに際しては,送還先に関して「送
還 す る こ と が で き な い と き 」( 法 第 5 3 条 第 2 項 ) に 該 当 し て い な い か ど う か
について,本人からの意見聴取を踏まえてリスク評価を行い,送還がノン・ル
フールマンの原則に違反せず可能であるかを確認する機会を設け,送還するこ
とができないときは,法第52条第6項の特別放免を活用するなどすべきであ
る。
入管当局においては,従来から,入国警備官が被退去強制者と随時面接をし,
心情の把握や帰国に向けた説得を行っているが,上記意見を踏まえるならば,退
去強制令書の発付から相当の期間が経過した場合においては,送還に関する意向
や在留を希望する事情等が当初とは変化している可能性があることも視野に,十
分な事情の聴取に努めることが有用であると考えられる。
その上で,例えば,送還を拒む理由が我が国の出入国在留管理制度や本国の情
勢の誤解に起因する場合など,正確な情報の提供が送還の促進に資すると考えら
れる場合には,把握された事情等に応じた適切な情報提供等を行うことにより,
円滑な送還の妨げとなる事由を取り除くよう努めるべきであると考えられる。
他方,退去強制令書の発付から相当の期間が経過した後の事情聴取等において,
在留を特別に許可することが相当となるような新たな事情等,送還を拒むことが
やむを得ない事情があると認められた場合には,その事情に応じ,関係部門が連
携し,従前の処分を変更することを含め,適切な対応を執ることが必要となる場
合もあると考えられる。
以上を踏まえ,②のとおり提言することとした。
ウ その他
一部の委員から,在留を希望する者について在留特別許可の手続を明確化し,
– 25 –
直ちに帰国を希望する者の手続を簡素化するとともに,難民認定申請者にあって
も在留特別許可の手続による処理を可能とすることを検討すべきである旨の意見
が示された。
他方,別の委員からは,庇護を求める意思なく難民の認定を申請した制度の目
的外利用者に対しては,在留特別許可を付与すべきではないとの意見も示された。
これらの意見に関しては,提言①及び②に基づく方策の検討に際し,併せて検
討されるものと考えられる。
– 26 –
⑵ 退去強制令書の発付を受けた者に対する自発的な出国を促すために考えられる運
用上又は法整備上の措置
【提言】
【検討】
ア 提言①について
本専門部会では,送還を促進するための措置の在り方としては,義務付けや強
制を伴う措置の検討に先立ち,まずは,被退去強制者の意思に基づく自発的な出
国を促すための運用上又は法整備上の措置について十分に検討すべきであるとの
意見が多く示された。
このような自発的な出国を促すための措置を講ずる前提として,退去強制令書
の発付を受けた者の意向を適切に確認することが必要であるところ,本専門部会
の議論においては,次のような意見が示された。
● 現行の退去強制令書は,入国審査官が入国警備官に対し,退去強制令書の執
行を命令するという性格のものであり,外国人本人に退去する義務を課するも
のではなく,当該外国人に対し本邦から退去を強制されるべき立場であること
① 退去強制令書の発付を受けた者の自発的な出国を促すため,退去強制令書
が発付された外国人に,難民条約上の難民である場合等を除き,我が国に在
留することができない立場であることが行政手続上は確定したことを認識・
理解させていることを前提に,当該外国人から,出国・退去までの予定・段
取り,難民認定申請や訴訟提起の意向の有無,当該意向がある場合には,可
能な範囲でその基礎となる具体的事情等を確認することで円滑な手続の進行
に資する仕組みを検討すること。特に後記⑶の命令制度を創設する場合,命
令を発するか否かの判断に当たり,当該確認の結果等を活用すること。
② 退去強制令書の発付を受けた者の早期の自発的な出国を促すため,その者
が早期の出国に応じる場合において,その者の過去の在留状況,家族関係等
を考慮し,次回の入国に際し,現行の上陸拒否期間にかかわらず,早期の上
陸・在留を可能とする仕組みを制度化することについて,法整備を含め所要
の検討をすること。
なお,当該制度において,その者の技能・技術や日本語能力等を踏まえて
就労のための在留資格を付与することの可否も検討すること。
③ IOM(国際移住機関)が実施している自主的帰国・社会復帰支援プログ
ラムその他の支援プログラムをより一層有効に活用することにより,自主的
帰国者の増加に努めること。
– 27 –
を十分に理解・認識させる手続が不十分である。退去強制処分を受けた外国人
に対しては,本邦から退去を強制されるべき立場であることの判断が行政手続
上は確定し,在留の継続を認めるか否かの判断を求めることができる行政上の
手続は終了していることを認識・理解させることが重要である。その上で,在
留の継続を必要とする事情がある等の理由で出国を希望しないとする者につい
ては,難民認定申請や退去強制令書の発付に対する行政訴訟の提起が可能であ
ること等を当該外国人が述べる事情に応じて教示し,その意向の有無等を確認
することとすべきである。そして,出入国在留管理庁において,退去の実現ま
での全体像を早期に把握することができるようにした上,そのような外国人の
事情を踏まえ,退去強制令書の発付とは別に,当該外国人に対し,罰則を伴う
退去義務を課することができる後記⑶の退去命令制度を創設すべきである。
● 外国人の出国等に関する意向を確認する際は,我が国への在留を求める訴訟
の提起の意向の有無のみならず,民事・家事・労働等に関する訴訟の提起や調
停その他の手続をとる意向の有無も確認すべきである。
● 後記⑶の命令制度を創設した場合,命令を発するか否かの判断の際には,難
民不認定処分に対する審査請求の棄却後であっても裁判を受ける権利があるこ
とに留意するほか,未成年者の最善の利益等にも十分配意すべきである。
このような意見を踏まえ,退去強制令書の発付後,被退去強制者の法的地位を
適切に説明した上で,出国等に関する意向を確認することが,自発的な出国を促
すにせよ,当該外国人が述べる事情を踏まえた対応をするにせよ,以降の円滑な
進行に資すると考えられる(もっとも,入管職員が,入管関係訴訟以外の民事・
家事・労働等に関する訴訟等に関する知見を有するものではないことに留意する
必要がある。)。
このことから,①のとおり提言することとした。
また,このような確認措置に関しては,難民認定申請や訴訟提起の意向の有無
等を確認する手続を導入するとすれば,難民認定申請手続や訴訟提起手続の濫用
のおそれに対応するための防止策についても検討しておく必要がある旨の意見も
示されており,具体的な制度設計においては,こうした意見にも十分に留意すべ
きであることを付言する。
イ 提言②について
現在の入管実務においては,送還忌避者の自発的な出国を促すための方策の一
つとして,日本人の配偶者等一部の被退去強制者に対し,その在留状況等を考慮
して相当と認める場合において,その者が一旦自発的に出国することに応じると
きは,当該出国後の再度の上陸に際し,上陸拒否の特例の規定(法第5条の2)
を適用し,出国後1年が経過した時点以降再び上陸を認める運用を実施している。
このような運用に関し,委員から,犯罪歴がなく,一定の技能・日本語能力を
– 28 –
有している者に対して「特定技能」等の在留資格に係る受験資格を与え,合格し
た者について,自費出国後,就労資格等により通常の上陸拒否期間より短期間で
再度入国が可能であることを伝えて帰国を促す運用を提案する意見が示された。
出入国在留管理庁においては,入管実務上,日本人の配偶者など一部の被退去
強制者に対して,適法に退去強制令書が発付されていることに鑑み,なし崩し的
に在留特別許可を付与して在留を適法化するのではなく,法令にのっとって一旦
違法な在留を解消させるため,自費出国を促すこととしつつ,一旦自発的に出国
した後,こうした上陸拒否の特例を適用して,通常の上陸拒否期間よりも短期間
で再度の上陸及び在留を認める取扱いをしているところ,家族との同居や就労活
動を理由に本邦への在留を希望し送還を忌避している者にとって,通常の上陸拒
否期間より短期間で本邦に再度入国できることは,自発的に送還に応じることの
インセンティブになり,有効な方策と考えられる。
現 在 の 取 扱 い に お い て は , 日 本 人 の 配 偶 者 等 が 主 な 対 象 と さ れ て い る が ,「 特
定技能」の在留資格に該当し得る者等,一定の技能・技術や日本語能力等を有し,
我が国の政策上も受入れを推進している外国人にも対象を拡大することにより,
自発的出国に応じる者が増加することも期待できるところである。こうした観点
から,このような運用に際し,独立の生計を営むに足りる技能等を有するか否か
も考慮の対象に加えるといった方策を検討することは有用であると考えられる。
また,委員からの意見において指摘されたところであるが,このような運用の
実効性を向上させるためには,法整備を含め,この運用を明確な制度として定め
ることが有効であると考えられる。
以上を踏まえ,②のとおり提言することとした。
ウ 提言③について
前記第2の1⑴ア(イ)で述べたとおり,IOMが実施している自主的帰国・
社会復帰支援プログラムによる帰国が行われているところ,本専門部会において
は,前記第2の2⑵のとおり,同プログラムの実情についてIOM駐日事務所代
表からヒアリングを実施した。
このヒアリングを受けて,委員の多くから,退去強制令書の発付を受けた者の
自主的な帰国を円滑にするため,同プログラムから得られる知見等を採り入れつ
つ,これをより一層有効に活用することが重要であるとの意見が示されたほか,
その他の支援プログラムの活用や創設を図るべきであるとの意見も示された。
もっとも,新規のプログラムの創設については,財政的な裏付けや既存のプロ
グラムとの関係が問題となるため,なお検討が必要である。
