声明・提言等(2024年3月25日)全難連より「 令和6年3月改定の在留特別許可に係るガイドラインの重大な問題点について」を出しました。

令和6年3月改定の在留特別許可に係るガイドラインの重大な問題点について[PDF・295KB]

日付:2024年3月25日

団体:全国難民弁護団連絡会議

<声明文テキスト> 

令和63月改定の在留特別許可に係るガイドラインの重大な問題点について

2024年3月25日
全国難民弁護団連絡会議

 2024年3月5日、出入国在留管理庁は、令和6年3月改定の「在留特別許可に係るガイドライン」を公表しましたが、この改定後ガイドラインには重大な問題点があるため、それらを指摘するとともに、人権保障の見地から在留特別許可がなされるよう改善を求めます。

1 在留特別許可の位置付けについて

 改定後ガイドラインには、「在留特別許可は、従前から、本邦からの退去を強制されるべき外国人に対して例外的・恩恵的に行われる措置であり・・・」と記載されています。しかしながら、在留特別許可は、単なる“恩恵”ではなく、入管法24条の定める退去強制事由(オーバーステイや刑事裁判の有罪判決など)に当てはまる場合であっても、送還をすることによる不都合や、ひいては違法が生じないようにするための規定です。

 日本が批准している自由権規約2条1項は、「その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に対し、・・・いかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する」としており、出身国による差別なく権利を保障すべきことを定めています。社会権規約2条2項や、子どもの権利条約2条1項も同様です[1][2]

 また、2018年12月19日の国連総会において、日本を含む大多数の賛成をもって承認された「安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト」においては、「移民には全ての人に普遍的に与えられた人権と基本的自由が認められており、それらはいかなる時においても尊重され、保護され、遂行されなければならない」ことを宣言しています[3]

 このように、国は全ての人に対して普遍的な権利を保障する義務を負う以上、在留特別許可が国家による「恩恵」にとどまらないことは明らかです。在留特別許可は、法務大臣等の「極めて広範な裁量」によって決せられるものではなく、日本が義務を負う権利保障の見地から検討する必要があります。

2 在留資格のない長期在留を消極的に考慮すべきでないこと

 改定後ガイドラインの問題点として、「特に、我が国に不法に在留している期間が長いことについては、出入国在留管理秩序を侵害しているという観点から消極的に評価されることを明確にしました」という部分があります。長期間在留していることは、在留資格の有無にかかわらず、在留特別許可をすべき方向に積極的に評価すべきであるのに、これを正反対に評価する点で、重大な問題があります。

 そもそも、在留特別許可は、在留資格がない、あるいはなくなってしまう人に対して、特別に在留を許可する手続です。したがって、在留資格がないことが前提であり、在留資格がないことを消極的に評価することは、制度の趣旨に反します[4]。「出入国在留管理秩序を侵害しているという観点から」という理由は、入管法が定める在留資格がない状態であったことを言い換えたにすぎず、説得的ではありません。在留資格がない状態であっても、平穏に善良な一市民として生活を続けているのであれば、日本社会に与える具体的な悪影響はないはずです。また、日本で教育を受けたことや、家族生活の継続を積極要素として考慮しようとするガイドラインの他の要素とも矛盾します。

 特に、難民申請者については、審査請求の結果まで数年間かかることがあり[5]、裁判をすればさらに数年かかることがあります。在留資格がない状態で難民手続を続けている人も多く、その間の生活を長ければ長いほど消極的に考慮されては、安定した生活が望めません。

 過去の裁判例においては、在留資格がなくとも日本に長期間在留して定着性を有することは、在留特別許可をするか決めるにあたって積極事情として考慮すべき、としたものが複数存在します[6][7]。長期間の在留による定着性は、日本社会の中での当該外国人の人間の生活権そのものとして、ひいては、その個人の尊厳を尊重するという点に鑑みて、積極方向に評価すべきです。

3 在留特別許可が認められる家族の範囲が狭くなる可能性があること

(1)子どもとその家族について

改定後ガイドラインには、「家族とともに生活をするという子の利益の保護の必要性を積極的に評価することを明確にしました」と書かれています。たしかに、従前のガイドラインは、初等・中等教育機関に通う子の「親」についてしか、積極要素として書かれていませんでした。しかし、明示的な記載がなかっただけで、子についても積極的に評価することができる内容でした。

  ところが、改定後のガイドラインは、子が初等中等教育機関に在学していることだけではなく、「本国で初等中等教育を受けることが困難な事情等が認められる」ことや、「地域社会で一定の役割を果たすなど相当程度に地域社会に溶け込んでいる者と同居しており、かつ、当該者の監護及び養育を受けている」ことなど、条件が加重されており、従前のガイドラインよりも在留特別許可が認められる範囲が狭くなってしまうと読めるものです。それどころか、親が「地域社会に溶け込んで」いなければ、子の在留も認めないかのような表現になっており、これでは親の事情によって子どもの権利を制限する結果となりかねません。さらに、「素行」として、納税義務を果たしていなかったことや、地域のルールを守らないことまで消極要素として考慮すると書かれており、極めて広い理由で在留特別許可が認められない可能性があります。

  子どもとその家族の在留特別許可については、子どもの最善の利益の見地から、積極的に認める方向にすべきです。

(2)婚姻による家族について

  また、日本人又は特別永住者との婚姻関係については、従前のガイドラインとほとんど変わりません。「夫婦の間に子がいるなど婚姻が安定かつ成熟していること」という要件も残っており、子がいない夫婦には在留特別許可を認めない運用がされかねません。

