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申 入 書

2010年45

中村哲治 法務政務次官 殿

在日ビルマ人難民申請弁護団

事務局長 渡辺彰悟

 

 私たちは、ビルマ軍事政権の迫害を逃れて来日し、日本で難民認定申請を行っているビルマ人(軍政によってビルマ国籍を認められていない者も含む)を支援する活動を行っている弁護士です。

 難民認定申請者に対し、法務省は、難民とは認定しない処分を行う一方で、人道的配慮から在留を特別に許可するという取扱を行っています。この人道配慮による在留当別許可のケースのうち、「特定活動」の在留資格を付与されたビルマ国民37名について、去る2009年12月14日、在留資格を「定住者」に変更することを求める申請を東京入国管理局に対して行いました。

 この件に関し、下記の通り申し入れを致します。

 

 

1 現在、難民と認定されなかった者に対して、人道的配慮から在留を特別に許可する取扱がなされています。2004年までは、この在留特別許可によって「定住者」の在留資格が付与されていました。ところが2005年以降、「特定活動」の在留資格が付与される者が現れ、その件数は、当弁護団で把握している、ビルマ人難民申請者だけでも、別紙1の通り年々増加しています。

 このような扱いの変化は、2005年に改定された難民認定事務取扱要領(以下、「取扱要領」といいます)に起因すると推測されます。その該当箇所を抜粋し末尾に別紙2として添付しました。この取扱要領では、難民とは認定しないが人道的配慮が必要な者(取扱要領では「在留を特別に許可すべき事情がある」者、としています)に対しては、原則として「特定活動」の在留資格を付与することとし、入国後10年を経過し、他の法令違反がなく安定した生活をしている場合には、「定住者」の在留資格を付与して差し支えない、としています。このように、取扱要領は「定住者」を付与するというそれまでの原則的取扱を例外的な扱いと位置付けてしまいました。

 このような扱いの変更により、従前の扱いであれば「定住者」の在留資格を認められて然るべき人が「特定活動」の在留資格しか認められない、という不公平な事態が生じています。のみならず、従前享受することができた様々な社会的利益が否定される事態となり、「人道的配慮」の名に反した状態となっています。

 

2 在留期間の短縮化

 「定住者」の在留資格は1年、3年の在留資格が認められており、最初は認められた在留期間が1年であっても、在留資格の更新を繰り返すうちに3年の在留期間が認められるのが通例です。しかしながら、取扱要領は人道的配慮に基づいて付与する「特定活動」の在留期間を1年としています。そのため、「特定活動」を有する者は毎年在留期間の更新をしなければなりません。本国に帰国する目処が全く立っていないのに、毎年、日本の在留の継続が認められるか否かの審査を受けるのは、本人にとって非常に精神的負担が大きいものです。また1年後に帰国できるか否かの目途が全く立たないのに、1年毎に在留資格該当性を審査するというのは、人道配慮の趣旨にも反するのではないかと思われます。

 

3 生活保護の準用からの排除

 生活保護法はその性質上外国人には適用されないとされていますが、厚生労働省は、永住者、定住者、日本人の配偶者、永住者の配偶者特別永住者、難民認定を受けた者など、日本国内での活動に制限のない在留資格で日本に在留する外国人に対しては、生活保護法の準用を認める、という取扱をしています(1990年口頭指示)。そのため、2004年までは、難民認定を受けた者ばかりでなく、人道的配慮によって「定住者」の在留資格を付与された者も、生活保護を受けることができました。ところが、2005年に改定された取扱要領は、「特定活動」の在留資格を有する者が日本国内で行うことができる活動(「指定活動」と言います)を別紙3記載のいずれかに限定しています。そのため、厚生労働省の上記の基準に照らすと生活保護の準用の対象から除外されることになります。実際、「特定活動」を付与された元難民認定申請者が市町村役場で生活保護の申請をしたところ拒否をされた、という例を聞いています。

 この点に関し、2009年度の生活保護基準改定とともに改定された「生活保護法別冊問答集」では、「入管法別表第1の5の特定活動の在留資格を有する者のうち日本国内での活動に制限を受けないもの等の上記@〜B以外の者について疑義がある場合には、厚生労働省に照会されたい。」とされています。しかしながら、「特定活動」の指定活動の内容は別紙3の通り限定されていますので、想定問答集が規定する要件から外れてしまいます。

 なお、現実には、人道的配慮によって「特定活動」の在留資格を付与された者の中にも、生活保護を認められたケースが少数ですが存在すると聞いています。しかしながらこれらのケースは、本人の困窮状態が著しく、担当者が見かねて(こっそりと)生活保護の給付をしているという事案とのことで、極めて例外的な扱い(端的に言えば厚生労働省の指示に反した扱い)であって、先例とすることができないとのことです。

 難民申請者の多くは在留資格を有していないか、その不安定な立場と言葉の障壁のために、申請手続中に十分な仕事をすることができていません。人道的配慮によってようやく日本への在留が正式に認められた時には、非常に困窮しているケースが少なくありません。彼ら・彼女らも、決して日本の社会保障制度にずっと依存して生きていきたいと考えているわけではありません。必要な食事を摂り、子どもを学校に通わせ、精神的な落ち着きを取り戻し、仕事を見つけて自立していきたい、生活保護はそのソフトランディングのための一時的な援助なのです。その援助が得られないために、逆にいつまでも自立した生活を営むことができない元難民申請者がたくさんいることをご理解下さい。

 

