声明・提言等(2023年3月24日)全難連より「入国在留管理庁による「難民該当性判断の手引き」の問題点を指摘し引き続き政府入管法案への反対を呼び掛ける声明 」を発表しました

入国在留管理庁による「難民該当性判断の手引き」の問題点を指摘し引き続き政府入管法案への反対を呼び掛ける声明 [PDF・167KB]

日付:2023年3月24日

団体:全国難民弁護団連絡会議

<声明文全文>

出入国在留管理庁による「難民該当性判断の手引き」の問題点を指摘し 引き続き政府入管法案への反対を呼び掛ける声明

入管庁は、2023年3月24日、「難民該当性判断の手引き」(以下、「同手引き」といいます)を発表しました。これは、同手引きの「はしがき」によると、第6次出入国管理政策懇談会の下に設置された「難民認定制度に関する専門部会」の提言を受けて策定されたものということです。しかし、同専門部会の提言は、2014年12月、つまり、今から8年以上も前に出されており、同手引きが、政府入管法案提出後のタイミングである今になって、ようやく発表されたことからは、その真の目的が入管法の改定にあるのではないかと、疑問を呈さざるを得ません。

 同手引きの問題点について、以下のとおりコメントします。

1 今までよりも多くの難民が認定される保障はないこと

 同手引きの「はしがき」によると、「本文書は、これまでの我が国の実務上の先例や裁判例を踏まえ・・・考慮すべきポイントを整理したもの」であり、「難民認定業務に活用することはもちろん、広く我が国の難民認定制度について理解いただくことを意図している」と、その意図が記載されていますが、 <今までよりも広い基準で難民認定を行う>というような記載は一切ありません。同手引きを策定したことによっても、日本において、今までより多くの難民が保護/認定される保障はないのです。[1]

 もし、過去に不認定とされた申請者のうち、同手引きによれば難民として認定されるべき者がいる、ということであれば、まずはその人たちを、さかのぼって追加的に難民認定し、同手引きがこれまでの認定基準とは違うこと、より多くの者が難民として保護されることを示すべきです。

 それがなされない限り、日本の極めて低い難民認定率は今後も変わらないと考えざるを得ません。

2 同手引の内容について

 同手引の内容についても、そもそも基準として厳しすぎたり、運用によって難民として認められる範囲が狭められたりするおそれがあります。具体的には、たとえば次のような問題点があります。

 ① 「迫害」の範囲が狭く解されるおそれがあること

 同手引きによると、難民の要件である「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」における「迫害」の意味について、「主に、通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫であって、生命又は身体の自由の侵害又は抑圧をいうと考えられる」としています。しかし、UNHCRハンドブックによると、「迫害」は、「・・・生命又は自由に対する脅威は、常に迫害に当たると推論される。同様な理由によるその他の人権の重大な侵害もまた迫害を構成するであろう」として、これらを並列的に扱っています。同手引きは、従前、入管が主張していたように、「生命又は身体の自由の侵害又は抑圧」のみが迫害であるという、国際的な基準よりも著しく狭い解釈に、限りなく近づく危険があります。

 ② 迫害を受ける可能性が極めて高い者しか認定されないおそれがあること

   同手引きによると、「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」の要件を満たすには、「迫害を受ける抽象的な危険があるだけでは足りず、迫害を受ける『現実的な危険』があることが必要」とした上、現実的な危険の有無については、個別具体的な事情を踏まえて判断とされるとしています。

 しかし、国際的な基準においては、個別具体的な事情があることまでを必ずしも必要とはしておらず、確率としては低いものであっても足りるとされています。

 また、同手引きにある「現実的な危険」という用語について、諸外国の裁判例では”real chance”という表現が使用されており、「現実的な見込み」と訳されることからすれば、「危険」という用語が一人歩きすることで、迫害を受ける可能性が極めて高い者しか、難民として認定されない可能性があります。

 また、同手引きは、「迫害を回避するために取り得る合理的な手段が存在する場合」には難民とは認められない場合がある、としていますが、これも難民申請者にいわれなき義務や、権利侵害の受忍を課すことにつながり、難民認定の範囲が不当に狭められる可能性があります。