以上を踏まえ,③のとおり提言することとした。
– 29 –
⑶ 退去強制令書が発付されたものの本邦から退去しない行為に対する罰則の創設
【提言】
【検討】
現行の退去強制制度においては,入国警備官は退去強制令書を執行するときは速
やかに被退去強制者を送還先に送還しなければならないこととされているが(法第
5 2 条 第 3 項 ), 被 退 去 強 制 者 に 直 接 退 去 を 義 務 付 け る 規定 や 退 去 に応 じ な い 場 合
に制裁を科する規定はない。このような現行制度の在り方について,退去強制処分
の実効性を高めるため,正当な理由なく送還を拒む被退去強制者に対し,送還に必
要な渡航文書の発給申請や,一定の期日までの出国を義務付ける命令を発し得るも
のとした上で,命令違反については罰則を設けることが相当である旨の意見が複数
の委員から述べられた。
これに対し,反対意見として,そもそもそのような制度の必要性を根拠付ける立
法事実が不十分である上,被退去強制者が本邦から退去することが困難である事情
は様々であるから,そのような外国人の事情に応じてこうした命令や罰則の適用範
囲を的確に設定することは困難であるなどとして,こうした命令や罰則は設けるべ
きではないとの意見が一部の委員から示された。
議論・検討の具体的な内容は,次のとおりである。
退去強制令書の発付を受けた者を直ちに本邦外に送還することができない場
合において,前記⑵①による確認の内容等を踏まえ,送還を控えるべき事情の
ないときには,当該被退去強制者に対し,㋐渡航文書の発給の申請等の一定の
行為を行うよう命ずることや,㋑一定の期日までに退去するよう命ずることに
より渡航文書の発給申請等や退去を義務付ける制度を創設するとともに,これ
らの義務の履行を確保するため,命令違反に対し罰則を定めることを検討する
こと。
このような命令制度の創設を検討するに当たっては,送還を停止すべき難民
認定申請者に義務が課されたり,罰則が科されたりすることがないことを明確
に規定するほか,命令の対象が,被退去強制者一般ではなく,退去させるに当
たり,罰則による間接強制を伴う退去義務を課することが真に必要となる者に
限定されるようにするため,前記⑵①の確認を含め,命令発出の判断において,
その者が送還を拒んでいる事情を適切に考慮するための手続や仕組みを工夫す
ること。
※ なお,一部の委員から,このような命令や罰則を創設すべきではない旨の
反対意見が述べられた。
– 30 –
ア 提言中㋐(渡航文書の発給の申請等の一定の行為を行うよう命ずる制度)につ
いて
送還忌避者の国費送還の障害となっている主な事由の一つとして,国費送還の
実施に当たっても渡航文書が必要となるが,現状,送還忌避者について,駐日大
使館・領事館が臨時旅券の職権発給に応じない国があるため,送還が著しく困難
となる例がある(前記第2の1⑴イ(イ)①参照)。
その上で,この問題を解消する方法として,諸外国には,出国に必要な渡航文
書等の申請を故意に行わなかった者に対する罰則が設けられている例が複数存在
すること等から,被退去強制者に対し,渡航文書等の申請を命令し,命令違反に
刑罰を科する制度を創設すべきである旨の意見が示された。
このような意見に対しては,当該制度の創設に反対する立場から,
● 国籍国等への渡航文書の申請のためには,駐日大使館・領事館に出頭するこ
とが必要となる場合があることから,そもそも収容中の者は申請ができず,ま
た,実務上,渡航文書の申請のための仮放免は認められないことが多い。
● 難民認定手続中の者に対しては,迫害の危険性がある出身国に渡航文書等の
申請を行うよう命ずることは相当ではない。
などの反対意見も示された。
上記反対意見に関し,出入国在留管理庁からは,現状として,被収容者が渡航
文書等の申請をする場合,基本的には,入管収容施設の職員が申請を取り次いで
いるほか,駐日大使館・領事館の職員が当該外国人本人と面会する必要がある場
合には,同職員が入管収容施設において当該外国人と面会しており,現時点にお
いて,渡航文書等の申請をするに当たり,駐日大使館・領事館への当該外国人本
人の出頭を求める国はない旨の説明がされた。
このように,収容中であっても渡航文書等の申請は可能であるが,一部の委員
において,当該制度を創設すべきではない旨の反対意見が維持されたことから,
そのような少数意見があったことを明記しつつ,渡航文書等の申請命令や罰則を
創設すべきことを提言することとした。
もっとも,こうした命令や罰則を創設する場合であっても,上記反対意見のう
ち,迫害の危険性がある出身国への申請を行うよう命ずることへの懸念について
は理由があると考えられることから,そのような懸念が現実化することのないよ
う,対象が適切に限定される制度とするほか,命令の対象を適切に判断する仕組
み等を工夫することも併せて提言することとしたものである。
イ 提言中㋑(一定の期日までに退去するよう命ずる制度)について
送還忌避者の国費送還の障害となっているその他の主な事由として,現状,送
還忌避者については,その受入れに応じない国が存在するほか,被退去強制者が
送還時に搭乗する定期就航便の機内で大声を出すなどの迷惑行為に及び,機長の
– 31 –
判断により搭乗を拒否されるなどして送還の実現が不可能になる者が一定数存在
することが挙げられる(前記第2の1⑴イ(イ)①及び④参照)。
その上で,この問題を解消する方法として,前記⑵の退去強制令書の発付を受
けた者に対する自発的な出国を促すための措置と併せて,退去強制令書が発付さ
れたものの本邦から退去しない者に対する罰則を定めるべきである旨の意見が示
された。
その主な理由としては,
● 本邦から退去すべき状態にあるものの,頑なに退去しない者をそのまま放置
しなければならないというのは不合理であるから,被退去強制者については,
本邦にとどまることが本人の利益にならないと認識させる負のインセンティブ
として,罰則の創設が検討されるべきである。
● 現行法上,退去しない者に対する罰則が規定されていないのは,制定当時,
被退去強制者が送還に応じないという事態が想定されていなかったからである
と思われるが,そもそも退去強制手続を実現できない場合にその実効性を担保
する手段は制度に組み込まれているべきであって,元々の制度設計における欠
陥であるとも考えられる。
といった点が挙げられた。
また,罰則の在り方に関しては,
● 退去しない場合に一律に罰則が科されるような仕組みはやや乱暴であること
から,当該外国人を名宛人とする命令制度を創設し,当該外国人に対し,本邦
からの退去を命ずることができることとし,それに応じない場合は罰則を科す
るということが考えられる。
旨の意見が示された。
これらの意見に対しては,罰則の創設に反対する立場から,次のような反対意
見が示された。
● 平成28年から平成30年までの間に終了した出入国在留管理関係訴訟(退
去強制手続関係取消請求・無効確認,難民認定手続関係取消請求・無効確認等)
のうち,国の敗訴が確定した判決は,平成28年が8件,平成29年が6件,
平 成 3 0 年 が 1 2 件 あ り ( 令 和 元 年 1 1 月 2 5 日 第 3 回 会 合 に お け る 資 料 5
(「 参 考 資 料 ( 論 点 1 関 係 )」) 参 照 ), 罰 則 の 創 設 は 裁 判 を 受 け る 権 利 を 制 約
する可能性が危惧される。
● 送還を妨害する行為を罰則の対象とすることについては,公務執行妨害罪等
の他の犯罪類型に該当することから,罰則を創設する必要はない。
● 刑罰を科しても,刑務所と入管収容施設を行き来する状況を作り出すに過ぎ
ず,刑罰の実効性があるとは考えられない。
● 本人の意思に反する退去であるとして渡航文書を発給しない国は現在1か国
– 32 –
しかなく,立法事実が不明である。
● 難民認定申請者のみならず,送還が事実上困難な無国籍者,法第53条第3
項に規定される者,在留特別許可に関する訴訟・難民認定を求める訴訟(審査
請求に対する裁決後に提起したものを含み,難民不認定処分取消訴訟,難民認
定 義 務 付 け 訴 訟 等 を 含 む 。) 等 を 提 起 中 の 者 , 民 事 ・ 家 事 ・ 労 働 等 の 調 停 中 の
者,それらの訴訟提起の準備中の者,再審情願(注)中の者,未成年者,労災
等 の 法 的 手 続 中 又 は 準 備 中 の 者 等 は 命 令 の 対 象 者 か ら 除 外 さ れ る べ き で あ る
が,入管においてこれらの事実を全て把握して判断することは困難である。ま
た,これらを構成要件として明示することは困難であり,罪刑法定主義の観点
か ら も 問 題 が 大 き い 。「 正 当 な 理 由 な く 」 な ど の 抽 象 的 な 構 成 要 件 と す る と ,
正当な理由があるか否か,すなわち保護すべき難民か否かなどを二次的には警
察官や検察官が判断し,最終的には刑事裁判官が判断することとなるが,実際
上そのような判断は困難である。
● 罰則を創設すれば,上記の訴訟や再審情願等の手続を代理し,又は準備して
いる弁護士や行政書士,食糧を提供し,又は賃貸借で部屋を提供するなどした
支援者,家族等が共犯とされるおそれがあり,弁護士等の活動を著しく萎縮さ
せ,狭めることとなる。
(注)退去強制令書の発付を受けた外国人が,当該処分後の事情変更等を理由
に,当該処分を撤回し,在留特別許可を付与することを求める事実上の行
為が「再審情願」と称されることがあるが,これは,入管法に規定される
法令上の手続ではない。
これに対しては,次のような反論がなされた。
● 送還を妨害する行為をした者に公務執行妨害罪を適用できる事例はほとんど
想定されないと考えられることに加え,業務妨害罪の適用も,同罪の解釈との
関係から困難である。
