拷問等禁止委員会一般的意見4(訳文)(外部リンク:日弁連)
発信者:拷問等禁止委員会
日付:2018年9月
8 例えば、トルコの第 4 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/TUR/CO/4)のパラグラフ 26 18 例えば、イタリアの第 5 回及び第 6 回統合定期報告に関する最終見解(CAT/C/ITA/CO/5- 25 例えば、ニュージーランドの第 6 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/NZL/CO/6)のパラ 28 以下の文書における他の関係条約の当事国にもなっている本条約の締約国にとって、ある 30 例えば、Ali Fadel 対スイスのパラグラフ 7.7 及び 7.8 を参照。 31 例えば、Sylvie Bakatu-Bia 対スウェーデン(CAT/C/46/D/379/2009)のパラグラフ 2.2 及び 41 例えば、Rouba Alhaj Ali 対モロッコ(CAT/C/58/D/682/2015)のパラグラフ 8.5 乃至 8.8 を参 48 第一追加議定書の 75 条(2)は、次の行為、すなわち、(a)人の生命、健康又は心身の健全性に 58 例えば、S.S. Elmi 対オーストラリア(CAT/C/22/D/120/1998)のパラグラフ 6.8 及び 6.9、並 63 例えば、W.G.D.対カナダのパラグラフ 7.4 を参照。 64 例えば、W.G.D.対カナダのパラグラフ 7.4、及び J.K.対カナダ(CAT/C/56/D/562/2013)のパ 69 例えば、オランダの第 4 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/NET/CO/4)のパラグラフ 81 例えば、Z.対デンマーク(CAT/C/55/D/555/2013)のパラグラフ 5.2 及び 7.8、並びに M.B.他 94 例えば、S.P.A.対カナダのパラグラフ 7.5 を参照。 95 例えば、T.D.対スイスのパラグラフ 7.7、及び Alp 対デンマーク(CAT/C/52/D/466/2011)の
拷問等禁止条約 22 条の文脈における条約 3 条の実施に関
する一般的意見4(2017 年)
I. はじめに
1. 拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関す
る条約の 22 条に基づく個人からの通報について検討した経験や、締約国による本
条約の 3 条の違反の申立てに対処してきた経験を踏まえ、拷問禁止委員会は、第
19 会期で採択された「拷問等禁止条約 22 条の文脈における条約 3 条の実施に関す
る一般的意見1(1997 年)(A/53/44 及び A/53/44/Corr.1 の附属書 IX を参照)」の
修正について、2015 年及び 2016 年の第 55 会期から第 58 会期で協議し合意した。
2. 委員会は、2015 年 6 月 22 日から 26 日にかけてサンノゼで開催された第 27
回会合で一般的意見の策定における協議手続に関し人権条約機関の議長団が行っ
た提言(A/70/302 のパラグラフ 91 を参照)を踏まえ、2016 年 11 月 7 日から 12 月
7 日にかけて開催された第 59 会期で一般的意見の修正のための起草手続に着手し
た。
3. 第 62 会期中の 2017 年 12 月 6 日に開催された委員会の第 1614 回会合で、委
員会は、同日に採択した以下の文書をもって一般的意見1と置き換えることを決
定した。
4. 本一般的意見における「退去強制」という用語には、いずれかの締約国から
他の国への、ある者又は個人の集団の追放、犯罪人引渡し、強制送還、強制移送、
逃亡者引渡し及び国境での入国拒否、並びにいずれかの締約国から他の国へのあ
る者又は個人の集団を対象にした入国阻止業務(海上での阻止業務を含む)が含
まれるが、これらに限定はされない。
II. 一般的な原則
5. 本条約の 3条(1)は、締約国は、いずれの者をも、その者に対する拷問が行わ
れるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある他の国へ追放し、送還し
又は引き渡してはならないと規定している。1
6. 本条約の 22 条に基づき、委員会は、通報に関する委員会の権限を認める宣
言を行ったあらゆる締約国に関し、締約国の管轄下にある個人であって、締約国
* 本一般的意見は、3 条の実施に関する一般的意見1(1997 年)に取って代わる。 1 3 条は、本条約の 1 条に規定する拷問の定義を参照して解釈しなければならない。G.R.B.対
スウェーデン(CAT/C/20/D/83/1997)のパラグラフ 6.5 を参照。
国際連合 CAT/C/GC/4
拷問及び他の残虐な、
非人道的な又は品位を傷つける
取扱い又は刑罰に関する条約
配布:一般
2018 年 9 月 4 日
原文:英語
GE.18-13033(E)
CAT/C/GC/4
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による本条約の規定違反の被害者であると主張する個人により、又はその個人の
ために行われる通報を受理し検討する。
7. 委員会が受理した通報の大部分は、締約国による本条約の 3 条の違反とされ
る行為について言及している。本一般的意見は、3 条の範囲に関し、また委員会に
よる検討を求めて委員会に提出された個人の通報の受理可能性及び本案を委員会
がどのように評価するかに関し、締約国並びに申立人及びその代理人のための指
針を示すものである。
8. 委員会は、本条約の 1 条に定義する拷問の禁止が絶対的であることをあらた
めて指摘する。本条約の 2 条(2)は、「戦争状態、戦争の脅威、内政の不安定又は
他の公の緊急事態であるかどうかにかかわらず、いかなる例外的な事態も拷問を
正当化する根拠として援用することはできない」と規定している。さらに、委員
会は、他の不当な取扱いに当たる行為も同様に禁止されること、また不当な取扱
いの禁止が同様に権利停止不可能(non-derogable)であることをあらためて指摘す
る。2
9. その者に対する拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠
がある他の国へ退去強制することを禁止した「ノン・ルフールマン」原則も、同
様に絶対的である。3
10. 各締約国は、自国の管轄の下にある領域、若しくはその支配下、若しくは権
限下にある地域、又は自国において登録された船舶、若しくは航空機内において、
国際的保護を要請する又は必要とする者を含むあらゆる者に対し、何らの差別を
行うことなく、関係する者がどこの国籍か、若しくは無国籍か、又は平時若しく
は非常事態に関する法律の下でのどのような法的、行政的若しくは司法的な地位
を有するかにかかわらず、ノン・ルフールマン原則を適用しなければならない。
委員会が一般的意見2のパラグラフ 7に記したとおり、「自国の管轄の下にある領
域」という概念は、全ての領域又は機関を含み、そして市民であろうと非市民で
あろうと差別なく、締約国による法律上の又は事実上の支配の下にあるいかなる
者をも保護するために適用されなければならない。4
11. 本条約の 3 条のノン・ルフールマン義務は、到着先の国で拷問が行われる危
険に個人としてさらされるか、集団に属するが故にさらされるかを問わず、退去
強制先の国において関係する者に対し拷問が行われるおそれがあると信ずるに足
りる「実質的な根拠」5 がある場合には常に存在する。委員会の慣行では、拷問の
危険が「予見でき、個人的であり、現存し、かつ現実的である」場合は常に「実
質的な根拠」が存在すると判断される。6
12. いずれかの国へ退去強制されれば拷問の危険にさらされると認められる者は、
その危険が存続する限り、関係する締約国の管轄、支配又は権限の下にある領域
内にとどまることを許されなければならない。7かかる者は、適切な法的正当化事
由及び保護措置を与えられずに抑留されてはならない。抑留は常に個別の事実評
2 2 条の実施に関する一般的意見2(2007 年)のパラグラフ 3、6、19 及び 25 を参照。 3 Tapia Páez 対スウェーデン(CAT/C/18/D/39/1996)のパラグラフ 14.5、Núñez Chipana 対ベネ
