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法務大臣 南野智江子殿

法務省入管局長殿

東京入管局長 坂中英徳殿

 

20041015

 

全国難民弁護団連絡会議

代表 伊藤和

アフガニスタン難民弁護団

代表 大貫憲

 

抗議の趣

 

アフガニスタン国籍A氏(1982年生)のプライバシーを侵害する、出入国管理及び難民認定法61条の8の要件を充たさない違法な下記の照会に対し、厳重に抗議をする。東京入国管理局は、直ちにA氏に対して陳謝すべきである。

 

抗議の理

 

第1 本件照会の内容
 東京入国管理局坂中英徳は、平成16107日付で、東京都墨田区立文花中学校長に対して、A氏に関し、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)61条の81項に基づいて、下記の事項について照会(管東審管第2189号。以下「本件照会」という。)をした。

「(1)貴校(夜間学級)在学事実の有無
(在学事実がある場合、在学証明書を発行願います。)
2)貴校(夜間学級)入学時から現在までの間における上記1の者の出席状況
(欠席、遅刻事実ある場合は、その理由についても)
3)貴校保管の記録(家庭状況調査票、保険調査票等)に上記1の者の身元保証人等(又は緊急連絡先)についての記載があれば、その氏名、生年月日、住所、照会対象者との関係」

 そして、東京入国管理局は、後記の20041014日に、上記照会が違法なものであるという抗議を受けたにもかかわらず、これを無視し、翌15日に文花中学校に赴いて、資料の一部について提供を受けた。

第2 本件照会が入管法61条の8の要件を充たさないこと
 しかし、上記照会は入管法61条の81項の要件を充たしていない。違法なプライバシー侵害行為である。

1 「出入国の管理及び難民の認定に関する事務の遂行に関し」にあたらないこと

()入管法61条の81項が照会することを認めているのは、「出入国の管理及び難民の認定に関する事務の遂行に関し」てである。
 A氏に対しては、2001921日に難民不認定処分がなされ、これに対する異議申出も同年1210日付で異議に理由がない旨の決定がなされており、さらに2001926日には退去強制令書も発付されている。
 したがって、照会を行った2004107日の時点で入管当局における出入国の管理及び難民認定に関する事務はすでに終了しているのであり、照会の必要性が全く認められない。

()東京入国管理局の見解

ア 上記の点について疑念を抱いたA氏の訴訟代理人児玉晃一弁護士(以下「児玉弁護士」という。)が、20041014日午後420分ころ、東京入国管理局審査管理部門辰巳友宏入国審査官(以下「辰巳入国審査官」という。)に電話で問い合わせ、「既に入国管理局における難民認定手続は終了し、退去強制手続も退令が発付されて、いずれも訴訟をしている段階である。現時点で、入管法61条の81項の『出入国の管理及び難民認定に関する事務』は全て完了しており、照会の要件を充たさない。どういう理由で照会をかけたのか教えてほしい。」と尋ねたところ、辰巳入国審査官は理由について即答できず、「記録を見るので、折り返し電話する。」旨述べるだけであった。

イ それから約20分後の同日午後440分ころ、辰巳入国審査官から児玉弁護士宛に電話があった。
 辰巳入国審査官は、訴訟に必要な調査であって、訴訟段階でも入管法61条の81項の「出入国の管理及び難民認定に関する事務」に該当するので、照会をしたと回答した。
 これに対し、児玉弁護士は、入管法61条の81項の「出入国管理及び難民認定に関する事務」は、入国管理局段階の手続であることは条文上明らかであり、訴訟の資料収集をするためというのは極端な拡大解釈であって要件を充たさないと抗議した。
 さらに、A氏が原告となっている退去強制令書発付処分等取消請求事件(東京地方裁判所平成13年(行ウ)第416号)及び難民不認定処分取消請求事件(東京地方裁判所平成14年(行ウ)第131号)では、彼の難民該当性が争点なのであって、処分後に学校に行っているかどうか、成績がどうかなどは全く関係がないことを強く訴えた。
 しかし、辰巳入国審査官は、「本当に難民かどうか調べるためには、入国後の生活状況まで調査する必要がある。」という全く趣旨不明な回答をするばかりであった。