● 刑務所と入管収容施設とでは,刑務所の方がはるかに規律が厳しく,罰則に
よる効果が乏しいとの指摘は当たらない。
● 自国籍者の受入れを拒否する国が1か国でも存在し,それにより収容の実務
に無視できない負担が生じていることに加え,そのような国以外の国において
も自国籍者の受入れを拒否するようになる可能性も否定できない以上,相手国
側の態度のいかんにかかわらず,退去させるべき外国人の退去を完遂するため,
当該外国人に対し,本邦からの退去を命ずる制度を創設する必要がある。
● 現行の入管法でも,特別放免された者や仮滞在の許可を受けた者が「正当な
理由」がなくて呼出しに応じない場合を処罰することとしている。
● 弁護士等による正当な活動が犯罪とされることはないし,違法な活動であれ
ば犯罪とされるのは当然である。弁護士等の活動を著しく萎縮させるというの
– 33 –
は杞憂である。
このように,相当数の委員から罰則の創設を支持する意見が述べられる一方,
一 部 の 委 員 か ら こ れ に 強 く 反 対 す る 意 見 も 述 べ ら れ た と い う 議 論 の 状 況 を 踏 ま
え,このような反対意見があったことを明記しつつ,こうした命令や罰則の創設
を検討することを提言することとした。
また,被退去強制者が本邦から退去することが困難である事情は様々であり,
一定期間の経過後に一律に罰則が適用されるような制度は適当ではなく,退去さ
せるに当たっては,罰則による間接強制を伴う退去義務を課することが真に必要
となる者のみが命令の対象となるような制度とすべきである旨の指摘や,退去強
制処分が訴訟で覆される事例もある旨の指摘もあったことを踏まえ,渡航文書等
の申請命令制度と同様に,対象が適切に限定される制度とするほか,退去の命令
の対象を適切に判断する仕組み等を工夫することも併せて提言することとしたも
のである。
さらに,外国人に本邦から退去することを義務付け,その義務に違反した場合
の罰則を設けるのであれば,手続の適正が確保される必要がある旨の意見が示さ
れたことを付言する。
なお,被退去強制者に対し退去を命ずる制度を創設した場合の履行確保の手段
として,罰則のほか,執行罰(注)を科することを検討すべきである旨の意見が
示された。
このような意見の根拠としては,行政上の義務の履行確保の手段としては,罰
則を創設することも考えられるが,検討の順序としては,まずは行政手続上の手
段が先行するはずであるという旨の指摘があった。
執行罰を科することを検討すべきである旨の意見に対しては,執行罰は違反者
に対する制裁として過料しかなく,抑止効果に疑問があること,義務が履行され
るまで繰り返し科することができる一方で,裁判所の関与もなく,行政機関の判
断で繰り返し科することには疑問があること,現行法上,砂防法第36条に一例
が存するのみであることから,義務の履行確保の手段としては刑事罰が相当であ
る旨の意見が大勢を占めた。
(注)執行罰とは,義務の不履行に対して,一定額の過料を科することを通告し
て間接的に義務の履行を促し,なお義務を履行しないときに,これを強制的
に徴収する義務履行確保の制度である(塩野宏「行政法Ⅰ〔第六版〕行政法
総論」262ページ)。
– 34 –
⑷ 庇護を要する者を適切に保護しつつ,送還の回避を目的とする難民認定申請に対
処するための運用上又は法整備上の措置
【提言】
【検討】
ア 提言①について
現状,難民認定手続中の送還停止効の規定(法第61条の2の6第3項)によ
り,難民認定申請がなされると難民認定手続終了までの間は,申請の理由や回数
を問わず一律に,送還が停止される。出入国在留管理庁の説明によれば,複数回
申請には,従前の不認定処分の判断に影響を及ぼすような新たな事情がないにも
かかわらず,申請を繰り返している者も多く見られることから,送還忌避者の中
には,この送還停止効に着目し,送還を回避するための一つの手段として難民認
定 申 請 を 行 う 者 が 相 当 数 存 在 し て い る こ と が う か が わ れ る ( 前 記 第 2 の 1 ⑴ イ
(イ)②参照)。
① 後記③の庇護を要する者を適切に保護しつつ,難民条約第33条等の規定
に反映されているノン・ルフールマン原則の遵守を前提として,送還停止効
に一定の例外を設けること。例えば,従前の難民不認定処分の基礎とされた
判断に影響を及ぼすような事情のない再度の難民認定申請者について,速や
かな送還を可能とするような方策を検討すること。
② 再度の難民認定申請については,前記①に記載した事情の有無について的
確かつ迅速に判断すべく,事案の内容に即した審査手続の合理化・効率化を
検討すること。
なお,審査手続の合理化・効率化の検討に当たっても,適正手続を保障す
る観点から,行政庁の判断の適正性について第三者によるチェックが機能す
るよう留意すること。また,初回申請の面接では,申請者が自らの全ての事
情を当初から述べることが難しいこともあり得ることを考慮して事情聴取す
るなど,申請者の置かれた立場に十分に配慮すること。
③ 前記①及び②の施策の実施に際しては,庇護を要する者が確実に保護され
るよう,国際的な動向に留意しつつ,難民該当性に係る認定基準を明確化し
てこれを公にすることや難民条約上の難民とは認められないものの国際的に
保護の必要がある者に対して在留許可を付与するための新たな枠組みを創設
することなど,平成26年12月第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制
度に関する専門部会における「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討
結果(報告)」の提言を踏まえた施策を併せて実施すること。
– 35 –
この点に関し,難民審査参与員として数多くの審理経験を有する委員からは,
難民不認定処分に対する不服申立てにおいて口頭意見陳述(インタビュー)を実
施した不服申立人のうち,審理の結果,難民認定又は人道配慮される者はごく僅
かであること,申請者間で事前に情報を交換し,同じ内容の申請書を提出する例
が多く見られることなど,不服申立ての実情が紹介された。
この問題を解消する方法として,委員から,次のような意見が示された。
● 難民認定申請がなされればどのような外国人でも送還が停止されるため,こ
の仕組みが濫用されている。保護を要する人とそうでない人を区別し,後者に
ついては送還停止効を認めない,あるいは難民認定申請は受け付けるが通常よ
りも簡単に処理することができる仕組みを設けるべきである。
● 専ら送還の回避を目的とする難民認定申請については,申請権の濫用と一事
不再理の2つの観点から対応策を検討すべきである。難民認定手続が終了し,
難民不認定処分が確定した後は,相応の期間を経過した後に前回とは異なる新
たな迫害事情に基づき申請した場合を除き,原則として送還停止効を生じない
ものとすべきである。また,厳密な意味における一事不再理の導入は困難であ
るとしても,前回処分の基礎となった事実認定は,これを覆すに足りる新たな
証拠の存在が事後的に判明し,当該証拠を提出して再申請が行われた場合を除
き,再申請に係る判断においても一定の拘束力を有することとすべきである。
● 退去強制令書発付後の被収容者及び仮放免の許可を受けた者に占める難民認
定申請者の割合が高い現状を踏まえると,これらの申請の迅速処理,とりわけ
複数回申請の在り方について検討する必要があり,処理期間を短くする方策を
講じる必要があるとともに,制限なく申請を繰り返すことができることの妥当
性についても検討を要する。ただし,難民認定手続のより一層の適正化の検討
に際し,例外的に送還停止効を認めないとする方策のみに頼るのはノン・ルフ
ールマン原則に反するおそれもあるため,運用面において,判断のポイントや
判断のプロセス等,総合的に方策を検討する必要がある。その上で,諸外国の
法制度も参考としつつ,例えば,複数回申請について,一定の条件の下,送還
停止効の例外を設ける法整備上の措置について検討することが適切である。
● 送還停止効に例外を設けるのであれば,初回の難民認定申請の手続が適正で
あることを前提とすべきである。
● 再度の難民認定申請者の送還停止効の例外については,難民認定率が国際水
準と乖離し,難民認定の質的向上が図られている途中で難民認定に疑義が呈さ
れている現在,明らかに難民条約上の迫害事由に該当しない等庇護を必要とす
る事情がない場合を除き,時期尚早である。
● 送還停止効の例外を設けるとしても,その対象を慎重かつ明確に定める必要
が あ り ,「 従 前 の 不 認 定 処 分 の 基 礎 と さ れ た 判 断 に 影 響 を 及 ぼ す よ う な 事 情 」
– 36 –
の有無についても判断基準を明確にすべきである。また,送還停止効の例外と
された者が難民条約や拷問等禁止条約等のノン・ルフールマン原則に違反して
送還されることのないよう,同原則の趣旨に反しないような手続保障が必要で
あり,送還停止効の例外とされた者に司法審査の機会や弁護士へのアクセス等
を確保すべきである。
難民認定申請の回数に制限がない以上,難民認定申請を行うことによる送還の
回避を許容し続ければ,迅速な送還の大きな障害となるだけでなく,送還忌避者
の長期収容問題の解決も困難となることから,送還停止効に一定の例外を設ける
必要性は大きいと考えられる。
他方,我が国として庇護すべき者を適切に保護すべきことは当然であり,また,
送還においては,難民条約第33条等の規定に反映されているノン・ルフールマ
ン原則を遵守することが不可欠であることから,送還停止効に例外を設けること
を検討するに当たっては,この点に十分配慮すべきである。
以上を踏まえ,①のとおり提言することとした。
イ 提言②について
令和元年12月末時点において,送還忌避被収容者649人のうち約60パー
