国会質疑等(2003年2月21日)北川れん子議員(社民・衆)質問主意書[子どもの収容]

155回国会・質問第42号 衆議院議員北川れん子議員「未成年者などの収容と退去強制に関する質問主意書」(20021212日)(外部リンク:衆議院ウェブ

[155衆-042] 021212質-北川れん子(社民)_030221答-小泉純一郎首相 [未成年者の収容](合体版)[PDF]

答弁書第42号 衆議院議員北川れん子君提出未成年者などの収容と退去強制に関する質問に対する答弁書2003221日)

未成年者などの収容と退去強制に関する質問主意書

一 子どもの権利条約(児童の権利条約)第3条(子どもの最善の利益)に謳われた「子どもにかかわるすべての活動において、その活動が公的もしくは私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関または立法機関によってなされたかどうかにかかわらず、子どもの最善の利益が第一次的に考慮される。」を考慮し、保護者が入管法違反に問われた場合、日本の学校にて就学中の未成年者については、本人およびその養育親の退去強制を見合わせ、在留特別許可を与えるなどの方策をとるべきと思うが、政府の見解を質したい。子どもの権利条約に関連して、未成年者の退去強制について、各国では以下のような判例や方策がとられてきている。

1999年7月9日カナダ連邦裁判所が下した「Baker判決」では、超過滞在であるB氏(子ども四人はカナダ国籍)に退去強制という決定を、「子どもの最善の利益」(子どもの権利条約)を援用し、取り消した。カナダ政府は、その後移民法を改正。「カナダの出入国管理行政における子どもの利益の考慮の一端」『人権法と人道法の新世紀』(東信堂)

ニュージーランド最高裁判所は、1993年12月17日子どもと家族を残して退去強制命令を出された男性から司法審査請求したタビタ事件判決において、自由権規約と子どもの権利条約第9条を援用し、政府当局が退去強制命令を執行するか否かを検討する際には、これらの条約を考慮すべきであるとして、当局に再審査を求めている。(Tavita事件)

オーストラリアの最高裁判所は1995年4月7日、子どもと家族を残して退去強制命令を出された男性からの司法審査請求であるテオ事件判決において、特に子どもの権利条約第3条の規定を援用し、当局が子どもの最善の利益を主たる考慮事項として扱うだろうという正当な期待が生じているとして、当局による再審を求めている。(Teoh事件)

このような状況をふまえ、就学中の未成年者や、その養育親の、退去強制をしない取り扱いを明記した法律あるいは基準をもうけることについて、政府の見解を質したい。

一について

児童の権利に関する条約(平成6年条約第2号。以下「児童の権利条約」という。)第3条1の「児童の最善の利益が主として考慮される」とは、行政当局等が児童(児童の権利条約第1条に規定する「児童」をいう。以下同じ。)に関する措置をとるに当たり考慮する事項のうち、児童の最善の利益を主要なものの一つとして考慮することを求めるものであって、父母の利益、公共の利益等児童の利益以外の要素を考慮することを排除するものではないと考えられるので、これら様々な要素を考慮に入れた結果、児童の不利益になるような措置がとられることも必ずしも排除されるものではないと解される。

お尋ねの「就学中の未成年者や、その養育親の、退去強制をしない取り扱いを明記した法律あるいは基準をもうけること」については、出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。以下「入管法」という。)第50条に規定する法務大臣の裁決の特例による在留の許可において、在留を希望する理由、家族状況、生活状況、素行、内外の諸情勢その他諸般の事情を「児童の最善の利益」の観点からも総合的に考慮しているところであり、また、御指摘の未成年者等を一律に退去強制しないこととすると、公正な出入国の管理を図ることが困難となることから、適当でないと考える。

二 日本には未成年者を入管施設へ収容することを、制限する法律はない。また学齢期の子どもの収容を避ける取り扱いを明記した法律もない。日本の入管行政は「全件収容主義」をとっていて入管法上の違法状態にある場合、収容されることが、法律上の建前であると主張している。このことは、子どもの権利条約(児童の権利条約)の次の各号の違反になると考えるが、政府の見解をおうかがいしたい。

第3条(子どもの最善の利益)第22条(難民の子どもの保護・援助)第28条(教育への権利)第37条(死刑・拷問等の禁止、自由を奪われた子どもの適正な取り扱い)(b)および(c)

二について

退去強制手続における収容は、退去強制事由の有無の審査を円滑に行い、退去強制処分が確定したときには被退去強制者の送還を確実に実施するため、その身柄を確保するとともに、被退去強制者の本邦における在留活動を禁止する目的から行っているものである。

一についてで述べたとおり、児童の権利条約第3条は、公共の利益等を考慮に入れた結果、児童の不利益になるような措置がとられることを必ずしも排除するものではないと解されるので、右のような目的から行う退去強制手続における収容は、同条に違反しないものと考える。