 ③ 「政治的意見」を理由とする難民は、政府に個人が個別的に把握されていることを要件としていること

 同手引きによると、総論部分において、「実際に迫害を受けていることは要件ではない」「迫害主体から個別的に認知(把握)されていると認められる場合・・・積極的な事情となりうるが、そのような事情が認められないことのみをもって、直ちに申請者が迫害を受けるおそれがないと判断されるものではない」などとしており、一見、迫害主体から個人が個別的に把握されていなくても、難民として認められるかのように書かれています。

 ところが、日本でも申請数が多い「政治的意見」を理由とする難民申請者については、「通常、申請者が政治的意見を有していることを迫害主体によって認知され、又は申請者が実際には政治的意見を有していないにもかかわらず迫害主体によって何らかの政治的意見を有しているとみなされている必要があ」るとしています。これは、これまで難民支援者や弁護士が厳しく批判してきた「個別把握説」に他ならず、国際的な基準に比べて、難民認定の範囲を著しく狭めるものです。

 このように、同手引きによっても、難民として認められる範囲が不当に狭められるおそれがあり、国際的な基準によれば難民として認定されるべき者が、認定されない可能性があります。

3 低い難民認定率の根本的な原因は変わらないこと

 そして、この手引きは、あくまで難民該当性の判断の際の規範的要素を説明したものであって、これまでの日本の難民認定制度の問題点とされてきた、手続機関や、判断手法などの問題については言及していません。

 手続機関については、現行法においては、難民認定の最終判断は法務大臣が行い、それに至る調査手続は、一次審査、審査請求手続とも、入管庁が担っています。難民の保護を目的とする難民認定手続は、出入国管理とはその性質を異にし、これらを同一機関が担うことは、そもそも矛盾があります。今回、同手引きを新たに作っても、入管庁が実際の手続を担当すれば、上記2のように、難民の範囲を狭める方向に手引きを解釈し、運用することが、簡単にできてしまいます。難民認定の運用を国際基準に沿ったものにするには、まず、入管庁から独立した専門機関において、難民認定手続を行う必要があります。

 また、判断手法については、申請者に客観的証拠の提出を求めるなど、高度の立証責任を負わせることが問題視されてきました。迫害から逃れてきた者は、難民であることを示す客観的証拠を持たずに到着することが珍しくなく、本国から証拠を取り寄せるのも簡単ではありません。UNHCRハンドブックでは、このような場合、「疑わしきは申請者の利益に」(灰色の利益)として扱うべきとしていますが、同手引きには「灰色の利益」に関する記載はありません。申請者に対して高い立証責任を負わせることは、難民であるにもかかわらず不認定としてしまう危険があり、これを防ぐためには、立証責任に対する考え方を改める必要があります。

 その他にも、申請者のインタビューに弁護士の立ち会いを認めなかったり、録音による記録を行わない、空港申請の場合に仮滞在許可を与えずに収容するなど、日本において弱い立場にある申請者に対して、不利な条件で手続を行っているという問題があります。

 このような難民認定手続の根本的な問題は、この手引きによっても解決されません。

4 まとめ

 このように、入管法案の提出後のタイミングで発表された「難民該当性判断の手引き」は、その真の目的が難民の保護にあるのか疑問であることに加え、同手引きによっても、日本において、難民として認定されるべき者が確実に保護される保障、これまでよりも多くの申請者が認定される保障はありません。

 日本の極めて低い難民認定率を改善するためには、難民認定手続を入管庁から独立した機関において行うことや、立証責任に対する考え方を改めること、その他の根本的な問題を解決することが不可欠です。

 同手引きの発表をもって、政府提出の入管法案のゴールともいうべき、3回目以上の難民申請者の送還停止効を外すことを認めることは、真の難民を迫害を受ける危険のある国に送還してしまうことに直結するため、私たちは引き続き、政府提出の入管法案に対し、断固として反対することを呼び掛けます。

以上

[1] 「性的指向やジェンダーに起因する迫害といった、難民条約締結当時には想定していなかったであろう事情に関連する内容にも言及」とあるが、特に新しい論点ではない。現に、性的嗜好やジェンダーに起因する迫害について、認定された例は過去に複数ある。https://www.moj.go.jp/isa/content/001345020.pdf(令和2年、事例5~8)

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