セントが難民認定申請中であり,そのうち約58パーセントが複数回申請者(最
多5回)である。また,送還忌避被収容者の3倍を超える2217人の被退令仮
放免者のうち,約64パーセントの者が難民認定手続中であり,そのうち約69
パーセントが複数回申請者(最多6回)である(前記第2の1⑴イ(イ)②及び
⑵エ(イ)参照)。
このような現状も踏まえ,委員から,難民認定申請の迅速処理のための方策に
ついても検討すべきであるとして,次のような意見が示された。
● 専ら送還の回避を目的として難民認定申請を行う者が存在する原因は難民認
定申請を行った場合に一律に送還が停止されることにあるとしても,その効果
を大きなものとしているのは,難民認定手続に長時間を要することにあると考
えられる。難民認定手続の過程において特に時間を要するのは事実認定とその
調査であることから,難民認定手続の迅速化を実現するためには,複数回申請
の場合は特に,新たな事情や新たな証拠の有無等の事案の内容に応じて,事実
の調査等を行わないか又は一定の範囲に限定するなどの合理化が必要不可欠で
ある。
● 現在行われている振分けによる迅速手続の運用上の措置の改善(難民条約上
の迫害事由に明らかに該当しない事情を主張している案件(B案件)のみなら
ず,再申請である場合に,正当な理由なく前回と同様の主張を繰り返している
案件(C案件)の迅速処理の加速化等)に加えて,法整備上の措置として,実
体審査の前に申請の許容性審査を導入すること,具体的には,現在運用上展開
– 37 –
している案件の振分け等を更に発展させた形で制度化することも検討すべきで
ある。併せて,現行の難民認定制度においては,難民として認められない場合
でも人道配慮を理由に在留を許可する判断を同時に行っていることも勘案し,
上記の法整備上の措置を検討する際には,ノン・ルフールマン原則の遵守のた
め,保護対象の明確化及び迅速処理についても一括して法整備の対象とすべき
で あ る 。 こ れ ら の 方 策 を 検 討 す る に 当 た っ て は ,「 国 際 的 保 護 の 付 与 ・ 撤 回 の
ための共通手続に関する2013年6月26日付けの欧州議会・理事会指令」
(EU手続指令)等の諸外国における法制度も参考にすべきである。
● 再度の難民認定申請の迅速処理や審査手続の合理化については,第三者を加
えた仕組みを構築することや,従前の判断に影響を及ぼす事情の有無に係る判
断の適正性について調査するため,第三者から成るモニタリング機関を設置す
ることなど,第三者による行政判断のチェック機能の構築を検討すべきである。
● 迅速処理の方策を検討するに当たっては,後発的な婚姻等,難民性以外の理
由に基づく人道配慮を求める案件について,在留特別許可の許否判断を難民認
定手続ではなく退去強制手続の中で行うこととするなど,難民認定手続の見直
しを検討すべきである。
● 令和元年9月末時点での難民認定申請(一次審査)及び審査請求(不服申立
て)の未処理数の合計が約3万件に及んでいることを踏まえ,これらの未処理
案件の迅速処理のための一時的な人的体制の強化を含め,難民認定申請の処理
促進に必要な人員の増員や予算の確保が必要である。
● 難民認定手続の一層の適正化や迅速化に向けて,人材の確保や手続のデジタ
ル化等の効率的な事務処理に資する方策を導入すべきである。
送還の回避を目的として難民認定申請を行う送還忌避者が相当数存在している
背景には,送還が停止される難民認定手続に長期間を要していることが挙げられ
ることから,例えば,再度の難民認定申請において,従前の処分の基礎とされた
判 断 に 影 響 を 及 ぼ す よ う な 事 情 の 有 無 を 的 確 ・ 迅 速 に 判 断 で き る よ う に す る な
ど,審査手続の合理化・効率化について検討する必要がある。
他方,審査手続の合理化・効率化に当たっては,委員から,初回申請において
迫害を受けるおそれに係る供述を十分に引き出し切れていない場合もあるのでは
ないかという懸念が示されたことから,この点に十分配慮すべきである。
以上を踏まえ,②のとおり提言することとした。
ウ 提言③について
本専門部会は,送還忌避者の収容・送還に関する問題を解決するため,今後,
入管当局が採るべき具体的な方策について議論すべく設置されたところ,送還の
回避を目的とする難民認定申請に関連し,難民認定制度それ自体の議論にどの程
度踏み込むべきか等も議論されたものの,難民認定制度それ自体の議論について
– 38 –
本専門部会で議論することは不相当であるとの意見が大勢を占めた。もっとも,
難民認定手続の是非の問題と難民認定申請の目的外利用の問題は別個の問題であ
るところ,前者は本専門部会の範囲ではないが,後者については難民認定申請の
目的外利用があることは事実であり,それが送還に支障を及ぼすのであれば本専
門部会で検討すべき問題であるとの意見も示された。
他方で,送還の回避を目的とする難民認定申請に対処するためには,まず庇護
を要する者を適切に保護すべきという観点から,我が国の難民認定率は諸外国に
比べて低く,大きな乖離が見られるところ,その原因について十分に検証する必
要があり,その上で難民認定基準の明確化など,難民認定手続の質の向上を図る
ことが望ましいことから,本専門部会とは別に難民認定制度に関する議論の場を
設けるべきであるとの意見が示された。これに対して,新たな議論の場を設ける
ことは送還忌避者の増加と収容の長期化という喫緊の課題の解決に更に年月を要
することとなって不相当であることから,新たな専門部会を設置するのではなく,
第6次出入国管理政策懇談会の下に設置されていた「難民認定制度に関する専門
部会」からの提言を踏まえた施策の着実な実施を求めることとすべきとの意見も
示された。
そ の ほ か ,「 出 入 国 管 理 及 び 難 民 認 定 法 に 定 め る 諸 手 続 に 携 わ る 際 の 運 用 や 解
釈に当たっては,難民関連の諸条約に関する国連難民高等弁務官事務所の解釈や
勧告等を十分尊重する」旨の出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案
に対する附帯決議(平成16年4月15日参議院法務委員会)を尊重して法律上
の解釈規定を整備すべきである旨の意見,難民該当性に係る認定基準を明確化し
て公表すべきである旨の意見も示された。
難民認定制度については,上記の「難民認定制度に関する専門部会」において
既 に 十 分 に 議 論 さ れ た 上 , 平 成 2 6 年 1 2 月 に 提 言 (「 難 民 認 定 制 度 の 見 直 し の
方 向 性に 関 す る検 討 結果 (報 告)」。 以下 「平 成2 6 年提 言」 とい う。) が取 り ま
とめられたところ,平成26年提言では,例えば次のような事項が提言されてい
る。
○ いわゆる「新しい形態の迫害」の申立てについては,的確な条約解釈により
保護を図っていくべきである。
○ 難民条約上の難民に該当しないと考えられた場合であっても,我が国として
国際的に保護の必要がある者に対しては,国際人権法上の規範に照らしつつ,
我が国の入管法体系の中で待避機会としての在留許可を付与するための新たな
枠組みを設けることにより,保護対象を明確化すべきである。
○ 親を伴わない未成年者,身体的障がい,精神的障がい又は重篤な疾病を抱え
る者等,特別の配慮を要する状況下にある申請者については,その者の状況に
応じた取扱いについて特に留意するとともに,これら事案については,優先的
– 39 –
に事案処理を行うなど,特別の配慮を行うことを明確化すべきである。
○ 難民該当性に関する判断の規範的要素を,可能な限り一般化・明確化するこ
とを追求すべきである。
上記のとおり,難民認定制度については既に上記専門部会から提言がなされて
いることに鑑みれば,改めて同様の議論を繰り返す必要性は認められないものの,
提言①及び②の施策を実施するに当たっては,庇護を要する者が確実に保護され
るよう,平成26年提言を踏まえた施策を併せて実施することが求められる。
以上を踏まえ,③のとおり提言することとした。
– 40 –
⑸ その他送還を促進し,又は送還が困難な者に適切に対処するための措置
【提言】
【検討】
ア 提言①について
入管当局においては,個別送還や集団送還により送還忌避者の速やかな送還に
努めており,前記第2の1⑴ア(ウ)で述べたとおり,その件数も増加傾向にあ
るものの,国費送還に係る人員や予算には限りがある。
これに関し,委員からは,現在の退去強制自体の実効性を高めて迅速な送還を
実現するため,送還に従事する入国警備官の増員や人材の育成,関係機関との連
携,入管当局において利用可能な送還用機材の確保などの人的・物的体制の整備
に努めるべきであるとの意見があった。
また,ヒアリングを実施した送還担当の入国警備官からは,前記第2の2⑷の
とおり,送還業務については現在の体制では十分とは言えず,送還促進のための
体制整備等を望むとの要望が述べられた。
本報告書の提言を踏まえた新たな制度・運用がなされるとしても,送還忌避行
為に対処するための最も重要な手段が国費送還による退去の強制であることには
変わりはなく,上記意見等を踏まえ,迅速な送還を実施するための人的・物的体
制の整備に引き続き努めるべきであると考えられることから,①のとおり提言す
ることとした。
イ 提言②について
前記第2の1⑴イ(イ)①で述べたとおり,送還忌避者問題の大きな要因とし
て,国費送還の受入れに応じない国や,臨時旅券の迅速な職権発給に応じない国
が少数ながら存在することが挙げられる。
これに関し,委員からは,そのような国との間で,送還に関する協定を締結し,
又は外交交渉において送還忌避者問題を積極的に提起するなどの外交的な取組を
進めるべきであるとの意見があった。
入管当局においては,従来から,外務当局と連携の上,こうした国の駐日大使