ズエラ(CAT/C/21/D/110/1998)のパラグラフ 5.6、Agiza 対スウェーデン
(CAT/C/34/D/233/2003)のパラグラフ 13.8、Singh Sogi 対カナダ(CAT/C/39/D/297/2006)
のパラグラフ 10.2、Abdussamatov 他対カザフスタン(CAT/C/48/D/444/2010)のパラグラフ
13.7、及び Nasirov 対カザフスタン(CAT/C/52/D/475/2011)のパラグラフ 11.6 を参照。 4 一般的意見2(2007 年)のパラグラフ 16 も参照。 5 例えば、Tapia Páez 対スウェーデンのパラグラフ 14.5 を参照。 6 例えば、Dadar 対カナダ(CAT/C/35/D/258/2004)のパラグラフ 8.4、T.A.対スウェーデン
(CAT/C/34/D/226/2003)のパラグラフ 7.2、N.S.対スイス(CAT/C/44/D/356/2008)のパラグ
ラフ 7.3、及び Subakaran R. Thirugnanasampanthar 対オーストラリア
(CAT/C/61/D/614/2014)のパラグラフ 8.3 を参照。 7 例えば、Aemei 対スイス(CAT/C/18/D/34/1995)のパラグラフ 11 を参照。
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価に基づく例外的措置でなければならず、8 定期的な再審査を条件とする。9 さら
に、危険にさらされる者が他国へ退去強制された後、当該他国からその者に対す
る拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある第三国への
退去強制に直面する可能性がある場合、その者を当該他国へ退去強制してはなら
ない。10
13. 各ケースは、締約国によって所轄の行政機関及び/又は司法機関を通じ、
個々に、公平に、かつ独自に審査されなければならず、11 またその審査は重要な手
続的保護措置、特に迅速かつ透明性のある手続の保障、退去強制の決定の見直し
及び上訴の停止効力に従ったものでなければならない。12 いずれの場合も、対象者
に対し、退去強制の予定を適時に知らせなければならない。集団的な退去強制 13
は、個人的な危険に関し個々のケースについて客観的審査がなされていない場合、
ノン・ルフールマン原則の違反とみなさなければならない。
14. 締約国は、劣悪な状況での無期限の抑留、庇護請求処理の拒否又はその請求
の不当な長期化、庇護希望者の支援制度のための資金の削減等、抑止的な措置又
は方針を採択してはならない。これらの行為が行われれば、本条約の 3条に基づき
保護を必要とする者に対し、拷問その他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つけ
る取扱い又は刑罰が行われる個人的な危険がある出身国への帰国を強いることに
なる。14
15. 本条約の 16 条は、本条約の 1 条に定義する拷問には至らないが残虐な、非
人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰(不当な取扱い)に当たる行為を防
止しなければならないという締約国の義務について規定している。15
16. 締約国は、「ノン・ルフールマン」原則に関係する各ケースの評価を行う前
に、退去強制に直面している者に対し行われる危険がある他の形態の不当な取扱
いの性質が拷問へと変わる可能性があるかどうか検討しなければならない。16
17. 委員会は、重い苦痛を常に客観的に評価することはできないと考える。その
評価を左右するものは、暴力的又は虐待的な行為が各個人に及ぼした身体的及び
/又は精神的な悪影響であり、それには被害者の取扱いの性質、性別、年齢、健
康状態及び脆弱性並びに他の状況又は要素その他各ケースに関係するすべての事
由が考慮に入れられる。17
を参照。 9 例えば、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国の第 5 回定期報告に関する最終見
解(CAT/C/GBR/CO/5)のパラグラフ 30、並びにスウェーデンの第 6 回及び第 7 回統合定期
報告に関する最終見解(CAT/C/SWE/CO/6-7)のパラグラフ 10 を参照。 10 例えば、3 条の実施に関する一般的意見1(1997 年)のパラグラフ 2、Avedes Hamayak
Korban 対スウェーデン(CAT/C/21/D/88/1997)のパラグラフ 7、Z.T.対オーストラリア
(CAT/C/31/D/153/2000)のパラグラフ 6.4、ギリシャの第 5 回及び第 6 回統合定期報告に関
する最終見解(CAT/C/GRC/CO/5-6)のパラグラフ 19、並びにセルビアの第 2 回定期報告に
関する最終見解(CAT/C/SRB/CO/2)のパラグラフ 15 を参照。 11 例えば、Agiza 対スウェーデンのパラグラフ 13.8 を参照。 12 例えば、ギリシャの第 5 回及び第 6 回統合定期報告に関する最終見解(CAT/C/GRC/CO/5-
6)のパラグラフ 19、並びにイタリアの第 5 回及び第 6 回統合定期報告に関する最終見解
(CAT/C/ITA/CO/5-6)のパラグラフ 21(c)を参照。 13 例えば、Kwami Mopongo 他対モロッコ(CAT/C/53/D/321/2007)のパラグラフ 6.2 乃至 6.3 及
び 11.3 乃至 11.4、人権委員会の「市民的及び政治的権利に関する国際規約」に基づく外国
人の地位に関する一般的意見15(1986 年)のパラグラフ 10、並びに「すべての移住労働
者とその家族の権利の保護に関する国際条約」の第 22 条(1)を参照。 14 例えば、ギリシャの第 5 回及び第 6 回統合定期報告に関する最終見解(CAT/C/GRC/CO/5-
6)のパラグラフ 19 を参照。 15 一般的意見2(2007 年)のパラグラフ 3 及び 6 を参照。 16 不当な取扱いの危険がある場合におけるノン・ルフールマン原則の適用に直接関係する他
の国際規定については、パラグラフ 26 で後述する。 17 一般的意見2(2007 年)のパラグラフ 21 を参照。
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III. ノン・ルフールマン原則を保障する予防措置
18. 締約国は、本条約の 3 条を完全に実施する目的で、「ノン・ルフールマン」
原則の潜在的違反に対し、次の措置を含む立法上、行政上、司法上その他の予防
措置をとらなければならない。
(a) 対象者それぞれがそのケースについて集団的でなく個別的に調査される権利
を有すること、またその者が退去強制の決定につながり得る手続の対象となる理
由、及び退去強制の決定に対し上訴するために法律上利用できる権利について十
分な説明を受ける権利を有することの保証。 18
(b) 対象者に対し、弁護士、19 無料の法律扶助(必要な場合)及び関係する国際
的な保護組織の代理人へのアクセスの提供。20
(c) 対象者と関係する行政上又は司法上の手続をその者が理解する言語で、又は
通訳及び翻訳者による支援を伴う形での整備。 21
(d) 拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関す
る効果的な調査と文書化についてのマニュアル(イスタンブール議定書)に基づ
き、過去に受けた拷問について申し立てる者に独立した無償診察を紹介すること。
22
(e) 対象者が、退去強制の命令につき、当該命令の通知後合理的な期間内に独立
した行政機関及び/又は司法機関に対して当該命令の執行に対し停止効力のある
上訴を行う権利を保証すること。23
(f) ノン・ルフールマン原則に反する決定を避けるため、本条約の 3 条の規定の
尊重に関し、退去強制手続の対象者を取り扱うすべての公務員のための効果的な
研修を実施 すること。24
6)のパラグラフ 21、フィンランドの第 7 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/FIN/CO/7