一般に、入管法第61条の2に規定する「難民である旨の認定」(以下「難民の認定」という。)を受けた児童については、退去強制手続により収容されることはない。児童の権利条約第22条は、「適当な保護」及び「適当な措置」をとると規定するにとどまるので、難民の認定を申請した児童について、右に述べた目的から行う収容がなされたとしても、同条に違反するものではないと考える。

児童の権利条約第28条に規定する「教育についての児童の権利」は絶対的なものではなく、これに対する合理的な制限は許容されると解されており、退去強制手続における収容により、教育を利用する機会等が制限されたとしても、同条に違反するものではないと考える。

児童の権利条約第37条(b)に規定する「逮捕、抑留又は拘禁」とは、刑罰法規に違反したことを理由として自由をはく奪することを、同条(c)に規定する「自由を奪われたすべての児童」とは、刑罰法規に違反したことを理由として自由をはく奪された児童をそれぞれ指していると解されており、入国者収容所又は収容場(以下「収容所等」という。以下同じ。)に児童を収容することは、同条(b)又は(c)に違反するものではないと考える。

なお、収容令書又は退去強制令書の執行に際しては、年齢、健康状態等にかんがみ、人道的配慮を要する場合には、仮放免を許可するなど、児童の最善の利益にも十分配慮した運用を行っている。

三 親の入管への収容にともない、未成年者が親から分離され、児童相談所へ保護されたり、親戚などへあずけられる場合がある。また親と分離して児童相談所に保護した場合、その子どもの保護先を親に伝えない場合がある。また入管収容施設に収容される場合でも、親から分離されることがある。未成年者が家族から分離されないようにする方策はとられていない。以上のような取り扱いは、道義的に見ても問題があると考えるがどうか。

また、これは子どもの権利条約(児童の権利条約)の第9条(親からの分離禁止と分離のための手続)に抵触すると考えるが、どうか。

三について

児童の権利条約第9条1について、我が国は、「出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用されるものではないと解釈するものであることを宣言」していることから、同条に抵触するとの御指摘は当たらない。

保護者の収容に伴い、児童相談所や親族に当該児童の保護を依頼した場合、当該保護者から虐待を受けていた等の特別な事情がある場合を除き、収容中の当該保護者に依頼先を伝えることとしており、また、被収容者処遇規則(昭和56年法務省令第59号。以下「処遇規則」という。)第5条ただし書により、保護又は看護を必要とする児童については、保護者と性が異なっても同室に収容することとしているので、お尋ねのような問題はないと考える。

四 親の入管法違反にともない、未成年者に対する退去強制手続について「事前に準備をさせず、いきなりの摘発が行われ、摘発時点で学校や親戚などに連絡をさせない」「摘発に出向いた入管職員の通訳の代わりをさせられ、親の入管法違反について、子どもの口からいわせる」「未成年者自身が手続上入管法違反者として違反調査の対象となる」「16歳未満の者をのぞき、十指の指紋を採取する」「からだの傷、入れ墨、特徴などを記録するための下着になっての身体検査」などがなされている。以上のような取り扱いは、道義的に見ても問題があると考えるがいかがか。また、子どもの権利条約(児童の権利条約)の第37条(死刑・拷問等の禁止、自由を奪われた子どもの適正な取り扱い)に抵触すると考えられるがどうか。

四について

違反調査のため外国人の住居等に入国警備官が赴く場合等においては、その性質上、抜き打ち的に行わざるを得ない。

小学校、中学校及び高等学校に在籍している児童を収容した場合には、本人又は本人の保護者から連絡しないよう要望がある場合を除き、在籍中の学校へ連絡するよう配慮しており、本人から申出があれば親族等への連絡も認めている。

違反調査のため外国人の住居等に入国警備官が赴いた場合において、意思疎通の可能な言語を解する者が児童しかいないときに、やむを得ず当該児童を介してその父母等と意思疎通を行うことはあるが、そのような場合を除き、当該児童を通訳とすることはない。

出入国の公正な管理を図るためには、児童であっても違反調査の対象となることは当然であり、入管法第27条も違反調査の対象として「第24条各号の1に該当すると思料する外国人」と規定し、児童を区別していない。

指紋の採取は、個人識別のため児童であっても必要であり、入管法第61条の7及び処遇規則第12条に基づき行っているものである。

入管法第61条の7第4項に基づく身体検査は、危険物を持ち込む疑いがあるなど、保安上又は衛生上の支障がある場合を除き、着衣の上から行うこととしている。

これらに照らし、児童の権利条約第37条に抵触するとの御指摘は当たらず、以上のような取扱いに御指摘のような問題があるとは考えていない。

五 入管収容施設内の処遇について、未成年者の権利を守るため、未成年者のいる家族についての処遇、保護者のいない未成年者の処遇については、明記された法律がない。このことは権利条約第三十七条(死刑・拷問等の禁止、自由を奪われた子どもの適正な取り扱い)に抵触する疑いがあると考えられるが、政府の見解を質したい。