館・領事館や本国政府に対し,送還への協力を働き掛けるなどの外交的な取組を
行ってきたところ,送還促進のためには,こうした外交的な取組を一層進める必
① 迅速な送還を実現するため,人的・物的体制の整備に引き続き努めること。
② 本人の意思に反する送還の受入れを拒否する国との間では,送還に向けた
外交的な取組を一層進めること。
③ 送還忌避者や各送還先国に関する情報の集積・分析により,国費送還の対
象者の選定をより効果的・効率的に行うこと。
– 41 –
要がある。
また,諸外国には,二国間又は多国間で送還協定を結ぶことにより相互に被退
去強制者の送還を促進している例もあるとのことであり,我が国においても,こ
うした諸外国の例をも参考に,送還先国の協力を確保するための効果的な方策を
更に検討すべきである。
以上を踏まえ,②のとおり提言することとした。
ウ 提言③について
このほか,送還促進のための手法として,情報的な手法,すなわち被退去強制
者や送還先国等に関する様々な情報を把握した上で,そのような情報を集積,分
析及び活用することが,被退去強制者の増加や送還忌避者数の減少にも資すると
考えられることから,そのような手法を検討すべきであるとの意見があった。
提言①に関して述べたとおり,国費送還を実施するための人員や予算等には限
りがあるところであり,送還促進のためには,上記の意見にあるように,送還忌
避者や送還先国等に関する情報を出入国在留管理庁において適切な形で集積・分
析した上で,これに基づいて国費送還の対象者や優先順位をより効果的・効率的
に選定することが有益であると考えられる。
以上を踏まえ,③のとおり提言することとした。
– 42 –
2 収容の在り方
⑴ 収容期間の上限,収容についての司法による審査
【提言】
【検討】
ア 提言①について
現 行 法 上 , 退 去 強 制 令 書 に よ る 収 容 は 「 送 還 可 能 の と き ま で 」( 第5 2 条 第 5
項)することができるものと定められており,収容期間を事前に設定したり,収
容期間に上限を設けるような仕組みは採用されていない。
本専門部会においては,収容の在り方に関する論点の一つとして,収容期間の
① 入管法上,退去強制令書による収容は送還可能のときまですることができ
るとされているところ,収容期間の上限を設けるべきとの議論があることや
収容期間の在り方に関する国際的な動向にも留意しつつ,例えば,一定期間
を超えて収容を継続する場合にはその要否を吟味する仕組みを設けることを
検討するとともに,正当な理由がなく送還を忌避する者の迅速な送還,仮放
免や特別放免の適切な活用,後記⑶ア記載のように新たな収容代替措置を制
度化することが可能である場合にはその活用などの各種の方策を組み合わせ
ることにより,長期収容の可能な限りの解消を図ること。
※ なお,一部の委員から,収容期間及び合算した収容期間の上限を明確に
定めるべきである旨の意見が述べられた。
② 収容の開始又は継続時における司法審査については,行政訴訟制度による
司法審査の機会が確保されていることなどから,事前にかつ一律に司法審査
を要するものとすることは問題が大きいものの,前記①記載のように収容継
続の要否を吟味する仕組みを設けること,行政訴訟の機会をより適切に教示
することなど,収容に係る行政手続の一層の適正確保を図るために採り得る
有効な方策を検討すること。
※ なお,一部の委員から,収容は身体の自由に対する重大な制約であるこ
とから,収容の開始又は継続時には,必ず事前の司法審査によるべきであ
るとの意見が述べられた。
③ 今後も,逃亡防止や出頭確保等について問題がない被退去強制者について
は,仮放免や特別放免を適切に運用すること,あるいは,後記⑶ア記載のよ
うに新たな収容代替措置を制度化することが可能である場合にはこれを活用
すること。
– 43 –
上限を定めることの当否について議論が行われ,これを定めるべきであるとの立
場の委員からは,一部の委員が大村入国管理センターにおける長期収容に関する
人権救済申立事件に係る令和元年11月25日付け日本弁護士連合会の勧告書を
示したほか,次のような意見が示された。
● 長期収容による問題を解消するため,収容期間に上限を設けるとともに,期
間を区切って第三者機関が収容の要否を審査する仕組みを設けるべきである。
● 欧州諸国では,EU送還手続指令を受けて収容期間の上限が設けられており,
期限を定めない収容は国際法上恣意的拘禁と評価される。
● 収容を,我が国が加入する難民条約を含む国際人権諸条約,我が国が合意し
た移住者のためのグローバル・コンパクト及びこれらに関する各種国際機関か
らの指摘内容等に沿うよう法整備し,運用すべきである。
これに対して,収容期間の上限を定めるべきではないとの立場の委員からは,
次のような意見が示された。
● 諸外国の中には収容期間の上限を定めている国もあるが,そうでない国も複
数あり,収容期間に上限を設けることは必ずしも国際標準ではない。
● 退去強制令書による収容は,退去強制令書の執行としての送還までの間の措
置であるから,その期限は「送還可能のときまで」とするほかなく,それ以上
に期限を観念することはできない。
● 収容期間の上限を定めた場合,当該上限期間に達すると逃亡のおそれが否定
できない者であっても収容が解かれ,本来許されるべきでない在留活動が事実
上可能となるとともに,送還の実現が困難となるなど,送還忌避の問題解決に
つながらないこととなる。
● 収容の長期化は,国の強制によるものではなく,被収容者が退去強制令書の
発付を受けた後も自らの意思で本邦における在留の許可を求めることを選択し
たという自己決定の結果であり,被収容者が速やかに帰国すれば解決すること
が強調されるべきである。本邦に家族等がいるという事情のみをもって,その
ことが帰国できない理由にはならない。
● 収容期間の上限を定めることは,併せて主張される仮放免された者が生活苦
に陥らないよう就労を可能とすべきであるとの立場と結び付いた場合には,不
法滞在者が一定期間入管収容施設に収容された後,仮放免されて就労が可能に
なり,いわば不法就労のロンダリング(すなわち,事実上の外国人就労者の受
入れ,しかも多くの場合,我が国の政策的な受入範囲外の外国人就労者の受入
れ)につながるという奇妙な帰結になる。
以上の議論を踏まえると,引き続き収容期間の在り方を巡る国際的な動向に留
意し,恣意的拘禁との評価を受けないよう,法令に従い制度を適正に運用する必
要があると考えられるものの,委員の多数の意見によれば,現状において我が国
– 44 –
で一律の収容期間の上限を定めることについては,被退去強制者の速やかな送還
を旨とする我が国の退去強制制度の下では問題が大きいといわざるを得ない。な
お,収容期間の上限を定めている国において,当該期間経過後の者を正規在留者
に転換する施策を採っている例もあるとの指摘もあるところ,現時点において,
我が国でそのような施策を採ることについて国民的なコンセンサスが得られてい
るとは考え難い。
もっとも,長期収容を可能な限り解消すべきであることについて委員の間に異
論はなく,送還の促進や仮放免・特別放免の適切な活用,新たな収容代替措置を
制度化することが可能な場合にはその活用を含む各種の方策により,長期収容の
防止に努めるべきであると考えられる。
また,長期収容を解消する方策の一つとして,例えば,一定期間を超えて収容
が継続する場合にその要否等を吟味する仕組みも考えられるとの指摘があったと
ころ,このような吟味を行うこととする仕組みを設けた場合は,仮放免の活用等
による長期収容の解消に資すると考えられる。
さらに,国際的な議論においては,期限の定めのない収容が恣意的拘禁である
と評価されているところ,我が国の収容が恣意的拘禁に当たるとの評価を受けな
いためにも,上記のような吟味を行うこととする仕組みを検討するなどしつつ,
長期収容の防止に可能な限り努めることが肝要であると考えられる。
以上を踏まえ,収容期間及び合算した収容期間の上限を明確に定めるべきであ
る旨の少数意見があったことを明記しつつ,①のとおり提言することとした。
イ 提言②について
現行法上,退去強制令書の発付については,前記第2の1⑴ア(ア)で述べた
ように,入国審査官による違反審査,特別審理官による口頭審理並びに法務大臣
による裁決及び在留特別許可の許否の判断という多段階の審査・判断を含む行政
手続を経て行われており,退去強制処分や退去強制令書による収容に不服がある
場合には,行政訴訟制度により司法審査や仮の救済を求めることが可能である。
収容の在り方に関する論点として,こうした現行法上の仕組みに代えて,収容
開始前又は一定期間を超えて収容を継続する場合に司法審査を要するものとする
ことの当否について議論が行われ,これを要するものとすべきであるとの立場の
委員からは,次のような意見が示された。
● 現行法上の手続は,行政機関のみの判断で収容を行うため,第三者的なチェ
ックが不十分であり,収容の在り方を適正なものとするためには,刑事手続に
おける身柄拘束に倣い,収容の必要性を収容の要件とした上で,収容開始又は
一 定 期 間 以 上 の 収 容 継 続 に は 司 法 機 関 に よ る 審 査 を 要 す る も の と す べ き で あ
る。
● 収容に司法審査を要するものとする諸外国の立法例や,これを求める国際機
– 45 –
関の勧告を踏まえ,収容の要否をチェックするために司法審査を導入すべきで
ある。
これに対して,そのような司法審査を不要又は制度的に適切でないとする立場
の委員からは,次のような意見が示された。
● 退去強制令書は,入国警備官の違反調査,入国審査官の違反審査,特別審理
官の口頭審理及び法務大臣等の裁決という,行政手続の中でも特徴的である慎
重な手続を経て発付されるものである上,取消訴訟や仮の救済など行政訴訟制
