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ビルマ人難民N事件・東京高裁判決を受けて

20071227

 

在日ビルマ人難民申請弁護団 弁護団長 伊藤和夫

事務局長 渡邉彰悟

 

 本日午後250分、東京高等裁判所第14 民事部は、ビルマ出身のNの難民不認定処分取消及び退去強制令書発付処分無効確認等請求控訴事件において、控訴人国の控訴を棄却した。Nに対する難民不認定処分・法務大臣裁決取消、退去強制令書発付処分を無効と宣言した原審に続く、被控訴人Nの全面勝訴判決である。私たちはこの判決を心から歓迎する。

 

Nは、ビルマ族出身であり、本国において新社会民主党(DPNS)に所属していた。民主化の波が燎原の火の如く広がった1988年、Nは高校生であったが、当時の民主化運動に共鳴して、DPNSに所属して熱心に民主化運動を行った。これらの活動のために、1990年には、逮捕、25日間拘束され、激しい拷問を受けた。

DPNSは、民主化運動の発端をつくった学生を中心に設立され、学生を含む青年らの間に大規模な支持基盤を持ち、国家法秩序回復評議会(SLORC)に対して、暫定政府の樹立、自由で公平な多党政党の選挙と基本的民主的権利を保護を主張し、国内で約25万人のメンバーと120以上の事務所を所有する、ビルマで2番目に大きな政治政党である。DPNSは、アウンサン・スーチー女史の率いる国民民主連盟(NLD)と同盟を結び共同で政治運動を展開しつつ、民主化獲得を優先して、1990年の総選挙において、「NLDと一票を争うことはせず、NLDの圧倒的勝利」に貢献した。ビルマ軍事政権は、DPNSを嫌悪し、非合法団体と認定しており、1908年「非合法団体に関する法律」によれば「何人も、非合法団体を統括する、あるいは統括に協力する、あるいは前記の諸団体またはその構成員による集会を促し主催する、あるいは促進・主催に協力した場合」は、「3年以上5年以下の禁固刑と罰金刑」を受けることになる。

Nは、19928月に来日、その後、日本の民主化運動に参加をし、200311月のDPNS日本支部の設立時のメンバーとなった。その設立についてはアメリカのBurma Today Newsのホームページでも報じられ、Nの名前も掲載され、その後、Nの氏名は、DPNSのホームページに、日本支部の役員・メンバーとして公表されている。

そして、現在、ビルマ軍事政権は、DPNS及びそのメンバーに関して、テロリストと宣言している。

控訴人である国は、このように難民性が明らかな者に対し、DPNS日本支部は人数の少ない零細な団体であり、ビルマ政府に注目されていないとか、控訴人N自身注目されていない、DPNS日本支部に属したことがあるビルマ人が帰国したことなどをとりあげて、Nの難民性否定にやっきとなり、難民の保護機関とは到底思えないような主張ばかりを繰り返した。

これに対し、東京高等裁判所は、DPNSが非合法化されて、非合法団体の処罰を受ける法律があること、ミャンマー政府はDPNS及びそのメンバーをテロリストと宣言したこと、被控訴人Nは、一貫して継続的に民主化運動に関与していること、政治信条は固く、政治活動に熱意をもっていたこと、逮捕・拘束・拷問を受けたこと、DPNS日本支部の活動を行っていること、インターネット上に氏名などが公表されていることなどを認定し、適切かつ常識的な判断により、Nが帰国した場合には、迫害のおそれがあると判断した。

被控訴人が難民認定申請を行ってから今日の判決まで、既に約3年の歳月が経過しており、その間、被控訴人は在留資格のない不安定な地位を強いられてきた。しかも、被控訴人は、この間、退去強制令書に基づき1年2ヶ月もの長期間にわたる収容も経験している。当弁護団は、かかる苦しみを経験してきた被控訴人が今こそ安定した生活を築けるよう、国が本判決に服して上告手続を取ることなく、速やかにNに対する難民認定、日本への在留を認めることを求める。

 

周知の如く、2 0079月以降、ビルマ国内においては、ガソリンの値上げ等に端を発し、僧侶たちが無言の行進を始めた。これに呼応して市民たちがデモを開始し、その数は、10万人に膨れあがった。これに対し、軍事政権は、暴力と武器をもって、平穏な表現活動を弾圧し、多数の僧侶や市民に暴行を加え、多くに死傷者を出し、寺院等を強襲して、多数の僧侶や市民を拘束するとともに、NLDの指導者を拘束した。軍事政権は、10人程度の死者などと発表しているが、ピネイロ特別報告者(ミャンマー担当)は、2007127日、死者数についても2倍の31人に上る可能性を示している。そして、カメラを持っていた日本人カメラマン長居井健司氏は、至近距離から射殺されるという事態まで至っている。軍事政権は、反政府デモへの軍治安部隊の武力行使で多数の死傷者が出ていることについて、NLDと海外メディアが混乱を招いたと改めて非難するなど、信じがたい発言を繰り返している。平穏な民主化を求める市民・僧侶に対し武力を行使し、国民に負傷者・死者がでることなど厭わず、自らの政権維持のみが関心事、これが、現在のミャンマー軍事政権の本質である。アメリカ、ヨーロッパ、アセアン諸国、日本などから厳しい非難がなされても、一顧だにせず、そして、無差別の暴力・拘束を繰り返す姿は、非人間的で、異常なものと言わざるを得ない。現在、ミャンマー国内の情報が途絶されているが、武力の弾圧の次に行われるのは、「反政府活動家狩り」である。軍事政権において、反政府活動を一度でもした者、一度でも協力した者を逮捕・勾留・迫害することは、「見せしめ」として、今後の反政府活動を抑止する最もいい機会である。このような政府が、このような時期に、海外から帰国する反政府活動家を見過ごすはずもなく、民主化運動が高揚したこの時期においては、さらに彼らに対し激しい弾圧を加えることで、「海外に逃げても見過ごさない」という強い姿勢を示すことになる。帰国者に対し迫害が行われることは明白である。

 今、日本政府に求められているのは、このような状況のビルマ難民の保護を一層強化することである。ビルマ国内で人権侵害が起きることがわかっていながら、ビルマ難民を送還することは、国際社会に対し、人権軽視国と非難されることは必至である。

本判決と同様、東京高裁において、かかる難民性判断の本質を理解し、また、ビルマ情勢を十分にふまえた判断が一層蓄積されていくことを私たち弁護団は心から期待するものである。

以 上

 

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