五について

児童の権利条約第37条は、児童及びその家族の処遇について特に区別して法律に明記することまで求めるものではなく、御指摘は当たらないと考える。

なお、被収容者に対しては、児童も含め入管法第61条の7及び処遇規則により、収容所等の保安上支障がない範囲内においてできる限りの自由を与え、適正な処遇を行っている。

六 未成年である被収容者に関して、1999年から年別、収容施設別に収容された人数を年齢別(6歳未満、6歳~12歳未満、12歳~15歳未満、15歳~18歳未満、18歳~20歳未満)、男女別、国籍別、収容期間別に示されよ。施設を移された場合には、その合算した収容期間を示されよ。

また、親の入管への収容に伴い、未成年者の児童相談所等、児童保護施設への入所状況及び、保護期間を1999年から年別、前記年齢区分別、男女別、国籍別に示されよ。

六について

平成11年から平成14年までの間に収容所等に収容された未成年者(20歳に満たない者をいう。以下同じ。)の人数について、収容時における年齢別の内訳は別表一、男女別の内訳は別表二、国籍別の内訳は別表三、収容期間別の内訳は別表四のとおりである。

平成11年から平成14年までの間に保護者の収容所等への収容に伴い児童相談所等へ入所した未成年者の人数等については、統計がないため答弁できない。

七 未成年者で退去強制令書執行後、実際には収容されず、過去強制手続きをとった子どもの状況を1999年から、年別、前記年齢区分別、男女別、国籍別に示されよ。また、その内退去強制した人数を示されよ。

七について

平成11年から平成14年までの間に退去強制令書の執行を受けた未成年者で、収容所等に収容することなく仮放免した者の人数及びこのうち退去強制した者の人数について、右執行時における年齢別の内訳は別表五、男女別の内訳は別表六、国籍別の内訳は別表七のとおりである。

八 妊婦である被収容者について1999年から年別、収容施設別、妊娠期間別に示されよ。

また、収容中の流産、堕胎件数についても明らかにされたい。また収容施設及び、一時執行停止での出産した者の人数を同様に明らかにされたい。

八について

平成11年から平成14年までの間に収容所等に収容された妊婦の人数について、収容所等別の内訳は別表八、その収容時における妊娠期間別の内訳は別表九のとおりであり、流産又は堕胎した者の人数は、流産が平成11年に1人及び平成13年に2人、堕胎が同年に一人である。

また、右の間において収容所等で出産した者はなく、仮放免又は行政訴訟における収容令書若しくは退去強制令書に基づく執行を停止するとの決定により身柄の拘束を解かれた者の出産の有無については、統計がないため答弁できない。

九 60歳以上の高齢である被収容者について、1999年から年別、収容施設別、年齢別(60歳~65歳未満、65歳~70歳未満、70歳~75歳未満、75歳~80歳未満、80歳以上)に、その人数を明らかにされたい。

九について

平成11年から平成14年までの間に収容所等に収容された者で、収容時に60歳以上の者の人数について、収容所等別の内訳は別表十、年齢別の内訳は別表十一のとおりである。

十 精神障害のある被収容者について、1999年から、年別、収容施設別にその人数を明らかにされたい。

十について

収容施設等に収容された者の精神障害の有無については、統計がないため答弁できない。

なお、平成11年から平成14年までの間に精神障害を理由に入院した被収容者の人数について、収容所等別の内訳は、別表十二のとおりである。

十一 身体障害のある被収容者について、1999年から年別、障害種類別、等級別、収容施設別に、その人数を明らかにされたい。

十一について

収容所等に収容された者の身体障害の有無については、統計がないため答弁できない。

なお、平成11年から平成14年までの間に収容所等に収容された者で、収容時に身体障害者手帳の交付を受けていた者の人数について、収容所等別の内訳は別表十三、当該手帳に記載された障害名別の内訳は別表十四、障害の級別の内訳は別表十五のとおりである。

右質問する。

別表1 収容時における年齢別の内訳(人)

年別 6歳未満 6歳以上12歳未満 12歳以上15歳未満 15歳以上18才未満 18歳以上20歳未満 合計
平成11年 117 38 24 173 403 755
平成12年 149 49 22 107 251 578
平成13年 222 126 32 163 443 986
平成14年 135 65 30 91 315 636

別表2 未成年者の男女別内訳(人)

平成11年 446 309
平成12年 297 281
平成13年 482 504
平成14年 288 345
合計 1,513 1,439

別表3 未成年者の国籍別内訳

別表4 未成年者の収容期間別内訳

別表5 退去強制令書執行時における年齢別内訳

別表6 男女別の内訳

別表7 国籍別の内訳

別表8 収容所等別の内訳

別表9 収容時における妊娠期間別の内訳

別表10 収容所等別の内訳

別表11 年齢別の内訳

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