声明・提言等(2021年11月19日)全難連より「行政不服審査法の改善に向けた意見書」を発表しました。

行政不服審査法の改善に向けた意見書[PDF・334KB]

日付:2021年11月19日

団体:全国難民弁護団連絡会議

備考:総務省|報道資料|「行政不服審査法の改善に向けた検討会 中間取りまとめ」についての意見募集 (soumu.go.jp)

声明文テキスト 

意見の要旨

中間取りまとめで取り上げられている行審法の平成26年改正ねらいと評価等は、難民の審査請求に関しては、議論の前提を異にしている。すなわち、難民の審査請求に関しては、入管法61条の2の9第2項以下により、改正行審法に対する多数の適用除外・読み替え規定が設けられ、改正行審法のみに基づく審査請求とは多くの制度上の違いが存する。その結果、改正行審法適用後の難民の審査請求に関しては、平成26年行審法改正の趣旨である「制度の活用促進」、「公正性の向上」が全くもって実現されていない。

難民の審査請求に関して、特に問題と考えるのは、①難民審査参与員制度、②口頭意見陳述、③弁明書の不提出、④不服申立期間である。これらの問題に対処すべく、①難民審査参与員制度に関しては、難民審査参与員に代わる入管庁及び法務大臣から独立した第三者機関の創設、②口頭意見陳述、③弁明書の不提出及び④不服申立期間に関しては、難民の審査請求固有の改正行審法に対する適用除外・読み替え規定の廃止を行うべきである。また、法改正に依らずとも、現行法下で運用変更可能な②口頭意見陳述に関しては、早急に運用変更を行うべきである。その上で、難民の審査請求についても、中間取りまとめで指摘されている審査請求全般の問題に対する改善が求められる。
第1 総論

「行政不服審査法の改善に向けた検討会 中間取りまとめ」(以下「中間取りまとめ」という。)で取り上げられている行政不服審査法(以下「行審法」という。)の平成26年改正(以下、当該改正後の行審法を「改正行審法」という。)のねらいと評価等は、難民の審査請求に関しては、議論の前提を異にしている。すなわち、難民の審査請求に関しては、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)61条の2の9第2項以下により、改正行審法に対する多数の適用除外・読み替え規定が設けられ、改正行審法のみに基づく審査請求とは多くの制度上の違いが存する。その結果、改正行審法適用後の難民の審査請求に関しては、平成26年行審法改正の趣旨である「制度の活用促進」、「公正性の向上」が全くもって実現されていない。

難民の審査請求に関して、特に問題と考えるのは、以下詳述する①難民審査参与員制度、②口頭意見陳述、③弁明書の不提出、④不服申立期間であり、問題が生じる原因には入管法による難民の審査請求に関する行審法の適用除外・読み替え規定の存在が挙げられる。

難民の審査請求に限り改正行審法のみに基づく審査請求と差異を設ける合理的根拠はない。難民の審査請求に関しても平成26年の行審法改正の趣旨が貫徹されるよう、①難民審査参与員制度に関しては、難民審査参与員に代わる出入国在留管理庁(以下「入管庁」という。)及び法務大臣から独立した第三者機関の創設、②口頭意見陳述、③弁明書の不提出及び④不服申立期間に関しては、難民の審査請求固有の改正行審法に対する適用除外・読み替え規定の廃止を行うべきである。また、法改正に依らずとも、現行法下で運用変更可能な②口頭意見陳述に関しては、早急に運用変更を行うべきである。その上で、難民の審査請求についても、中間取りまとめで指摘されている審査請求全般の問題に対する改善が求められる。

第2 難民の審査請求固有の問題点

1 難民審査参与員制度について

(1)適切な確保について

 入管法上、難民の認定に関する意見を提出する難民審査参与員(以下、単に「参与員」ということもある。)が改正行審法上の審理員とみなされている(入管法61条の2の9第5項)。しかしながら、参与員の要件は、人格が高潔であって、審査請求に関し公正な判断をすることができ、かつ、法律又は国際情勢に関する学識経験を有する者というのみであり(入管法61条の2の10第2項)、難民認定の知識や経験は要件とされておらず、入管庁による任命過程も不透明であるため、難民認定の専門性が担保されていない。それゆえ、参与員は難民認定実務に精通していないことが珍しくなく、難民の定義すら理解していないと思われる質問を口頭意見陳述において発することが散見される状況にある。