ウ 児玉弁護士は辰巳入国審査官に対して、「全く理解できない。難民かどうかということと、処分後に学校に行っているかとどういう関係があるのか。あなたも訴訟の指定代理人として毎回出廷していて、学校に行っているかどうかということは今まで全く争点になっていないのは知っているでしょう。どんな関係があるのか。」と再三繰り返して尋ねたが同じ答えに終始するだけであった。
 そこで、児玉弁護士が辰巳入国審査官に対し、「私は納得できないが、今あなたの言ったことは東京入国管理局長坂中英徳氏の意見、東京入国管理局としての意見なのですね。」と確認を求めたところ、「そうとはいえない」と述べた。そこで、児玉弁護士が、「それはおかしいと、東京入国管理局長名で照会を出しているのでしょう、あなたはさっき資料がないから待ってくれと言って、今資料を見ながら電話しているのでしょう。どうして、あなたが言ったことが東京入国管理局としての意見かどうかということすら、答えられないのか」と詰問したところ、「上司に確認するので待ってほしい」という回答がされた。
 児玉弁護士は「上司に確認する必要はないでしょう。どうしてそんなことも答えられないのか」と言ったが、辰巳入国審査官は何度も「上司に確認させてください。」と言って即答を避けた。
 その後、電話を保留状態にされたまま5分近く待たされた後、辰巳入国審査官は、「入管法61条の81項の出入国の管理及び難民認定に関する事務には、訴訟の場面も該当する。処分後の事情であっても、訴訟に必要である。これは決済も通っているので、東京入国管理局としての見解である。」とようやく回答した。

エ しかし、入管法61条の81項の趣旨は、出入国管理行政を円滑に遂行することにある(坂中英徳・齋藤利男著「全訂・出入国管理及び難民認定法逐条解説」786頁参照)。したがって、行政処分が終了し、争いの場が訴訟に移行している段階では、もはや「出入国管理行政を円滑に遂行する」という要請が働かない。
 また、上記のとおり、彼の難民該当性が争点なのであって、処分後に学校に行っているかどうか、成績がどうかなどは全く関係がなく、出入国管理及び難民認定とは全く無関係であるから、これらに「関する」事務とはとてもいえない。辰巳入国審査官が述べた東京入国管理局の見解は、極めて不当な拡大解釈であって、著しいプライバシー侵害である。

()墨田区立文花中学校は「その他の関係行政機関」にあたらないこと
 また、入管法61条の81項によって、必要な協力を求めることができるとされている対象は、「警察庁、都道府県警察、海上保安庁、税関、公共職業安定所その他の関係行政機関」である。
 この「その他の関係行政機関」とは、東京入管局長坂中英徳が齋藤利男と共著した「全訂・出入国管理及び難民認定法」787頁によれば、「その所掌事務において出入国の管理及び難民の認定の事務と関連を有する行政機関をいう。例えば、外務省等の中央官庁のほか、検察庁、矯正施設、地方更生保護委員会、市区町村等である。」とされている。
 墨田区立文花中学校の所掌事務に「出入国の管理及び難民の認定の事務」があろうはずがない。したがって、同校は入管法61条の81項の「関係行政機関」には該当しない。

第3 結語

 以上から、本件照会は入管法61条の81項の要件を充たさない違法なものであることは明らかである。先般、法務省入管局は、トルコ国籍のクルド難民について、本国政府に実名を挙げて調査をするという暴挙を行い、全国難民弁護団連絡会議も厳重抗議をしたばかりである。入国管理局における個人情報保護、プライバシーの保護の理念の欠如は、目を覆うばかりである。

 本件照会は、難民であるA氏の教育を受ける環境を阻害しかねない点で難民条約22条の趣旨に反し、また社会への適応の努力を拒みかねない行為であって難民保護の精神と相反する。このように難民の利益を害する行為を繰り返す入国管理局に、「難民保護」の責務を担う資格はない。
 本件照会に対して厳重に抗議をするとともに、A氏に対する陳謝を求める。

以 上

 

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