及び CAT/C/FIN/CO/7/Corr.1)のパラグラフ 13、スイスの第 7 回定期報告に関する最終見解
(CAT/C/CHE/CO/7)のパラグラフ 14、並びにベルギーの第 3 回定期報告に関する最終見解
(CAT/C/BEL/CO/3)のパラグラフ 22 を参照。 19 例えば、フィンランドの第 7 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/FIN/CO/7 及び
CAT/C/FIN/CO/7/Corr.1)のパラグラフ 13 を参照。 20 例えば、セルビアの第 2 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/SRB/CO/2)のパラグラフ 15
を参照。Kwami Mopongo 他対モロッコのパラグラフ 11.3 及び 11.4 も参照。 21 例えば、ラトビアの第 3 回乃至第 5 回統合定期報告に関する最終見解(CAT/C/LVA/CO/3-5
及び CAT/C/LVA/CO/3-5/Corr.1)のパラグラフ 17 を参照。 22 例えば、報告書の不提出に際するカーボベルデに関する最終見解(CAT/C/CPV/CO/1)のパ
ラグラフ 29、ニュージーランドの第 6 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/NZL/CO/6)の
パラグラフ 18、並びにデンマークの第 6 回及び第 7 回統合定期報告に関する最終見解
(CAT/C/DNK/CO/6-7)のパラグラフ 23 を参照。Ali Fadel 対スイス
(CAT/C/53/D/450/2011)のパラグラフ 7.6 及び 7.8、並びに M.B.他対デンマーク
(CAT/C/59/D/634/2014)のパラグラフ 9.8 も参照。 23 例えば、フィンランドの第 7 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/FIN/CO/7 及び
CAT/C/FIN/CO/7/Corr.1)のパラグラフ 13、スロベニアの第 3 回定期報告に関する最終見解
(CAT/C/SVN/CO/3)のパラグラフ 17、及びタジキスタンの第 2 回定期報告に関する最終見
解(CAT/C/TJK/CO/2)のパラグラフ 18 を参照。ギリシャの第 5 回及び第 6 回統合定期報告
に関する最終見解(CAT/C/GRC/CO/5-6)のパラグラフ 19、並びにイタリアの第 5 回及び第
6 回統合定期報告に関する最終見解(CAT/C/ITA/CO/5-6)のパラグラフ 21(c)も参照。 24 例えば、ボリビア多民族国の第 2 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/BOL/CO/2)のパラ
グラフ 17、並びにブルガリアの第 4 回及び第 5 回統合定期報告に関する最終見解
(CAT/C/BGR/CO/4-5)のパラグラフ 16 を参照。
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(g) イスタンブール議定書を踏まえた拷問の証拠の特定及び文書化に関し、被抑
留者、移住者及び庇護希望者を取り扱う医療関係者その他の職員のための効果的
な研修を実施すること。 25
IV. 外交保証
19. ある国から別の国への人の移送という文脈において用いられる「外交保証」
という用語は、受入国による、送出国によって定められた条件に従って、かつ国
際的な人権基準に従って関係する者を取り扱う旨の正式な約束を意味する。
20. 委員会は、ある者の退去強制先となる本条約の締約国による外交保証は、当
該締約国でその者に対する拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的
な根拠がある場合に、本条約の 3条に規定するノン・ルフールマン原則を侵害する
ための抜け穴として使用してはならないと考える。26
V. 救済
21. 委員会は、本条約の 14 条における「救済」とは、「効果的な救済措置」及
び「補償」の概念を網羅すると考えることをあらためて指摘する。したがって、
この包括的な補償概念は、原状回復、賠償、リハビリテーション、充足
(satisfaction)、再発防止の保障を含意し、本条約に対する違反行為からの救済に
必要な全範囲に及ぶ措置を指す。27
22. 締約国は、拷問その他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は
刑罰の被害者が、専門的リハビリテーションの持続的な利用可能性及びそれへの
アクセスを要することもある身体的及び心理的な損害を受けることを認識しなけ
ればならない。そのような健康状態及び治療の必要性が医学的に証明された場合、
被害者をリハビリテーションのための十分な医療が利用できない、又は保障され
ない国へ退去させてはならない。
VI. 本条約の 3 条及び犯罪人引渡条約
23. 締約国は、本条約の 3 条に基づき引き受けた義務と多国間又は二国間の犯罪
人引渡条約に基づき引き受けた義務との間で矛盾が生じると考える可能性があり、
特に、本条約の締約国ではない国との間で本条約の批准前に、したがって、未だ 3
条の規定に拘束されていない時点でその条約が締結された場合には、その可能性
がある。この場合、関係する犯罪人引渡条約は、ノン・ルフールマン原則に従っ
て適用されなければならない。
24. 委員会は、「ノン・ルフールマン」原則を援用し本条約の 22 条に基づく通
報を行った者を刑事訴追又は判決送達の目的で引き渡すための期間が、その国が
本条約と当事国となっている犯罪人引渡条約の両方に基づく義務を尊重する上で
極めて重要な要素となることを確認する。したがって、委員会は締約国に対し、
そのような状況に直面した場合、自国が関与する個人通報手続の当初から、本条
約に基づく義務と犯罪人引渡条約に基づく義務との間の潜在的な矛盾について委
グラフ 18 を参照。 26 Agiza 対スウェーデンのパラグラフ 13.4、Tursunov 対カザフスタン(CAT/C/54/D/538/2013)
のパラグラフ 9.10、及び H.Y.対スイス(CAT/C/61/D/747/2016)のパラグラフ 10.7 を参照。
アメリカ合衆国の第 3 回乃至第 5 回統合定期報告に関する最終見解(CAT/C/USA/CO/3-5)
のパラグラフ 16、モロッコの第 4 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/MAR/CO/4)のパ
ラグラフ 9、ドイツの第 5 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/DEU/CO/5)のパラグラフ
25、及びアルバニアの第 2 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/ALB/CO/2)のパラグラフ
19 も参照。 27 14 条の実施に関する一般的意見3(2012 年)のパラグラフ 2 を参照。
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員会に報告し、犯罪人引渡義務の期限の到来前に委員会が当該通報の優先的な検
討に向けて努力できるようにすることを要請する。ただし、関係する締約国は、
委員会がそのような通報に対する検討及び決定を優先させることができるのは、
その会期中に限られることを認識しなければならない。
25. さらに、本条約の締約国は、締約後に犯罪人引渡条約の締結又は遵守を検討
する場合、本条約とその条約との間に矛盾がないか確認しなければならず、矛盾
があるときは、犯罪人引渡条約の遵守に関する通告に、矛盾があれば本条約が優
先する旨の規定を記載しなければならない。
VII. 本条約の 3 条と 16 条の関係
26. 本条約の 3 条は、退去強制先の国で拷問が行われるおそれがある者を退去さ
せずに保護するよう規定しており、特に、退去の対象となる者が、国際文書又は
国内法令に基づき、残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の危
