「入管法改正案の審議において国際人権機関の勧告を真摯に検討し、国際人権法との合致を確保することを日本政府に求める声明」
日付:2021年5月11日
作成:国際法・国際人権法・憲法研究者有志一同
入管法改正案について、憲法・国際法などの学者124人が、廃案も含めて抜本的な再検討を求める声明を発表しました。
— 全国難民弁護団連絡会議(全難連) (@zennanren) May 11, 2021
上村英明教授「国連の人権理事会の理事国である日本がこうした法改正を目指すことが国際社会でどう受け止められるのか、しっかり認識する必要がある」https://t.co/zaWgpUB67N
入管法改正案の審議において国際人権機関の勧告を真摯に検討し、 国際法・国際人権法・憲法研究者有志一同 2021 年 5 月 11 日 出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)に基づく日本の出入国管理(以下、入管) 2 による 2021 年 3 月 31 日付共同書簡(https://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/ 3 日本は、世界人権宣言や自由権規約を含む普遍的な国際人権基準を遵守することを誓
国際人権法との合致を確保することを日本政府に求める声明
収容制度では、「全件(原則)収容主義」がとられており、在留期間を超えて在留し
ているなど同法上の退去強制事由に該当する場合、難民認定申請中であるといった個
別事情や逃亡の恐れの有無に関わりなく、出入国在留管理庁(以下、入管庁)の収容
施設に収容できることになっている。さらに、退去強制令書が発付されれば、入管法
上、送還可能なときまで無期限に収容されうる。このように、裁判所による司法審査
を経ることもなく法務省入管庁という行政機関の判断のみで人の身体を無期限に拘
束できる日本の入管収容の制度は、刑事手続の場合と比べても異例であり、自由権規
約や拷問等禁止条約のような人権条約に照らして大きな問題がある。
特に、自由権規約9条で何人も恣意的に抑留(detention; 拘禁・収容と同義)されな
い権利が認められていることから、入管収容は最も短い適切な期間内で行われ、かつ、
収容以外の代替措置が適正に考慮された場合にのみ行われること(日本に対する自由
権規約委員会 2014 年総括所見)、収容は諸事情に照らして「合理性、必要性及び比例
性」がなければ正当化できないこと、「同じ目的を達成する上で権利侵害の少ない手
段」を考慮しなければならないこと(自由権規約委員会一般的意見 35)が指摘されて
いる。すなわち、収容は最終手段であって、より人権侵害的でない代替手段を検討す
ることが求められ、条約締約国である日本として、これと背馳しない制度にする必要
がある。また、司法審査を受ける権利を定めた 9 条 4 項から、収容の継続の合法性に
ついて、独立した機関による審査を受ける権利が認められなければならない(上記総
括所見)。
日本の入管収容ではこのような人権への配慮がなく、日本で家族生活を築いており日
本人配偶者や日本国籍の子どもがいるような人も含め、数か月から場合により何年に
もわたって長期間収容することによって様々な人権を侵害している。国連人権理事会
の恣意的拘禁作業部会は 2020 年 9 月、正当な理由がなく司法審査もなしに長期間に
わたって行われた入管収容を自由権規約違反とする意見を出している。また、被収容
者が難民にあたる人である場合には、収容は、国は難民の移動に対して必要以上の制
限を課してはならず他国への入国許可を得るために必要な便宜を与えるとした難民
条約 31 条 2 項に反する重大な移動制限を課すものになっている。
見通しの立たない長期収容で心身を病み、自殺未遂をする人や、ハンガーストライキ
をする人、実際に命を落とした人も少なくない。収容施設における医療体制の不備も
しばしば指摘されている。2020 年 8 月に名古屋入管に収容され 2021 年 3 月に死亡し
たスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(享年 33 歳)のケースでも、監視
カメラの映像は公開されておらず、状況は不透明なままである。
現在、国会審議中の入管法改正案は、こうした入管収容のあり方を改善するどころか
さらに悪化させるものであり、国連人権理事会の特別手続担当者(移住者の人権に関
する特別報告者、恣意的拘禁作業部会、思想・信条の自由に関する特別報告者、拷問
