「出入国管理及び難民認定法改正案の取り下げにあたり,改めて出入国管理および難民認定の抜本的な見直しを求める会長声明」(外部リンク:佐賀県弁護士会)
日付:2021年6月14日
作成:佐賀県弁護士会
および難民認定の抜本的な見直しを求める会長声明
今般,出入国管理及び難民認定法改正案(以下「本法案」という。)の成立が
見送られる見通しとなった。
本法案は,地方出入国在留管理官署(以下、入管という)の広範な裁量を維持
しつつ,さらに,退去強制手続関連の罰則を多数創設し,難民申請者の強制送還
を一部解除することなど,対象となる外国人の権利を広汎に制限する一方で,収
容期間の上限設定,司法審査の導入,難民認定制度自体の適正化といった真に必
要な改善はその内容とされていなかった。
上記のような,本法案は,被収容者の身体の自由を侵害する危険性を高めるだ
けであり,本来,改正の目的となるべき入管収容に関する問題改善につながるも
のではないため,当会は同法案に強く反対するとともに,改めて出入国管理およ
び難民認定の抜本的な見直しを求める。
そもそも,我が国の収容制度は,無期限ともなり得る長期収容を許す制度とな
っており,これまでも国際人権機関から再三にわたり改善が求められてきた。
しかし,本法案では,この点についての改善はなされておらず,司法審査は及
ばないままとなっている。
また,長期収容に至っている被収容者には難民申請者も多く含まれていると
ころ,我が国は難民条約加盟国の中で最も難民認定率が低い国である。
仮に,保護されるべき申請者が保護を求めてやむを得ず難民申請を繰り返し
ているのであれば,改善されるべきは難民認定のあり方であるはずである。
しかしながら,本法案では,この構造的問題を放置する一方で,難民認定申請
が3回以上にわたる場合に,当該難民認定申請者等について送還を原則として
可能とすることが盛り込まれており,迫害を受けるおそれのある国・地域への追
放・送還を禁じる国際法上の原則(ノン・ルフールマン原則)(難民条約33条
第1項)にも反するものであった。
さらに,本年3月6日には,名古屋出入国在留管理局収容場で収容されていた
スリランカ国籍の女性,ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)の死亡事件
が発生した。
入管においては,2010年以降だけでも10名以上の被収容者(いずれも2
0代~50代)の死亡事件が発生しているところ,本法案の一つの柱が収容制度
の見直しとされている以上,ウィシュマさんの死亡事件の原因解明は,入管の法
運用の問題点や法改正の適否を明らかにするために必要不可欠である。
それにもかかわらず,政府は,第三者機関による調査を行わず,出入国在留管
理庁に調査を委ねたばかりか,ウィシュマさんの収容施設内での状況を撮影し
たビデオの国会議員への開示すら頑なに拒否している。
この重大事件が解明されないまま,本法案に関する議論を進めることは決し
て許されるものではない。
以上より,当会は,本法案に強く反対するとともに,出入国管理及び難民認定
法を改正するのであれば,本件のような死亡事件根絶のための監視体制や適切
な司法審査を導入し,外国人の人権擁護の観点から抜本的な見直しを行うこと
を求める。
令和3年6月7日
佐賀県弁護士会
会長 安 永 恵 子