険に直面する国への退去強制を免れる追加的な保護を享受する場合、本条約の 16
条(2)を損なうものではない。28
VIII. ノン・ルフールマン原則が適用される特定の人権状況の検
討に係る締約国の義務
27. 本条約の 3条(2)は、ある者を追放し、送還し、又は引き渡した場合、その者
に対する拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる根拠の有無を判断するに
当たり、権限のある当局は、すべての関連する事情(該当する場合には、関係す
る国における一貫した形態の重大な、明らかな又は大規模な人権侵害の存在を含
む。)を考慮しなければならないと規定している。29
28. この点について、委員会は、拷問に当たるか否かを問わず、個人又はその個
人の家族が、残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に出身国に
おいてさらされたか、その個人の退去強制先の国でさらされる場合、その者がこ
れらのいずれかの国へ退去強制されればその者に対し拷問が行われるおそれがあ
ることが示唆されることに留意する。締約国は、そのような示唆をノン・ルフー
ルマン原則の適用を正当化する基本的要素として考慮しなければならない。
29. なお、委員会は、締約国が自国の領域からの人の退去に関する決定の際に配
慮すべき、また「ノン・ルフールマン」原則の適用の際に考慮すべき拷問の危険
を示唆する可能性のある人権状況の非網羅的な例に対し締約国の注意を喚起した
いと考える。締約国は、特に次のことを考慮しなければならない。
者が退去強制先の国で拷問その他の不当な取扱いの危険にさらされる場合、「ノン・ルフ
ールマン」原則の適用に直接関係する他の国際規定の例が認められる可能性がある。
(a) すべての移住労働者とその家族の権利の保護に関する国際条約(56 条(3))
(b) 強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約(16 条(1))
(c) 難民の地位に関する条約(33 条(1))
(d) 欧州連合基本権憲章(19 条(2))
(e) 拷問の防止及び処罰に関する米州条約(13 条の最終パラグラフ)
(f) 米州人権条約(22 条(8)及び(9))
(g) 人及び人民の権利に関するアフリカ憲章(12 条(3))
(h) アフリカにおける難民問題の特殊な側面を規律するアフリカ統一機構条約(II 条(3)
及び V 条(1)) 29 例えば、G.R.B 対スウェーデンのパラグラフ 6.3、H.M.H.I.対オーストラリア
(CAT/C/28/D/177/2001)のパラグラフ 6.5、S.P.A.対カナダ(CAT/C/37/D/282/2005)のパラ
グラフ 7.1、T.I.対カナダ(CAT/C/45/D/333/2007)のパラグラフ 7.3、A.M.A.対スイス
(CAT/C/45/D/344/2008)のパラグラフ 7.2、並びに E.K.W.対フィンランド
(CAT/C/54/D/490/2012)のパラグラフ 9.3 及び 9.7 を参照。
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(a) 関係する者が過去に出身国で逮捕状なしに恣意的に逮捕された経験があるか
どうか、及び/又は警察に身柄を拘束された被収容者に与えられる基本的保障、
例えば次のことを現在否定されているかどうか。30
(i) その者の逮捕理由についてその者が理解する言語で書かれた文書で通
知を受けること。31
(ii) 逮捕の報告のため、関係する個人が選択する家族又は人と面会できる
こと。32
(iii) 必要な場合には無料弁護士相談を利用でき、要請があればその者が選
択した弁護士を防御のために自費で利用できること。33
(iv) その者の健康状態に関する診察及び治療のため、独立した医師に面会
でき、又はこの目的でその者が選択した医師に自費で面会できること。34
(v) 拷問を受けたというその者の申立てを証明するため、独立した専門医
療機関を受診できること。35
(vi) 法令で規定された期間内又は各特定ケースに関して評価される合理的
な期間内は、抑留中の取扱いに関するその者の請求について判断する権限を
与えられている所轄の独立した司法機関を利用できること。36
(b) その者が出身国で何らかの形態の差別に基づく公務員による残虐行為若しく
は力の濫用の被害者であったかどうか、又は退去強制先の国でそのような残虐行
為にさらされるかどうか。37
(c) その者が出身国において又は退去強制先の国において、関係する国の所轄機
関による被害者保護のための介入のない状態で、公私におけるジェンダーに起因
する暴力又は性暴力、ジェンダーに起因する迫害、性器切除その他の拷問に当た
る暴力の被害者であった、又は被害者となるかどうか。38
(d) その者が公正な裁判に対する権利を保障しない司法制度における裁きを出身
国で受けたかどうか、又は退去強制先の国で受けるかどうか。39
(e) 関係する者に対して拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取
扱い若しくは刑罰に当たる状態での抑留又は拘禁が出身国で過去に行われたかど
うか、又はある国へ退去強制されればそのような抑留又は拘禁が行われるかどう
か。40
(f) 関係する者が国内法令で身体刑の認められているある国へ退去強制された場
合に、その国では合法でも、国際的な慣習法並びに委員会その他一般に認められ
10.5、並びに Ali Fadel 対スイスのパラグラフ 7.7 を参照。 32 例えば、Ramiro Ramírez Martínez 他対メキシコ(CAT/C/55/D/500/2012)のパラグラフ 17.5、
及び Patrice Gahungu 対ブルンジ(CAT/C/55/D/522/2012)のパラグラフ 7.6 を参照。 33 例えば、Tony Chahin 対スウェーデン(CAT/C/46/D/310/2007)のパラグラフ 9.4、並びに
Nasirov 対カザフスタンのパラグラフ 2.2、11.6 及び 11.9 を参照。 34 例えば、Ramiro Ramírez Martínez 他対メキシコのパラグラフ 17.5、Patrice Gahungu 対ブルン
ジのパラグラフ 7.7、及び X.対ブルンジ(CAT/C/55/D/553/2013)のパラグラフ 7.5 を参照。 35 例えば、Combey Brice Magloire Gbadjavi 対スイス(CAT/C/48/D/396/2009)のパラグラフ 2.1
及び 7.5 乃至 7.8、並びに Ali Fadel 対スイスのパラグラフ 2.4 及び 7.6 乃至 7.8 を参照。 36 例えば、Ramiro Ramírez Martínez 他対メキシコのパラグラフ 17.5 及び 17.6、Patrice Gahungu
対ブルンジのパラグラフ 7.7、並びに X.対ブルンジの 7.5 及び 7.6 を参照。 37 例えば、F.K.対デンマーク(CAT/C/56/D/580/2014)のパラグラフ 7.5 及び 7.6 を参照。 38 例えば、Sylvie Bakatu-Bia 対スウェーデンのパラグラフ 10.5 乃至 10.7 を参照。 39 例えば、Agiza 対スウェーデンのパラグラフ 13.4、及び Ali Fadel 対スイスのパラグラフ 7.8
を参照。 40 例えば、Tony Chahin 対スウェーデンのパラグラフ 9.5、及び Tursunov 対カザフスタンのパ
ラグラフ 9.8 を参照。
CAT/C/GC/4
8
ている国際的及び地域的な人権保護制度の先例に照らせば拷問又は残虐な、非人
道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰に当たる身体刑の宣告を受け
るかどうか。41
(g) 関係する者が、国際刑事裁判所ローマ規程の 6 条、7 条及び 8 条の意義の範
囲内における集団殺害犯罪、人道に対する犯罪又は戦争犯罪の信頼できる申立て
又は証拠であって、同裁判所に検討を求めて提出されているものがある国へ退去
強制されるかどうか。42
(h) 関係する者が、1949 年 8 月 12 日のジュネーヴ諸条約及び追加議定書の締約
