難民専門部会(第16回・2014年11月7日)

難民認定制度に関する専門部会開催状況(外部リンク:法務省)

○第16回会合 平成26年11月7日(金)
当局から難民認定制度の各論点について説明を行った後,議論を行った。

第16回 難民認定制度に関する専門部会 議事概要

1 日時
平成26年11月7日(金)午後5時30分から7時30分まで

2 場所
法務省10階入国管理局会議室

3 出席者(敬称略)
(1)難民認定制度に関する専門部会
山本部会長代行,横田顧問,石川委員,田中委員,野口委員,柳瀬委員,渡邉委員
(2)法務省
井上入国管理局長,杵渕官房審議官,菊池総務課長,丸山審判課長,山下警備課長,小新井参事官,君塚難民認定室長 根岸企画室長 他
(3)オブザーバー
外務省
UNHCR駐日事務所

4 議事概要
法務省から難民認定制度の各論点について説明を行った後,議論を行った。委員から出された主な意見や質問は以下のとおりであった。

○ 事前審査制を導入する場合に,行政庁がおよそ事案を受け付けないとすることはできず,簡易・迅速に答えを出すためには事案の性質に照らして振分けをしていく必要があるが,その基準をあまり複雑な基準にしてしまうと,かえって時間がかかり意味を失う。外形的に比較的明確に審査ができるような振分け基準としてどういったものが考えられるか。

○ 仮に導入する場合でも,本来的に保護すべき人たちを誤って見落とすことは許されないため,振分け基準は厳格に考えていかねばならない。少なくとも難民調査官が全件インタビューをした上で判断をすることが必要。再申請についても判断結果に対しては異議申立てができるシステムが必要。

○ 異議審で口頭意見陳述を放棄する案件が増加しており,改めて意思確認を行ってもほとんどの者が審尋に来ないようだ。そのような案件は最初の段階で振り分けるということはあり得るのではないか。他方,当初から難民性が高い事案について,優先的に対応できないか。

○ 口頭意見陳述を放棄する案件については,現行の運用ではどのような処理を行っているのか。(←当局から,改めて意思確認を行っているところ,やはり放棄の意思確認をした案件については,基礎調査を行った上で事件を難民審査参与員に配分し,意見書を提出いただき,最終的な判断するといった,書面審査により処理している旨回答。)

○ あまり細かく振分けの要素を設けてしまうとそれだけで時間がかかる。迅速化を図るのであれば,明らかに該当しないものだけを確認して振り分けていくのがよいのではないか。他方,明らかに難民該当性が認められるもの,あるいは脆弱な立場にあるものについては,迅速に保護に結び付けていくべきで,事前審査の中でそれをどう取り扱うかということも検討されるべき。また,判断主体については,専門性の高い者が審査できるような体制にしないといけない。

○ 行政法的観点からは,申請の要件をあらかじめ定めておいて「却下」の道を開くほうがシンプルという気がする。

○ 「事前審査」という言葉がひとり歩きしている感があり,「迅速に事務を処理するための改善案」という形で検討していったほうがよいのではないか。そう考えると,判断権者についても現在の仕組みからは大きく離れない方がよいのだろう。一次審査の最初の段階で,結論を出してもよい場合をピックアップし,その判断に不服な場合には異議を申し立てることができる仕組みにし,続いて異議審の段階で,一次審の判断が適切かどうかを判断し,不適切であれば本案を審理するという形でやれば合理化が進み,しかも,本人に不利になるようなことは少な
くとも避けられるのではないか。

○ 事案の処理に当たって優先順位を考えるということは常に必要で,明らかに根拠のない事案が相当の割合で存在する中で,本当に審理しなければならない対象事件をどういう形で定めていくのかを考えた場合に,最初の手続の中に様々な事案が混在している姿は好ましいものではない。一見明白性の基準というものを立てて,「本流」で行うべきものと,明白な濫用事案であるとか,あるいは明らかに根拠のない主張をしている事案であるとかを「支流」のほうに持っていくという形で考えていくのがよいのではないか。判断主体は事案を判断する内容との関係で決まってくるものであり,豊富な知見を有する者が行えば,うまく機能するのではないか。

○ 一次審査への代理人の立会いの可否を考えるに当たって,現状,異議審査における代理人弁護士の対応は本当に問題がある。申立人の主張の整理もせず,フォローすることも全くせずにただいるだけであり,何のための代理人か呆れてしまう状況。一次審査の場合には,例えば,一定の事情のある年少者に限るなど,限られた場合のみということで考えていくべきで,全てを無条件で認めるということにするべきではない。

○ 自分は,一次審査への代理人の立会いは,申請人の権利であると捉えている。ただ,全てのケースに必要的に付すというよりは,本人の希望がある場合に限るのがよい。立会いができる代理人は,例えば登録制,あるいは国選などとすることがあり得ると考えている

○ 申請者が希望する場合の一次審への弁護士の立会いを全面的に認めてほしいと考えている。これまでも弁護士の支援により,多くの申請者が難民認定あるいは人道配慮を得てきており,弁護士の果たしてきた役割は大きい。異議審査において問題のある代理人が多いという現状は,もちろん今後の課題として取り上げられて改善されなければならないし,弁護士サイドとしても対処をしていくということが前提だが,それとは別の問題として,制度としては,難民の庇護を求める人たちが法律専門家を使って保護を求めていくということが非常に重要と考えている。

○ 未成年者,身体障がい者又は精神的障がい者の場合には代理人の存在が必要だが,全件となると,これまで聞いている限り,異議審査段階での代理人弁護士の実情や,代理人弁護士の都合でもって日程調整が難航するなどの状況の中で,それにより決定までの期間が更に延びるということが今後,一次審査の場でも生じることが懸念される。代理人弁護士が役割を果たすと主張する以上は,弁護士サイドで自主的に,現在生じている問題への解決策や,日程調整に対する全面的な協力といった点について,具体的な対応,実績が認められてはじめて検討に移されるべき。