度による司法審査の機会も確保されており,こうした仕組みに代えて,行政手
続である退去強制手続について司法による事前審査が必要であると考えること
は困難である。
● 現行制度上,退去強制とするか否かの判断は,在留特別許可を付与するか否
かの判断と密接に関連し,高度の政策的判断に基づく裁量行為であるため,司
法が行政に代わってこれを行うことは相当ではない。
● 諸外国の制度を見ても,退去強制手続における収容に関して司法審査を導入
していない国が複数存在し,必ずしも収容の判断において司法審査を導入する
ことが国際標準といえるような状況ではない。
● 退去強制令書による収容は,数段階の審査を含む行政手続により退去強制処
分とすることが決せられた者について,円滑な送還の確保及び在留活動の禁止
を目的としてなされるものであり,刑事手続における被疑者・被告人の身柄拘
束に求められる要件がそのまま妥当するものではない。
こうした議論を踏まえ,委員の多数の意見としては,収容開始前又は一定期間
以 上 の 収 容 の 継 続 に 際 し 司 法 審 査 を 要 す る も の と す る こ と は 困 難 で あ る と さ れ
た。他方,退去強制の判断及び収容に係る行政手続の一層の適正確保を図る上で
採り得る有効な方策,例えば,提言①で述べた一定期間以上の収容の要否を吟味
する仕組みを設けること,行政訴訟制度による司法審査の機会を実質化するため
その教示を適切に行うことなどを検討すべき旨や,仮放免に係る行政訴訟の機会
をより適切に確保する観点から,仮放免の許否の判断については,標準処理期間
を定め,速やかに行うことが望ましい旨の指摘もあった。
以上を踏まえ,収容は身体の自由に対する重大な制約であることから,収容の
開始又は継続時には必ず事前の司法審査によるべきである旨の少数意見があった
ことを明記しつつ,②のとおり提言することとした。
ウ 提言③について
収容の在り方に関する議論において,国際機関の勧告等を踏まえるならば,収
容は,必要性,合理性及び比例性がある場合に限り行うものとすべきである旨の
意見が示されているが,この点については,提言②に関して引用したような異論
も多かったところである。
– 46 –
もっとも,現行の運用上も,収容令書や退去強制令書の発付後直ちに仮放免を
することにより,現実には収容しない者が一定数存在する実情に鑑みると,今後
も,逃亡のおそれがないなど収容の必要性がない被収容者については,仮放免や
特別放免を活用し,あるいは,後記⑶ア②記載のように,より実効的な監督制度
を導入した上で収容を解くなどの新たな収容代替措置を制度化することが可能で
ある場合にはこれを活用するなどして,現実の収容を回避できるように制度を運
用すべきであるとの点について,委員の間に異論はなかった。
また,こうした点を踏まえた上で,我が国においては,収容期間の上限の設定
及び司法審査の導入という方策にはよらないものの,行政手続の適正確保の強化,
一定期間を超える収容の要否を判断する仕組みの創設等によって行政手続の適正
を一層確保することにより,収容の必要性,合理性及び比例性に対する国際的な
評価を向上させるとともに,仮放免に加えて収容代替措置による収容回避のため
の制度を創設することにより,収容が恣意的なものとならないように努めること
とすべきであるとの指摘もあった。
以上を踏まえ,③のとおり提言することとした。
– 47 –
⑵ 被収容者のプライバシーの確保や被収容者に対する医療,被収容者の心情把握・
ケアに関する取組等の被収容者の処遇
【提言】
【検討】
ア 提言①について
被収容者については,入管法をはじめとする関係法令に従い,その人権に配慮
した適正な取扱いを行わなければならず,保安上支障がない範囲内において被収
容者のプライバシー等の人権への適切な配慮を行うべきである。
このような観点から,入国者収容所等視察委員会からの意見をも踏まえつつ,
① 入管収容施設においては,保安上の支障等を来さない限り,被収容者のプ
ライバシー等の人権に対する適切な配慮がされるべきであることから,入国
者収容所等視察委員会からの意見をも踏まえて,被収容者の動静監視の在り
方も検討しつつ,居室等の入管収容施設の環境の整備を進めること。
② 医療体制の一層の充実を図るため,入管収容施設に勤務する医師の兼業を
より容易にすることを含め,常勤医師の確保や近隣医療機関等との連携のた
めの具体的措置を講じること。
③ 長期被収容者の中に薬の処方を受けている者が多い実情について原因の把
握に努めるとともに,過大な投薬がされることのないよう留意すること。
④ 治療拒否の状況が生じないよう可能な限り配慮した上で,治療拒否者に対
しても必要な医療上の措置をとることを可能とするための体制の整備に努め
るほか,必要に応じ,これを容易にするための法的措置を講じること。
⑤ 被収容者の心情の安定等に資するよう,被収容者に関する情報を適切に集
積して活用するとともに,図書等の充実,その他各種情報入手の機会の拡大
等採り得る手段を検討すること。
⑥ 特に配慮が必要な被収容者の処遇の在り方,家族等との面会の機会を一層
確保するための措置の在り方その他入管収容施設における適切な処遇を確保
するための運用や方策の在り方について,不断に検討,見直しを進めること。
⑦ 被収容者による秩序の維持を阻害する行為の発生を抑止するための方策を
検討すること。
⑧ 被収容者の処遇業務における心身の負担から離職する入管職員が少なくな
い現状を再検討し,職員と被収容者がより円満な関係を構築できる環境を整
備すること。
– 48 –
被収容者の動静監視の在り方を検討するとともに,居室や浴室等の入管収容施設
の環境の整備を進めるべきであるとの意見が示され,特段の反対意見は見られな
かったため,①のとおり提言することとした。
なお,施設環境の整備に関し,プライバシーの確保等に傾注する余り自傷行為
の防止等の保安上の観点が軽視されてはならない旨の意見も示されたところであ
る。
イ 提言②について
令和2年6月1日現在,東日本入国管理センター,大村入国管理センター及び
東京出入国在留管理局に各1名の常勤医師の配置枠があるところ,東日本入国管
理センターには常勤医師1名が配置されている。しかし,大村入国管理センター
及び東京出入国在留管理局では常勤医師の配置に至っておらず,近隣の医療機関
等から交代で来訪する非常勤医師のみが診療を行っている。
入管収容施設における医療体制の一層の充実を図るためには,引き続き,常勤
医師の確保や近隣医療機関等との連携の強化に取り組むべきである。
こ の 点 , 矯 正 施 設 に 勤 務 す る 医 師 ( 矯 正 医 官 ) に つ い て は ,「 矯正 医 官 の 兼 業
の特例等に関する法律」において,兼業について国家公務員法の特例を定めるこ
とにより,その能力の維持向上の機会の付与等を図り,もって人材の継続的かつ
安定的な確保に資する施策が講じられているところであり,こうした他機関にお
ける例をも参考に,入管収容施設に勤務する医師の兼業の在り方についても検討
すべき旨の意見が示された。
以上を踏まえ,②のとおり提言することとした。
ウ 提言③について
本専門部会においては,長期の被収容者が多い施設において被収容者に対する
薬の処方の割合が高いとの指摘がされた。
現時点で長期収容と薬の処方率の高さとの相関関係は必ずしも明らかではない
ものの,その実情について原因の把握に努めることや,被収容者に対して過大な
投薬がされることがないよう留意すべきことは重要であることから,③のとおり
提言することとした。
エ 提言④について
令和元年6月の大村入国管理センターにおける被収容者死亡事案においては,
常勤医師が配置されていない等の現行の体制の下で,拒食者が頑なに治療を拒否
する場合,入管収容施設の診療室における医療的対応に困難を生ずる場合がある
ことが明らかになった。
同事案の調査報告書においても指摘されているとおり,こうした問題を改善す
るため,提言②に関して述べた常勤医師の確保のための取組を含め,このような
治療拒否者に対しても有効な医療上の措置をとることが可能となるよう,入管収
– 49 –
容施設における医療体制の整備に努める必要がある。
また,インフォームド・コンセントの観点から治療を拒否する者への治療に慎
重な立場を採る医師がいることを踏まえ,このような場合の栄養補給の処置に関
する法律の規定が整備されている矯正施設の例をも参考に,所要の医療的対応を
容易にするため,法的手当を含む必要な措置を講じるべきであると考えられる。
この点,入管収容施設内における拒食に対しては,生命に対する危険が及ぶお
それがあるときは,十分な説明の上,被収容者の同意の有無にかかわらず,必要
な医療上の措置を適時・適切に実施し,実施する者を無用な非難から守る体制が
必要であるとの意見も示された。
以上を踏まえ,④のとおり提言することとした。
なお,被収容者に対する医療の実施に関し,患者である被収容者の自己決定権
についても十分配慮すべきであるとの指摘もあったが,これに対しては,一般に,
自己決定権も生命を前提としているものであるから,本人の同意の有無にかかわ
らず救命措置が必要とされる場合もある上,入管収容施設における医療について
自己決定権を強調すると,仮放免を求めて生命の危険を顧みずに頑なに拒食や治
療拒否をするような事案において有効な対処ができなくなるとの強い反対意見が
示された。
オ 提言⑤について
被 収 容 者 の 心 情 の 安 定 等 を 図 る こ と は , 処 遇 の 改 善 に お い て 重 要 な 事 項 の 一
つ で あ る と こ ろ , こ れ に 関 し て は , 被 収 容 者 の 情 報 の 集 積 ・ 活 用 を 図 る べ き で
あ る , 被 収 容 者 が 閲 覧 で き る 図 書 ・ 写 真 等 の 充 実 を 図 る べ き で あ る , そ の 他 ,