また、参与員は3人1班に編成されているが、班編成の方法・基準、事件を各班に配点する際の方法・基準は、入管庁に一任されており、いずれも不明である。加えて、一部の参与員は、認定相当の事件をほぼ配点されたことがないと言った話も聞かれるところである。

(2)意見の反映・透明化について

当会が把握する限り、平成25年から平成28年の4年間で参与員が認定意見を出した31件のうち、4割が難民不認定とされており、参与員の意見が法務大臣の裁決に適切に反映されているとは言い難い。

また、審査請求の事務局は専ら入管庁の職員が担っており、参与員に対する各種研修や資料提供を通じた情報操作の危険性がある。さらに、参与員の意見書(入管法施行規則58条の7参照)原案の起案を各班に配属された担当難民調査官に委ねている参与員(班)が相当数に上っているとの情報もあることから、参与員が難民調査官に追随した意見を述べる危険性もある。審理員制度を設けた改正行審法の趣旨は、審査庁において審理を行う職員について、原処分に関与した者を排除し、審査庁における審理手続の公正性を高めることであるが、現状、参与員自身の知見に基づく意見が反映されない制度上の危険性が存在する。

加えて、審理員については、審査請求人に対し通知されるが(行審法9条1項)、難民審査請求手続については、当該通知規定の適用が排除されている(入管法61条の2の9第6項)。その上、行審法上、裁決に付する理由において、参与員の意見の要旨を明らかにしなければならないと定められているものの(入管法61条の2の9第4項)、実務上、裁決書では単に難民該当性が認められない旨記載されるのみで、実質的な判断理由が記載されないものが多数認められる。そのため、現行制度は、審査請求人が担当参与員の氏名及び実質的な判断理由を了知し得ない仕組みとされており、参与員の意見が透明化されていると言えない。

(3)行政不服審査会等からの諮問に対する答申の不存在について

 難民の審査請求に関しては、改正行審法の原則と異なり、行政不服審査会等からの諮問に対する答申を受けることなく、裁決を下すことが可能である(入管法61条の2の9第6項)。しかしながら、中間取りまとめでも指摘されるとおり、行政不服審査会等からの諮問に対する答申は、裁決が公正かつ慎重に行われることを確保する目的を有しており、当該審理の結果、適切な裁決がされる可能性が高まったことを指摘する意見も出ている。上述のとおり、参与員は必ずしも難民認定の専門性を備える者ばかりとは限らない上に、参与員に代わる制度を導入する場合でも、裁決の公平性・慎重性を確保する意義が乏しくなる訳ではないため、難民の審査請求に限り、行政不服審査会等からの諮問に対する答申を不要とする合理的根拠はない。

2 口頭意見陳述について

(1)口頭意見陳述の機会付与の制限について

改正行審法上、口頭意見陳述を申し立てたにもかかわらず、意見を述べる機会が制限されるのは「当該申立人の所在その他の事情により当該意見を述べる機会を与えることが困難であると認められる場合」に限られる(行審法31条1項但書)。しかしながら、難民の審査請求に関しては、上記に加え、「申述書に記載された事実その他の申立人の主張に係る事実が真実であっても、何らの難民となる事由を包含していないことその他の事情により当該意見を述べる機会を与えることが適当でないと認められる場合」にも口頭意見陳述の機会を付与しないことが認められている(入管法61条の2の9第6項)。

「口述機会付与の申立ては、不服申立ての当事者たる国民および利害関係人に権利として保障され、既に処分を正当とする実体的心証を得ているというような理由によって、これを拒否し得るものではないと解するのが相当である」と判示した裁判例のとおり(東京地裁昭和45年2月24日、行集21巻2号362頁)、実体的心証を理由とする口頭意見陳述不実施が許容される余地はない。また、難民の認定に関しては、審査請求人本人の経験事実の認定が極めて重要であるところ、当該経験事実の客観証拠による裏付けは困難な場合も多く、審査請求人本人の供述のみが重要な認定の根拠であることはごく一般的である。そして、参与員が審査請求人本人の供述を確認できるのは、口頭意見陳述しかないため、難民の審査請求において口頭意見陳述は極めて重要な手続といえる。さらに、同様の読み替え規定は難民の審査請求以外にはないと考えられるところ、難民に限り、口頭意見陳述の機会を制限可能とする合理的な理由もない。以上より、入管法61条の2の9第6項による行審法31条1項但書の読み替え規定は、規定自体に大いに問題がある。