4 家族呼び寄せが困難であること

 ほとんどの難民申請者は迫害を逃れて単身出国しており、本国に家族を残している者が少なくありません。彼らは皆、本国の家族の身を案じています。自分が迫害を逃れて国外に脱出したことで、家族に有形無形の圧力がかけられていないか、常に心配しています。また難民認定あるいは人道的配慮による在留資格を得て我が身の安寧が確保できたことで、逆に日々圧政に苦しんでいる家族に対し「申し訳ない」という気持ちを抱くようになっています。そしてできれば家族を安全な日本に呼び寄せたい、と切望しています。このような希望は、家族と一緒にいたいという人間として当然の気持ちの表れであり、また家族を危険から救い出したいという願いの表れとしても当然のものだと思います。

 「定住者」の在留資格を有する者の配偶者又は子は、いわゆる「定住告示」第5項ロ及び第6項ロに該当します。したがって、在留資格認定証明書交付申請を行うことができ、これによって家族を呼び寄せることが可能です(少なくとも制度的には手続が確立されています)。

 しかしながら「特定活動」の在留資格を有する者の場合、その配偶者や子は「定住告示」の対象には入っていません。またその配偶者や子は「家族滞在」の在留資格の対象者にも該当しません。このように、「特定活動」の在留資格を有する者の配偶者や子を対象とする定型的な在留資格は現行制度上は存在しません。

 また、上陸時に「定住者」の在留資格が認められるのは定住告示に該当する者のみとされていますので、上陸時に特別な事情を訴えて「定住者」の在留資格を求めることも非常に困難です。

 そうなると、観光目的あるいは親族訪問を名目的な理由として、「短期滞在」の在留資格で来日し、その後に家族との同居を理由として在留資格の変更を求める、という方法しかなくなります。けれどもこの方法の場合、まず現地の日本大使館で査証が発給されるか分からない、という問題があります。査証の発給拒否に対しては異議申立をすることはもちろん、理由を尋ねることもできません。また、当初から日本に長期滞在する目的を秘して「観光目的」あるいは「一時的な親族訪問」を理由として申請するわけですから、虚偽申告を理由として大使館で査証発給を拒否されたり、来日できても上陸拒否される可能性があります(実際にそのような例があると聞いています)。さらに「短期滞在」で上陸が認められたとしても長期の在留資格への変更が認められない可能性がある、という問題があります。「短期滞在」から他の在留資格への変更は「やむを得ない特別の事情に基づくもの」でなければ認められないとされており、この要件の解釈適用の基準は非常に不明確で、しかも地方入国管理局長の広い裁量に委ねられていますので、結論を予測することは困難ですし、変更不許可処分を裁判で争うことも非常に困難です。

 以上の通り、「特定活動」の在留資格を有する者は、その家族を本国から呼び寄せることが非常に困難である、というのが実情です。

 なお、現実には、「特定活動」の在留資格を有する者がその家族の呼び寄せに成功した例もあると聞いています。しかし他方で何度もトライしても呼び寄せが認められなかったケースもあり、どのような場合に呼び寄せが認められるのか否か、その基準は全く不明確です。同じように人道的配慮から日本への在留が認められたのに、「定住者」を持つ者と「特定活動」を持つ者との間に大きな格差があること、同じく「特定活動」を持つ者の間に恣意的とも言える扱いの不平等があることは、人道的配慮を欠くものではないでしょうか。

 

5 このような事情から、昨年12月14日、37名のビルマ人が東京入国管理局長に対し、「定住者」への在留資格の変更許可申請を行いました。その際に提出した意見書を別紙4として添付します。

 しかしながら、先般、担当である永住審査部門上席統括審査官村井氏との面会の場を持った際、同氏は、「定住者への変更申請は人道的配慮の対象者であっても他の人と同様の基準で行う。在留特別許可の際に定住者を付与するか特定活動を付与するかの判断基準は知らないし、変更許可申請の判断には関係がない。」との趣旨の回答をしました。

 このように、今回の変更申請によって私達が訴えていることを明らかにすることは困難な見通しです。私達は、そもそも人道的配慮といいながら「特定活動」という以前よりも不安定な在留資格しか与えないことが不合理であり、また「特定活動」か「定住者」かの基準も不合理であるから、定住者に変更して欲しい、と訴えているのです。そしてかかる扱いの淵源は法務省が策定した取扱要領に存するのです。ことはもはやいち地方入国管理局の判断の問題ではなく、法務省レベルの問題となっているのです。

 今般、日本国外にいる難民の「第三国定住」による受け入れもスタートしました。推測ですが、おそらく彼らには「定住者」が付与されるのだろうと思います。日本に来て難民申請をし、難民とは認定されなかったものの本国に帰国させるには問題があるとして人道的配慮から在留を認めた筈の者の在留資格が「特定活動」にとどまる、というのはどう見ても均衡を失するのではないでしょうか。

 以上のような事情をご理解頂き、是非この問題をお取り上げいただき、難民申請者に対する人道的配慮の実が上がるような制度に改定して頂きたく、ご協力をお願いする次第です。

 

以 上

 

 

添付資料

 

  別紙1 在日ビルマ人難民申請弁護団受任案件における資格取得時の在留資格

  別紙2 難民認定事務取扱要領(抜粋)

  別紙3 人道的配慮により付与される「特定活動」における指定活動

  別紙4 意見書

 


別紙3 人道配慮により付与される「特定活動」における指定活動

(難民認定事務取扱要領から引用)

 

 「国籍の属する国又は常居所を有していた国において生じた特別な事情により当分の間本邦に在留する者が報酬を受ける活動」

 

 「国籍の属する国又は常居所を有していた国において生じた特別な事情により当分の間本邦に在留する者が収入を伴う事業を運営する活動」

 

 「国籍の属する国又は常居所を有していた国において生じた特別な事情により当分の間本邦に在留する者が行う日常的な活動(収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を除く。)」


 

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