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アフガニスタン人難民申請者の収容に対する全国難民弁護団連絡会議の声明

 

20011019

 

 去る10月3日、東京入国管理局は、2001103日、難民認定申請中のアフガニスタン人9名を含む12人について、出入国管理及び難民認定法に基づく退去強制手続に着手し、同人らを東京入国管理局第2庁舎に収容した。

 さらに同月9日、別のアフガニスタン人難民申請者の少なくとも1名に対し、退去強制令書を発付して収容した。

 全国難民弁護団連絡会議(以下、当会議)はこの件に関して強い懸念を有しており、以下の声明を発表する。

 

 難民認定申請中の者に対する収容は原則として行われてはならず、収容中の難民認定申請者の放免を要求する。

・ 特定の国籍を対象とした難民申請者の取り締まりが行われないよう要求する。
難民認定申請者について、国籍が共通していることのみを理由として一斉に摘発することは難民を国籍によって差別するものであり、難民条約3条に違反し許されない。

・ アフガニスタン人難民認定申請者については、アフガニスタンの混乱する・流動的な・かつ明らかに危険な状況を考慮し、難民該当性の審査を公正かつ慎重に行うべきであり、決して日本の治安政策・外交政策によって難民該当性の判断が影響を受けてはならない。

 

 

 今回の摘発等は、テロ事件以降、混乱し、流動的かつ危険なアフガニスタンの情勢を伝える報道が多くなされていく中で、アフガニスタン難民の保護の必要性の議論が高まってきた矢先での同国人の収容であり、常識にも人道にも反する酷いものである。

 日本政府は、いわゆる「対米支援策」のひとつとしてアフガニスタンの難民援助を挙げるが、来日しているアフガニスタン人難民を差別し虐待し、送還することは、難民援助とは明らかに反する行為である。

 アフガニスタン人難民の差別的収容は第二次大戦下における敵国人の強制収容所を再現することに類する。あまつさえ難民をアフガニスタンに送還する処分をするとは、アフガニスタン難民を戦火のアフガニスタン国内に閉じこめて食料等投下をすることをもって「援助」と呼ぶかのごとくである。

 しかも、今回の件には以下の通りの法的問題がある。

 

・難民認定申請中の人に対する収容は行われてはならない。

 故郷を去らなければならず、かつ迫害をおそれて戻ることができない、という難民の特殊性に鑑み、非正規な入国という事実をもって不利益に扱われるべきでないことは、難民条約第31条がその趣旨とするところであり、また同条2項によって、非正規入国難民にも移動の自由が保障される。難民申請中の者は、その難民である蓋然性に鑑みれば、身体拘束されてはならない。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も「庇護希望者の拘禁に関するUNHCRガイドライン」、UNHCR執行委員会の結論第44の「難民申請者の拘禁」で同旨を示し、また日本弁護士連合会も、本年1月29日付日弁連総第58号において、その旨法務大臣に勧告している。

 少なくとも難民認定申請中で難民の認定をしない処分を受けていない者については、法務省入国管理局も、近年は、原則として収容を控える運用を行ってきたところである。今回のアフガニスタン人難民申請者の収容は、この運用にも反した異常な事態と言うほか

ない。

・難民を国籍によって差別して収容することは許されない。

 国籍が共通していることのみを理由として一斉に収容することは、個人の事情を考慮しない、国籍による差別に基づく収容である。

 このような差別的収容はまさに恣意的な拘禁に該当し、自由権規約9条1項に違反する。

 さらに、このように難民を国籍によって差別扱いすることは難民条約3条にも違反する。

・収容の必要がないのに予防拘禁目的や外交的配慮など政策的目的によって収容することは許されない。

 現在、アメリカ合衆国で起きたテロ事件に関連した捜査が進展しており、10月3日付毎日新聞によると、政府はアフガニスタン人の摘発強化を指示したとされる。テロ事件に関する捜査のため、あるいは何らの具体的根拠もなくテロ行為に関する予防拘禁として本件収容が行われたとすれば、本件収容は、法の目的を逸脱したものであり、政府の治安政策・外交政策によって身体拘束を行った明らかに不当なものである。

 本件はまさに恣意的な拘禁に該当し、自由権規約9条1項に違反する。

・ 難民に対して、難民該当性を十分に審査せず、また治安政策・外交政策上の理由から本国への送還を命じることは、難民条約33条1項に違反し許されない。

 タリバンによる迫害を理由として日本に庇護を求めている者を、タリバンの支配する本国に送還する結果となる退去強制手続を進めることは、難民条約33条1項に違反し、許されない。混乱するアフガニスタンの現状に鑑みると、このような時期に難民の認定をしない決定をして退去強制令書を発付し収容を強行することは、難民該当性を公正に判断したのではなく、政府の治安・外交政策に左右されて決定したのではないかとの疑いを抱かざるを得ない。

・ 刑事犯捜査の目的ないし公安捜査の目的を有して、不法入国に藉口して収容することは違法な手続であって許されない。

 現在、アメリカ合衆国で起きたテロ事件に関連した捜査が進展しており、前記毎日新聞によると、政府はアフガニスタン人の摘発強化を指示したとされる。テロ行為は、民主的な法秩序に対する挑戦であり、極めて卑劣な行為であることは論を俟たない。

 しかし、テロ事件に関する捜査のために本件収容が行われたとすれば、捜査の目的のために行政手続である退去強制手続を利用することとなるから、本件収容は、法の目的を逸脱したもので、弁護人選任権の保障等との関係でも違法なものとなる。また、上記9名は、タリバン政権に迫害されたとして難民申請をしている者であるから、テロとの関連性、捜査の必要性や相当性についても重大な疑義がある。

 

 このように、今回の各処分は難民法・国際人権法に対する重大な違反であり、かつてない暴挙であり、厳重に抗議する。

 万一、これらのアフガニスタン難民申請者や在日アブガニスタン人を戦争が予想される本国へ送還した場合、タリバン政権から迫害され、または、その生命に危険が及ぶ蓋然性が高い。日本政府に保護を求める難民や在日アフガニスタン人らに対し、退去強制手続を進めることは、難民条約が定める難民保護の各規定や精神に違反する疑いがあり、今後の難民実務や入国管理実務への影響を含め、懸念を表明せざるを得ない。

 当会議は、在日アフガニスタン人に対する適切な保護がなされるよう、頭書きの要求をするとともに、その履行のため推移を今後も見守り、かつアフガニスタン人難民の弁護活動をする弁護士・弁護団に支援をするものである。

以 上

 

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