加えて、令和2年実施の審査請求に関しては、審査請求人6475名(取下者1203名含)のうち、取下者を含めた審査請求人全体の3割以上に及ぶ2038名が口頭意見陳述の申立てにもかかわらず口頭意見陳述の機会を付与されなかった。他方で、難民認定申請案件は、A案件(難民である可能性が高いと思われる案件又は本国情勢等により人道上の配慮を要する可能性が高いと思われる案件)、B案件(難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない事情を主張している案件)、C案件(再申請である場合に、正当な理由なく前回と同様の主張を繰り返している案件)、D案件(上記以外の案件)に振り分けられるところ、2018年~2020年にかけての上記B案件とC案件の合計は、6.6%~22%である。2020年には審査請求人全体の3割以上が申立てにかかわらず口頭意見陳述不実施とされたものの、「何らの難民となる事由を包含していないこと」の要件を満たし得る上記B案件とC案件の過去数年の合計が3割を優に下回ることを踏まえると、3割以上の審査請求人が「何らの難民となる事由を包含していないこと」若しくは「その他の事情」(なお、「何らの難民となる事由を包含していないこと」は「その他の事情」の例示であるため、「その他の事情」を難民該当性と関係なく拡大して解釈することは許されない。)を有するとは考え難い。また、難民の審査請求に関して、「当該申立人の所在その他の事情により当該意見を述べる機会を与えることが困難である」(行審法31条1項但書)審査請求人がとりわけ多いとも考え難い。

なお、入管法61条の2の9第6項による行審法31条1項但書の読み替えは、行審法改正の趣旨のうち、「迅速な救済」を主たる目的としていると考えられるが、「中間取りまとめ」20~21頁でも指摘されるとおり、迅速な救済の手段としては、再調査の請求(行審法5条)、審理手続を経ないでする却下裁決(行審法24条)、審理手続終結(行審法41条)も考えられ、口頭意見陳述の機会付与の制限以外の手段が整備されている。口頭意見陳述の機会付与の制限による「迅速な救済」は、改正行審法の趣旨に反する。

(2)質問権の機会付与の制限について

 改正行審法により、審査請求人には質問権の機会が付与された(行審法31条2項)。しかしながら、難民の審査請求に関しては、①申立人から処分庁等の招集を要しない旨の意思の表明があったとき、②当該聴取(注:審査請求に係る事件に関する処分庁等に対する質問の有無及びその内容についての申立人からの聴取)の結果、処分庁等を招集することを要しないと認めるときには質問権の機会の付与が不要とされている(入管法61条の2の9第6項)。

 同様の読み替え規定は難民の審査請求以外の手続にはないと考えられ、難民に限り質問権の機会を付与しなくて良いとする合理的理由はない。

(3)情報提供の充実について

行審法改正の主要なテーマの一つに情報提供の充実が挙げられるところ(行審法84条)、難民認定手続における審査請求人は基本的に日本語以外の言語を母国語としており、誤解が生じないよう情報提供することは極めて重要である。しかしながら、現状、先述したとおり、難民の審査請求において口頭意見陳述が極めて重要であるにもかかわらず、口頭意見陳述の申立放棄者が令和2年時点で2721人であり、取下者を含めた審査請求人全体の4割以上を占めていることからすると、申立放棄者の中には、審査請求の情報を十分提供された場合、異なる判断を行った者も多数含まれると考えられる。

3 弁明書の不提出について

改正行審法により、審査請求人と処分庁等の対審的構造を目指して導入された弁明書については、難民の審査請求手続の場合、適用除外により提出が求められない(行審法29条、入管法61条の2の9第6項)。そのため、審査請求人としては攻撃対象を絞り込めず、また、審理員に代わる参与員からしても、争点を明確化しづらい状況が生じている。難民の審査請求においても争点整理は極めて重要であり、本来、弁明書が審査請求人固有の経験事実のみならず、審査請求人の本国情勢に関する資料(出身国情報)をめぐる対立点を浮き彫りにする役割を有する。しかしながら、現状、弁明書の不提出により、円滑な争点整理がなされていない状況にある。

4 不服申立期間について

改正行審法により、不服申立期間は原則3ヵ月とされているが(行審法18条1項)、難民の審査請求手続の場合、行審法改正前と同じく、不服申立期間は7日に限定されている(入管法61条の2の9第2項)。中間取りまとめでも紹介されているとおり、3ヵ月の不服申立期間でも法律実務上さらに延長の必要性が高い場合は容易に想定され、7日間の不服申立期間はあまりにも短い。

以上

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