声明・提言等(2021年4月1日)全難連より「入管庁発表「令和2年における難民認定数等について」を受けての声明」を発表しました。

「令和2年における難民認定数等について」を受けての声明 〜入管法の改悪ではなく、難民保護法の制定と国際的な基準に従った難民認定実務の確立を〜[PDF・352KB]

日付:2021年4月1日

団体:全国難民弁護団連絡会議

入管庁発表「令和2年における難民認定数等について」を受けての声明
〜入管法の改悪ではなく、難民保護法の制定と国際的な基準に従った難民認定実務の確立を〜

全国難民弁護団連絡会議
2021年4月1日

2020年、不服申立手続での難民認定者数が昨年に続き1人となり、不服申立ての棄却率[1]がほぼ100%となり、今回も不服申立手続の機能不全が浮き彫りとなった。合計の難民認定者数は前年と同水準の47人(前年比3人増)であったが、人道配慮による在留許可数も前年と同水準の44人に留まり、難民認定と人道配慮をあわせた庇護数は91人と4年連続で二桁となった。難民・庇護希望者にとって依然として極めて厳しい状態が続いている。近年の濫用・誤用対策の名のもとで、難民申請者数を減らすことに政策の重心が置かれた結果、保護されるべき難民が収容や送還の危機に瀕していることが危惧される。

1 2020年の難民保護状況の概観(表:難民認定数等の推移(1978~2020))

2020年、一次手続での難民認定申請者数は3,936人で、2013年以降で初めて4,000人を下回った。これは、新型コロナウイルス感染症対策による入国者規制で新規入国者数が激減したことが主な一因と考えられるが、出身国別で見ると、ほとんどの出身国について前年比で5割以上の減少をみせたが、複数回申請者が多い上位2か国のトルコとミャンマー出身の難民申請者数は、3~4割の減少にとどまった。

在留状況・申請回数別で見ると、複数回・非正規在留者の難民申請者数が当該数値が公表されるようになった2010年以降で最小値の124人(申請者数全体の3.2%)となった。

取下げ数は1,916人と高水準を維持し、処理数に占める取下率が過去最大の35パーセントに達した。

難民認定者数は前年と同水準となった一方で、不認定処分の数が減少したため、難民認定率は2011年以降で初めて1パーセントを超えた。難民認定者の出身国別にみると、中国出身者が初めて二桁に達したほか、ギニアとコートジボワールの出身の者が初めて難民認定された。難民認定された者47人のうちの少なくとも1人は、3回目の難民申請中に2回目の不認定処分に係る取消訴訟で勝訴が確定した事案であった(東京高判令和2年3月18日)。トルコ出身者については、本邦で難民認定制度の運用が開始された1982年から難民認定者が0人という状況が続いている。

2 2020年に注目すべき問題

⑴ 不服申立手続の機能不全

不服申立手続での難民認定数は、わずかに1人であった。認容率(難民認定率)は0.02パーセントにすぎず、参与員の認定意見が法務大臣に覆される事件が明るみになった2013年から8年連続で棄却・却下率(不認定率)が99%を上回る結果となっている。(表:不服審における難民認定数等(2006~2020))

昨年8月の日弁連会長声明で、2019年に不服申立人が口頭意見陳述を申立てたにも関わらず口頭意見陳述が実施されない事案が裁決案件全体の9.7%(口頭意見陳述申立て案件の約64%)に及んでいるなど、難民不服審査制度における適正手続保障の問題が指摘されたが[2]、2020年は更に悪化し、裁決案件全体の38.7%(口頭意見陳述申立て案件の約80%)が不服申立人が口頭意見陳述を申立てたにも関わらず口頭意見陳述が実施されなかった。(表:口頭意見陳述の開催状況(2019・ 2020))

当会では、不服申立人が理解しないままに口頭意見陳述放棄書を提出して、口頭意見陳述が実施されないままに不服申立てが棄却されている事案があることに重大な問題意識を持っているが、申立てをしてもなお実施されない案件が増加したことも深く危惧している。難民関係訴訟での難民の勝訴率[3]を下回る現行の難民不服審査制度は、行政手続を再審査する制度としては機能不全を来していると言わざるを得ず、抜本的な見直しが必要である。

⑵ 複数回申請

今次の入管庁発表において、出身国別の複数回申請者数が初めて公表された。数値が公表された複数回申請者数が多い上位5か国のトルコ(156人)、ミャンマー(62人)、ネパール(30人)、スリランカ(29人)、パキスタン(20人)の出身者は、諸外国においては相当数が難民認定を受けているが、我が国においては、ほとんど又は全く難民認定されていない。(グラフ&表:出身国別難民認定数等‐トルコ(2006~2020)ミャンマー(2006~2020)ネパール(2006~2020)スリランカ(2006~2020)パキスタン(2006~2020)