情 報 通 信 機 器 の 利 用 や 外 部 の 人 材 と の 交 流 等 を 含 め , 本 国 事 情 等 に 関 す る 各 種
情報を入手する機会の拡大が重要であるなどの意見が示された。
具 体 的 な 方 策 に つ い て 保 安 上 の 観 点 や 収 容 目 的 と の 関 係 を 整 理 す る 必 要 が あ
る と は 考 え ら れ る も の の , 被 収 容 者 の 心 情 の 安 定 等 を 図 る べ き と の 方 向 性 に つ
いて委員の間に異論はなかったことを踏まえ,⑤のとおり提言することとした。
カ 提言⑥について
障がい者,女性,LGBT等特に配慮が必要な被収容者の処遇の在り方,家族
等との面会の機会を一層確保するための措置の在り方その他入管収容施設におけ
る一層適切な処遇を確保するための運用や方策の在り方について,不断に検討,
見 直 し を 進 め て い く べ き で あ る こ と に つ い て 委 員 の 間 に 異 論 は な か っ た こ と か
ら,⑥のとおり提言することとした。
キ 提言⑦について
入管収容施設においては,被収容者が集団で生活するという施設の性格上,施
設の秩序が適切に維持される必要があるが,一部の被収容者による帰室拒否や施
設破壊行為等の遵守事項違反行為により,その秩序が害される事態が生じている。
– 50 –
現在,こうした遵守事項違反行為に対しては,それが隔離事由に該当する場合に
他の被収容者から隔離することができるのみであり,有効な抑止策とはなってい
ない。
そこで,入管収容施設の秩序を維持するため,被収容者による秩序の維持を阻
害する行為を抑止するための方策を検討すべきであるとの意見が示されたことを
踏まえ(なお,一部の委員からは,こうした方策の検討に当たっては,罰則や懲
罰 以 外 の 適 切 な 手 段 と な る よ う 留 意 す べ き で あ る と の 指 摘 が あ っ た 。), ⑦ の と
おり提言することとした。
ク 提言⑧について
入国警備官の中には,被収容者の処遇業務における心身の負担から離職する者
も見受けられるところ,そのような現状を再検討し,職員と被収容者がより円満
な関係を構築できる環境を整備すべきであるとの意見が示されたことを踏まえ,
⑧のとおり提言することとした。
– 51 –
⑶ 仮放免その他収容の長期化を防止するための措置
ア 仮放免の要件・基準,収容代替措置
【提言】
【検討】
(ア)提言①について
仮放免は,退去強制処分を受けた者の収容を一時的に解く制度であり,その
許否については行政の広範な裁量が認められており,従来から,被収容者の健
康状態や出国準備の必要性,行政訴訟等の提起や難民認定申請の状況等,被収
容者の個々の事情を考慮の上,その許否が判断されてきた。
しかしながら,本専門部会の議論においては,仮放免の基準等が明確ではな
いとの意見や,仮放免請求が不許可とされた理由が具体的に示されないことで
請求者が納得できず,そのことが,事情変更を伴わない再度の仮放免請求につ
ながっているとの意見が示された。
こうした意見を踏まえ,仮放免の許否に関する判断の適正を一層確保すると
ともに,その判断の透明性を高めるため,仮放免の考慮要素をより詳細に示す
など要件・基準をより明確なものにするとともに,仮放免を不許可とした場合
及び仮放免の取消処分をした場合の理由を請求者に対してより具体的に告知す
るものとすることの可否を検討すべきであるとの意見が大勢を占め,また,次
① 逃亡防止や出頭確保等の観点から問題がない被退去強制者については,そ
の者の状況や収容を解くべき実質的な理由に応じて,仮放免(②の新たな収
容代替措置を設ける場合は,同措置及び仮放免)を適切に運用すること。
仮放免については,その許否判断の透明性を確保するよう,その要件・基
準を現在よりも明確なものにし,法令に適切な定めを置くなどしてこれらを
公にすることを検討すること。
また,仮放免を不許可とする場合及び仮放免の取消処分をする場合は,
その理由をより具体的に告知するものとすることを検討すること。
② 収容令書・退去強制令書の発付後から送還時まで収容することが原則とさ
れる現在の制度を改め,仮放免とは別に,新たな収容代替措置,例えば,第
三者の支援又は補助等により,適切に生活状況が把握され,当該外国人が違
法な就労に及ぶことなく生活手段を確保することが可能となることを前提と
して,被退去強制者について,現実の身柄拘束の代わりに,送還の実施を担
保するために逃亡防止や出頭確保を図り,収容施設外で起居するものとする
ことを認める措置の導入を検討すること。
– 52 –
のような意見も示された。
● 要件・基準を明確化した上で公表することを検討すべきである。
● 要件・基準を法令の形式で規定するとともに,仮放免を許可する場合に加
えて許可しない場合を明確に示すことにより,在留を許可してもらうために
仮放免を求めるという目的外利用を抑制すべきである。
● 要件・基準は,将来の司法審査において利用可能なものとすべきである。
以上を踏まえ,①のとおり提言することとした。
(イ)提言②について
入管実務上,退去強制手続は容疑者である外国人の身柄を拘束して行うこと
が原則とされ,退去強制令書発付後も,当該外国人を直ちに本邦外に送還する
ことができないときは,送還可能のときまで収容することが原則とされている
(法第39条から第44条まで,第52条第5項参照)。
このように,被退去強制者が仮放免等されない限りこれを収容することを前
提としている現行の制度(主としてこれに批判的な立場から「全件収容主義」
と 呼 称 さ れ る こ と も あ る 。) は , 収 容 の 長 期 化 の 主 要 な 要 因 の 一 つ で あ る と 指
摘されている。
また,難民認定申請により送還が停止されるなど直ちに出国できないことに
やむを得ない事情がある場合であっても,現行法上,身柄を拘束しない場合の
受け皿は仮放免しかなく,このことが,仮放免について,被収容者の健康上の
理由や出国準備等の必要性がある場合に収容を仮に解くという本来の目的に必
ずしもそぐわない運用を来す要因の一つとなっていると考えられる。
これらの点について,本専門部会における議論・検討では,前記⑴でも提言
したとおり,収容の長期化を回避するため,迅速な送還の実現や仮放免の適切
な運用に努めることに加え,いわゆる収容代替措置の創設の可否を検討すべき
という点で意見の一致を見た(なお,一部の委員からは,空海港における一時
庇護上陸許可や難民認定申請手続における仮滞在許可の活用とともに,これに
関連するNGO等との連携による住居確保措置を充実させ,さらには,その制
度を既存の収容に代わる措置として活用できるようにすべきであるとの意見が
示された。)。
そして,収容代替措置の具体的な在り方としては,次のような意見が示され
た。
● 人権の尊重や国家のコストの削減等の観点を踏まえ,諸外国の事例も参考
として,日本型の収容代替措置を検討すべきである。
● 収容代替措置を創設する場合も,野放図に収容しなければ良いということ
ではなく,逃亡等を防止するための罰則やGPSの装着等といった措置と併
せて考えるべきである。
– 53 –
● 逃亡等を防止するための措置としては,現状の仮放免の際の保証人による
逃亡防止の実効性を分析した上で,人的保証の枠組みを設けるべきである。
● 収容代替措置については,様々な形態があり得るのであり,そのような措
置を執った場合に誰が責任や負担を負うのかという点に関し,保証人等に限
定するのは選択肢を狭めすぎてしまうことから,更に広い選択肢を持てるよ
うなものとすべきである。
● 収容を解かれた外国人はそのままでは生活できないため,誰かに頼らざる
を 得 な い が , そ の 相 手 に つ い て は 様 々 な 選 択 肢 が あ り 得 る た め ,「 第三 者 の
支援又は補助等により」という内容にすべきである。
以上を踏まえ,②のとおり提言することとした。
なお,収容代替措置については,一定期間の在留により在留資格の取得が可
能 と な る と 見 込 ま れ る 場 合 を そ の 対 象 と す べ き で あ る と の 意 見 も 示 さ れ る な
ど,その対象範囲をいかに画するべきかが重要な論点である。
この点については,本提言を受け,
● 収容代替措置の創設の可否等を検討するに当たり,収容代替措置により社
会内で処遇することで,我が国への定着性がより強固になり,送還が困難に
なり得るのではないかという観点
● 収容代替措置の前提となる入管法上の収容は,被退去強制者を直ちに本邦
外に送還することができないときに,送還可能のときまでその身柄を拘束す
る措置であり,収容代替措置も将来的な送還の実施が想定される場合に限ら
れるのではないかという観点
等を踏まえて,その対象範囲が十分に検討されるべきであることを付言する。
– 54 –
イ 仮放免された者等による逃亡等の行為に対する罰則等の創設
【提言】
【検討】
(ア)提言①について
仮放免の許可に際しては,逃亡防止・出頭確保のため,身元保証人を付し,
一定額の保証金を納付させるのが通例であるものの,身元保証人の存在や保証
金の納付にもかかわらず,仮放免中に所在不明となる者が相当数存在し,送還
の実現にも支障を来している(前記第2の1⑴イ(イ)⑤及び⑵エ(イ)参照)。
そこで,仮放免された者による逃亡等の行為を抑止するため,仮放免中に逃亡
等をした者に対する罰則を設けるべきである旨の意見が多く示された。
これに対し,反対意見として,仮放免された者の逃亡を防止するためには,
まずは仮放免や再収容に係る運用を透明化すべきである,あるいは,逃亡等の
行為に対する制裁としては保証金の没取で足りるなどとして,こうした行為に
対する罰則を設けるべきではないとの意見が一部の委員から示された。