○ 難民申請の一次審査における代理人の立会いについては,もとより刑事裁判における被告人や弁護人固有の権利というような性質のものではないのであって,制度的な枠組みとして代理人の立会いの可否の点について検討するに当たっては,実際に体制として成熟した受け皿があるかどうかということをにらみ合わせながら制度設計をしていかないと,制度として全体的にうまく機能しないであろう。

○ 一次審への代理人の立会いを,いきなり制度として一般的なものにするということに関しては様々な懸念もあるだろうし,段階的に成熟させていくというプロセスを経ないと制度化は難しいと感じている。そういった意味で,試験的,プロジェクト的な取組みを行うということが考えられるのではないか。

○ 不法滞在者等の非正規在留者である申請者の就労の可否の論点について,場合によっては非正規の人も一定の要件を満たしている場合には就労の機会を与えることが考えられてもよいとは思うものの,この点は,不法就労問題にも大きく関わり,さらには日本の外国人労働者政策との関係の議論との調整を図る必要があり,提言をしたとしても,それが直ちに国の政策に直結するとはいえないのではないか。また,特に非正規の場合に,明らかに就労目的だとか,日本国の安全秩序に対して有害な影響を与える可能性のある者が,ただ難民申請をしているというだけで無条件に就労の機会が与えられてしまうような状況は避けなければいけない。

○ 非正規在留者の就労の問題については,正規在留者からの難民申請の場合,ほとんどのケースでブローカーが介在し,申請から半年間経てば必ず就労できるということが広く知れ渡って,現在のように悪循環をもたらす形になっているということを踏まえて考えなければならない。

○ 基準の明確化の論点について,難民認定の基準がないというのが今の日本の状況であり,難民行政の中で構築されていく必要がある。中身についてもUNHCR等が示している基準が参照されるべきである。行政庁側が適正な手続を行っていることを示すという意味で基準が構築されるべきであって,行政処分の基準として依拠していくべきものを具体的に確定させることがまずもって必要。UNHCRや,IARLJ(国際難民法裁判官会議)という組織が示している基準が国際的に通用していると理解。

○ 難民認定という行為は,条約に定める要件に該当すれば覊束的に認定するというものであり,一般的な申請に対する処分の審査基準とはかなり性質が違うし,そもそも審査基準として規定しきれるものではない。法律上は条約上の難民と認定するかどうかというプロセスだとされており,解釈基準というイメージではないのか。そうすると,非常に曖昧な,迫害のおそれ,信憑性などの要素を実質的な基準として定めることができるのか。

○ 迫害のおそれ,信憑性についてはこう考えるという基準はUNHCRのガイドライン等でも示されており,こういったものを参照し,中核的な要素を見出していくことは可能であると考えている。UNHCRのガイドライン等をそのまま法文として基準化するかどうかについては何ともいえないが,少なくとも行政処分をしていく上での基準として,入管局の事務処理要領等として用意するかどうかなどについては,様々な考え方があり得る。

○ 国際的に明文化されている基準が存在するわけではなく,難民認定に関しては,行政法上の基準とは性質が異なると思うが,世界では難民条約に照らしてどのような保護ができるかということが常に議論・研究されており,そこである程度のところで国際的に合意できているベースラインが,基準なのか規範なのかはともあれ,国際的な基準ということになるのではないか。

○ 基準の議論は,出身国情報の収集・分析との関係で考えられるべき。出身国情報収集の専門部署を設置し,その中で,シリアやアフガニスタンの状況などに関するUNHCRのスタンスなども含めて情報を収集,総合的に分析・判断し,情報整理を行うことで,いま議論している基準というものの考え方を現場実務に反映していくべきではないか。

○ 出身国情報の専門部署の設置という意見があったが,民間委託という形で実現できないか。それは,独立性をより強固にするという意味と,出身国情報の収集・分析情報を代理人も含めた全ての関係者が使えるものにするという意味で実益があると考える。

○ 行政決定の基礎が民間組織による判断に依存するという形は,法の原則からいってもなかなか受け入れられるものではない。難民調査官なり参与員の判断に資する仕組みとするためには,法務省の中にそういった組織を設けて,かつ,客観性等を担保するために,その中に専門家を参画させるなどの形がよいのではないか。

○ 参与員には,各国情報に精通している者が多くいるので,彼らに最新の各国状況などを調べに行ってもらい,それを共有するということも有益ではないか。

○ UNHCRのガイドライン等は,基準というよりは,考慮要素・留意事項の列挙であり,行政法の観点からは,いわゆる基準として扱うことについては疑問がある。基準そのものを策定することには限界があると考えており,むしろ様々な情報を収集・分析して,それを個別の事案にフィードバック,あるいは研修材料にする,そこではUNHCRからも情報を提供してもらうといった,情報の収集,調査,共有するための総合的なシステムをつくることが重要。

○ 様々な組織で物事を判断する場合において,判断の際の指針とか手引といったものを作成することはよく行われるが,それは,流動的な諸般の事情に対応して,最新のものを実務の中に取り込んで柔軟に処理するという要請を踏まえながら拘束力のある最終判断を行うということが事案の処理にふさわしいからであろう。主要な判断要素について基準という形で策定してしまうと,判断そのものがかなり硬直したものとなってしまう。仮に基準を作るのであれば,判断の前提になる諸事情を基に,どのような範囲で,何を判断材料にするのかといった点を含めて相当深く議論をしておかないと,策定するというところには至らないのではないか。

以 上

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