  昨年の入管法改定時の参議院法務委員会の令和5年6月8日付け付帯決議においては、「在留特別許可のガイドラインの策定に当たっては、子どもの利益や家族の結合、日本人又は特別永住者との婚姻関係や無国籍性への十分な配慮をおこなうこと」が決議されていました。婚姻による家族についても、十分な配慮を行うべきです[8]

4 退去強制令書の発付後の事情を原則として考慮しないと書かれていること

  改定後ガイドラインには、「在留が認められず退去強制令書を発付された外国人は、速やかに本邦から退去することが原則となるため、退去強制令書が発付された後の事情変更は原則として考慮されません」と書かれています。

  しかし、退去強制令書が発付されたとしても、人間に保障される基本的な権利に、変わりはありません。特に、空港で難民申請をした人たちは、入管の運用によって、空港で直ちに収容され、退去強制令書を先に発付された後に仮放免を受け、難民申請を続けている例が多数あります。そのような人たちが、難民申請中で帰国できないのに、仮放免中に結婚したり、子が生まれたり、あるいは深刻な病気になってしまった場合に、積極事情として考慮されないのは不合理です[9]

  また、難民申請が不認定となった後、迫害の危険があるため帰国できず、やむなく複数回の申請を行う人もいます。その間に日本で安定かつ平穏な生活を築いた場合も、在留特別許可をする方向に考慮すべきです。

5 前科や入管法違反をことさらに強調すべきでないこと

  改定後ガイドラインは、法50条1項但書の前科がある人について、在留特別許可をすべき「特別の事情」を、「疾病で相当期間日本で治療を受けなければ生命に危険が及ぶ具体的なおそれがあることなど」と極めて限定的にしています。しかし、上記のように全ての移民には普遍的な権利があることからすれば、「人道上の配慮の必要性」を狭く解するべきではありません。前科をことさらに強調し、社会から排除しようとすることは、前科ある人をコミュニティの一員として社会に受け入れ、再統合し、再犯を防止することの重要性を宣言した京都宣言[10]にも反します。

  また、上陸手続において退去命令に従わなかったことも消極要素とされていますが、空港で難民申請をした人は大半がこれにあたり、消極的に評価すべきではありません。偽造旅券等の使用や、在留資格の偽装も、本国から逃げてくる難民申請者の場合、やむを得ない場合があります。

6 まとめ

  以上のとおり、改定後ガイドラインは、従前のガイドラインより詳細にはなっていますが、国籍にかかわらず全ての人に認められる権利を積極的に保障する内容にはなっておらず、これまでよりも在留特別許可を狭める可能性のあるものです。

全ての移民・難民は、生活を営む人間であり、人権保障の見地から在留特別許可がなされるよう、ガイドラインの問題のある部分を改め、運用の改善をするよう求めます。

以上

[1] 名古屋高裁平成25年6月27日判決は、社会権規約を根拠として、医療に関する利益が入管法上も尊重されるべきことは当然であり、在留特別許可の判断における重要な考慮要素としました。

[2] 東京地裁平成26年5月30日判決は、児童の最善の利益を考慮すべきことを定める子どもの権利条約3条1項、児童がその父母の意思に反して分離されるべきではないとする同9条1項、家族が社会の自然かつ基礎的な単位であり社会及び国による保護を受ける権利を有するとする自由権規約23条1項の趣旨に照らして、在留特別許可をしなかったことに重大な瑕疵があるとしました。

[3]「安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト」(仮訳)パラグラフ4 https://japan.iom.int/sites/g/files/tmzbdl2136/files/documents/Global_Compact_for_Migration_Japanese_kariyaku_booklet.pdf

[4] 前掲名古屋高裁平成25年6月27日判決は、「そもそも、在留特別許可の制度は、適法な在留資格を有しない外国人を対象とするものである」として、在留資格がなかったことを明らかな消極要素として過大視することは相当でないとしました。

[5] 出入国在留管理庁の報道資料「令和4年における難民認定者等について」によると、2022年の1次審査の平均処理期間は約33.3月、不服申立ての平均処理期間は約13.3月でした。 https://www.moj.go.jp/isa/content/001393012.pdf

[6] 大阪高判平成25年12月20日判決は、「控訴人父は、約17年間、控訴人母は、約15年間の長期間にわたり、それぞれ本邦に在留しており、その間、何らの犯罪行為も行わず、しかも違法あるいは本邦の社会秩序を乱すような職業に就いていたわけでもなく、・・・自ら外国人登録もして、税金も払うなど、完全に地元に定着した生活をしていた」として、長期間にわたり定着性の認められる在留状況を積極事情として評価しました。

[7] 東京高裁平成26年2月26日判決は、「平穏な在留の長期継続という事実は、今後、当該外国人が、日本社会において健全な市民として平穏で安定した生活を送ることができる蓋然性を示すものであるといえるから、在留特別許可の許否の判断における積極要素となるというべきである」として、在留資格なく20年間在留したことを積極要素と評価しました。

[8] 出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案に対する附帯決議
 https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/211/f065_060801_1.pdf

[9]  2023年5月6日の参議院法務委員会において、齋藤法務大臣は、「退去強制令書の発付後に在留特別許可をすべき新たな事情が生じるように、例外的な場合もあり得ると思います。そこで、本法案でも、このような事情が生じた場合には法務大臣等が職権により在留を特別に許可することができることとしているわけであります」と答弁しており、退去強制令書発付後の事情を考慮するとしていました。

[10] 第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)京都宣言(仮訳)
https://www.moj.go.jp/KYOTOCONGRESS2020/programme/download/meeting02.pdf

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