議論・検討の具体的な内容は,次のとおりである。
すなわち,仮放免中に逃亡等をした者に対する罰則を設けるべきであるとの
立場の委員からは,次のような意見が示された。
● 仮放免されて逃亡する者が相当数発生すれば,入管当局が被収容者の仮放
免をちゅうちょし,本来仮放免されるべき者が仮放免されなくなる事態が懸
念されることから,逃亡等の行為に対する罰則を設け,逃亡等を防止すべき
である。
● 被収容者の経済力に鑑みれば,保証金額の高額化は現実的ではなく,低額
の保証金で仮放免を許可せざるを得ない場合が多いことに加え,身元保証人
が付されているにもかかわらず逃亡事案が発生していることからすると,現
行の保証金や身元保証人の制度は仮放免された者の逃亡等を防止する手段と
しては十分ではない。
このような意見に対しては,罰則の創設に反対する立場の委員から,次のよ
うな反対意見が示された。
① 仮放免された者が定められた条件に違反して,逃亡し,又は正当な理由
なく出頭しない行為に対する罰則の創設を検討すること。
※ なお,一部の委員から,このような罰則を設けるべきではない旨の反
対意見が述べられた。
② 収容代替措置を導入する場合,罰則を含む実効的な逃亡防止措置等につ
いても併せて検討すること。
– 55 –
● 仮放免に関しては,入管当局の裁量による条件が付されており,数年収容
されて健康を害した被収容者について,2週間等という短い期間を条件とす
る仮放免がなされており,これについて期間が経過すれば,条件違反がなく
ても再収容される運用がなされている現状では,被仮放免者が出頭しないの
もやむを得ない側面もあり,現にそのために出頭しない者が増加しているの
であり,まずは入管当局の裁量に委ねられている状況を改めるべきである。
● 現状のいわゆる全件収容主義が改められ,また,収容が最終的な手段にな
れば,逃亡や不出頭は極めて限定的になると思われ,そうした法整備をしな
い状態で罰則を創設すべきではない。
● 仮放免された者が逃亡した場合に,保証金の没取に加えて刑罰を科するこ
とは,実質的には二重に制裁を科するものである。
● 刑事訴訟法の保釈制度にあっても権利保釈が認められ,保釈の取消事由も
法定されていること,また,保釈逃亡罪も存在しておらず議論の過程である
ことに鑑みれば,職権に依存する仮放免について,逃亡罪を現段階で設ける
べきではない。
● 罰則を創設すれば,当該外国人を支援する弁護士等が共犯とされるおそれ
があり,弁護士等の活動を著しく萎縮させる。
もっとも,このような意見に対しては,次のような反論がなされた。
● 仮放免の運用に当たって,特段逃亡を惹起させるような適正を欠く点は見
受けられないにもかかわらず,逃亡事案が後を絶たない現状に鑑みると,現
行の保証金や保証人の制度のみでは,逃亡を防止する手段として限界がある。
● 保証金の没取は刑罰ではなく,両者は性質が異なるものであることから,
相互に排他的ではなく,二重に制裁を科することとなって不当であるとの指
摘は当たらない。入管法上,仮上陸の許可を受けた者が条件に違反して逃亡
等した場合は,保証金が没取されるとともに,刑罰を科され得る制度となっ
ている(法第13条第5項,第70条第1項第6号)。
● 入管法上の手続である仮放免と刑事手続上の保釈は,その目的や要件,判
断権者等を異にしていることから,逃亡等の行為を防止するための措置の在
り方についても同一のものとして議論する必然性はない。
● ( 第 4 の 1 ⑶ に 関 し て 述 べ た と お り,) 弁 護 士 等 に よ る 正 当 な 活 動 が 犯 罪
とされることはなく,弁護士等の活動を萎縮させるというのは杞憂である。
本専門部会における議論・検討では,当該罰則の創設を検討すべきであると
の意見が多数を占めたが,一部の委員において,仮放免された者による逃亡等
の行為に対する罰則は創設すべきではない旨の意見が維持された。
以上を踏まえ,当該罰則の創設に反対する少数意見があったことを明記しつ
つ,①のとおり提言することとした。
– 56 –
(イ)提言②について
また,収容代替措置についても,対象者の逃亡等を防止する観点からの議論
が行われ,
● 収容代替措置を創設する場合,実効性のある保証人の確保を要件とするこ
とや,対象者へのGPSの装着を検討すべきである。
● GPSの装着の当否,対象者等については,慎重かつ十分な議論がされる
べきである。
● 収容代替措置の対象者の適切な管理を行うため,逃亡等した者に対する罰
則の創設を併せて検討する必要がある。
旨の意見が示された。
これを踏まえ,②のとおり提言することとした。
– 57 –
3 本専門部会の課題に関し示されたその他の主な意見
⑴ 各方策の検討・実施に関する意見
本専門部会においては,本報告書のとおり,送還忌避者の増加や収容の長期化を
防止するための様々な具体的方策が示されたが,個々の方策の内容そのものに関す
る意見のほかにも,以下のような意見が示された。
● 収容を減らす方向で現状を改める必要があり,そのための制度改革が求められ
るが,罰則の創設は,それ自体が最優先の目的ということではなく,そのような
現状を変えるためのオプションの一つとして考えるべきである。被収容者の収容
を解く制度を本当に定着させるためには,逃亡等を阻止し得る方策を設けること
により,収容を解くことについて消極的な意見を持つ人々の理解を得ていくとと
もに,収容の管理者側にも,収容を解いても大丈夫との意識を持たせていくこと
が必要である。罰則は飽くまで最後の手段であるが,現状を変え,収容を解く制
度に対する理解・信頼を確保し,定着させるためのオプションの一つとして検討
対象から排除すべきではない。
● 入管の現場はぎりぎりの大変な状況にあるため,個々の方策については,可能
なものから積極的に取り組んでいくべきである。その際,それぞれの方策を現場
で運用するに当たり,実効的であるかについて多角的に検討する必要がある。
● 退去強制手続において,外国人に本邦から退去することを義務付け,その義務
に違反した場合の罰則を設けるのであれば,これとの均衡を保つため,外国人の
人権を保障するための手続上の権利を,バランスを取りながら,考慮いただきた
い。
● 本専門部会で提言した方策については,国民の理解が得られる形で実施すべき
であり,また,送還忌避の実情を的確に把握して悪質仲介業者の排除のほか入国
管理の適正化にいかすこと,一時庇護上陸許可等の活用に向けて空海港における
庇護体制を見直すこと,外国人受入れ・共生のための総合的対応策を強化するこ
となど,収容・送還以外の様々な方策との連関にも留意すべきである。
● 本報告書の提言の実施状況等については,適切な検証がなされるべきである。
⑵ 新型コロナウイルスの感染拡大の影響に関する意見
本専門部会における議論・検討の継続中,新型コロナウイルス感染症が世界全体
に蔓延し,我が国においてもその感染が拡大したことを受けて,一部の委員から,
次のような指摘があった。
● 世界各国において,感染症対策としての収容からの解放という問題が浮上して
おり,国際機関からの諸勧告等において,収容代替措置の重要性や在留の正規化
に向けた取組の必要性が説かれているほか,多くの先進国でも実際にほとんどの
被収容者を解放したり,非正規の滞在者に一時的に一律に在留資格を与えるなど
の取組が広がっている(スペインでは,全員の解放が令和2年5月上旬の時点で
– 58 –
完了し,在留資格の付与については,ポルトガルが,非正規の滞在者に一律に在
留 資 格 を 与 え て い る 。)。 新 型 コ ロ ナ ウ イ ル ス に つ い て は , 今 後 , 第 二 波 ・ 第 三
波が危惧されているところ,こうした措置も長引く可能性がある。
● 我が国においても,入管収容施設内において感染が拡大すれば,被収容者のみ
ならず,職員や施設に出入りする者,更には施設が存在する地域の医療に重大な
影響を及ぼすことを考慮する必要がある。入管収容施設におけるいわゆる「三密」
(密集,密閉,密接)の状態を解消し,被収容者及び職員等への感染拡大を防止
する観点から,個室等による収容,収容代替措置,面会におけるテレビ電話の活
用等を検討すべきである。
● 新型コロナウイルスの感染の影響やその後の情勢により,国費送還の促進が困
難になり,帰国が困難となった外国人を我が国で受け入れる施策の必要性が高ま
ることも考えられる。
出入国在留管理庁においては,本専門部会において提言が示された後も,引き続
き,新型コロナウイルスの感染拡大状況等を注視しつつ,状況に応じた適切な対応
を行っていくよう求めたい。
– 59 –
第5 終わりに
本専門部会では,全ての委員がより良い出入国在留管理行政の実現に向け,各々の
専門的知見に基づき,真摯かつ熱心に議論を重ね,その結果を本報告書に取りまとめ
た。
そして,本報告書の提言は,各委員が送還忌避者の増加や収容の長期化という喫緊
の課題を必ず解決するとの強い思いの下,真剣に議論した結果であって,入管当局に
おいては,これらの提言について速やかに検討を行い,具体化した施策を実行に移し
ていくことを強く期待するものである。
本 専 門 部 会 は , こ れ ら の 提 言 が 送 還 忌 避 者 の 増 加 や 収 容 の 長 期 化 と い っ た 問 題 の
解決の一助となることを願ってやまない。
最後に,本専門部会における議論・検討のため,ヒアリングに応じていただいた方
々 及 び オ ブ ザ ー バ ー と し て 参 加 し て く だ さ っ た U N H C R 駐 日 事 務 所 川 内 副 代 表 に
は,多大な御協力をいただいた。
本日,本報告書を取りまとめるに当たり,御意見を寄せてくださった方々に対して,
心から感謝を申し上げたい。

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