国のうち、1949 年 8 月 12 日の 4 つのジュネーヴ諸条約の共通 3 条及び/又は非国
際的武力紛争の犠牲者の保護に関し 1949 年 8 月 12 日のジュネーヴ諸条約に追加さ
れる議定書(第二追加議定書)の 4 条、43 特に、(i)4 つのジュネーヴ諸条約の 3 条
(1)(a)、44 及び(ii)第二追加議定書の 4 条(1)及び(2)、45 の違反の申立て又は証拠があ
る締約国へ退去強制されるかどうか。
(i) 関係する者が、捕虜の待遇に関するジュネーヴ条約(第三ジュネーヴ条約)
の 12 条の違反の申立て又は証拠がある国へ退去強制されるかどうか。46
(j) 関係する者が、戦時における文民の保護に関するジュネーヴ条約(第四ジュ
ネーヴ条約)の 32 条若しくは 45 条、47 又は国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関
照。 42 例えば、クロアチアの第 4 回及び第 5 回統合定期報告に関する最終見解
(CAT/C/HRV/CO/4-5)のパラグラフ 11、並びにマケドニア旧ユーゴスラビア共和国の第 3
回定期報告に関する最終見解(CAT/C/MKD/CO/3)のパラグラフ 16 を参照。 43 委員会は、ジュネーヴ諸条約及び追加議定書の規定を直接引用していないが、その先例に
おいて、これらの規定で扱われる状況について言及しており、特に、トルコの第 4 回定期
報告に関する最終見解(CAT/C/TUR/CO/4 のパラグラフ 12 及び 23 乃至 26)、並びにイタ
リアの第 5 回及び第 6 回統合定期報告に関する最終見解(CAT/C/ITA/CO/5-6 のパラグラフ
20 乃至 23)において言及している。 44 4 つのジュネーヴ諸条約の 3 条(1)(a)は、国際的性質を有しない武力紛争の場合には、生命及
び身体に対する暴行、特に、殺人(種類を問わない)、身体の切断、虐待及び拷問は、敵
対行為に直接に参加しない者に関し、禁止されるものであり、引き続き禁止されなければ
ならないと規定している。例えば、ロシア連邦の第 4 回定期報告に関する最終見解
(CAT/C/RUS/CO/4)のパラグラフ 24、及びウクライナの第 6 回定期報告に関する最終見解
(CAT/C/UKR/CO/6)のパラグラフ 11 を参照。 45 1977 年 6 月 8 日に採択された第二追加議定書の 4 条(1)は、(ジュネーヴ諸条約の 2 条及び
追加議定書の 1 条で規定する武力紛争に関連し)敵対行為に直接に参加しない又は敵対行
為に参加しなくなったすべての者は、その自由が制限されていたか否かにかかわらず、身
体、名誉並びに信条及び宗教上の実践を尊重される権利を有すると規定している。第二追
加議定書の 4 条(2)は、4 条(1)に規定する人々に対してなされる次の行為、すなわち、(a)そ
れらの者の生命、健康及び心身の健全性に対する暴力、特に、殺人及び虐待(拷問、身体
の切断又はあらゆる形態の身体刑等)、(b)集団に対する罰、(c)人質、(d)テロ行為、(e)個人
の威厳に対する侵害、特に、侮辱的で品位を傷つける取扱い、強姦、強制売春及びあらゆ
る形態のわいせつ行為、(f)あらゆる形態の奴隷状態及び奴隷取引、(g)略奪、並びに(h)(a)か
ら(g)までのいずれかの行為を行う旨の脅迫は、いかなる時にも、また、いかなる場所にお
いても禁止されており、かつ、引き続き禁止されなければならないと規定している。例え
ば、レバノンの第 1 回報告に関する最終見解(CAT/C/LBN/CO/1)のパラグラフ 11、及びト
ルコの第 4 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/TUR/CO/4)のパラグラフ 12 を参照。 46 第三ジュネーヴ条約の 12 条では特に、捕虜は、抑留国が、本条約の締約国に対し、当該移
送先の締約国が本条約を適用する意思及び能力を有することを確認した後にのみ、移送す
ることができると規定している。例えば、チャドの第 1 回報告に関する最終見解
(CAT/C/TCD/CO/1)のパラグラフ 17 を参照。 47 第四ジュネーヴ条約の 45 条では特に、保護される者は、抑留国が、本条約の締約国に対
し、当該移送先の締約国が本条約を適用する意思及び能力を有することを確認した後にの
み、移送することができると規定している。
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し、1949 年 8 月 12 日のジュネーヴ諸条約に追加される議定書(第一追加議定書)
の 75 条(2) 48 の違反の申立て又は証拠がある国へ退去強制されるかどうか。
(k) 関係する者が、超法規的殺害又は強制失踪にさらされることを含め、生命に
対する固有の権利が否定される国、又は退去強制する締約国が死刑を拷問若しく
は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰の一種と考え
る場合に、死刑が有効な国 49 へ退去強制されるかどうか。これは、特に次の場合
に考慮しなければならない。
(i) 退去強制する締約国が死刑を廃止した、又は死刑執行の停止期間を規
定している場合 50
(ii) 退去強制する締約国によって最も重大な犯罪とみなされない犯罪に死
刑が科される場合 51
(iii) 18 歳未満の者による犯罪に関し、52 又は妊産婦若しくは重大な精神障
害のある者に対し死刑が行われる場合
(l) 関係する締約国は、死刑執行の状況及び方法、並びに死刑囚監房で死刑執行
を待つ期間の長期化及びその間のその者の状況 53 が「ノン・ルフールマン」原則
の適用において拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若し
くは刑罰となり得るかどうかについても評価しなければならない。54
(m) 関係する者が、その者、その者の家族又はその者の逮捕及び抑留の目撃者に
対し、拷問に当たる報復行為(これらの者に対する暴力行為及びテロ行為、これ
らの家族又は目撃者の失踪、これらの者の殺害又は拷問等)が行われた、又は行
われることになる国へ退去強制されるかどうか。55
(n) 関係する者が奴隷状態及び強制労働 56 又は人身売買の対象となったことが
ある、又は対象となる危険がある国へ退去強制されるかどうか。
(o) 関係する者が 18 歳未満であり、敵対行為に直接的若しくは間接的に参加す
る戦闘員としての、57 又は性的サービスの提供目的でのその者の採用等、回復不能
対する暴力、特に、(i)殺人、(ii)あらゆる種類の拷問(身体的なものであるか精神的なもの
であるかを問わない)、(iii)身体刑、及び(iv)身体の切断、(b)個人の威厳に対する侵害、特
に、侮辱的で品位を傷つける取扱い、強制売春及びあらゆる形態のわいせつ行為、(c)人
質、(d)集団に対する罰、並びに(e)(a)から(d)までのいずれかの行為を行う旨の脅迫は、いか
なる場合においても、また、いかなる場所においても、文民によるものか軍人によるもの
かを問わず、禁止されており、かつ、引き続き禁止されなければならないと規定してい
る。例えば、チャドの第 1 回報告に関する最終見解(CAT/C/TCD/CO/1)のパラグラフ 34
を参照。 49 例えば、ベルギーの第 2 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/BEL/CO/2)のパラグラフ 10
を参照。 50 例えば、Rouba Alhaj Ali 対モロッコのパラグラフ 8.5 乃至 8.8 を参照。 51 例えば、X.対スイス(CAT/C/53/D/470/2011)のパラグラフ 7.8、及び Asghar Tahmuresi 対ス
イス(CAT/C/53/D/489/2012)のパラグラフ 7.5 を参照。 52 例えば、アフガニスタンの第 2 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/AFG/CO/2)のパラグ
ラフ 34(c)を参照。 53 大韓民国の第 3 回乃至第 5 回統合定期報告に関する最終見解(CAT/C/KOR/CO/3-5)のパラ
グラフ 30(b)を参照。 54 例えば、アフガニスタンの第 2 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/AFG/CO/2)のパラグ