政府は、この複数回申請者を標的にして「送還忌避者」とのレッテルを貼り、送還停止効の例外規定や退令拒否罪の導入を含む法改正を正当化しようとしている。しかしながら、難民が迫害のおそれへの恐怖から送還を忌避することは当然のことである。諸外国での保護状況との比較からは、むしろ、我が国においては保護されるべき難民が保護を受けられておらず、本国にも帰国できないために、難民申請を繰り返さざるを得ない状況にあるとみるのが自然である。この現状を直視せずに、管理と制限の強化により難民・庇護希望者をさらなる窮地に追い込むことは、迫害国における迫害に加担していることにほかならず、当会として、また、基本的人権を尊重する民主主義国の一市民として、看過できるものではない。

 

⑶ 在留制限や就労制限による申請の抑止又は取下げの増加

前記のとおり、2020年の難民申請を取り下げた者の比率は、過去最大の35パーセントに達し、2018年から引き続き高水準となった。

2018年1月の「難民認定制度の適正化のための運用の更なる見直し」による運用変更以降、在留制限や就労制限によって難民申請者が萎縮し、収容などの不利益を避けるために申請を取り下げざるを得ない状況に直面していることが引き続き危惧される[4]。在留制限や就労制限の措置は、難民申請者に対する保護費の減少や、ほとんどの場合に難民申請受理から8か月間は住民登録ができず、国民健康保険にも加入できないという状況とあいまって、難民申請者の生活を著しく困難なものとしている。

また、在留制限によって収容された難民申請者については、2018年2月28日の指示以降[5]、収容に耐えられない病気にならない限り、仮放免がほぼ許可されないという運用のもと、長期にわたり収容された状態で申請を継続することを余儀なくされる状況に置かれている。

この生計手段や生活保障を奪うことによる難民申請への萎縮を狙った現在の運用は、間接的なノン・ルフールマン原則違反にほかならず、看過できない。

⑷ 今般のミャンマーの事態からの考察

  今般特記すべきこととしてミャンマーで起きたクーデターとの関係において,昨年も含めた最近のミャンマー人難民保護の動向について検討を要する。

 難民認定については,3年間で一次2044人,審査請求において917人ものミャンマー人難民申請者がいながら,過去3年間難民認定はゼロ,人道配慮については昨年はおらず,この3年間ではわずかに2名に過ぎない。

  今回のクーデターはミャンマーにおける抑圧状況の実態を露にした。この人権侵害の実態はこのクーデター前から存在していたことであって,世界的にみても,ミャンマーからの難民申請者の保護は手厚く継続していた。

  にもかかわらず,上記のように,日本ではミャンマー人の保護が事実上止まっていたに等しかった。これは,日本の難民認定において,その出身国情報(COI)の客観的分析が十分になされていないこと,迫害の分析においてCOIが十分に考察されることなく推移してきたことを示している。もちろん,ミャンマーだけではない,迫害のおそれを抱える国々のCOIの蓄積は極めて不十分である。

  今回のミャンマーの事態は日本の難民保護の貧困さが出身国情報の分析の不足にもあることを端的に示したということができる。

3 おわりに

以上のとおり、2020年においても、難民認定数(一次・二次合計)の若干の増加にもかかわらず、真に庇護を必要としている者を犠牲にしてでも、濫用防止を理由とした難民認定申請者取締りを優先するという法務省・出入国在留管理庁の姿勢は依然として変わっていない。難民条約の前文で述べられているような人間の基本的な権利や自由を保護するという姿勢は、残念ながら見られなかったと言わざるを得ない。

今般米国からも日本の難民保護が不十分であるとの指摘を受けたのは当然のことでもある[6]。かかる状態で現在法務省・出入国在留管理庁は,難民保護と逆行する送還停止効の一部解除や,これまでの人道配慮による保護をもできなくする「補完的保護」を企図して法案を成立させようとしている。

しかし,このような方向性が誤っていることは,昨年の難民保護の実態からも明らかである。日本がまずなすべきことは,難民条約の趣旨と目的に沿った難民保護法の制定と,国際的な基準に従った適正な難民認定実務の確立である。

《本声明に関する連絡先》
全国難民弁護団連絡会議事務局
〒160-0004 東京都新宿区四谷1-18-6 四谷プラザビル4階
いずみ橋法律事務所内
電話:03-5312-4827 Fax:03-5312-4543
Eメール:jlnr@izumibashi-law.net
URL:http://www.jlnr.jp/

[1] 棄却数÷(認容数+棄却数)の百分率

[2] 日本弁護士連合会「行政不服審査法改正の趣旨に沿った、難民不服審査制度の正常化を求める会長声明」(2020年8月27日)、https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2020/200827.html

[3] 難民関係訴訟における難民の勝訴率は、データの入手可能な過去5年間で3%程度。

[4] 申請者の取下げと同時に、保護を受けるべき難民が、収容への恐怖から難民申請を躊躇してしまうことも懸念される。

[5] 平成30年2月28日付け法務省管警第43号法務省入国管理局長指示「被退去強制令書発付者に対する仮放免措置に係る適切な運用と動静監視強化の更なる徹底について」

[6] 米国国務省「国別人権報告書2020年:日本〔2020 Country Reports on Human Rights Practices: Japan〕」(2021年3月30日)、https://www.state.gov/reports/2020-country-reports-on-human-rights-practices/japan/