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2009114

法務省入国管理局 御中

 

抗 議 書

〜入国管理局のビルマ人難民申請者送還の暴挙に抗議する〜

 

在日ビルマ人難民申請弁護団

団  長  伊 藤 和 夫

事務局長  渡 辺 彰 悟

1 事案の経過

20091029日,ビルマ出身で少数民族に属する難民申請者が成田空港から送還された。

当該申請者は200789月にビルマで高揚した反政府運動に参加しており,ともにデモに参加した友人が逮捕されたことで,自らも迫害の恐れを抱き出国し,同年12月には日本で難民申請をしたものであった。そして当該申請者は,日本でも反政府組織に所属して活動を継続していた。

しかるに,難民認定手続の一次審査では2009215日に不認定となり、同時に進められていた退去強制手続において同月20日には退去強制令書が発付された。

同人は、上記難民不認定処分に対して異議申立てをしていたが,これに対して821日に異議棄却の告知がなされ,同時に,同日仮放免許可が更新されずに東京入管に収容されていた。その後,難民不認定処分の取り消しを求めて提訴する意思を明らかにし,私たち弁護団に訴訟委任状を書くとともに,仮放免の申請理由にも提訴予定であることを明らかにしていた。

しかるに,入国管理局は,20091029日,本人の意思に反して同人を成田空港から強制送還したのである。

2 これまでの取り扱い

これまで,2004年にスイスがチン民族の難民申請者S氏を送還し,空港でそのままS氏が逮捕され19年の刑に処せられるというショッキングな事件もあって,国際社会はビルマの庇護希望者の送還に極めて慎重な態度を採っているし,日本においても,すくなくとも私たち弁護団が扱ってきた案件について,本人の意思に反して送還を強行した事案は存在せず,異議申立の棄却された案件でも訴訟準備中に送還を行うという措置はとられていなかった。

3        日本における難民認定の実態に鑑みた本件送還の不当性

日本においてビルマ人の難民認定が多いことは周知の事実である。

しかしその実態はどうみるべきなのか。例えば2008年の難民認定申請(一次)におけるビルマ人の難民認定数は40人であるが,そのうち6名は,難民不認定処分,同処分に対する異議棄却決定後,裁判でこれら処分の誤りが認められて難民不認定処分が取り消された結果,改めて難民認定処分を受けたものである。今年においても9月末日までに難民認定申請(一次)において12名の難民認定者が出ているものの,そのうちの4名は上記同様に裁判において国が敗訴した結果,難民認定処分がなされたものである。このほか、裁判中に入国管理局から再難民申請をすることを勧められるなどして再難民申請をした結果、裁判係属中に難民認定を受けた者も、2008年で2名に上る。

つまり,これまで数多くのビルマ人に対する難民不認定処分が裁判で争われ,相当数の不認定処分が裁判で覆ってきたのである。そしてその数のほとんどは実際に当弁護団が扱ってきた案件であった。実際に,当弁護団が扱った事件で,難民不認定処分が取り消された件の総数は28件にもなる。このようにビルマ難民申請者に対する不認定処分には多くの問題が存在していることは裁判を通じて明らかである。

以上の状況に鑑みれば,入管のこれまでの判断が裁判所において覆る可能性は十分に認められるのであって,入管が送還という強硬措置をとることには相当に謙抑的でなければならないことも明白である。

しかも,今回の送還は,提訴期限まで約4ヶ月を残した時期になされたものである。既に述べたように,入国管理局に対しては提訴の意思を明らかにしていたものであり,上記のとおりビルマ人難民申請者につきこれまで多数勝訴している事実にも鑑みれば,憲法上も保障される裁判を受ける権利の明白な侵害であり,到底許容されえない。

4        今回の送還の意味

この間,退去強制手続の取り扱いも,また,難民認定申請者に対する取り扱いも,本年8月の総選挙の前から非常に厳しくなってきており,収容のタイミングも,異議審査の継続中に突然収容されるなど,従前にない,それまでの取り扱いとも不均衡といわざるを得ないような扱いがなされていた。

しかし,今回の事態は,国内的な取扱いの適切さの問題のみならず,本国での迫害を恐れて日本で庇護を希望する者への重大な人権侵害を招来する危険を伴っている。特にスイスのS氏事件以来の由々しき事態を招きかねない行為である。日本は責任をもって今回送還をした人物のその後の本国での取り扱いに留意をすべきである。

5        今回の送還はまさに暴挙である

今回の送還は,日本の難民認定制度が十分に専門的・客観的なものとなりえていないことを踏まえていないあるまじき行為であって,国際社会からも強く非難されるべき行為である。

特に,新政権になって今後難民保護を強化していくという姿勢を示される中で,入管の今回の独走は,新政権の「政治主導」という動きに真っ向から挑戦するものといわざるを得ない。そして,入管の今回の行動は,友愛社会,弱者保護をとなえて政権交代がなされている中で,一層強く非難されるべきである。

当弁護団は,今回の送還について強く抗議をする。そして,当弁護団は,改めて,法務省に対し,訴訟準備中の者を含む,難民としての保護を求める者に対する送還をしないよう強く訴えるものである。

以上

 

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