ラフ 34、及びモンゴルの第 2 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/MNG/CO/2)のパラグ
ラフ 22 を参照。 55 例えば、Hussein Khademi 他対スイス(CAT/C/53/D/473/2011)のパラグラフ 7.4 乃至 7.6、
Nasirov 対カザフスタンのパラグラフ 11.9、及び N.A.A.対スイス(CAT/C/60/D/639/2014)の
パラグラフ 7.7 乃至 7.11 を参照。 56 例えば、Tony Chahin 対スウェーデンのパラグラフ 9.5 を参照。 57 例えば、チャドの第 1 回報告に関する最終見解(CAT/C/TCD/CO/1)のパラグラフ 34 を参
照。
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の損害を伴う形でその者の基本的な子どもの権利が過去に侵害された、及び/又
は侵害されることになる国へ退去強制されるかどうか。
IX. 非国家主体
30. 同様に、締約国は、ある別の国で個人に対し、本条約で禁止された目的のた
めに重い苦痛を与える行為を不法に行う集団その他の非国家主体であって、受入
国による事実上の支配を受けず、若しくは部分的にしか受けず、又は受入国に阻
まれずに活動でき、又は受入国に処罰されないままとなっているものにより、拷
問その他の不当な取扱いが行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠
がある場合、その者を当該国へ退去強制してはならない。58
X. 本条約の 22 条に基づく個人の通報の提出に関する特定要
件及び暫定的な保護措置
A. 受理可能性
31. 委員会は、本条約の 3 条の違反とされる行為についての通報に関し、委員会
が第一印象(一見したところ)から、又は必要であればその後の提出物から、本
条約の22条に基づく検討のために適切であり、かつ、委員会の手続規則の規則113
に基づき規定された各要件を満たすと認めるような方法で、網羅的な主張を提出
する責任を負うのは通報人であると考える。
32. 本条約に基づく締約国の義務は、本条約が当該締約国に関し発効する日から
適用される。ただし、締約国が本条約の 22 条に基づく委員会の権限を 22 条に規定
する宣言を通じて認める前に発生した本条約の違反とされる行為についても、委
員会は、その違反とされる行為の効果が当該締約国による宣言の後も続いた場合
であり、かつその効果がそれ自体で本条約の違反に当たる可能性がある場合には、
当該行為に関する通報を検討する。59
33. 同一の事案が他の国際的な調査又は解決の手続によってかつて検討されたこ
とがなく、かつ、現在検討されていないことを確認した場合を除き、委員会に対
し本条約の 22 条に基づく個人の通報の検討を行ってはならないと要求する本条約
の 22 条(5)(a)に関し、委員会は、「同一の事案」とは同一の当事者、同一の事実及
び同一の実体的権利に関係すると理解しなければならないと考える。60
34. 本条約の 22 条(5)(b)によれば、申立人は、法令で及び実際に与えられ利用し
得るすべての国内的な救済措置であって、効果的な救済を尽くしていなければな
らないとされる。61 さらに、22 条(5)(b)は、救済措置の実施が不当に遅延する場合
又は本条約の違反の被害者である者に効果的な救済を与える可能性に乏しい場合
は、この限りでないと規定している。62 本条約の 3 条の文脈において、委員会は、
国内的な救済措置の消尽とは、申立人がその退去強制先の国で拷問が行われる危
びに M.K.M.対オーストラリア(CAT/C/60/D/681/2015)のパラグラフ 8.9 を参照。 59 例えば、N.Z.対カザフスタン(CAT/C/53/D/495/2012)のパラグラフ 12.3 を参照。 60 例えば、A.A.対アゼルバイジャン(CAT/C/35/D/247/2004)のパラグラフ 6.8、E.E.対ロシア
連邦(CAT/C/50/D/479/2011)のパラグラフ 8.4、N.B.対ロシア連邦(CAT/C/56/D/577/2013)
のパラグラフ 8.2、M.T.対スウェーデン(CAT/C/55/D/642/2014)のパラグラフ 8.3、及び U
氏対スウェーデン(CAT/C/56/D/643/2014)のパラグラフ 6.4 を参照。 61 例えば、Y 氏対カナダ(CAT/C/55/D/512/2012)のパラグラフ 7.2、及び Olga Shestakova 対ロ
シア連邦(CAT/C/62/D/712/2015)のパラグラフ 6.4 を参照。 62 例えば、A.E.対スイス(CAT/C/14/D/24/1995)のパラグラフ 4、Evloev 対カザフスタン
(CAT/C/51/D/441/2010)のパラグラフ 8.6、及び W.G.D.対カナダ(CAT/C/53/D/520/2012)
のパラグラフ 7.4 を参照。
CAT/C/GC/4
11
険に直接関係する救済措置を申請したことを意味し、それ以外の理由で申立人が
送り出す側の締約国に留まることを可能にし得る救済措置を申請したことを意味
しないと考える。63
35. さらに、委員会は、「ノン・ルフールマン」原則の実施における効果的な救
済措置は、申立人が他国へ退去強制されれば申立人に対し個人的に拷問が行われ
るおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある場合に、申立人の退去強制
を実際に防止できる支援措置でなければならないと考える。この支援措置は、関
係当局が与える任意の容認ではなく法律に基づく権利でなければならず、64 いかな
る性質の障害もなく実際に利用できなければならない。
B. 暫定的な保護措置
36. 委員会又はその指定に係る構成員が委員会の手続規則の規則 114 に基づき、
関係する締約国に対し、その緊急の検討のために、利用可能な情報に基づけば国
内当局による退去強制の決定が執行可能になった後に、委員会が本条約の 3条の違
反とされる行為の一人又は二人以上の被害者の回復不能な損害を避けるために必
要と考える暫定的な措置を講じるよう要請した場合、当該締約国は、委員会の要
請に誠実に従わなければならない。
37. 当該締約国が委員会の要請に従わない場合、委員会の審議の有効性における
重大な毀損及び障害となり、本条約の 22 条を誠実に実施するという当該締約国の
意思に重大な疑問を抱くものとなる。65 したがって、委員会は、その暫定的な措置
の要請の不遵守は 22 条の違反に当たると判断した。66
C. 本案
38. 本条約の3条を22条に基づき提出された通報の本案に適用することに関し、
立証責任は通報人が負い、通報人は、議論し得る根拠を提出しなければならず、67
すなわち、拷問が行われるおそれが予見でき、現存し、個人的であり、かつ現実
的であることを示す根拠ある主張を提出しなければならない。しかし、申立人
が、拷問の申立てに関係する文書を入手できない又は自由を剥奪されていること
を証明した場合等、その事案について詳しく述べられない状況に置かれている場
合、立証責任は転換され、68 関係する締約国が申立てを調査し、通報の根拠となる
情報を検証しなければならない。
39. 締約国は、申立人がその退去強制先の国で拷問が行われるという予見でき、
現存し、個人的であり、かつ現実的である危険に直面すると信ずるに足りる実質
的な根拠があるかどうかを、行政上及び/又は司法上の手続を通じ国内レベルで
評価する責任を負う。
ラグラフ 9.2 を参照。 65 Kalinichenko 対モロッコ(CAT/C/47/D/428/2010)のパラグラフ 13.1、13.2 及び 16、Tursunov
対カザフスタンのパラグラフ 10、X.対ロシア連邦(CAT/C/54/D/542/2013)のパラグラフ 9.2
及び 12、並びに D.I.S.対ハンガリー(CAT/C/56/D/671/2015)のパラグラフ 9.1 乃至 9.3 を参
照。 66 例えば、S.T.対オーストラリア(CAT/C/61/D/614/2014)のパラグラフ 9 及び 10、並びに X.
