平成22年3月、強制送還中のガーナ人男性アブバカル・アウドゥ・スラジュさんが東京入国管理局職員(以下「入管職員」という。)の過剰制圧行為で急死したとして、遺族が国を相手に損害賠償を求めた訴訟の判決が今年3月19日に行われた。東京地方裁判所は「入国管理局職員の行き過ぎた制圧行為が原因」として、国に約500万円の支払いを命じた。この判決に対して、国は今年3月31日に東京高等裁判所に控訴した。
判決では、スラジュさんの死因について「猿ぐつわで口や鼻からの呼吸が制限され、前かがみの体勢を強制されたことで窒息死した(中略)自殺防止のために猿ぐつわなどを使用したこと自体は違法とはいえないが、呼吸の状態を確認できない前かがみの姿勢を強制した点は違法と評価せざるをえない」と認定している。
また、入管職員の供述では、スラジュさんが送還時に抵抗したためうつ伏せの状態にして担ぎ上げたとしていたが、口頭弁論の中では実際のビデオが提出され、スラジュさんは抵抗どころか自ら立ち上がり護送車を降りている。
右の点を踏まえて、以下質問する。
1 こうした事実認定と動かぬ証拠がありながら、なおも控訴する理由及び争点を示されたい。
2 原告の遺族は「入管職員の違法性が認められ、心のわだかまりが取れた。正式に謝罪してもらいたい」と訴えている。国の控訴により原告側も控訴せざるを得なくなったが、命を奪われた遺族の心情を察すれば、これ以上の心理的負担をかけないために控訴を取り下げるべきではないか、政府の見解を明らかにされたい。
1及び2について
御指摘の東京地方裁判所判決については、御指摘のガーナ人男性(以下「当該男性」という。)の死因、制圧行為と死亡との因果関係の有無、制圧行為の違法性の有無等について、被告国の主張とは異なる認定がなされたため控訴したものである。
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3 入管職員への尋問から、送還時における法定外戒具の使用は日常的に行われており、ビデオ撮影も東京入国管理局の裁量で停止できるなど、人権が保障されずに送還されている実態が判明した。こうした実態を改める意思があるのか、政府の見解を明らかにされたい。また、何らかの方策を検討しているのか、併せて示されたい。
4 入管職員の教育について、欧米では教育ビデオなどを用いて共通認識を高めている。スラジュさんの制圧に当たって窒息の危険性を把握しなかった点と、救護に当たって詐病と決めつけ対処が遅れた点について、国内では具体的にどのような制圧・救護方法の教育が行われているのか。また、事件の前後で教育内容は改善したのか。
3及び4について
お尋ねは、現在裁判所に係属中の事件に関わる事柄であり、お答えすることを差し控えたいが、いずれにせよ、当該男性の死亡事案が発生したことを踏まえ、法務省入国管理局において、より安全かつ確実な送還に万全を期すため、護送及び送還に係る所要の通達を発出するとともに、護送及び送還を担当する入国警備官の実技訓練を継続的に実施するなどしている。
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5 国外退去忌避者への国費送還は事件後に一旦停止されていたにもかかわらず、昨年再開されたことが確認されている。「ほとぼりが冷めた」ともいえるタイミングで再開された理由は何か。職員の教育が徹底されたと公に確認できるまでは中止すべきと考えるが、いかがか。
5について
当該男性の死亡事案が発生したことを踏まえ、その解明や原因の特定に努めるとともに、より安全かつ確実な送還の実施に万全を期すため、3及び4についてで述べた通達の発出及び実技訓練を実施する等の準備を行ってきており、その間、同事案と同様に入国警備官が送還先まで同行する送還を行っていなかったものであるが、これらの準備が整ったことから、平成24年11月30日以降、これを再開することとしたものである。
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6 今年3月31日、東日本入国管理センター(茨城県牛久市)が、「収容していた外国人男性二人が死亡した」と発表した。イラン人男性が28日午後7時50分ごろ、食事をのどに詰まらせ、病院に運んだが翌日に死亡した。30日午前7時ごろには、カメルーン人男性が意識不明の状態で見つかり、病院で死亡した。この男性は27日に体調不良を訴え、医師の診断を受けていたという(3月31日付け毎日新聞)。それぞれ33歳と43歳で、働き盛りの男性が立て続けに二人も死亡するなどということは偶然の一致では起こりえず、収容者の生命保全や人権尊重を怠っているとしか考えられない。
難民申請者が腕を骨折した際、病院側に診療を拒否された事例もあると聞く。国内外で問題視されている、こうした収容外国人への異常な扱いを改善すべく、ルール作りや職員の人権意識向上プログラムを行っているのか。行っている場合にはその内容を、行っていない場合には、今後そのような予定があるのか示されたい。
6について
出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)により収容されている者の処遇は、その人権を尊重しつつ、適正に行っているところであるが、法務省入国管理局において、職員に対し、学識経験者、関係機関職員等を講師として人権に係る研修を実施しているほか、被収容者の処遇に従事する職員を対象として、適正な処遇に関する研修を実施している。
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右質問する。
[了]