及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する特別報告者)
2021/04/e315f47598caf32d41ca36db213c0592.pdf )、国連難 民高 等弁務官事 務所
(UNHCR)の 2021 年 4 月 9 日付見解(https://www.unhcr.org/jp/wp-content/
uploads/sites/34/2021/04/20210409-UNHCR-Comments-on-ICRRA-Bill-Japanese.p
df?fbclid=IwAR1KyujOtmR7ZIXwt6ZYBtiyCzatpatTEl-6YcaIDxIR9UTEWM5L9_bspk4 )
などにおいても懸念が示されている。
主な問題として、第 1 に、難民認定申請中の送還停止効の例外を導入することは、難
民条約 33 条 1 項が定めかつ慣習国際法にもなっているノン・ルフールマン原則に違
反する可能性がある。日本の難民認定では、難民条約 1 条にいう難民にあたるか否か
につき、難民認定申請者本人に対し逮捕状が出ている、反政府団体の指導的立場にあ
るなど、その者が本国政府から個人的に把握され、狙われているかどうかが重視され、
そうでなければ難民とは認められないという独自の個別把握論がとられており、難民
条約にいう「迫害の恐れ」の要件のハードルが高く設定されている。また、入管側で
の国別人権状況の調査や、能力のある通訳を交えた難民認定申請者からの聴取、難民
に適切な保護を与える見地からの任務遂行はいずれも決して十分とはいえず、申請や
聴取の際に「無駄です」「嘘をついている」「国に帰って下さい」などと言われた人が
相当数いるという調査結果もある。このため日本の難民認定率は、難民条約という同
じ基準で難民認定を行っているにもかかわらず他国と比べて非常に低く、他の G7 諸
国では 2~7 割程度に及ぶ(補完的保護の多いイタリアを除く。イタリアは補完的保
護を合わせて 3 割程度)のに対しここ 10 年ほど 1%未満という異常に低い率になっ
ている。このような状況下では、難民認定申請を複数回行う者が出ることはむしろ自
然である。難民認定制度が機能していない現状を見直すことなく、3 回以上の申請者
等について送還停止効を外すという改正案は、迫害からの保護が必要な人を本国に送
還するリスクがあり、ノン・ルフ―ルマン原則の違反となりうる。
第 2 に、退去強制令書が発付されても退去しないことへの罰則の創設に対する懸念で
ある。退去を拒む人には、本国に送還されれば迫害の恐れがある、日本に家族がいる、
などの事情がある場合がある。迫害からの庇護を他国に求めることは、世界人権宣言
14 条で認められた普遍的な人権である。庇護を求めて正当な申請を繰り返す場合にも、
これを妨げるために刑罰を科すということは問題である。
第 3 に、新たな「監理措置」制度に対する懸念である。「監理措置」が導入されても、
主任審査官の裁量で認められた場合に限り例外的に適用されるにすぎず、収容が原則
であることに変わりはない。このことは、収容は最後の手段としてのみ使用するとい
う国際人権法の原則に反する。
日本は自由権規約や拷問等禁止条約、難民条約の締約国として、これらの条約を誠実
に遵守する義務がある。自由権規約委員会、拷問禁止委員会のような人権条約機関は、
条約によって設置された履行監視機関であり、そのような機関が示した法解釈は有権
解釈としての高い権威が認められている。また UNHCR は難民条約上、同条約の適用
を監督する責務を与えられている。国連人権理事会の特別手続は、世界人権宣言及び、
国が批准している人権条約の規定を人権基準として用いている。いずれも、憲法 98
条 2 項の定める国際法遵守義務からしても、十分に尊重されるべきものである。
約して人権理事会理事国に立候補し、当選している。さらに、日本は 2016 年、自ら、
恣意的拘禁作業部会の意見に各国が十分な考慮を払うべきであるとした人権理事会
決議 33/30 の共同提案国にもなっている(https://www.right-docs.org/doc/
a-hrc-res-33-30/)。日本が国連加盟国に求めたその姿勢は、当然ながら、自国の問
題が指摘されたときにも求められるはずである。
自由権規約、難民条約などの条約は入管法を含む法律に優位し、入管法の改定にあた
っては、これらの国際人権法との適合性の十分な検討が不可欠である。今回の入管法
改正案についても、国際人権機関からの懸念を真摯に受け止め、廃案にする可能性も
含め、抜本的な再検討を行うことが必要である。
以上