対ロシア連邦のパラグラフ 12 を参照。 67 Sivagnanaratnam 対デンマーク(CAT/C/51/D/429/2010)のパラグラフ 10.5 及び 10.6、A.R.氏
対オランダ(CAT/C/31/D/203/2002)のパラグラフ 7.3、Arthur Kasombola Kalonzo 対カナダ
(CAT/C/48/D/343/2008)のパラグラフ 9.3、X.対デンマーク(CAT/C/53/D/458/2011)のパラ
グラフ 9.3、W.G.D.対カナダのパラグラフ 8.4、並びに T.Z.対スイス
(CAT/C/62/D/688/2015)のパラグラフ 8.4 を参照。 68 比較のため、S.P.A.対カナダのパラグラフ 7.5、及び J.K.対カナダのパラグラフ 10.4 を参
照。
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40. 締約国はその評価手続において、関係する者に対し、特に、その者が自由を
剥奪されている、又は庇護希望者、付き添い人のない未成年者、暴力を受けてい
る女性若しくは障害者の立場等、特に脆弱な立場に置かれている場合には、基本
的な保障及び保護措置を与えなければならない(保護措置)。69
41. 保障及び保護措置は、不安定で精神的負担の多い立場に置かれた人のための
言語的、法的、医学的、社会的及び必要であれば経済的な支援、並びに退去強制
の決定に対し合理的な期間内に退去強制命令の執行に対する停止効力がある支援
措置を求める権利を含まなければならない。特に、有資格の医師による診察は、
特定の退去強制事案について決定する当局が医学的及び心理的な診察の結果に基
づき合理的な疑いなく拷問の危険に関する評価を完了させることができるよう、
申立ての信頼性に関する当局の評価にかかわらず、70 申立人が受けた拷問を証明す
るよう申立人によって要請される場合を含め、常に保障されなければならない。71
42. 拷問の被害者及び他の脆弱な者は、心的外傷後ストレス障害を患うことが多
く、その結果として無意識の回避症状、解離等、様々な症状が生じることがある。
これらの症状により、その者がすべての関係情報を開示する又は手続を通じて一
貫性のある説明をする能力に影響が生じることがある。締約国は、拷問の被害者
又は他の脆弱な者に効果的な救済措置が与えられることを保障するには、ノン・
ルフールマン関連の請求の有効性を判断するために画一的な信頼性評価手続を実
施することを慎まなければならない。通報人の申立てにおける事実についての潜
在的な矛盾及び不一致に関し、締約国は、拷問の被害者からの完全な正確性はほ
とんど期待できないことを理解しなければならない。72
43. 退去強制すればその者に拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質
的な根拠があるかどうかを判断する上で、委員会は、本条約の 3 条(2)に規定され
る一貫した形態の重大な、明らかな又は大規模な人権侵害が関係国に存在するこ
とを極めて重要と考える。この侵害には、(a)拷問の蔓延 73 及びその加害者の不処
罰、74 (b)少数者に対するハラスメント及び暴力、75 (c)集団殺害につながる状況、76
(d)ジェンダーに起因する暴力の蔓延、77 (e)基本的自由を行使する者の判決及び拘
禁の蔓延、78 (f)国際的及び非国際的な武力紛争の状況が含まれるが、これらに限定
されない。79
44. 委員会の評価の主たる拠り所は、申立人又はその代理人及び関係する締約国
が提出した情報である。委員会は、国連の情報源及び委員会が信頼できると考え
る国連以外の情報源も参考にする。80 さらに、委員会は、上記パラグラフ 29 で、
7、並びにキプロスの第 4 回定期報告に関する最終見解(CAT/C/CYP/CO/4)のパラグラフ
13 及び 14 を参照。 70 例えば、M.B.他対デンマークのパラグラフ 9.8 を参照。 71 前述した脚注 23 乃至 30 も参照。 72 例えば、Alan 対スイス(CAT/C/16/D/21/1995)のパラグラフ 11.3、Kisoki 対スウェーデン
(CAT/C/16/D/41/1996)のパラグラフ 9.3、Haydin 対スウェーデン(CAT/C/21/D/101/1997)
のパラグラフ 6.6 及び 6.7、C.T.及び K.M.対スウェーデン(CAT/C/37/D/279/2005)のパラグ
ラフ 7.6、E.K.W.対フィンランドのパラグラフ 9.6、並びに M.B.他対デンマークのパラグラ
フ 9.6 を参照。 73 例えば、X.対カザフスタン(CAT/C/55/D/554/2013)のパラグラフ 12.7 を参照。 74 例えば、P.S.B.及び T.K.対カナダ(CAT/C/55/D/505/2012)のパラグラフ 8.3 を参照。 75 例えば、Subakaran R. Thirugnanasampanthar 対オーストラリアのパラグラフ 8.7 を参照。 76 例えば、イラクの第 1 回報告に関する最終見解(CAT/C/IRQ/CO/1 及び
CAT/C/IRQ/CO/1/Corr.1)のパラグラフ 11 及び 12 を参照。 77 例えば、J.K.対カナダのパラグラフ 10.5 及び 10.6 を参照。 78 例えば、Abed Azizi 対スイス(CAT/C/53/D/492/2012)のパラグラフ 8.5 乃至 8.8 を参照。 79 例えば、チャドの第 1 回報告に関する最終見解(CAT/C/TCD/CO/1)のパラグラフ 22 を参
照。 80 委員会の手続規則の規則 118 を参照。
CAT/C/GC/4
13
退去強制すればその者に対し拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質
的な根拠になるものとして記載した示唆的な事由を考慮する。
45. 委員会は、その決定時にそれ自体で拷問の危険に関係する事実が存在するた
め、申立人が退去強制されれば本条約に基づく申立人の権利に影響が生じる場合
には、「実質的な根拠」を評価し、拷問の危険を予見でき、個人的であり、現存
し、かつ現実的であると考える。個人的な危険を示唆する事由には、申立人の、
(a)民族的背景、81 (b)申立人及び/又は申立人の家族の党派又は政治活動、82 (c)公
正な取扱い及び裁判の保障がない逮捕及び/又は抑留、83 (d)欠席判決、84 (e)性的
指向及びジェンダー・アイデンティティー、85 (f)国の部隊又は武装集団からの脱走、
(g)過去の拷問、86 (h)出身国における外部との連絡を絶たれた抑留又は他の形態の
恣意的かつ違法な抑留、(i)拷問のおそれの発生後における出身国からの密かな亡
命、(j)宗派、87 (k)国教として宣言されている宗教と異なる宗教への改宗の禁止に
