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ビルマ人難民K&K事件・東京地裁判決を受けて

2008116

 

在日ビルマ人難民申請弁護団 弁護団長 伊藤和夫

事務局長 渡邉彰悟

 

 本日午後125分、東京地方裁判所 民事第3部(定塚裁判長)は、ビルマ出身のK氏の難民不認定処分取消及び退去強制令書発付処分取消等請求事件において、原告の請求を全面的に認容し,上記処分のすべてを取消した。私たちはこの判決を心から歓迎する。

 

 本件判決が認定した主要な事実は下記のとおりである

「原告夫は,高校生のときに既に基礎学級学生連盟という全国的組織の地域のリーダーの一人として反政府活動を行い,19892月には身柄を拘束されて7日間厳しい尋問を受け,その後3ヵ月半にわたって刑務所での生活をさせられ,今後,政治的活動をしない旨の書面に署名させられている,その後原告夫はNLD青年部に入党して政治的活動を行っており,政権批判のビラを配布していたときに当局関係者にみつかり,身柄拘束を逃れるために,深夜歩いて国境を越えてタイに逃亡しているのであって,原告夫は本国における活動によっても,ミャンマー政府から敵対視される存在であったことが推認される。

 そして原告夫は,我が国において,平成16年から政治的活動を再開し,ミャンマー政府がテロリスト集団であると敵対視するNLD-LAの日本支部に入り,執行委員ないし運営委員として情報部門で活動し,本件難民不認定処分より後ではあるが,平成1826日に原告夫が原告妻と共に逮捕されると,それがBBCのミャンマー語法曹でニュースとして流されるなど相当注目されていた存在であり,またこのBBCの放送がされた後,原告夫の両親が本国当局に身柄拘束されて虐待され,原告夫の父が同月22日に死亡するに至っているのであって,我が国における原告夫は,その活動がミャンマー政府によって把握され,敵対しされていたものと推認される。原告夫については,本国に帰れば,政治的活動を理由として通常人がその場に置かれた場合にも,身体の自由の侵害又は抑圧という迫害を受けるという恐怖を抱くに十分な客観的事情が存在していたというべきであって,原告夫は難民であると認められる。」

 

 本件事件の結論として,本判決は,原告夫の供述の一貫性を認め,その信憑性を判断して的確な判断をしている。上記判断を支える出身国情報としてビルマにおけるNLDを含む反政府活動に対する厳しい弾圧の事実が背景となっていることも当然である。

 

 そして,本件判決の今日における最大の意義は,本件原告が2005年の入管法改正法施行後の難民審査参与員制度の下での難民不認定事案であったということである。つまり難民審査参与員の判断が誤っていた事案ということである。少なくともビルマに関して当弁護団の把握する限り,参与員不認定ケースで司法判断で逆転したものは初めてである。

 

 異議手続におけるに不認定理由の中において,ビルマでの活動による評価について「仮にあなたの供述が事実であったとしても,あなたが本国を出国して既に14年が経過しているのであって,現在も依然として政府があなたに関心を寄せるとは考えられません」としている。また,参与員一名は難民として認定をしていたものの(この参与員は本判決同様供述の信憑性を認めている),2名の難民審査参与員は,その意見として「特に懸念されるのは,申立人の難民認定申請に係る活動や証拠資料が,弁護士との接触後に急速に展開作成されていることである。申立人の活動や証拠資料や,難民性を誇張するための証拠作りや環境作りだったのではないかという疑いさえ残る」として,20035月にディペインで起きたアウンサンスーチー襲撃事件に端を発した本件原告らの活動の再開・展開について正当な理解もせず,予断によって誤った認識と結論を導いているのである。(本判決15頁では、この部分について不自然な点はないと正当に評価している。)

 

 このように本件事件を担当した難民審査参与員が,本件事件において求められた原告らの難民性の的確な判断をなし得なかったことは,その判断の質が十分ではなかったことを示すものであって,重大な問題を提起する。

 現在難民審査参与員制度は3年目を迎えているが,私たちは難民審査が国際的に求められている水準において履行されるよう今後とも強く求めていく所存である。本判決を法務省入国管理局が十分に検証し,難民審査参与員に対しても,難民判断の適正さ担保のためにさらに検討を深めることを求めていくものである。

 

以上

 

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