「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明[PDF](外部リンク:群馬弁護士会)
日付:2020年10月14日
団体:群馬弁護士会
法案の全容判明にあたり、改めて反対のため掲載します。
— 全国難民弁護団連絡会議(全難連) (@zennanren) February 11, 2021
送還忌避罪創設は、難民を不当に処罰する可能性がある。 https://t.co/znEIruvWXF
「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明
2020年6月19日,法務大臣の私的懇談会である「出入国管理政
策懇談会」の下に設置された「収容・送還に関する専門部会」は,「送還
忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(以下「本提言」という。)を
公表した。今後は本提言を踏まえた形で出入国管理及び難民認定法(以
下「入管法」という。)の改正に向かうことが予想される。
しかし,本提言には,①退去強制拒否罪の創設,②一定の難民申請者
から「送還停止効」を外す措置の導入,③仮放免逃亡罪の創設という外
国人の人権保障の観点から容認し難い内容が含まれているのみならず,
④収容期間に上限を設けることや司法審査の導入という長期被収容問題
の解決に不可欠な制度改正については見送られている。
したがって,本提言に対しては,強く反対する。
以下,個別に問題点を指摘する。
1 退去強制拒否罪の創設
本提言29頁は,被退去強制者に渡航文書の発給申請等や本邦から
の退去を命ずる制度及び命令違反に対する罰則(退去強制拒否罪)の
創設を検討するべきとする。
しかしながら,退去強制拒否罪の創設は,在留特別許可を求める者
及び難民に該当するのに難民認定されないためにやむを得ず難民認定
の複数回申請をする者等正当な権利行使を行おうとする者が処罰対象
となる可能性がある点で容認できない。
また,そのような者に対して食料や住居を提供するなどして支援す
る者,日々の生活を支える配偶者等の家族,無料・低額診療を提供す
る医師・看護師及び相談や依頼を受ける行政書士,弁護士等の専門家
が「共犯」として「犯罪」化される危険を払しょくできない。すなわ
ち,人道行為,家族の日常の生活や権利擁護活動までもが不当に処罰
されかねないのであり,これらの活動を著しく委縮させるおそれを否
定することはできない。
このような罰則の創設を許せば,帰国できない深刻な事情を持った
被退去強制者は,支援を求める声を挙げることすら許されず,物質的
・精神的支援,法的支援からも遮断されるということになりかねない。- 2 –
2 「送還停止効の例外」の導入
本提言34頁は,難民認定申請手続の審査中には強制送還され
ない,いわゆる送還停止 効 ( 入 管 法 6 1 条 の 2 の 6 ) の定めにつ
いて,再度の難民認定申請者については一定の例外を設けること
を検 討 する よ う求 めて い る。
しかし,日本における難民認定率は2011年以降0.5%以
下であり,諸外国に比べて極めて低いのが現状である。 したがっ
て,難民認定申請者のほとんどが本国での迫害を逃れるため 難 民
申請を1回しただけでは足りず に 2 回 目 以 降 の 難 民 申 請 を 強 い ら
れて き た, と いう 現状 が ある 。
このような状況 に お い て 送 還 停 止 効 の 例 外 を 設 け る こ と は , 誰
一人として迫害を受けるおそれのある地域に送還してはならない
という 国 際 的 な 原 則 で あ る 「 ノ ン ・ ル フ ー ル マ ン の 原 則 」 ( い わ
ゆる 難 民条 約 33 条1 項 ) に 反 する 結果 を 招来 す る危 険が 高 い。
複 数 回 申 請 者 を 難 民 制 度 の 誤 用 濫 用 者 と 決 め つ け る の で は な
く,難民が間違いなく難民として認定されるようにする制度設計
こそ が 求め ら れる 解決 策 であ る 。
3 仮放免逃亡罪の創設
本提言54頁は,仮放免された者の逃亡等の行為に対する罰則
(仮 放 免逃 亡 罪) の創 設 を検 討 する 。
しかしながら,逃亡した被仮放免者に対しては,保証金の没収
などの措置が既 に 取 ら れ て お り , 新 た な 刑 事 罰 を 創 設 す る 必 要 性
を示 す 立法 事 実が 示さ れ てい な い。
見直されるべきは,全件収容主義や仮放免の適正な運用であっ
て ,こ れ らの 見 直し のな い まま 厳 罰化 を進 め るの は 適切 では な い。
さらに,被仮放免者が仮に逃亡した場合,仮放免許可申請に 関
わりあるいは身元保証人になるなど支援 し た 者 や 専 門 家 等 が , 同
罪の「共犯」として処罰される危険があることは,退去強制拒否
罪と 同 様で あ る。
4 収容期間に上限を設けることや司法審査の導入という長期被収容問
題の解決に不可欠な制度改正についての見送り
長期収容 政 策 は , こ れ ま で も た び た び 問 題 に な っ て お り , 長 期- 3 –
被収 容 者の 死 亡事 件も 起 きて い た。
当会でも2018年5月15日 付 け 「東日本入国管理センター
における被収容者死亡事件に関する会長声明」にて,「被収容者
の心身に多大な負担を強いる長期収容を直ちに停止し,仮放免制
度の 適 切な 運 用を 実施 す るこ と を」 求め て いた 。
しかしながら,本提言 で は こ れ ら を 抑 制 す る た め の 制 度 改 正 に
つい て は見 送 って いる 。
このような状況下, 国 連 の 恣 意 的 拘 禁 作 業 部 会 は , 2 0 2 0 年
9月23日 に , 入 管 収 容 に つ い て の 無 期 限 収 容 や 入 管 収 容 に つ い
て司法審査による救済が定められていない点を国際法 ( 自由権規
約9 条 1項 等 )違 反で あ ると 指 摘し てい る 。
当会とし て も , 長 期 収 容 を 防 止 す る セ ー フ テ ィ ー ガ ー ド と な る
収容期間の上限の設置や,被収容者の人権侵害を防止するための
司法 審 査の 導 入は 不可 欠 と考 え る。
最後に,群馬県内には,ミャンマー政府から迫害を受ける少数派イス
ラム教徒「ロヒンギャ」が集住している地域があり,難民問題は極めて
身近な問題といえる。
当会としては,難民申請者,非正規滞在者,それを支援する専門家及
び市民の方々が,委縮することなく市民生活を送ることができるよう本
提言に反対する次第である。
令和2年(2020年)10月14日
群馬弁護士会
会長 久保田寿