関係する侵害、並びにそのような改宗が法令及び実務で禁止及び処罰の対象とな
る場合の侵害を含め、思想、良心及び宗教の自由に対する権利の侵害、88 (l)その者
に対する拷問が行われるおそれがある第三国へ追放される危険、89並びに(m)強か
んその他の女性として受けた暴力、90 が含まれるが、これらに限定されない。
46. 「実質的な根拠」が存在するか否か評価する際、委員会は、ある国の特定地
域ではなく、国全体における人権状況を考慮する。締約国は、その管轄、支配又
は権限の下にある領域に対し責任を負う。「地域的な危険」という概念は、重要
な基準とならず、拷問が行われる個人的な危険を完全に解消する上で十分ではな
い。91
47. 委員会は、いわゆる「国内避難可能性」、すなわち、ある者又はある拷問被
害者を、同じ国内の他の地域とは異なって、その者が拷問にさらされないような
地域に退去強制することは、信頼性又は有効性がないと考える。92
48. 委員会は、「実質的な根拠」が存在するか否かの評価に際し、受入国がその
管轄、支配又は権限の下にある領域全体において、拷問の防止及び禁止のための
何らかの重要な措置(拷問の絶対的禁止及びそれへの十分な刑罰を伴った懲罰に
関する明確な法律規定、公務員による拷問に当たる行為、暴力その他の違法行為
の不処罰をなくすための措置、拷問その他の不当な取扱いに当たる行為に責任を
負うとされる公務員の起訴及びその公務員が有罪と認められた場合における罪の
重さに応じた刑罰等)を実践していなければならないと考える。93
49. 両当事者は、本条約の 22 条に基づく申立てと 3 条の規定との関連性を説明
するため、すべての関係情報を提出することができる。次の情報は、全てを網羅
しているものではないが関連性がある。
対デンマークのパラグラフ 2.1、2.2 及び 9.7 を参照。 82 例えば、T.D.対スイス(CAT/C/46/D/375/2009)のパラグラフ 7.8 を参照。 83 例えば、Nasirov 対カザフスタンのパラグラフ 7.6 及び 11.9 を参照。 84 例えば、Agiza 対スウェーデンのパラグラフ 13.4、及び Ali Fadel 対スイスのパラグラフ 7.8
を参照。 85 例えば、Uttam Mondal 対スウェーデン(CAT/C/46/D/338/2008)のパラグラフ 7.7 を参照。 86 例えば、Dadar 対カナダのパラグラフ 8.5 を参照。 87 例えば、Abdussamatov 他対カザフスタンのパラグラフ 13.8 を参照。 88 例えば、Abed Azizi 対スイスのパラグラフ 3.2 及び 8.8 を参照。 89 例えば、3 条の実施に関する一般的意見1(1997 年)のパラグラフ 2、Avedes Hamayak
Korban 対スウェーデン(CAT/C/21/D/88/1997)のパラグラフ 7、Z.T.対オーストラリア
(CAT/C/31/D/153/2000)のパラグラフ 6.4、ギリシャの第 5 回及び第 6 回統合定期報告に関
する最終見解(CAT/C/GRC/CO/5-6)のパラグラフ 19、並びにセルビアの第 2 回定期報告に
関する最終見解(CAT/C/SRB/CO/2)のパラグラフ 15 を参照。 90 例えば、E.K.W.対フィンランドのパラグラフ 9.6 及び 9.7 を参照。 91 例えば、Uttam Mondal 対スウェーデンのパラグラフ 7.4 を参照。 92 例えば、M.K.M.対オーストラリアのパラグラフ 8.9 を参照。 93 例えば、アルゼンチンの第 5 回及び第 6 回統合定期報告に関する最終見解
(CAT/C/ARG/CO/5-6)のパラグラフ 9 乃至 12 及び 30、並びにブルガリアの第 6 回定期報
告に関する最終見解(CAT/C/BGR/CO/6)のパラグラフ 7、8、11 及び 12 を参照。
CAT/C/GC/4
14
(a) 関係する国が、一貫した形態の重大な、明らかな又は大規模な人権侵害の証
拠がある国かどうか。
(b) 申立人が、公務員その他の公的資格で行動する者により、その扇動により又
はその同意若しくは黙認(黙契)の下で行われた拷問又は不当な取扱いを過去に
受けているかどうか、及び過去に受けている場合にはそれがごく最近のものかど
うか。
(c) 申立人が過去に拷問又は不当な取扱いを受けたという申立人の主張を裏付け
る医学的、心理学的又はそれ以外の独自の証拠が存在するかどうか、及び拷問の
後遺症があったかどうか。
(d) 締約国が、その管轄、支配又は権限の下にある領域からの退去強制に直面し
ている申立人が、法令に規定されるすべての法律上及び/又は行政上の保障及び
保護措置、特に、申立人がその出身国で過去に拷問又は不当な取扱いを受けたと
いう主張を評価するための独立した診察を利用できることを保障しているかどう
か。
(e) 委員会に提出された通報に関連し、申立人及び/又はその他の者の近親者に
おいて、拷問その他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しく
は刑罰に当たる報復その他の形態の制裁に脅かされたこと又はこれらにさらされ
たことが、これまでにあった又は今後そのようなことがあるという信頼できる申
立て又は証拠があるかどうか。
(f) 申立人が関係する国の内外で行った政治活動その他の活動であって、申立人
がその国に追放され、送還され又は犯罪人引渡しをされれば、拷問の行われる危
険に対し申立人を脆弱にすると思われる活動はあるかどうか。
(g) 申立人が退去強制先の国へ送還された場合、申立人がそこからさらに別の国
へ退去強制される危険があり、その別の国で拷問の行われる危険に直面すること
になるかどうか。
(h) 庇護希望者、かつての被収容者、拷問又は性暴力の被害者等の申立人の多く
に生じる身体的及び心理的な脆弱性が、提出物における記憶の不一致及び/又は
喪失につながることを承知した上で、申立人の信頼性に関する証拠があるかどう
か。
(i) 事実の提示に不一致が存在する可能性があることを考慮に入れた上で、申立
人が主張の全体的な正確性を証明したかどうか。94
XI. 委員会による評価の独立性
50. 委員会は、関係する締約国の組織によって行われた事実認定に相当な重要性
を与える。95 しかし、その事実認定によって委員会が拘束されるものではない。し
たがって、委員会は、各ケースに関係するすべての事由を踏まえ、本条約の 22 条
(4)に基づき委員会に提供された情報を自由に評価する。96
51. 回復不能の損害に対する予防措置である「疑わしきは申請者の利益に」(灰
色の利益)の原則も、個人の通報に関する決定の採択に際し関連性があれば、委
員会によって考慮される。
パラグラフ 8.3 を参照。 96 例えば、I.E.対スイス(CAT/C/62/D/683/2015)のパラグラフ 7.4 を参照。